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転生

16 抗生物質の製造

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 鹿島とサニーに五人の妖精達は、鎮守様のステップ足で気分を理解するようになっていた。

 今日の鎮守様のステップ足は軽やかなうえに、ジャンプさえも伴っていた。

「ずいぶんなご機嫌で。」
「タローちゃん。モス繭(まゆ)に宿っていた細菌を、全て体内で滅してしまったのよ。それに、モス繭(まゆ)に宿っていた細菌が飛散しても、消毒薬で浄化できるわ。」

「白い森を、焼かないで、浄化できると?」
「丈夫な繭糸を、回収できると?」
「ぜ~ぶ、かの~よ。でも、用心はしてください。」
「密封袋は、どのくらいありますか?」
「百枚ぐらいなら、修理ロボットが用意できるでしょう。」
「直ぐに、網製作、作戦発動!」
「みんなが魔蜂の翅を確保したなら、最強の妖精軍になるわ。」
「もう~、魔物が現れても、撃退できるわ。」
「森が平和になるわ~。」
「果樹園も、薬草畑もたくさん造成できるわ~。」
「消毒薬は水性だけど、モス繭(まゆ)の糸に影響はないかしら?」
「モス繭(まゆ)の糸は、火には弱いが、耐水性だから大丈夫でしょう。」

 瘴気病を克服する薬と消毒薬ができ、魔獣以上の怖い存在がなくなったことで、妖精達は絶対に再度復活できる保証がないうえに、やはり前世の記憶がないことの不安を持っていたのか、妖精たちの喜びは絶頂となっていた。

 平地となった岩場には、一時しのぎ十個の岩製の鍋と窯は急ごしらえとは思えない立派さであり、鍋の上部には糸巻き用の丸太が並んでいた。
その傍では修理ロボットがせわしなく動き回って、かまどに薪を放り投げている。

 白い森の上空では、鹿島の操縦する爆撃機がホバーリング中であった。

 爆撃機からロープが落ちてくると、宇宙服姿の鎮守様と、ちっちゃな防菌服に身を包んだサニーたちがロープを掴み取った。

「みんなは、どこへ行ったの?」
「消毒液の匂いに我慢できないと言って、風上に避難していきました。」
「どの位積めるの?」
「鍋が十個だから、最初は、三十袋くらいでしょう。」
「了解。」

 爆撃機は三十匹の繭を巻き上げ、沸騰した岩製の鍋に袋ごと落とした。

 モス繭(まゆ)の糸は修理ロボットによる、上部に取り付けた糸巻き用の高速回転している丸太に巻かれていく。

 繭の中から出てきたモスの幼虫に宿っていた細菌は、繭の中で既に処理されてはいたが、念の為か、「火の精霊魔法。」使い妖精達によって灰となった。

 一日がかりの糸巻き作業が終わり、予定より多くの綱ができた。
編み作業はやはり修理ロボットの仕事となったが、網の使用訓練は兵隊人形妖精たちであった。

 サニーと五人の妖精は、「風の精霊魔法。」使い妖精達の援護を受けて、鹿島の指導で投網の練習である。

 鹿島とサニーに五人の妖精は、これまでは攻略出来なかった魔蜂の住処に、強行偵察に向かった。

「やはり、警戒しているな。」
「軍隊魔蜂は、周りの枝陰に隠れているわ。」
「巣を守るように、取り付いているのは、親衛隊伴侶か?」
「数えにくいが、十匹ぐらいかしら?」
「多いわね。」
「女王魔蜂は、どんな魔法を使えるのだ?」
「誰も遭遇した事が無いので、わからないわ。」
「女王魔蜂の魔法を、防ぐ方法は無いのか?」
「普通の魔法なら、無効化できるわ。」
「では、帰ってから聴こう。」

 鹿島とサニー達妖精が食堂ホールに入ると、空になった大量の皿と、せわしなく食べ続けている薬師精霊と弟子たちがいた。

 薬師精霊たちを、うっとりとした目で見つめている鎮守様へ向かって、
「鎮守様。彼女らに、何があったの?」
「抗生物質と、消毒薬の製造で三日三晩徹夜させた上に、これから、次の魔蜂との戦いに備えて、回復薬原料をを準備して頂くの。」
「回復薬の製造ではなくて、準備?」
「製造は、私担当よ。」
「鎮守様が回復薬を造ると。」
「そうよ。」
「妖精は、寝なくても平気だったはずだが?」
「彼女たちには当然、報酬を要求する権利があるわ。」
「だね。」
と、サニーは、呆れ顔で薬師精霊たちを眺めていた。

 鹿島は薬師精霊たちを無視して、
「サニー、魔法を無効化できる話をしてほしい。」
「女王魔蜂の魔石を使って、魔石を中心に周りの魔素を固定する事ができます。」
「魔素を固定?魔素とは?」
「体内の魔力は一種類しか流せないが、魔素はすべての魔法に必要な潤滑剤です。魔法の発動には不可欠です。」
「魔力があっても、魔素を感じなければ、魔法は発動しません。」
「俺は、魔素を感じたことがないが?」
「最初、魔力が流れなかった原因は、流れ方を知らなかったのが原因だと、理解したはずです。つまり、周りにある魔素を動かすことができなかったのです。」
「つまり、魔石は、周り一帯の魔素を固定して、誰もが魔法を使えなくする。て、事?」
「正解。」
「妖精たちが、魔法を使えなくなると、魔蜂相手だと不利でしょう。」
「不利をカバーして、尚且つ、魔蜂の動きを止める網があります。網にかかった魔蜂は、翅を傷つけることなく、剣と槍だけで容易く倒せます。」
「誰が魔石の操作をするの?」
「魔力的には、鎮守様か、、、タローでしょう。」
「親衛隊伴侶相手だと、俺が戦わなければならないでしょう。」
「私は、薬師精霊と抗生物質の研究に、鉱山開発で忙しいわ。ですので、私は無理。
ところで、サニーちゃん、背中の翅を引きずっていると、不便でしょう。」
「不便です。」
「魔力貯蔵庫の拡張をしましょう。私と薬師精霊とで製造した、魔力回復薬を試したいわ。」
「鎮守様が造った魔力回復薬ですか!是非に試させていただきます。」

 鎮守様は、銀紙で梱包された包みをサニーに手渡した。
「クリーム色して、美味しそう。」
「ココアの油脂を蒸留して、私の魔力を注いでいます。試験的に製造しました所、薬師精霊のお墨付きをいただいたわ。」
「クリーム色した回復薬から、強力な魔力を感じるのは、鎮守様の魔力ですか!」
「ゆっくりと食べて、口いっぱい含みなさい。」

 サニーは半分程で食べて残りを口に含むと、ほほが大きく膨らんだ。
「プッ。まるでリスの、貯蔵庫みたいなほっぺだな。」
と、鹿島はサニーの顔を見て、噴き出してしまった。
「ずずう、、、、。」
「しゃべるな!」
鹿島に静止されたことで、サニーは抗議するように、まぶたに涙をいっぱい貯めた。
「タローちゃんも、口いっぱいに含んで、口移しし易いように準備しなさい!」
鎮守様は神聖な儀式だと言わんばかりに、抗議を含んだ顔で銀紙の梱包を鹿島に投げた。

「魔力貯蔵庫拡張。魔流拡張。」
サニーは身長が伸びていくのに並行して、顔からだんだんと血の気が引いていった。
 六十センチほどの背丈は一メートルを超えて、さらに伸びていくと、サニーの顔が真っ青になった。
「タローちゃん、流し込みなさい!」
鹿島がサニーののどへ回復薬を流していると、
「血液細胞造成、増加!」

 サニーは鹿島の口に舌を伸ばしながら、ウットリとした顔で目を開けた。
「すごく素敵な夢だったよ。」
「どんな?」
「私の二次元顔に見とれながら、恍惚顔になっていたタロー。」

 のどへ回復薬を流している時に、チラリとよぎったアニメ画を、思い出したことを鹿島は後悔した。

 成長したサニーの顔は、元のサニーと、鎮守様のいい所取り合わせ顔になっていた。

 サニーの顔は、造形された完璧な顔のC-001号に憑依した鎮守様と、張り合える少女となった。
「また、身長が倍になったわ。」
「私の持つすべての魔法力も、流しておいたわ。後は、自分で訓練しなさい。」
「私は、全種類の魔法を使えるのですか?」
「訓練次第でしょう。」
「訓練します。」

 五人の妖精達は羨ましい顔でサニーを見つめ、鎮守様に懇願するように跪いた。
「あなた達も、翅を引きずるのは大変でしょう。背丈を伸ばすのを手伝います。」
「お願いします!最上級精霊様。」

 鎮守様はサニーと同じ様な儀式で、身長三十センチぐらいだった妖精達は五十センチ程に伸びだした。
ただ、違うことは、鹿島の協力がなかったことであった。
「あなた達も全魔法を使えるように互いに協力し合い、日々鍛錬しなさい。」
「有り難うございます。協力し合い、毎日鍛錬します。」

「調理機器を解放したから、みんなも好きな料理を食べましょう~。」
と、上機嫌のサニーは、料理取り出し口にあるタブレットメニューを操作しながら声がけした。

 五人の妖精たちは、タブレットメニューを操作しながら、ハンバーグステーキとクリームシチューにかぶりついている、サニーをチラチラと覗き見ながら、
「サニーを説得して、タロー様を共有できないかしら?」
「魔力貯蔵庫を拡張しても、サニーより小さかったのは、タロー様の力を与えられなかったのが、原因だと思う。」
「私もそう思います」
「でも、難しいわね。」
「機会を待ちましょう。」
「賛成。」

 サニーは、五人の妖精たちの不穏な会話と視線に気づかない様子で、さらに追加の料理を選び出していた。

しかしながら、鎮守様は鹿島に微笑みを浮かべて、満足顔で見つめていたが、ステップ足しながら食堂ホールから出て行った。
 
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