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そこから、今まで疑問に思っていたことを話していく。
わたしはいつの間にかマティスに抱きかかえられて長椅子に移動していた。
それでも、そのまま話していく。
時間、暦、天体、動植物、名前、
女性の体のつくり、わたしの知っている限りの人体の構造、
虫歯、菌類、病原菌、
構造体、建築、浮力、鉱物、
話がどんどん飛んでいくが仕方がない。
後は物語の話、妖精、魔法、超能力。
武器の話。
歴史の話。
戦争の話。
楽器や、音楽。
もちろん食べ物の話。
「甘いものの代表格はチョコレートですね。カカオ。
こういう形で幹に実がなるそうです。」
絵にかいてみる。
「・・・・テオブロマ?」
「え?あるんですか?」
「ええ、割るとなかに赤く柔らかいものの中に種がありましてね。
その赤いものを食べますね。雨の日前ですね、出回るのは。
産地はドルガナあたりの南諸国ですよ。」
「その赤いものは甘いの?」
「甘いですね。しかし、食べるというか、吸う?そんなものですね。」
「なかの種は?」
「捨てていると思いますよ?」
「おー!!コットワッツにも入る?」
「ええ、大量に出回りますね。日持ちするんですよ。王都にも入りますから。」
「すごい!早くほしい!!どこかにないかな?」
「聞いてみましょうか?
南諸国とつながりがあるんだ、さきに入荷しているかもしれない。」
「聞いて聞いて!!いますぐ!!」
「はいはい。わかりましたよ。あなたたちは気配を消して、そこのベルで呼びますから。」
「あ、まって、歯を磨かないと!それと消臭!!結構、大蒜はいってたから!!」
あわてて3人で歯磨きをする。
消臭も。
テーブルもすべてお片付けだ。
リーンと鳴らせば、チュラル君がやって来た。
「お呼びでしょうか?」
「ええ、ちょっとお聞きしますが、テオブロマってご存じですか?」
「?あの赤い?」
「そうですそうです。それ、いまあります?
うちの弟子たちの土産にしようかと。キトロスと一緒にね。」
「モウさんに?」
「ええ、甘いものが好きなんでね。喜ぶかと。」
「なるほど、キトロスと同じに入ってきたと思いますよ。いかほど入用ですか?」
(ちゃんと買ってください。)
「できれば大量に。もちろん購入させてください。」
「大量ですか?わかりました。ツイミに返事を持たせますのでお待ちください。」
(先に現物見せて!!違うものかもしれないから!)
「ああ、ツイミ殿がいらっしゃるのでしたら、先に3つほど見せてもらえますか?
もしかしてわたしが思っているのと違うかもしれないので。」
「そうですね、すぐにお持ちします。お待ちください。」
そつなく、チュラル君が出ていく。その後ろは気配を消したルビス君だ。
修業中といったところか。
しばらくしてトレーに3個ほどラグビーボールをのせて
ツイミさんがやって来た。
「ワイプ殿?これをご所望とお聞きしましたが?」
「ええ、ティス?モウ?姿を出しなさい。かまいませんよ。」
「「はい、師匠。」」
「ああ、やはり。お泊りにならないのは表向きなのですね。」
「すこし使いに出していたからなんですよ。
それで、いま戻ってきましてね。どこからか、そのテオブロマの話を聞いてきたようで、
どんなだとうるさくて。」
「うるさい?師匠!ひどい!!」
「はは!で、これなんですか?」
「んー、どうなんだろう?割ってもらえますか?」
よこに控えているチュラル君がナイフでぱっかり割る。
おお、赤いモフモフがあるね。
それを見せてもらう。
中にはそれらしい種がある。大きい。
(わかんないけど、それっぽいので、ダメもとで買ってください)
(どれだけ?)
(んー、だめでも、この赤いの甘いんでしょ?)
「これ、どうやって食べるんですか?」
「こうやって吸うんですよ。」
チューチュー?チューペット?そんな感じでチュラル君が見本を見せてくれた。
わたしも真似てみる。
サトウキビ?そんな感じだ。
これだけだと大量買いする価値はなさそうだけど、
砂糖は取れそうか?
わたしのおいしいものセンサーはさっきから立ちまくりなので。
(スーとホーに乗せれるだけ!師匠は歩くということで!!)
(はいはい)
「気に入ったようなんで、馬2頭で運べるだけ。」
「え?そんなに?失礼ですが、これはそんなに重宝するものではないですよ?
これが出回れば、雨の日が近いなと感じるもので、
食後の甘みにもならない。日持ちがするので、マトグラーサまでも出回りますが、
そこでもあまり好まれません。わたしもマトグラーサの出ですが、
まだリンゴの実のほうがいい。ああ、あの飴!おいしかったです。ありがとうございます。」
「うふふふ。リンゴの実と比べればね。でも、甘いものは貴重です。
師匠が買ってくれるんですから、遠慮なく売ってください。」
「あはははは!そうですか?これも南諸国から大量に入ります。
あまり好まれませんから、そのまま街に下していますよ。
あの馬でしたら、キトロスもありますし、10箱は乗せれますか?
では遠慮なく、1リングですね。」
「え?1箱?」
「いえ、10箱で。」
「ひと箱いくつ入り?」
「20は入りますでしょうか?」
「おおー!」
「?」
「師匠、お願いします。」
「はいはい。それで、お願いします。」
「ええ、わかりました。」
「えっと、さきにここに運んでもらえます?」
「え?明日出発前のほうがいいのでは?」
「いえ、先にきちんと見たいのです。」
「はぁ。わかりました。チュラル?ルビスとカップ3人で
ここに運び込め。」
「・・・わかりました。」
「ごめんね、チュラル君。お礼になにかおいしいもの用意しておくね。」
「やった!!」
「こら!!」
「いえ、無理をいってるのはこちらなので、良ければ、ツイミさんもどうですか?」
「え?わたしもですか?あのリンゴの?」
「ああ、それでもいいですけど、良ければまた違うものを。」
「わたし、オショーユのラーメンがいいですね。次回まで待てません。」
「ああ、そうだね。マティスいい?」
「ワイプ、ワイプ師匠がいうんだ、かまわないだろう。
ここでは無理だから、隣の部屋で用意しておく。」
「うん。ありがとう。」
もう、月が昇って、もうすぐ半分だ。
3人がえっちらおっちら運んでくる。
別にあとでもいいのだが、先に発酵乾燥焙煎までしておきたい。
そうすれば、皆が集まった後振舞える。
お願いすればいいが、ある程度工程を踏まなければ。
「これで、最後!!!」
「ありがとう!!ティス!終わったよ!いい?」
「ああ、いいぞ。」
ぞろぞろと隣の部屋、ま、寝室ですね。ベットは立てかけられて、
テーブルがある。
疑問に思うなよ?
ラーメン鉢が7つ。もちろんわたしも食べる。
「さ、熱いうちに。その2本の棒でこんな感じで、
それで、このスプーンでスープを。どうぞ?」
見よう見まねで4人が食べ始める。
耳の形は4人とも同じだ。顔は違うが、しぐさ、雰囲気、おなじだね。
兄弟、間違いなく血縁者だろう。
冷たい水も出しておこう。
「おいしいですね。みなの前でなければ
またしてもひれ伏していますよ。」
「そうだろう、そうだろう。」
とりあえず、マティスは満足そうだ。
もう、かわいいな!
「うまい!なにこれ!!」
「汁だよ!汁!一緒に!うまい!!」
「この肉も!やわらかい!」
「・・・。」
「お口にあって良かった。今度コットワッツで食の祭りがあるのはご存じですか?」
「ええ、通知が来ています。こちらから出店するものはありませんが、
行きたいとは思っております。」
「これも出ますよ。ぜひいらしてください。」
「モウ殿とティス殿でしたか?お二方が出すのですか?」
「いいえ、わたしたちはもちろん客で参加しますよ?
いろいろおいしいものを食べたいので。」
「では、これはコットワッツの料理なのですか?最近はプリン?
はんばあぐは王都に行ったと聞きましたが、食の発展がすさまじいですね。
それにこれはどうやって?水にも氷が浮いている。」
「ふふふ。それも食の祭りで発表がありますよ。」
「そうなんですか?あの、お二方は?」
「ああ、ツイミ殿?ご存じないですか?この2人はわたしの弟子ですが、
このティス、マティスはコットワッツ領主、セサミナ殿の兄君ですよ。
剣のマティス、あなたでも聞いたことあるでしょう?」
「剣のマティス!!!」
カップ君が反応した。
「じゃ、その奥さん、モウさんって、あの赤い塊モウ?」
「あ、わたしも有名なんだね。」
師匠がどうしてここまでばらすのかわからないが、
マティスも止めないし、いいのだろう。
「ま、そういうことですよ。ツイミ殿?
わたしは資産院の仕事をしていますが、弟子の身内がコットワッツなんですよ。
その弟子は剣のマティスと赤い塊モウだ。こうしてすぐ近くにいる。
よく考えてください。これが、正直にわたしに話してくれた返事ですよ。」
なにか、取引を持ち掛けられたんだろうか?
ツイミさんは下を向いて肩を震わしている。
それをやさしく見つめる師匠。
え?ちょっと!いい絵面!いかん!ホー姐とトークしてからすべてがそう見える。
マティスは空になった鉢を下げ、プリンとアイスを出している。
じゃ、コーヒーを入れようか。
子供たちはオレンジジュースの方がいいかな?
「ツイミ殿とカップ君はコーヒーを。好みで乳と砂糖を。
チュラル君とルビス君はこれね。」
「なにこれ!!甘い!」
「これ!!プリンだ!ね?そうでしょ?これは?冷たい!甘い!
この飲み物は?あれ?キトロス?汁だ!キトロスの汁だ!すごい!!」
「コーヒー・・・。あ、おいしい。はじめておいしいっておもった。
これは?うわー。なんだよ!ツイ兄!これ!なんだよ!!
この人たちおかしいよ!!間違ってるよ!!」
え?なんでそうなるの?
あ、で、やっぱり兄さんなんだ。兄弟じゃなくても親戚かもしれないけど。
「だまって食え!おかしくない!
間違ってない、わたしたちは間違ってないから、
こうやってうまいものが食べれるんだ!」
なんだろうね。あとでくわしく聞こう。
そのまえに、わたしはカカオを作らねば。
なぜかすっきりした顔をして、部屋を出ていくリンゴ4兄弟。
「くわしく聞きたいけど!チョコの方が最優先!
マティスは聞いといて!わたしは扉君の家に戻る!
手伝い不要!明日の朝ごはんも要らない!
空箱をスー達に運んでもらって!
で、マティスは扉君を担いで!そのまま、人気のないところまで移動。
半分になったら器屋に行って器を引き取ってきて。
それまでにわたしも発酵、乾燥、焙煎、までやっておく。
で、師匠!街の武器屋さん案内してください。」
「私たちは寝ずに行動するのは問題ないが愛しい人は倒れるぞ?」
「大丈夫!泉の水を飲みます!」
「そこまでしないといけないのですか?」
「そうです!結果をみれば、師匠はまたわたしにひれ伏します。
もちろん、マティスも、セサミンもルグ、ドーガーも。
ドーガーはわたしに永遠の忠誠を誓うでしょう!」
「え?今以上に?」
「そうです!では!!」
扉君の家はタロスさんの家の地下に展開している。
ホームグランドだ。
作業部屋の横に新たな部屋を作る。
チョコレート工場ではない、チョコレート部屋だ。
バナナの葉はないから、カンランと渓谷の葉で試そう。
なんせ、発酵、乾燥、焙煎までやってしまわないと!!
いや、寝かせるほうがいいとあったはず!
冷やし固めるまでだ!
超特急だ!
この赤いものがあるほうがいいのか、ないほうがいいのか。
発酵に必要ないのなら、絞って砂糖づくりだ。
カカオバターとココアパウダーも!!
うわー、こんなワクワクして作業するなんて久しぶり!!
思い出した作り方はホワイトボードに書き上げなくては!
もちろん試したことも!
研究資料は大事ですよ!!
これはお願いではなく最終的にセサミン案件だから!
ショコラオランジェも作らなければ!
ここに台所も作っちゃう!
うひょー!!なんだか楽しー!!
「いいんですか?」
「かまわない。扉君の家の中だ。気配もわかるし、気持ちもわかる。
いま、今までにないぐらい興奮している。邪魔はできない。」
「そうですか。」
「で?聞いとけと言われた。なにをツイミに言われたんだ?」
「ああ、ちょっとここの領主が問題なんですよ。
南と通じているのはま、いいでしょう。
しかし、そんなことをすれば、ますます、領主の力が薄くなる。
領主の力、領国を納める力、国に謀反を起こしてダメでしょうね。
それも、自分の私利私欲で。領民の為というならまだしもね。
その南の支援をうける条件が、ま、いけにえですね。
コットワッツを差し出せと。」
「は?」
「砂漠が欲しいみたいですね、南諸国は。
それで、ナソニールに接触してきたんでしょうけど、
ナソニールは砂漠石が出ない。なので、コットワッツを押さえたいようですね。
もともと、ナソニールはコットワッツを嫌っている。
王宮での銃乱射もあわよくば、ということでしょうか?」
「それで?」
「で、いっしょにコットワッツを押さえませんか?
とお誘いを受けたわけですよ。」
「おまえにいったのか?鍛練のワイプに?」
「そうです。ちょっとあまりにも武に疎すぎる。
ま、一般の事務官ではそうでしょう。
ここは、武に疎すぎる。メジャートもです。
お強いお弟子が2人もいるから、大丈夫だと。
いまは剣のマティス、赤い塊モウもいないはずだと。
コットワッツの筆頭、次席も問題ない、お弟子2人で十分だ、
とのことですよ?」
「当たり前だ。それで、なんと答えたんだ?」
「あははは、こういう場合はすぐには答えないんですよ。」
「そうか。それで、いま、答えたのか?」
「そうです。あれは、断ることを承知で話を持ってきている。
あなたたちの身分をばらしたのは、ま、おまけですね。ダメ押しの。
あの4人は資産院で預かりたいんですよ。
カップ君ですか?あれはいい。残りの2人もね。
オート院長の補佐にツイミ殿ですよ。これで、わたしもさらに楽ができる。」
「ああ、なるほど。あの高原の2人は?あれも育てればいいのでは?」
「ダメでした。高原の民は人に教えを乞うことはしないようでね。
しかし、自ら試行錯誤はしています。が、資産院の仕事で忙しいのでね、
わたしの専属の配下が欲しいのですよ。」
「・・・愛しい人に言えよ?」
「ええ、悪いことでないはずです。」
「あの州の管理者の方は?」
「ああ、税というのはどういうものか、いま、ナソニールの現状はどうか、
懇切丁寧にお教えしましたよ。要は借金だらけです。
あれが領主になってもなんのうまみもない。
いまの地位を維持するほうがよほどいいはず。
それは納得したようです。」
「その話をツイミは聞いていたんだな?」
「もちろん。」
「なのに、コットワッツを押さえようと?」
「だからでしょう?ほんとうにないんですよ、ここは。資産が。
ラルトルガよりまずい。ラルトルガは気候が安定すればいいし、
武に興味を持たなければなんの問題もない。
しかし、ここは違う。剣、槍、棒、銃ではない武器の産地だ。
銃が主流になれば廃れる一方だ。だからと言って、
銃の生産ができる訳でもない。
おまけにあの末席に座っていた2人の浪費がひどい。
次の会合の報告は嘘を固めたものになる。そうなると資産院預かりになります。
その前にあの4人は手に入れたい。」
「それはいい。ゴミ処理場のことは?」
「それはわからずですね。ツイミ殿に聞いても知らないと。
浄化のことは領主の采配で、
もちろん、メジャートに移しているのはしっていたけど、
旧処理場は閉鎖扱いになっているはずとだけ。」
「そうか。」
「それで、もう一度見に行きたいんですが。」
「ダメだ。今はダメだ。」
「今は?ではいつなら?」
「愛しい人が出てきてからだ。いま、あの楽し気な気持ちを壊したくない。
一人で行かすわけにはいかないし、私が付いていくこともできない。
扉から離れれば彼女も気付く。扉を抱えて動くこともできない。
明日は武器を見に行くのだろう?その時だ。」
「ああ、わかりました。では、館内はいいですよね?」
「繋げていればな。それと常に言葉を出して。」
「わかりました。あの4人の様子を見に行って、
ついでにこのまま引き抜きましょう。
ここは彼女の言った沈む船なんですよ。」
「そうしろ。」
「ではでは、行ってきますよ。」
朝ごはんはいらないといったがそうもいかないだろう。
ここで、簡易の台所をだして作っておくか。
あの4人も食べるのだろうか?
仕方がないな。
・・・燃え尽きました。
赤いフワフワは必要。しかし、外殻を絞れば甘い汁が出る。
これを煮詰めれば砂糖ができた。
発酵はカンランではだめ。
渓谷の大きな葉っぱ。この時点で世間に公表するのが難しくなるが、
移植して育てることが出来ればいい。
もしくは、別の方法で発酵できるかもしれない。
1/2をカカオバターとココアパウダーに。
細かくするのは土下座級。
練るのも、お願い。砂漠石大先生と、温度をキープする樹石女史。
なんとなくそんな感じ。
お願いしている間にオレンジピールも作る。
これ好きなんだ。あ、リンゴでも作ろう。
ぐふふふふ。大人シリーズも。
ザバスさんもひれ伏すね。
ココアもうまい。
あー、うまい。
甘いものは世界を支配するね。
時間的にどう?久しぶりに暦を見れば、
月が沈んですこし立ったぐらいだ。
すごい!予定前倒し!人生初めてかもしれない!
泉の水はもちろん飲みました。恐ろしい効き目です。
(マティス?)
(どうした?休憩か?)
(うふふふふ。予定終了。マティスは?)
(いま、街の宿屋だ。
武器屋を廻るにもスー達を預けたほうが動きやすいからな。)
(そうか。でもちょうどよかった。じゃ、師匠もいるのね。)
(ああ、あの4人を引き抜いた。今後の話をしている。)
(え?そうなるの?
いや、師匠のことだから考えがあってのことだと思うけど、え?)
(自分が楽をしたいだけだ)
(ああ、さすがです!)
(なぜ、そうなるんだ!!)
(うふふふ。じゃ、少し離れても大丈夫ね。マティスちょっときて?)
(わかった)
「ワイプ!愛しい人が呼んでいる。少し離れるが、ここを動くな。
カップ!ワイプの口車に乗せられるな。見張れ。」
「はい!先生!!」
「カップ?あなたはわたしの配下ですよ?その話、今してましたよね?」
「もちろん。しかし、ワイプ様と先生では、先生が上です。」
私はカップの先生となっていた。剣でも武道でもない、
恋愛のだ。
それを聞いてワイプはひとしきり笑っていた。
「どうした?」
彼女の近くに移動すると、部屋中が甘い匂いに包まれていた。
「マティス!!」
飛びついて、胸元に頭をぐりぐりこすりつける。
私も抱きしめ、彼女の匂いを嗅ぐ。
甘い匂いに合わさって、何とも言えない香りだ。
「はー、マティスの香りだ。チョコの匂いで鼻がおかしくなったかと思った。
うん、すっきり。」
「甘い匂いだな。はじめて嗅ぐ。しかし、いやな感じはないな。」
「そう、よかった。一番最初はマティスに食べたほしかったからね。」
「ああ、愛しい人。うれしいな。」
甘い、何とも言えないものだった。
ちょこれいとというものだそうだ。
リンゴとキトロスに絡めてあるものはうまい。酒がかなり使われている。
この甘い飲み物も。少し塩が入ってるのが旨味を引き出せているとか。
これはドーガーでなくとも皆が忠誠を誓うだろう。
「これね、セサミン案件。
発酵するのに渓谷の葉っぱを使ったけど、ほかにあると思う。
砂糖もとれる。メイガとならぶ素晴らしい食材だよ。
ただ、栽培は南でないとだめだろうね。
やはり、暖かい地方の植物なんだよ、カカオ、テオブロマは。
南諸国っていうのは、南にある国てことだよね?
戦争したり南遠征の国とは別だよね?
ドルガナ、ザナス、ルポイド?ああ、コーヒーと香木のルポイド?
どこかと提携してテオブロマを買えればいいけどね。
そこはセサミンにお任せだね。」
「・・・たとえば、新年に何らかの記憶が飛べば、
この作り方も忘れるということか?」
んー、そうなるかもしれないね。」
「教えなくていい。だが、このちょこれいとは振舞え。
この姿かたちから、だれも、テオブロマだとは思わない。
きっと疑問に思う。それが大事だと思う。」
「?そう?なら、これは新年までお預けだ。
急いで作ったからね。時間があればもっといろいろできる。
新年までにきちんとまとめておくよ。」
「ああ、そうしてくれ。」
「でね、でね。」
「?」
「やっぱりおなかすいた。なんか、食べたい。」
「そうだろうな。上ですぐに食べられるようにしている。
あの4人も食べるだろう。十分に作ってるから。」
「マティス!!好き!愛してる!!」
「ああ、私もだ。」
それから扉君が呼ぶまで抱擁が続いた。
わたしはいつの間にかマティスに抱きかかえられて長椅子に移動していた。
それでも、そのまま話していく。
時間、暦、天体、動植物、名前、
女性の体のつくり、わたしの知っている限りの人体の構造、
虫歯、菌類、病原菌、
構造体、建築、浮力、鉱物、
話がどんどん飛んでいくが仕方がない。
後は物語の話、妖精、魔法、超能力。
武器の話。
歴史の話。
戦争の話。
楽器や、音楽。
もちろん食べ物の話。
「甘いものの代表格はチョコレートですね。カカオ。
こういう形で幹に実がなるそうです。」
絵にかいてみる。
「・・・・テオブロマ?」
「え?あるんですか?」
「ええ、割るとなかに赤く柔らかいものの中に種がありましてね。
その赤いものを食べますね。雨の日前ですね、出回るのは。
産地はドルガナあたりの南諸国ですよ。」
「その赤いものは甘いの?」
「甘いですね。しかし、食べるというか、吸う?そんなものですね。」
「なかの種は?」
「捨てていると思いますよ?」
「おー!!コットワッツにも入る?」
「ええ、大量に出回りますね。日持ちするんですよ。王都にも入りますから。」
「すごい!早くほしい!!どこかにないかな?」
「聞いてみましょうか?
南諸国とつながりがあるんだ、さきに入荷しているかもしれない。」
「聞いて聞いて!!いますぐ!!」
「はいはい。わかりましたよ。あなたたちは気配を消して、そこのベルで呼びますから。」
「あ、まって、歯を磨かないと!それと消臭!!結構、大蒜はいってたから!!」
あわてて3人で歯磨きをする。
消臭も。
テーブルもすべてお片付けだ。
リーンと鳴らせば、チュラル君がやって来た。
「お呼びでしょうか?」
「ええ、ちょっとお聞きしますが、テオブロマってご存じですか?」
「?あの赤い?」
「そうですそうです。それ、いまあります?
うちの弟子たちの土産にしようかと。キトロスと一緒にね。」
「モウさんに?」
「ええ、甘いものが好きなんでね。喜ぶかと。」
「なるほど、キトロスと同じに入ってきたと思いますよ。いかほど入用ですか?」
(ちゃんと買ってください。)
「できれば大量に。もちろん購入させてください。」
「大量ですか?わかりました。ツイミに返事を持たせますのでお待ちください。」
(先に現物見せて!!違うものかもしれないから!)
「ああ、ツイミ殿がいらっしゃるのでしたら、先に3つほど見せてもらえますか?
もしかしてわたしが思っているのと違うかもしれないので。」
「そうですね、すぐにお持ちします。お待ちください。」
そつなく、チュラル君が出ていく。その後ろは気配を消したルビス君だ。
修業中といったところか。
しばらくしてトレーに3個ほどラグビーボールをのせて
ツイミさんがやって来た。
「ワイプ殿?これをご所望とお聞きしましたが?」
「ええ、ティス?モウ?姿を出しなさい。かまいませんよ。」
「「はい、師匠。」」
「ああ、やはり。お泊りにならないのは表向きなのですね。」
「すこし使いに出していたからなんですよ。
それで、いま戻ってきましてね。どこからか、そのテオブロマの話を聞いてきたようで、
どんなだとうるさくて。」
「うるさい?師匠!ひどい!!」
「はは!で、これなんですか?」
「んー、どうなんだろう?割ってもらえますか?」
よこに控えているチュラル君がナイフでぱっかり割る。
おお、赤いモフモフがあるね。
それを見せてもらう。
中にはそれらしい種がある。大きい。
(わかんないけど、それっぽいので、ダメもとで買ってください)
(どれだけ?)
(んー、だめでも、この赤いの甘いんでしょ?)
「これ、どうやって食べるんですか?」
「こうやって吸うんですよ。」
チューチュー?チューペット?そんな感じでチュラル君が見本を見せてくれた。
わたしも真似てみる。
サトウキビ?そんな感じだ。
これだけだと大量買いする価値はなさそうだけど、
砂糖は取れそうか?
わたしのおいしいものセンサーはさっきから立ちまくりなので。
(スーとホーに乗せれるだけ!師匠は歩くということで!!)
(はいはい)
「気に入ったようなんで、馬2頭で運べるだけ。」
「え?そんなに?失礼ですが、これはそんなに重宝するものではないですよ?
これが出回れば、雨の日が近いなと感じるもので、
食後の甘みにもならない。日持ちがするので、マトグラーサまでも出回りますが、
そこでもあまり好まれません。わたしもマトグラーサの出ですが、
まだリンゴの実のほうがいい。ああ、あの飴!おいしかったです。ありがとうございます。」
「うふふふ。リンゴの実と比べればね。でも、甘いものは貴重です。
師匠が買ってくれるんですから、遠慮なく売ってください。」
「あはははは!そうですか?これも南諸国から大量に入ります。
あまり好まれませんから、そのまま街に下していますよ。
あの馬でしたら、キトロスもありますし、10箱は乗せれますか?
では遠慮なく、1リングですね。」
「え?1箱?」
「いえ、10箱で。」
「ひと箱いくつ入り?」
「20は入りますでしょうか?」
「おおー!」
「?」
「師匠、お願いします。」
「はいはい。それで、お願いします。」
「ええ、わかりました。」
「えっと、さきにここに運んでもらえます?」
「え?明日出発前のほうがいいのでは?」
「いえ、先にきちんと見たいのです。」
「はぁ。わかりました。チュラル?ルビスとカップ3人で
ここに運び込め。」
「・・・わかりました。」
「ごめんね、チュラル君。お礼になにかおいしいもの用意しておくね。」
「やった!!」
「こら!!」
「いえ、無理をいってるのはこちらなので、良ければ、ツイミさんもどうですか?」
「え?わたしもですか?あのリンゴの?」
「ああ、それでもいいですけど、良ければまた違うものを。」
「わたし、オショーユのラーメンがいいですね。次回まで待てません。」
「ああ、そうだね。マティスいい?」
「ワイプ、ワイプ師匠がいうんだ、かまわないだろう。
ここでは無理だから、隣の部屋で用意しておく。」
「うん。ありがとう。」
もう、月が昇って、もうすぐ半分だ。
3人がえっちらおっちら運んでくる。
別にあとでもいいのだが、先に発酵乾燥焙煎までしておきたい。
そうすれば、皆が集まった後振舞える。
お願いすればいいが、ある程度工程を踏まなければ。
「これで、最後!!!」
「ありがとう!!ティス!終わったよ!いい?」
「ああ、いいぞ。」
ぞろぞろと隣の部屋、ま、寝室ですね。ベットは立てかけられて、
テーブルがある。
疑問に思うなよ?
ラーメン鉢が7つ。もちろんわたしも食べる。
「さ、熱いうちに。その2本の棒でこんな感じで、
それで、このスプーンでスープを。どうぞ?」
見よう見まねで4人が食べ始める。
耳の形は4人とも同じだ。顔は違うが、しぐさ、雰囲気、おなじだね。
兄弟、間違いなく血縁者だろう。
冷たい水も出しておこう。
「おいしいですね。みなの前でなければ
またしてもひれ伏していますよ。」
「そうだろう、そうだろう。」
とりあえず、マティスは満足そうだ。
もう、かわいいな!
「うまい!なにこれ!!」
「汁だよ!汁!一緒に!うまい!!」
「この肉も!やわらかい!」
「・・・。」
「お口にあって良かった。今度コットワッツで食の祭りがあるのはご存じですか?」
「ええ、通知が来ています。こちらから出店するものはありませんが、
行きたいとは思っております。」
「これも出ますよ。ぜひいらしてください。」
「モウ殿とティス殿でしたか?お二方が出すのですか?」
「いいえ、わたしたちはもちろん客で参加しますよ?
いろいろおいしいものを食べたいので。」
「では、これはコットワッツの料理なのですか?最近はプリン?
はんばあぐは王都に行ったと聞きましたが、食の発展がすさまじいですね。
それにこれはどうやって?水にも氷が浮いている。」
「ふふふ。それも食の祭りで発表がありますよ。」
「そうなんですか?あの、お二方は?」
「ああ、ツイミ殿?ご存じないですか?この2人はわたしの弟子ですが、
このティス、マティスはコットワッツ領主、セサミナ殿の兄君ですよ。
剣のマティス、あなたでも聞いたことあるでしょう?」
「剣のマティス!!!」
カップ君が反応した。
「じゃ、その奥さん、モウさんって、あの赤い塊モウ?」
「あ、わたしも有名なんだね。」
師匠がどうしてここまでばらすのかわからないが、
マティスも止めないし、いいのだろう。
「ま、そういうことですよ。ツイミ殿?
わたしは資産院の仕事をしていますが、弟子の身内がコットワッツなんですよ。
その弟子は剣のマティスと赤い塊モウだ。こうしてすぐ近くにいる。
よく考えてください。これが、正直にわたしに話してくれた返事ですよ。」
なにか、取引を持ち掛けられたんだろうか?
ツイミさんは下を向いて肩を震わしている。
それをやさしく見つめる師匠。
え?ちょっと!いい絵面!いかん!ホー姐とトークしてからすべてがそう見える。
マティスは空になった鉢を下げ、プリンとアイスを出している。
じゃ、コーヒーを入れようか。
子供たちはオレンジジュースの方がいいかな?
「ツイミ殿とカップ君はコーヒーを。好みで乳と砂糖を。
チュラル君とルビス君はこれね。」
「なにこれ!!甘い!」
「これ!!プリンだ!ね?そうでしょ?これは?冷たい!甘い!
この飲み物は?あれ?キトロス?汁だ!キトロスの汁だ!すごい!!」
「コーヒー・・・。あ、おいしい。はじめておいしいっておもった。
これは?うわー。なんだよ!ツイ兄!これ!なんだよ!!
この人たちおかしいよ!!間違ってるよ!!」
え?なんでそうなるの?
あ、で、やっぱり兄さんなんだ。兄弟じゃなくても親戚かもしれないけど。
「だまって食え!おかしくない!
間違ってない、わたしたちは間違ってないから、
こうやってうまいものが食べれるんだ!」
なんだろうね。あとでくわしく聞こう。
そのまえに、わたしはカカオを作らねば。
なぜかすっきりした顔をして、部屋を出ていくリンゴ4兄弟。
「くわしく聞きたいけど!チョコの方が最優先!
マティスは聞いといて!わたしは扉君の家に戻る!
手伝い不要!明日の朝ごはんも要らない!
空箱をスー達に運んでもらって!
で、マティスは扉君を担いで!そのまま、人気のないところまで移動。
半分になったら器屋に行って器を引き取ってきて。
それまでにわたしも発酵、乾燥、焙煎、までやっておく。
で、師匠!街の武器屋さん案内してください。」
「私たちは寝ずに行動するのは問題ないが愛しい人は倒れるぞ?」
「大丈夫!泉の水を飲みます!」
「そこまでしないといけないのですか?」
「そうです!結果をみれば、師匠はまたわたしにひれ伏します。
もちろん、マティスも、セサミンもルグ、ドーガーも。
ドーガーはわたしに永遠の忠誠を誓うでしょう!」
「え?今以上に?」
「そうです!では!!」
扉君の家はタロスさんの家の地下に展開している。
ホームグランドだ。
作業部屋の横に新たな部屋を作る。
チョコレート工場ではない、チョコレート部屋だ。
バナナの葉はないから、カンランと渓谷の葉で試そう。
なんせ、発酵、乾燥、焙煎までやってしまわないと!!
いや、寝かせるほうがいいとあったはず!
冷やし固めるまでだ!
超特急だ!
この赤いものがあるほうがいいのか、ないほうがいいのか。
発酵に必要ないのなら、絞って砂糖づくりだ。
カカオバターとココアパウダーも!!
うわー、こんなワクワクして作業するなんて久しぶり!!
思い出した作り方はホワイトボードに書き上げなくては!
もちろん試したことも!
研究資料は大事ですよ!!
これはお願いではなく最終的にセサミン案件だから!
ショコラオランジェも作らなければ!
ここに台所も作っちゃう!
うひょー!!なんだか楽しー!!
「いいんですか?」
「かまわない。扉君の家の中だ。気配もわかるし、気持ちもわかる。
いま、今までにないぐらい興奮している。邪魔はできない。」
「そうですか。」
「で?聞いとけと言われた。なにをツイミに言われたんだ?」
「ああ、ちょっとここの領主が問題なんですよ。
南と通じているのはま、いいでしょう。
しかし、そんなことをすれば、ますます、領主の力が薄くなる。
領主の力、領国を納める力、国に謀反を起こしてダメでしょうね。
それも、自分の私利私欲で。領民の為というならまだしもね。
その南の支援をうける条件が、ま、いけにえですね。
コットワッツを差し出せと。」
「は?」
「砂漠が欲しいみたいですね、南諸国は。
それで、ナソニールに接触してきたんでしょうけど、
ナソニールは砂漠石が出ない。なので、コットワッツを押さえたいようですね。
もともと、ナソニールはコットワッツを嫌っている。
王宮での銃乱射もあわよくば、ということでしょうか?」
「それで?」
「で、いっしょにコットワッツを押さえませんか?
とお誘いを受けたわけですよ。」
「おまえにいったのか?鍛練のワイプに?」
「そうです。ちょっとあまりにも武に疎すぎる。
ま、一般の事務官ではそうでしょう。
ここは、武に疎すぎる。メジャートもです。
お強いお弟子が2人もいるから、大丈夫だと。
いまは剣のマティス、赤い塊モウもいないはずだと。
コットワッツの筆頭、次席も問題ない、お弟子2人で十分だ、
とのことですよ?」
「当たり前だ。それで、なんと答えたんだ?」
「あははは、こういう場合はすぐには答えないんですよ。」
「そうか。それで、いま、答えたのか?」
「そうです。あれは、断ることを承知で話を持ってきている。
あなたたちの身分をばらしたのは、ま、おまけですね。ダメ押しの。
あの4人は資産院で預かりたいんですよ。
カップ君ですか?あれはいい。残りの2人もね。
オート院長の補佐にツイミ殿ですよ。これで、わたしもさらに楽ができる。」
「ああ、なるほど。あの高原の2人は?あれも育てればいいのでは?」
「ダメでした。高原の民は人に教えを乞うことはしないようでね。
しかし、自ら試行錯誤はしています。が、資産院の仕事で忙しいのでね、
わたしの専属の配下が欲しいのですよ。」
「・・・愛しい人に言えよ?」
「ええ、悪いことでないはずです。」
「あの州の管理者の方は?」
「ああ、税というのはどういうものか、いま、ナソニールの現状はどうか、
懇切丁寧にお教えしましたよ。要は借金だらけです。
あれが領主になってもなんのうまみもない。
いまの地位を維持するほうがよほどいいはず。
それは納得したようです。」
「その話をツイミは聞いていたんだな?」
「もちろん。」
「なのに、コットワッツを押さえようと?」
「だからでしょう?ほんとうにないんですよ、ここは。資産が。
ラルトルガよりまずい。ラルトルガは気候が安定すればいいし、
武に興味を持たなければなんの問題もない。
しかし、ここは違う。剣、槍、棒、銃ではない武器の産地だ。
銃が主流になれば廃れる一方だ。だからと言って、
銃の生産ができる訳でもない。
おまけにあの末席に座っていた2人の浪費がひどい。
次の会合の報告は嘘を固めたものになる。そうなると資産院預かりになります。
その前にあの4人は手に入れたい。」
「それはいい。ゴミ処理場のことは?」
「それはわからずですね。ツイミ殿に聞いても知らないと。
浄化のことは領主の采配で、
もちろん、メジャートに移しているのはしっていたけど、
旧処理場は閉鎖扱いになっているはずとだけ。」
「そうか。」
「それで、もう一度見に行きたいんですが。」
「ダメだ。今はダメだ。」
「今は?ではいつなら?」
「愛しい人が出てきてからだ。いま、あの楽し気な気持ちを壊したくない。
一人で行かすわけにはいかないし、私が付いていくこともできない。
扉から離れれば彼女も気付く。扉を抱えて動くこともできない。
明日は武器を見に行くのだろう?その時だ。」
「ああ、わかりました。では、館内はいいですよね?」
「繋げていればな。それと常に言葉を出して。」
「わかりました。あの4人の様子を見に行って、
ついでにこのまま引き抜きましょう。
ここは彼女の言った沈む船なんですよ。」
「そうしろ。」
「ではでは、行ってきますよ。」
朝ごはんはいらないといったがそうもいかないだろう。
ここで、簡易の台所をだして作っておくか。
あの4人も食べるのだろうか?
仕方がないな。
・・・燃え尽きました。
赤いフワフワは必要。しかし、外殻を絞れば甘い汁が出る。
これを煮詰めれば砂糖ができた。
発酵はカンランではだめ。
渓谷の大きな葉っぱ。この時点で世間に公表するのが難しくなるが、
移植して育てることが出来ればいい。
もしくは、別の方法で発酵できるかもしれない。
1/2をカカオバターとココアパウダーに。
細かくするのは土下座級。
練るのも、お願い。砂漠石大先生と、温度をキープする樹石女史。
なんとなくそんな感じ。
お願いしている間にオレンジピールも作る。
これ好きなんだ。あ、リンゴでも作ろう。
ぐふふふふ。大人シリーズも。
ザバスさんもひれ伏すね。
ココアもうまい。
あー、うまい。
甘いものは世界を支配するね。
時間的にどう?久しぶりに暦を見れば、
月が沈んですこし立ったぐらいだ。
すごい!予定前倒し!人生初めてかもしれない!
泉の水はもちろん飲みました。恐ろしい効き目です。
(マティス?)
(どうした?休憩か?)
(うふふふふ。予定終了。マティスは?)
(いま、街の宿屋だ。
武器屋を廻るにもスー達を預けたほうが動きやすいからな。)
(そうか。でもちょうどよかった。じゃ、師匠もいるのね。)
(ああ、あの4人を引き抜いた。今後の話をしている。)
(え?そうなるの?
いや、師匠のことだから考えがあってのことだと思うけど、え?)
(自分が楽をしたいだけだ)
(ああ、さすがです!)
(なぜ、そうなるんだ!!)
(うふふふ。じゃ、少し離れても大丈夫ね。マティスちょっときて?)
(わかった)
「ワイプ!愛しい人が呼んでいる。少し離れるが、ここを動くな。
カップ!ワイプの口車に乗せられるな。見張れ。」
「はい!先生!!」
「カップ?あなたはわたしの配下ですよ?その話、今してましたよね?」
「もちろん。しかし、ワイプ様と先生では、先生が上です。」
私はカップの先生となっていた。剣でも武道でもない、
恋愛のだ。
それを聞いてワイプはひとしきり笑っていた。
「どうした?」
彼女の近くに移動すると、部屋中が甘い匂いに包まれていた。
「マティス!!」
飛びついて、胸元に頭をぐりぐりこすりつける。
私も抱きしめ、彼女の匂いを嗅ぐ。
甘い匂いに合わさって、何とも言えない香りだ。
「はー、マティスの香りだ。チョコの匂いで鼻がおかしくなったかと思った。
うん、すっきり。」
「甘い匂いだな。はじめて嗅ぐ。しかし、いやな感じはないな。」
「そう、よかった。一番最初はマティスに食べたほしかったからね。」
「ああ、愛しい人。うれしいな。」
甘い、何とも言えないものだった。
ちょこれいとというものだそうだ。
リンゴとキトロスに絡めてあるものはうまい。酒がかなり使われている。
この甘い飲み物も。少し塩が入ってるのが旨味を引き出せているとか。
これはドーガーでなくとも皆が忠誠を誓うだろう。
「これね、セサミン案件。
発酵するのに渓谷の葉っぱを使ったけど、ほかにあると思う。
砂糖もとれる。メイガとならぶ素晴らしい食材だよ。
ただ、栽培は南でないとだめだろうね。
やはり、暖かい地方の植物なんだよ、カカオ、テオブロマは。
南諸国っていうのは、南にある国てことだよね?
戦争したり南遠征の国とは別だよね?
ドルガナ、ザナス、ルポイド?ああ、コーヒーと香木のルポイド?
どこかと提携してテオブロマを買えればいいけどね。
そこはセサミンにお任せだね。」
「・・・たとえば、新年に何らかの記憶が飛べば、
この作り方も忘れるということか?」
んー、そうなるかもしれないね。」
「教えなくていい。だが、このちょこれいとは振舞え。
この姿かたちから、だれも、テオブロマだとは思わない。
きっと疑問に思う。それが大事だと思う。」
「?そう?なら、これは新年までお預けだ。
急いで作ったからね。時間があればもっといろいろできる。
新年までにきちんとまとめておくよ。」
「ああ、そうしてくれ。」
「でね、でね。」
「?」
「やっぱりおなかすいた。なんか、食べたい。」
「そうだろうな。上ですぐに食べられるようにしている。
あの4人も食べるだろう。十分に作ってるから。」
「マティス!!好き!愛してる!!」
「ああ、私もだ。」
それから扉君が呼ぶまで抱擁が続いた。
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