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国興し
汚染集落の救済
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鹿島達は延焼している集落をそのままにして、鎮守様の指示する次の集落へ向かった。
次の集落の規模も延焼させた集落と同じぐらいであった。
「わずかに、生存者がいる。」
と、鎮守様は集落を見つめて、集落入り口で止めた駆動車の後方座席から立ち上がった。
「サニーちゃんは、抗生薬瓶と錠剤薬の入った箱を持ち、タローちゃんは、消毒液の入ったポリを持って付いて来なさい。」
鎮守様もペットボトルの箱を持ち上げると、粗末な囲いの入り口から集落に入って行き、粗末な住居が並ぶ通りに入るが、住居に入ることなく集落奥へと進んでいった。
鎮守様は集落の密集地を過ぎたあたりで、まばらに建っている住居を見回すと、ペットボトルの箱を入り口前に置いて、透明なペットボトル二本と青色ペットボトル二本を持ち、一軒の住居に入っていった。
「タローちゃんはこの家の汚物処理と、青色消毒液を霧状にして、室内の消毒。サニーちゃんは、箱を持ったままついて来なさい。」
粗末な住居の中には、若い男女が荒い息をしながら目を閉じていて、枯れ草を敷いた上に、布をかぶせただけの寝床に横たわっていた。
鎮守様はベッドの横に透明なペットボトルを置き、
「サニーちゃん、二人に抗生薬を飲ませなさい。飲ませ終わったら衣類をはぎ取り。タローちゃんに消毒させてから温風で乾燥し、二人に着衣させなさい。」
鹿島は、部屋のあちらこちらに嘔吐した跡に土をかぶせ、青色消毒液ペットボトルの口を下に向け、「霧散布浸透。」と唱えると、周りが一瞬真っ白になったが、直ぐに霧は晴れた。「霧散布浸透。」
サニーは二人に抗生薬を飲ませ終わると、二人の衣類をはぎ取った。
鎮守様は、青色ペットボトルから、指の一関節ほどの水滴を、指の先に吸い上げると女性の腕をつかみ、二の腕あたりに押し付けた。
男性にも同じ動作を繰り返すと、女性の意識が戻ったようで、
「誰?」
サニーは消毒乾燥させた衣類を女性に渡して、
「最上級精霊様です。救いに来ました。」
鎮守様は慈愛を込めた満面笑顔を女性に向け、
「これは水です。井戸の水は危険なので、明日までこれで我慢しなさい。」と、二本のペットボトルを差し出した。
鎮守様はさらに、八箇の錠剤薬を女性の手に渡して、
「あなたと主人の二日分の薬です。朝に一錠、夕方に一錠ずつ飲みなさい。」
女性は、覗き込んでいる鎮守様の顔を見つめながら頷いた。
「これで二日間凌いでください。」
と、サニーが二日分の携帯保存食を渡しながら、バッグからチョコレートをも渡した。
「次に向かうわ。」
と、鎮守様が女性に背を向けると、
「翅?」
と、女性は鎮守様の背中に気が付いた様子で驚愕の声を発した。
次の家屋には親子四人がいて、やはり粗末な寝床に横たわっていた。
七軒目で要約意識ある女性が辛うじて這いずりながらも、家族の看病をしていた。
「救済に来ました。」
と、サニーが入っていくと、サニーの防菌服姿に驚愕したが、鎮守様が入っていくと、女性は涙を浮かべて素直に頷き、鹿島達の作業を見守った。
鎮守様たちが一通りの処方を終えて背中を向けると、女性は地面で土下座していた。
鹿島達は、すべての家屋の消毒を終えて、すべての遺体を村入り口の四軒に集めて炎上させた。
三つ目の集落に着いたときには、既に陽は遠くの山峯に落ちだしていた。
鹿島達は集落に入り、「動ける者は居るか?」
と鹿島が叫ぶと、五人の若者と一人の女性が屋内から出てきた。
鎮守様を真ん中に三人は並んだが、サニーと鹿島の異様な服装は無視して、全員の目は鎮守様に向いた。
あからさまに顔を赤面させた若者もいた。
「最上級精霊様が救済に来た。状況を説明せよ。」
と、サニーは上目線の態度で皆を見回した。
「多くの人が、倒れてしまい、床に伏せています。もしかしたら、瘴気病ではないかと話し合っています。」
「瘴気病だ!」
サニーの声にみんなが驚き、脱兎のごとく散り逃げ屋内に入っていった。
一抱えもある荷物を持った六人の男女が、屋内から飛び出てくると、
鎮守様は手を広げて、
「家族と仲間を見捨てて、どこへ行こうとする。」
「ここにいては、俺らも死んでしまう。」
「大精霊サニーは、何と言った。」
六人は互いに顔を見合わせた。
「最上級精霊様が救済に来た。と。」
「そうだ、全員助かる。そち達も手伝え。」
「みんなが助かると?」
「死人は無理だが、息のあるものは、助ける。」
鎮守様は六人に厚紙をなめさせると、携帯顕微鏡を覗き込んだ。
「全員陽性。」
「どういう意味でしょうか?」
「全員が瘴気病に侵されている。発病するのは確実だが、発病しない薬を与える。」
「われら全員、悪霊に取り付かれていると?」
「既に、熱っぽい自覚があるはずだ。」
全員小さく頷いた。
六人は瓶に入った薬を飲み干し、錠剤を受け取った。
鹿島はポリタンクを持ち、直ぐに家屋に入っていった。
サニーは駆動車から防菌手袋とマスクを六人へ手渡し、
「遺体の全てを、入り口わきの家屋へ運べ。」
と六人に指示した。
月明かりの中、通りには灯り代わりの焚火がなされていた。
三人がすべての処置を終えた時刻は、夜中であった。
「悪霊退散」と鎮守様は遺体を集めた家屋に、火炎魔法の炎を向けた。
「お前たちは、二日間、みんなの面倒を見てあげろ。」
と言って、鹿島の持っているポリタンクを取り上げると、
「霧散布」と六人の若者を霧で覆った。
三人は井戸に消毒剤を落とし、
「二日間は、悪霊が潜んでいる井戸の使用を禁ずる。二日後には悪霊は死滅する。それまでは、飲料水は川から運ぶように。」
といって集落を後にした。
鹿島が駆動車の運転席に乗り込もうと、運転席側に向かうと、
「タローちゃん、運転は私がします。タローちゃんは後ろで寝てなさい。」
鹿島は疲れていたが、回復薬はモス繭(まゆ)細菌をも活性化させる、作用があるので使用を控えていた。
駆動車は悪路道をゆっくりとは走るが、時々窪地や岩に乗り上げる度に、鹿島は熟睡できないまま曙を迎えた。
四つ目の集落に着いた時刻は夜中であったため、高機動車は集落の近くに停車して夜が明けるのを待った。
東の空が明るくなり、高機動車は四つ目の集落入り口に着いたが、家屋から煙が見えているのが確認できた。
鹿島は高機動車の運転席からクラクションを響かせた。
集落の通りに、おっかなびっくり顔した住人が、ソロゾロと二十人ほど出てきた。
「最上級精霊様が救済に来た。状況を説明せよ。」
と、サニーは上目線の口上を又もや述べた。
異様な出で立ち姿の二人に、おっかなびっくり顔した住人はさらに恐怖しだしたが、鎮守様が車から降りてくると、
「おおお~。」
と、防護服二人の姿を忘れてしまったのか、鎮守様の美貌に見とれたまま住人はどよめいた。
「最上級精霊様が、救済に来ていただいたと?」
「瘴気病から、みんなを助けに来た。既にいくつかの集落で感染者が生きていたので、すべて全員を救済し終えてきた。」
「やはり、瘴気病ですか?」
「騒ぐな!全員村に残って、最上級精霊様の指示に従えば、みんな助かる。」
「村を捨てなくても、助かると?」
「そうだ。みんな並べ!」
村人全員が陽性であったが、サニーは一通りの処置を住民に説明していった。
二十人の協力もあり、陽が頭上に来る前に、すべての処置は無事に終えた。
五つ目の集落、六つ目の集落、七つ目と訪れる集落では、ほとんどが感染していたが、最初に延焼した集落から遠くなるほど、感染犠牲者は減っていた。
九つ目の集落では、感染犠牲者は全体の二十パーセントであったが、処置が終わったのはやはり真夜中であった。
処置の終わった集落では、月が見守る中、遺体の火葬煙が随所に上がっていた。
三日目の朝、鹿島は眠気顔しながら、薬品の在庫を調べている鎮守様とサニーに、
「おはよう。二人共休まれました。」
「おはようタローちゃん。抗生薬製造をしている、サニーちゃんに寝ている暇などない。」
「サニー、大丈夫?」
「私は、寝なくても、大丈夫です。」
「では、タローちゃんが起きたことだし、出かけましょうか。」
十番目の集落入り口で、鹿島がクラクションを響かせると、各家屋から人々が飛び出してきた。
鎮守様を先頭に防護服の二人は、後ろからついていった。
「ここに来るまでの九つの村で、瘴気病が発生していました。残念ながら、かなりの犠牲者がいました。生き残った発病者は、薬を飲んで全員助かりました。そして!私共は、その薬を持参しています。」
「払えるお金などないぞ。」
「薬は無料で、提供します。」
「薬がタダ?条件は?」
「条件?考えたことなど、なかった。どうしましょうサニーちゃん。」
「最上級精霊様の善意だ!」
と、サニーが怒鳴ると、初めて二人の防護服に気が付いたのか、人々は後ずさりし始めた。
「村長はいるか!」
と鹿島が怒鳴ると、初老の男が鎮守様の前に進み出てきたのは、二人の異様さを避けたいがためのようで、初老の男は二人と目を合わせることなく、鎮守様の目を見据え続けていた。
「病気にかかっている人はいるの?」
「管理兵二人と、年寄りと子供たち五人が、床に伏せています。」
「死人はいない?」
「いません。」
「では全員漏れなく、悪霊瘴気に感染していないか調べます。感染している人には、薬を上げます。薬を飲んだ後の感染者は、二日間隔離してください。」
「瘴気病が治ると?」
「治します。」
村長は鎮守様を見つめ続けていたが、村入り口にある小屋に鎮守様を案内した。
浅黒くなった管理兵二人は、鎮守様の処方で顔に血の気が戻りだした。
「どこの村でも、管理兵が最初に発病した様子でしたが、心当たりがありますか?」
暫く村長は考え込んでいたが、
「管理兵は村との癒着を防ぐために、頻繁に移動します。」
「集落を管理するために、移動すると?」
「はい。頻繁に代わります。」
鎮守様は地図を広げて、通ってきた集落を説明した。
「管理兵が最初の集落で感染した?クラスターは管理兵だったのかもしれない。」
「管理兵は持ち回りで、常に移動します。」
「感染者の移動、、、。」
「管理兵は、この印以外にも、移動しますか?」
「分かりやすい立派な地図でございますね。ここに居る管理兵の担当区域は、半年間は、この印だけだと思います。」
「村人の移動は、どうだろうか?」
「農奴の移動は禁止されています。」
「他に、村を訪ねてくるものは?」
「行政官だけですが、去年の収穫時以外は来ていません。」
「では、感染者は、ここが最後か?」
感染者は集落外れに住んでいる家族以外は、全てが陽性であったために薬を与えた。
寝床に伏している病人の処置はサニーが処理終えていて、鹿島は各家屋の消毒を行っていた。
鎮守様とサニーが集落全員に「霧散布」魔法中に、集落入り口に五人の兵と、大勢の簡易鎧に身を包んだ男たちがやって来た。
「奴隷狩りが来たぞ!」と、あちらこちらで怒鳴り声が連続しだした。
初老の村長は全速力で集落入り口に向かって行った。
「なに!、偽りを申すな!管理兵はどこだ!」
きらびやかな甲冑姿で、馬に乗った若い男が怒鳴った。
「管理兵様は、病気で床に伏せています。」
「誰か!管理者野郎を引きずり出してこい!」
五人の兵が管理小屋に入っていって、二人を馬に乗った若い男の前にひざまずかせるが、二人はそのまま倒れ込んだ。
「村長!この名簿の農奴たちを、至急集めろ!」
男は怒鳴ると、倒れた二人の管理兵に鞭を当て、鎮守様の方へ駆けて行った。
「お前達か、瘴気病が出ただと、うそをつく詐欺師は?何が目的だ!」
男は「霧散布」魔法中の鎮守様に向かって鞭を振り落とした。
鎮守様は振り下ろされた鞭をつかんで男を引落とし、無表情で鞭を取り上げて二つに折った。
鞭を引かれて落馬した男は鞭が当たる寸前、鎮守様の顔を見て目を見開いたが、地面に落ちたと同時に激痛が全身を覆った。
慌てて駆け付けた五人の兵が落ちた男を起こすと、男の足の指先は後ろを向いていた。
「この女を捕らえて、連れの者たちは、殺してしまえ!」
と言って、男は気を失った。
鹿島は屋内の消毒中に表の騒ぎに気付いて飛びだした。
集落入り口でたむろしていた、二十人ぐらいの簡易鎧に身を包んだ男たちが、我先にと鎮守様に向かって駆けだした。
「風圧。」と、サニーが叫ぶと、先頭を走っていた五人が吹き飛んだ。
「あのガキは魔法使いだ!接近して殺せ!」
残りの十五人は一斉に剣を抜き、サニーに襲い掛かってきた。
鹿島は頭のマスクを脱ぎ棄てると、十五人の前に飛び込み、五人を次々と腕と共に胴体を薙ぎ払った。
鹿島は臆しだした簡易鎧の群れの中に飛び込み、当たるを幸いと腕や足を切断しながら、男たちの身を二つに切り分けた。
鹿島は戦闘中、集落入り口にいる馬上の白い甲冑に目を向けると、呆然としている顔に見覚えのある女騎士に微笑んだ。
次の集落の規模も延焼させた集落と同じぐらいであった。
「わずかに、生存者がいる。」
と、鎮守様は集落を見つめて、集落入り口で止めた駆動車の後方座席から立ち上がった。
「サニーちゃんは、抗生薬瓶と錠剤薬の入った箱を持ち、タローちゃんは、消毒液の入ったポリを持って付いて来なさい。」
鎮守様もペットボトルの箱を持ち上げると、粗末な囲いの入り口から集落に入って行き、粗末な住居が並ぶ通りに入るが、住居に入ることなく集落奥へと進んでいった。
鎮守様は集落の密集地を過ぎたあたりで、まばらに建っている住居を見回すと、ペットボトルの箱を入り口前に置いて、透明なペットボトル二本と青色ペットボトル二本を持ち、一軒の住居に入っていった。
「タローちゃんはこの家の汚物処理と、青色消毒液を霧状にして、室内の消毒。サニーちゃんは、箱を持ったままついて来なさい。」
粗末な住居の中には、若い男女が荒い息をしながら目を閉じていて、枯れ草を敷いた上に、布をかぶせただけの寝床に横たわっていた。
鎮守様はベッドの横に透明なペットボトルを置き、
「サニーちゃん、二人に抗生薬を飲ませなさい。飲ませ終わったら衣類をはぎ取り。タローちゃんに消毒させてから温風で乾燥し、二人に着衣させなさい。」
鹿島は、部屋のあちらこちらに嘔吐した跡に土をかぶせ、青色消毒液ペットボトルの口を下に向け、「霧散布浸透。」と唱えると、周りが一瞬真っ白になったが、直ぐに霧は晴れた。「霧散布浸透。」
サニーは二人に抗生薬を飲ませ終わると、二人の衣類をはぎ取った。
鎮守様は、青色ペットボトルから、指の一関節ほどの水滴を、指の先に吸い上げると女性の腕をつかみ、二の腕あたりに押し付けた。
男性にも同じ動作を繰り返すと、女性の意識が戻ったようで、
「誰?」
サニーは消毒乾燥させた衣類を女性に渡して、
「最上級精霊様です。救いに来ました。」
鎮守様は慈愛を込めた満面笑顔を女性に向け、
「これは水です。井戸の水は危険なので、明日までこれで我慢しなさい。」と、二本のペットボトルを差し出した。
鎮守様はさらに、八箇の錠剤薬を女性の手に渡して、
「あなたと主人の二日分の薬です。朝に一錠、夕方に一錠ずつ飲みなさい。」
女性は、覗き込んでいる鎮守様の顔を見つめながら頷いた。
「これで二日間凌いでください。」
と、サニーが二日分の携帯保存食を渡しながら、バッグからチョコレートをも渡した。
「次に向かうわ。」
と、鎮守様が女性に背を向けると、
「翅?」
と、女性は鎮守様の背中に気が付いた様子で驚愕の声を発した。
次の家屋には親子四人がいて、やはり粗末な寝床に横たわっていた。
七軒目で要約意識ある女性が辛うじて這いずりながらも、家族の看病をしていた。
「救済に来ました。」
と、サニーが入っていくと、サニーの防菌服姿に驚愕したが、鎮守様が入っていくと、女性は涙を浮かべて素直に頷き、鹿島達の作業を見守った。
鎮守様たちが一通りの処方を終えて背中を向けると、女性は地面で土下座していた。
鹿島達は、すべての家屋の消毒を終えて、すべての遺体を村入り口の四軒に集めて炎上させた。
三つ目の集落に着いたときには、既に陽は遠くの山峯に落ちだしていた。
鹿島達は集落に入り、「動ける者は居るか?」
と鹿島が叫ぶと、五人の若者と一人の女性が屋内から出てきた。
鎮守様を真ん中に三人は並んだが、サニーと鹿島の異様な服装は無視して、全員の目は鎮守様に向いた。
あからさまに顔を赤面させた若者もいた。
「最上級精霊様が救済に来た。状況を説明せよ。」
と、サニーは上目線の態度で皆を見回した。
「多くの人が、倒れてしまい、床に伏せています。もしかしたら、瘴気病ではないかと話し合っています。」
「瘴気病だ!」
サニーの声にみんなが驚き、脱兎のごとく散り逃げ屋内に入っていった。
一抱えもある荷物を持った六人の男女が、屋内から飛び出てくると、
鎮守様は手を広げて、
「家族と仲間を見捨てて、どこへ行こうとする。」
「ここにいては、俺らも死んでしまう。」
「大精霊サニーは、何と言った。」
六人は互いに顔を見合わせた。
「最上級精霊様が救済に来た。と。」
「そうだ、全員助かる。そち達も手伝え。」
「みんなが助かると?」
「死人は無理だが、息のあるものは、助ける。」
鎮守様は六人に厚紙をなめさせると、携帯顕微鏡を覗き込んだ。
「全員陽性。」
「どういう意味でしょうか?」
「全員が瘴気病に侵されている。発病するのは確実だが、発病しない薬を与える。」
「われら全員、悪霊に取り付かれていると?」
「既に、熱っぽい自覚があるはずだ。」
全員小さく頷いた。
六人は瓶に入った薬を飲み干し、錠剤を受け取った。
鹿島はポリタンクを持ち、直ぐに家屋に入っていった。
サニーは駆動車から防菌手袋とマスクを六人へ手渡し、
「遺体の全てを、入り口わきの家屋へ運べ。」
と六人に指示した。
月明かりの中、通りには灯り代わりの焚火がなされていた。
三人がすべての処置を終えた時刻は、夜中であった。
「悪霊退散」と鎮守様は遺体を集めた家屋に、火炎魔法の炎を向けた。
「お前たちは、二日間、みんなの面倒を見てあげろ。」
と言って、鹿島の持っているポリタンクを取り上げると、
「霧散布」と六人の若者を霧で覆った。
三人は井戸に消毒剤を落とし、
「二日間は、悪霊が潜んでいる井戸の使用を禁ずる。二日後には悪霊は死滅する。それまでは、飲料水は川から運ぶように。」
といって集落を後にした。
鹿島が駆動車の運転席に乗り込もうと、運転席側に向かうと、
「タローちゃん、運転は私がします。タローちゃんは後ろで寝てなさい。」
鹿島は疲れていたが、回復薬はモス繭(まゆ)細菌をも活性化させる、作用があるので使用を控えていた。
駆動車は悪路道をゆっくりとは走るが、時々窪地や岩に乗り上げる度に、鹿島は熟睡できないまま曙を迎えた。
四つ目の集落に着いた時刻は夜中であったため、高機動車は集落の近くに停車して夜が明けるのを待った。
東の空が明るくなり、高機動車は四つ目の集落入り口に着いたが、家屋から煙が見えているのが確認できた。
鹿島は高機動車の運転席からクラクションを響かせた。
集落の通りに、おっかなびっくり顔した住人が、ソロゾロと二十人ほど出てきた。
「最上級精霊様が救済に来た。状況を説明せよ。」
と、サニーは上目線の口上を又もや述べた。
異様な出で立ち姿の二人に、おっかなびっくり顔した住人はさらに恐怖しだしたが、鎮守様が車から降りてくると、
「おおお~。」
と、防護服二人の姿を忘れてしまったのか、鎮守様の美貌に見とれたまま住人はどよめいた。
「最上級精霊様が、救済に来ていただいたと?」
「瘴気病から、みんなを助けに来た。既にいくつかの集落で感染者が生きていたので、すべて全員を救済し終えてきた。」
「やはり、瘴気病ですか?」
「騒ぐな!全員村に残って、最上級精霊様の指示に従えば、みんな助かる。」
「村を捨てなくても、助かると?」
「そうだ。みんな並べ!」
村人全員が陽性であったが、サニーは一通りの処置を住民に説明していった。
二十人の協力もあり、陽が頭上に来る前に、すべての処置は無事に終えた。
五つ目の集落、六つ目の集落、七つ目と訪れる集落では、ほとんどが感染していたが、最初に延焼した集落から遠くなるほど、感染犠牲者は減っていた。
九つ目の集落では、感染犠牲者は全体の二十パーセントであったが、処置が終わったのはやはり真夜中であった。
処置の終わった集落では、月が見守る中、遺体の火葬煙が随所に上がっていた。
三日目の朝、鹿島は眠気顔しながら、薬品の在庫を調べている鎮守様とサニーに、
「おはよう。二人共休まれました。」
「おはようタローちゃん。抗生薬製造をしている、サニーちゃんに寝ている暇などない。」
「サニー、大丈夫?」
「私は、寝なくても、大丈夫です。」
「では、タローちゃんが起きたことだし、出かけましょうか。」
十番目の集落入り口で、鹿島がクラクションを響かせると、各家屋から人々が飛び出してきた。
鎮守様を先頭に防護服の二人は、後ろからついていった。
「ここに来るまでの九つの村で、瘴気病が発生していました。残念ながら、かなりの犠牲者がいました。生き残った発病者は、薬を飲んで全員助かりました。そして!私共は、その薬を持参しています。」
「払えるお金などないぞ。」
「薬は無料で、提供します。」
「薬がタダ?条件は?」
「条件?考えたことなど、なかった。どうしましょうサニーちゃん。」
「最上級精霊様の善意だ!」
と、サニーが怒鳴ると、初めて二人の防護服に気が付いたのか、人々は後ずさりし始めた。
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と鹿島が怒鳴ると、初老の男が鎮守様の前に進み出てきたのは、二人の異様さを避けたいがためのようで、初老の男は二人と目を合わせることなく、鎮守様の目を見据え続けていた。
「病気にかかっている人はいるの?」
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「死人はいない?」
「いません。」
「では全員漏れなく、悪霊瘴気に感染していないか調べます。感染している人には、薬を上げます。薬を飲んだ後の感染者は、二日間隔離してください。」
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「治します。」
村長は鎮守様を見つめ続けていたが、村入り口にある小屋に鎮守様を案内した。
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「どこの村でも、管理兵が最初に発病した様子でしたが、心当たりがありますか?」
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「管理兵は村との癒着を防ぐために、頻繁に移動します。」
「集落を管理するために、移動すると?」
「はい。頻繁に代わります。」
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「管理兵は持ち回りで、常に移動します。」
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「管理兵は、この印以外にも、移動しますか?」
「分かりやすい立派な地図でございますね。ここに居る管理兵の担当区域は、半年間は、この印だけだと思います。」
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「農奴の移動は禁止されています。」
「他に、村を訪ねてくるものは?」
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感染者は集落外れに住んでいる家族以外は、全てが陽性であったために薬を与えた。
寝床に伏している病人の処置はサニーが処理終えていて、鹿島は各家屋の消毒を行っていた。
鎮守様とサニーが集落全員に「霧散布」魔法中に、集落入り口に五人の兵と、大勢の簡易鎧に身を包んだ男たちがやって来た。
「奴隷狩りが来たぞ!」と、あちらこちらで怒鳴り声が連続しだした。
初老の村長は全速力で集落入り口に向かって行った。
「なに!、偽りを申すな!管理兵はどこだ!」
きらびやかな甲冑姿で、馬に乗った若い男が怒鳴った。
「管理兵様は、病気で床に伏せています。」
「誰か!管理者野郎を引きずり出してこい!」
五人の兵が管理小屋に入っていって、二人を馬に乗った若い男の前にひざまずかせるが、二人はそのまま倒れ込んだ。
「村長!この名簿の農奴たちを、至急集めろ!」
男は怒鳴ると、倒れた二人の管理兵に鞭を当て、鎮守様の方へ駆けて行った。
「お前達か、瘴気病が出ただと、うそをつく詐欺師は?何が目的だ!」
男は「霧散布」魔法中の鎮守様に向かって鞭を振り落とした。
鎮守様は振り下ろされた鞭をつかんで男を引落とし、無表情で鞭を取り上げて二つに折った。
鞭を引かれて落馬した男は鞭が当たる寸前、鎮守様の顔を見て目を見開いたが、地面に落ちたと同時に激痛が全身を覆った。
慌てて駆け付けた五人の兵が落ちた男を起こすと、男の足の指先は後ろを向いていた。
「この女を捕らえて、連れの者たちは、殺してしまえ!」
と言って、男は気を失った。
鹿島は屋内の消毒中に表の騒ぎに気付いて飛びだした。
集落入り口でたむろしていた、二十人ぐらいの簡易鎧に身を包んだ男たちが、我先にと鎮守様に向かって駆けだした。
「風圧。」と、サニーが叫ぶと、先頭を走っていた五人が吹き飛んだ。
「あのガキは魔法使いだ!接近して殺せ!」
残りの十五人は一斉に剣を抜き、サニーに襲い掛かってきた。
鹿島は頭のマスクを脱ぎ棄てると、十五人の前に飛び込み、五人を次々と腕と共に胴体を薙ぎ払った。
鹿島は臆しだした簡易鎧の群れの中に飛び込み、当たるを幸いと腕や足を切断しながら、男たちの身を二つに切り分けた。
鹿島は戦闘中、集落入り口にいる馬上の白い甲冑に目を向けると、呆然としている顔に見覚えのある女騎士に微笑んだ。
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