インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される

椎名 富比路

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その4 図書館登校生と、モーニング

第9話 魔法科学校のモーニング

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 ここ「私立リックワード女学院・魔法科学校」の学食には……モーニングがある。
 部活で朝練をやっている生徒が、食べに来るのだ。

 彼女たちは朝の六時から登校し、七時半までみっちり部活をする。その後、学食でモーニングを取るのだ。

 もちろん、オレだけが担当を受け持つわけじゃない。一週間に一回だけ担当が回ってくる、当番制だ。

 今日は水曜日だから、オレの店がモーニング作っている。

「デボラ、味見も兼ねて、腹ごしらえをしよう。今のうちに食っておけ」

「いただきますわ」

 メニュはーホットドッグ、コーンスープ、ポテトサラダ、デザートはカットバナナだ。

 セルフのドリンクバーでは、オレはコーヒーを飲む。デボラが、オレンジジュースを選んだ。

 本格的なドリップコーヒーを、出す店もある。彼は、金曜日の担当だ。

 焼いたソーセージに、デボラがかじりつく。

「パキ」と、心地よい音がした。

「はふはふ。ほいふい……おいしいですわ」

 うっとりした顔で、デボラがホットドッグを味わう。

「カツサンドとは、違った感じがあるだろ?」

「そうですわね。こちらもなかなか。まさしく、シンプルイズベストですわ」

 ふやけるまでキャベツをソースに漬ける手間が、カツサンドにはある。

 オレのホットドッグは、具がソーセージしかないアメリカ式だ。あとはお好みでケチャップとマスタードを付けてもらう。

 凝ったものを出そうそ思えば、オレの時間操作能力があれば出せる。だが朝は購買以外、店がうちしか開いていない。とにかく、すぐできるものを提供するのだ。

「ポテトサラダも、適度なホクホク感ですわ」

「うちのは、ある程度の硬さを残しているタイプだからな」

 全部グチャっとなったポテサラも、それはうまい。ただオレは、ジャガイモの食感を楽しんでほしい。朝だしな、野菜を食っている実感が必要かなと。

「金曜日のドリップコーヒーな。あいつのコーヒー、めちゃウマなんだ。一週間分の疲れが、吹っ飛んじまう」

「ぜひ、味わいたいですわ。わたくしは、火曜日のドーナツデーが好きなんですが」

 エルフおばちゃんの日か。あの人は大雑把で、ドンバンガン! というガッツリメニューに定評がある。

「女の子は、甘いものが好きだよな」

「というか、モーニングで最も安価なんですわ」

 まあそれも、店を選ぶ決め手になるよな。

「よし、ごっそさん。さて、仕事するぞ仕事」

「はい」と、デボラがエプロンを装着した。

「イクタのおっちゃんっ、モーニングッ!」

 さっそくミュンが、食券をカウンターに。服装は、トレーニングウェアのままだ。これからさっとメシを食って、制服に着替えるのである。

「あいよ。もうできてるぞ」

 モーニングの他に、ドリンク用のカップを渡した。

 カップにオレンジジュースを注いで、ミュンは席につく。

 ミュンに続き、他の部活動生徒も続々とやってきた。

 焼けたソーセージの「パキッ」という音が、学食に響き渡る。

「デボラ、朝早くに平気か?」

「問題ありませんわ」

 楽しげに、デボラが皿洗いをしていた。

「早起きも、いいものですわね」

 朝は弱いと思っていたが、デボラはいつも調子がいい。

「お前さんは一日中、テンションが高いんだな?」

「それは、イクタの前だからですわ!」

「へへ。その調子で頼む」

「それにしても、制服の学生も来ますのね?」

 部活動をしていない生徒の姿も、ちらほらと。

「食育だ」

 モーニングを始める前は、朝食を取らない生徒も多かったらしい。そこで学校が、モーニングを提供することにした。

 まあ一番人気は、購買のコロッケパンとパックのいちご牛乳なのだが。

 モーニングの時間が、終わった。

「うちには、もうひと仕事あるからな」

「そうですの?」

「出前だ」

 その前にオレは、購買のドワーフおばちゃんにモーニングセットを渡した。

 ドワーフおばちゃんは、痩せ型のエルフおばちゃんとは違って、太っちょで愛嬌がある。

「おばちゃん、ここに置いておくから食ってくれ」

「あいよ。はい、コロッケパン。あんたと、あの娘にも」

 購買のドワーフおばちゃんとあいさつをかわし、コロッケパンを三コもらう。

「ありがとうございます。あの、『あの娘』って、どなたですの?」

「行けばわかる」

 この学院の、名物生徒だから。



 オレたちは魔法科学校の外れにある、図書館へ足を運ぶ。料理を持って。

「図書館に、向かいますの?」

 モーニングを乗せたお盆を持ちながら、デボラがオレに問いかけた。

「ああ。そこに常連がいる」

 お前さんを連れて行くのは、顔見せだ。オレの代わりに、料理を運んでもらうからな。

「たしかにこちらには、飲食スペースがございますわね」

 最近の図書館や本屋には、ハズレにちょっとしたイートイン型カフェが設置されている場合がある。本棚や自習スペースとは仕切られているから、会話も可能だ。


「違う。ここがパァイにとっての学校で、寮なんだ」

「パァイ……パァイヴィッキ様!? まさか、そんな! ではわたくしたちが今からお会いするのは、あのパァイ様!?」

「そのとおりだよ。オレたちが食事を持っていく先は、あの【賢者】様だ」
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