インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される

椎名 富比路

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その4 図書館登校生と、モーニング

第10話 図書館の賢者

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 図書館のドアを開けて、中へ。

「入っただけで、微量の魔力を感じますわ」

 デボラもさすが魔法使いだけあって、この気配を強く感じるか。

「本が、魔力を放っているんだ。それで人を誘導したりする」

 そういう怪しい書籍を管理するのも、この図書館の役目だ。

「またせたな。パァイ」

 入り口から、声をかける。

「パァイ? いないのか?」

 返事がない。また寝ていやがるな。

「あそこだろうな」

 段々を登って、床の辺りを探した。

 円形の図書館の内部は段々になっていて、各階に本棚がずらりと並んでいる。
 普通にタイトルを読めるものもあるが、日本語に翻訳されても難解なタイトルも多い。
『ゼロから始められる錬金術』なんて、サギくせえ。しかし内容は、無から有を作り出す本格的な書籍だったりする。ややこしい。

 中央列のちょうど真ん中らへんに、寝転がっている姿が。

「いたな」

 毒の植物図鑑の列に、一人の少女が眠っている。

「イクタ、人が倒れていますわ!」

「騒がない騒がない」

 オレは人差し指を、自分の唇に当てた。

「何事じゃ? 図書館では静かにせよ」

 人影が、ムクリと半身を起こす。
 足首まであるロングスカートが、盛大に捲れている。だが、パァイは気にする素振りはない。
 中身はボクサーショーツだし、こちらとてあまりうれしくはないのだが。

「メシだぜ。パァイ」

 デボラに催促をして、モーニングをパァイの前に。

「ご苦労」

 パァイは、そばにあった瓶底メガネをかけた。そばかすが目立つ顔に瓶底のメガネという、いかにも陰キャである。
 
 しかし彼女こそ、もっとも賢者に近いと称される錬金術師だ。
 見た目に反して、オレより半世紀以上年上である。

「よく吾輩が、この廊下で寝ているとわかったのう?」

「この間は、魔物図鑑の列で寝ていたからな」

 読破していったら、この列に行き着くというわけだ。

「よい推理力じゃぞ。して、その御婦人は」

「新入生の、蔵――」


「蔵小路《クラコウジ》 デボラどのじゃろ? お初にお目にかかる」


「まだ名乗ってもいませんわ!」

 デボラが、パァイの推理に舌を巻く。

「我が推理力を持ってすれば、簡単じゃろうが。ピンクのリボンタイは一年生。整った髪は貴族風。これまた、ブローチや腕時計などのブランドからして、相当名の知れた家系。以上から推理して、一年生で高名な貴族と言えば、蔵小路を置いて他に無し」

「恐れ入りました。パ、パァイヴィッキ先輩、よろしくお願いします」

 デボラが、パァイに頭を下げた。

「ウソつけ、火曜日のエルフおばさんから聞いたんだろ?」

「……さすが、イクタどの。抜群の推理力じゃ」

 オレが種明かしをすると、パァイもフンと笑う。

「うむ。いかにも吾輩はパァイヴィッキ・リンドロース。ここの三年生じゃ。といっても、授業にはほとんど出ておらぬ。賢者と生徒や一部教師にバレぬよう、みなにはただの図書館登校生にして万年図書委員の『パァイ』と呼ばせておる」

 早速パァイが、ホットドッグにかじりついた。手も洗わずに。

「うまい! これで快適に眠れる」

「どういう意味ですの?」

「ああ、パァイにとっては、これが『夜食』なんだよ」

 昼夜が逆転しているので、パァイはこれが晩メシである。 

 ちなみに、ドワーフのおばちゃんがくれたコロッケパンこそ、こいつの「本来の朝食」だ。食べるのは夕方だが。

「それで、お昼は顔をお出しにならないと」

「パァイのやつ、昼は寝ているからな」

「イクタは、パァイヴィッキ様のことは名前を覚えてらっしゃるのね?」

「なんたって、賢者様だからな」

 パァイはオレが名前を覚えている、数少ない客だ。

「なな? ヤキモチかの?」

 アイスコーヒーでノドを潤してから、パァイがニヤリと笑う。

「別にそんな。あだ名で呼んでらっしゃるし、気にはなりますわ」

「デボラどのが想像しておるようなマネには、ならんよ。誘うてはおるが、毎回手を出さぬ。手を出してよい年頃ぞ、といっておるのに」

 学生のコスプレをした年上を食う趣味は、ねえよ。 

「で、そのデボラどのが、これからお給仕に来てくれると」

「そういうこった」

 オレが紹介すると、デボラはまた頭を下げる。

「HRじゃろ?」

「は、はい。そういえば!」

 デボラが、腕時計を確認する。

「心配するな。時間なら止めてある」

 オレは毎回、パァイに料理を運ぶときは時間を止めるのだ。

「ずっとここで、寝ていらしたの?」

「そうだ。パァイはな、図書館通学者なんだ」

 つまり、学校の授業を一切受けず、図書館通いで登校扱いになっている生徒なのである。

「身体が痛くなりませんの?」

「吾輩くらいともなると、床だろうが岩山だろうが、低反発マット並みに快適に眠れる」

 そういう魔法を、開発したのだ。寝具を買うのが面倒になって。

「寝具じゃと、毎回買うのがおっくうになるじゃろ? またいいベッドや枕に出会うと、『寝具が変わると眠れない』体質になってしまう。それでは、修学旅行などに支障が出る」

 たしかに、マイまくらを持参して学校主催の旅行に赴く生徒も多い。

 なのでパァイは、自分用に「安眠魔法」を施すのだ。

「そこまで名の高い賢者パァイヴィッキ様が、どうして魔法科を? もうほとんどの魔法を、習得なされたのでしょう?」

「平たく言えば、学び直しじゃな」
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