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国興し

21 ベランダの少女との再会

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 王女とマリーは、集落方向から聞こえてくる悲鳴と罵倒声を、ただならぬ事態が起きていると感じて、馬に鞭を当てて駆け出した。

 集落の広場では冒険者と思しき男たちが、だぼだぼの白い鎧風の服を着た一人の男と戦っていた。

 男は耳が短く、見覚えのある顔と目をしていた。
「使徒様だ!何で?」
「王女様。使徒様とは?」
「だぼだぼの白い服を着た男。」
「恐ろしく強い男だ。あれは、確かに人ではない。」
「使徒様です。」
「あの男、今、王女様に笑いかけたような?」
「ええ、目と目が合った時、笑いかけてくれました。」

 簡易鎧のリーダらしき男が、
「俺達は、ミミズ街、冒険者ギルドから、派遣されてきた冒険者だ。俺たちを敵に回すと、厄介なことになるぞ。」
「おれの神様と、伴侶に剣を向けたのだ。お前たちは俺の、敵以外の何物でもない。」
「俺らは、公務中だ!」
「剣を抜いての、公務など、ありえん。いや、あってはならんはずだ!」
「公務を否定するお前は、気狂い、、、、、か。」
と言って鹿島に切りかかったが、しゃべりながら首が胴体から離れた。
残りの二人は剣を投げ捨てると、王女とマリーの脇を駆け抜けて逃げ去った。

 気を失った男をかばうように、五人の兵は近づいてくる鹿島に槍先を向けた。
「こいつは、なんだ?」と、鹿島は気を失った男をけげんな目で見て、鎮守様に声がけた。
「私達を詐欺師呼ばわりして、私に鞭を振りおろし、あなた達を殺して、私を捕らえよと命令を出した男です。」
「空恐ろしい奴だな。」

「お前たちが抵抗するなら殺す。死にたくなかったら、答えろ。こいつはだれだ?」
鹿島に槍先を向けていた五人の兵は、槍を地面に静かに置き、
「ナントン領主様の子息、カイワレ様です。」
「カイワレは、何しにここへ来た。」
「農奴たちを、奴隷市場に売るためです。」
「さっき、公務と言っていたが、お前たちは人さらいか?」
質問された兵士は、「人さらい」の意味を理解できないのか、押し黙ると、
「人さらいではありません。農奴の所有権は、領主です。ですので、公務といったのです。」
と、鹿島の後ろから、王女が遠慮気味に支配階級目線での返答をした。

「あら、ベランダの貴婦人だったかしら?」
と、鎮守様が王女に話しかけた。

 王女は、見覚えのない容姿端麗な鎮守様を見つめているが、ベランダであった使徒様達は、耳の短い青年と赤い布を羽織ったやはり短い耳をした少女だけであった。
「あ、あの時は、私はまだ幼かったから、見間違えるわね。」
王女は、鎮守様の耳に気づき、
「手を振ってくださった、使徒様でしたか。気が付きませんで申し訳ありません。」
「いいのよ。で、瘴気病が蔓延しているここに、ベランダの貴婦人が何用で?」
「瘴気病が?」
「樹海からこの村まで、十カ所の集落に、瘴気病が蔓延していたが、ようやく静まりました。」
「樹海から十カ所の集落?最果ての集落は、入っていますか?」
と、若い兵士が突然喚いた。
「集落の名前はわからないわ。」
「あの煙の方向にある、樹海のそばです。」
鎮守様は、地図を取り出して、現在地と煙の方へ指先をたどった。
「この集落では、全員がモス繭(まゆ)の白い森からでた瘴気病で、全員無くなっていました。瘴気病が広がらないように、すべて焼き払いました。」
「亡骸は?」
「次の集落も、緊急事態であろうと思ったので、炎の中に残したままです。」
若い兵士はうなだれていた。

 王女は鎮守様に声がけしようと顔を向てると、気を失っていたナントン領主の子息、カイワレが、骨折の痛さで大声をあげた。

 王女は、カイワレの足が骨折していることに気づき、回復治癒を行おうと足を向けると、
「王女様。ここでは、王女様はすべての事に関わってはいけません。何が起ころうと、ただ傍観していてください。」

 マリーは、冒険者が「公務」と叫んだことに対して、マリーも領主の娘であったので、何の躊躇もしなかった神の使徒に、違和と無法を感じていたが、使徒様が躊躇する事無く冒険者を切り捨てたことで、双方どちらが善悪なのか判断ができないこの事件に、関わらないことが最善と思えた。

「けがしているのに、何故に止める?」
「ここは、ナントン領だからです。」
「王室を巻き込むなと?」
「これまでの経過からして、使徒様達の怒りは、尋常ではありません。双方どちらが善悪なのか判断出来るまで、どちらにも加担すべきではない。善悪状況判断するには、まず、使徒様達の考えを把握してからでも、遅くはないです。」
「そうですね。特に身二つにしたことは人技ではなかった。使徒様達の怒りが何なのかをも、知りたい。」

 王女とマリーは累々と横たわっている身二つにされた屍に目をやり、犠牲者の素性は冒険者であることは、すでに使徒様に切られた男が、「公務」と叫んだのを聞いていたが、身二つにされる程の罪状を知りたいと思った。

 鹿島はカイワレの大声を無視して、農奴たちを奴隷市場に売る状況の背景と、事情を聴くために村長を呼んだ。

「お前たちの所有者は、領主か?」
「はい、私達は、領主様に所有されています。」
「所有となった原因と理由は?」
「おっしゃっている意味が、、、分からないです。」
「いつ、農奴になった?」
「生まれてすぐです。」
「両親も、農奴であったと?」
「その以前から、代々農奴でした。」
「では、ここの農地を俺が所有すると、お前たちは俺の農奴か?」

 村長は鹿島の言葉を全く理解でいなかった様子で、けげんな顔をしたまま押し黙った。

 王女は、使徒様が全く国の法律と領地経営を理解してないと感じ、
「農奴たちが理解しているのは、“所有させている”だけです。だれの権利かなど、知る由がないのです。」
「この世界は、奴隷もいるのか?」
「いろんな種類の奴隷がいます。」
「いろんな種類の奴隷?」
「農奴、犯罪奴隷、売買奴隷、捕虜奴隷、戦争奴隷、など、いろいろです。」
「戦争奴隷とは?」
「侵略した住民を、奴隷にさせます。」

 鹿島は、わめき続けているカイワレを向き、
「なら、あれは今、捕虜だと思うが?」
鹿島は顎をカイワレに向けた。
「捕虜になった原因を、お教えください。」
「俺達を詐欺師呼ばわりして、神様である鎮守様に鞭で襲い掛かり、鎮守様を捕縛し、俺らを殺せと命じた。これは、俺たちに対して、宣戦布告だろう。」
王女はこの世界では地位のある他国者を侮辱したり、襲った場合は宣戦布告となると思っているので、
「確かにその状況なら、カイワレは女神の使徒様たちに、宣戦布告をしたようです。」
と、鹿島の言い分を肯定した。
 
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