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第5章 Side 珠喜
第10話 映画館までのドライブ 後編 *
しおりを挟む高速をどこまでも走った。度々現れる行き先の標識を、彼に教わりながら順番に読んでいく。元の世界で言うとどうやら横浜から静岡方面に向かって走っているようだった。途中、何度か見覚えのある景色を通り過ぎた。
「ねぇ、小泉さん。この間、元の世界とこの世界は違うけど、共通する物もあるって言ってたよね?」
「ああ。それがどうした?」
「高速道路もそうなの?」
「そうだな。つーか、日本地図はあっちと同じだから場所は変わらない。名前が違うだけだ」
「じゃあ、パラレルワールドの定義っていうか元の世界と決定的に違うものってなんなの?」
「専門家じゃないから俺も詳しくは分からん。だが、井伏のオヤジから聞いた話、それから10年住んで俺自身が気づいたのは、両方の世界に同じ人間は絶対に存在しないってことだ。あと、迷い込む奴に共通するのは人生のある分岐点で世界が二つに分かれて何かの拍子にこっちに来ちまうってことだな。車に轢かれた拍子に飛んだ、とか」
「車に轢かれた」という言葉に内心ギクッとしてしまった。
「じゃあ、元の世界に戻った後に、もう一度こっちに戻りたいと思ったらできるのかな?」
「分からん。試したことがないからな」
「そ、そうだよね……。じゃあさ、仮に出来たとしてタイムリミットは関係あるのかな?」
「それも分からん。やるなら一か八かだな」
「賭けみたいなものってこと?」
「そういうことになるな」
ーーーーー
夜空に輝く二つの月。その下で赤いテールランプがどこまでも続く。遠くで工場夜景が怪しく光り、やがてランドマークタワーと観覧車が見えて来た。キラキラと輝いていてとてもキレイ。この二つは元の世界でも横浜のシンボルだったけど、この世界でもそれは変わらないようだ。
夜の高速道路は非日常的でも幻想的でもあって大好きだ。通る時、車内に好きな人と二人きりだったら緊張と気持ちの昂りが重なって、もどかしいような切ないような、また愛おしさや体が熱くなるような、何とも言えない気持ちになる。今、アタシはまさにそんな気持ちを抱いている。
そっと隣に目を向けてみる。彼は真剣な顔で真っ直ぐに前を見つめていた。その表情からはアタシがすぐ隣にいることなんて気にも留めていないように見える。さっき彼は「単調な景色が続くが、それが返って考え事に集中できる」と言った。
(小泉さん、何考えてんのかな……アタシのこと……じゃないよね。こんなに近くにいるのに……)
不意に胸が苦しくなり、膝に置いていた手に力を込めた。その時、彼が片手をシフトレバーに置いた。大きくてゴツゴツしていて逞しいその手に無性に触れたくなった。アタシに触れて欲しいとも思った。思わず、手や足を彼に優しく撫でられるのを想像してしまった。
(あぁ……!考えちゃダメ……!)
必死に自分を抑え込もうと助手席で一人ソワソワしていると、彼が思い出したように口を開いた。
「そういや、お前はあっちで何の仕事してたんだ?」
「……え?えーっとね、レストランの店員。『マリーミラーズ』って知ってる?」
「ああ。アメリカのパイの店だろ?」
「うん、そう。山下公園のそばにあるんだけどね、制服がさ、こう……胸が強調されるしエプロンドレス的なスカートが短くてエロかわいいじゃん?だから着てみたいなってずっと思ってたんだ!」
すると、小泉さんは苦笑いしながら言った。
「何つーか……志望動機がいかにもお前らしいな。目立ちたがりっつーか考えが浅はかっつーか……」
「悪かったですねー!考えが浅はかな目立ちたがりやで!実はね、高3の時に就職試験色々受けたんだけど上手くいかなくてさ。卒業した後、しばらくフリーターしてたの。ファストフードとかファミレスとか飲食店系をね。だからか面接受けたらすぐ採用されたの!あっ!そうだ、アタシね、看板店員だったんだよ!今はだいぶ落ち着いたんだけど、一時期はめっちゃ列できたんだから!」
「……看板店員?嘘だろ?」
「マジだよ!だってテレビとか雑誌の取材も受けたんだから!お客さんは女の子も沢山いたけど男の人も多かったよ。若い子からおじさんまで!いや~アタシモテるなぁって思ったよね!」
両手を頬に当てながらそう言うと彼は呆れたような表情を浮かべた。アタシは構わず話を続けた。
「同僚とか先輩からの妬みとか敵意みたいなのが凄まじくて大変だったんだよ?!それでもね、行列見て悪い気はしなかった。だから、どんなに陰口叩かれようが嫌がらせされようが、頑張ったの。アタシの為にわざわざ足を運んでくれるお客さんの為にって。そしたらパートから正社員になることができたの。だから、アタシは今の仕事が大好き。誇りに思ってる」
「……そうか」
小泉さんが発したのはたった一言だった。でもその横顔はとても優しげで、仕事に対するアタシの熱意を理解してくれたように感じた。
しばらくすると、前方の助手席側に一際明るく目立つ建物群が見えて来た。高速道路の出入り口付近によくあるやつだ。その怪しげな光りはまるでアタシ達を夜の世界に誘っているかのようで何だか胸がドキドキした。同時にふと、攻治さんと初めてドライブをした時のことを思い出した。
「ラブホ街ってさ、何で高速の出入り口にあるんだろうね?」
「デートで夜の高速を通るだろ?で、男がそろそろ誘いたいな~って時にタイミング良くラブホ街が見える。女もちょうど誘ってくれたらな~なんて思ってる。だから、高速を降りるついでに軽いノリで入っていける。つまり、男女の性欲を刺激する絶妙な位置にラブホ街があるってワケ」
「何それ!専門家の分析結果?」
「ううん、オレの分析結果」
「あははっ攻治さんのかよ!」
あの時、まだ付き合ったばかりだったけど、攻治さんは軽いノリでそんな話ができるような人だった。でも、小泉さんは……。ラブホ街に一瞬だけ目をやって、すぐに逸らしてしまった。
(そりゃあ、そうだよね……)
その時、ふと思った。もしも彼をラブホに誘うならーー。
***
車は近くのサービスエリアに滑り込んだ。休憩をするためだ。彼は周りにあまり車が停まっていない奥側の駐車場に車を停めた。外灯が少し遠くにあるせいで車内は程よい暗さ。アタシはシートベルトを外すと、長めのフレアスカートをそっとまくり、ブラウスの前ボタンを外した。そして、片手を腿に添え、もう片方の手でブラウスをはだけさせ、肩を露出した。
「小泉さん……」
妖艶な眼差しで彼を見つめると、彼はびっくりして目を丸くした。
「ん?……ってお、お前、な、何やってんだ?!」
「急に体が熱くなっちゃったの。さっきラブホの前通ったからかもしんない……どうしよう」
潤んだ瞳で見つめながらそう言うと、彼は慌てふためいて声を上げた。
「そ、そんなこと……お、俺に言うなよ!」
アタシはブラの肩紐に手を掛けると、ゆっくりといやらしく、下にずらしていった。彼の視線は肩紐をずらすアタシの指先と、今にも見えそうな膨らみに釘付けだった。動揺する彼を更に翻弄するかのようにわざと甘い声で囁く。
「ねぇ、小泉さん……触ってくれない?アタシの体」
「お、お前、自分が何言ってんのか分かってんのか?」
「分かってるよ。でも、他の人じゃイヤ。小泉さんに触って欲しいの」
彼はアタシの顔を見つめた後、胸の谷間や露になった腿に視線を移した。心が揺れ動いているのが明らかに分かる。アタシは小さく笑みを零すと、彼の大きな手を取って腿に導いた。
「ねぇ、ほら……早く」
「ちょ、お、おい!」
彼はしばらくの間、アタシの手に導かれるがままに腿を撫でていた。大きくてゴツゴツとした逞しい手に触れられる度に体が熱くなっていくのを感じた。
「あっ……んんっ」
彼に見せつけるように恍惚の表情を浮かべ、わざとらしく甘い吐息を零す。その気になって来たのか彼は手を自分で動かし始めた。感触を確かめるように優しく揉みながら撫でていく。その手はやがて内側に滑り込み、閉じていた両腿の隙間に入り込んで来た。
「はぁん……そこ、イイ……っ」
シートに背中を預けて込み上げる快感に耐えていると、彼がアタシの顔を覗き込んだ。
「……その気にさせやがって」
口元を緩めながらそう言う彼の大きな瞳に熱が宿っていた。目と目を合わせ、そっとキスをする。彼は何度も唇を重ねながら片手でアタシの内腿を、もう片方の手でブラのホックを外して直に膨らみを揉んだ。
「ふっ……はぁっ……ああ、きもちイイ……もっと……っ」
首筋に腕を回してそうねだると、彼は吐息を漏らしながら余裕のない表情を浮かべて言った。
「……もう我慢できねぇ……お前が欲しい」
「うん、じゃあ……ホテルいこ?」
「ああ……」
彼は愛おしさと切なさが入り混じった表情で頷くと、もう一度アタシの唇にキスをしたのだったーー。
***
「……い、おい」
ハッとして咄嗟に横を見ると、小泉さんが怪訝そうな表情を浮かべてアタシの顔を覗き込んでいた。
「きゃっ!」
あまりにも顔が近くて思わず悲鳴を上げてしまった。濃厚な妄想をした直後だからなのか胸がドキドキしている。
「着いたぞ、サービスエリア。さっきから何ボーっとしてんだ?考え事か?」
「な、何でもない!」
確かにアタシは考え事をしていた。でもそれはあまりにもいきすぎた考え事だった。色仕掛けが好きなアタシでもさすがにあんなに刺激の強いことはできない。動揺を悟られないように咄嗟に顔を背けると、彼は不思議そうな口調で尋ねて来た。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「だ、大丈夫だから!」
急いで車から降りた。春の夜の空気は少し肌寒くて火照った体には心地よかった。小泉さんは車から降り、アタシの隣に来た。
「それならいいが……じゃあ、行くぞ」
「あ!ちょっと待って!」
歩き出そうとした小泉さんの腕を掴み、バッグからスマホを取り出した。新しい方じゃなくて元の世界で使っていた方だ。
「何だ?」
「コレ見て!仕事中の写真!雑誌に載ったやつ記念に残しておいたんだ」
美味しそうなパイが沢山並んだショーケースの前で、営業スマイルを浮かべるアタシの写真。健康的な明るいメイクをして、長い髪は頭の上でお団子。白いブラウスは胸が強調され、赤いミニスカートからは両腿が覗き、エロさ増し増し。アタシはこれを自分史上最高に可愛い写真だと思っている。小泉さんはその写真を見てしばらくの間、固まっていた。不思議に思って顔を覗き込んでみる。暗がりでも分かるほど真っ赤な顔をしていた。
「あれ?もしかして……仕事中のアタシに惚れちゃった?」
「ば……馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」
慌てながら声を荒げ、彼は後ろを向いた。そして、ぽつりと呟いた。
「ま、まぁ……良く撮れてんじゃねえか?」
その後すぐに歩き出した。アタシの顔も見ずに。
「もう!素直じゃないんだから~!」
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