いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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337:成長期

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領主館に戻ると、師匠は1人で部屋にいるようだった。

(師匠?戻りました。部屋に行っても大丈夫ですか?)
(ええ、監視も隠密もいませんねから)


部屋に行くと師匠は完全にリラックスモード。
税の確定通知も渡しおわって、
癒しグッズで癒されている。

一応、防音は掛けておこう。


「監視も隠密もいないというのは舐められているな、ワイプ。」
「ま、ツイミ殿と話ができましたからね。
してもバレることをしないだけでしょう。」
「ツイミな。悪人ではないが、善人でもないんだろ?」
「ああ、そうですね。うまいことをいう。」
「あ!キトロス!!」

部屋の隅にキトロスが山積みだった。


「ええ、余り気味だったそうですよ。
もらえるだけもらいましたが。へんな顔をされましたよ?」
「スーとホー用の小袋作っておきますよ。
これ、スー達もおいしいって言ってたし。カンランとキトロスと飼葉と。
入れておけば、結構身軽になりますよ?」
「ああ、そうですね、お願いできますか?それでスーとホー専用にできますか?」
「自分用にはいいんだな?」
「ダメですよ、それを持ってしまうと、ダメになるのが分かりますから。」
「わからんな。」

スーとホーのイラストを刺繍していく。
トックスさんに教えてもらったのだ。
2つ、かわいくできたと思う。
首から下げれるようにもした。水用の砂漠石と桶も入る。

「どう?かわいくできた。ちょっと渡してくるね。」
「場所はわかるのか?」
「うん、ルビス君たちと話ていた向こうに厩が見えたからそこだと思う。
気配を消していくよ。」
「私もいく。」
「そう?じゃ、ちょっと行ってきます。」


厩に行くとマティスは館を一通り見てくるとわたしから離れた。
うふふふ。師匠が心配だものね。


(スー?ホー?わかる?わたし?気配は消してるから)
(あ、わかるんだ。あのね、スー達専用の不思議袋作ったの)
(そうそう、飼葉、カンラン、キトロスが入ってるよ。
水用の砂漠石とかも入れてる)
(うん、2人専用。もちろん、師匠は使えないよ?)
(うん、そう。もちろん、入れとくね。緊急用ね。
ほんと、こんなに2人に心配さすなんてね)
(うん、気持ち悪かった。そうか、そうだろうね)
(マティスもだよ?あ!ホー姐!そうそう!わかるー!!)
(あ、いいの!スー兄は!女同士の話なの!!)
(でもさ、最近リアルであったの!現実!)
(あ!スー兄は向こうに行って!で、最近の面白話仕入れてきて!)


スー兄を向こうに追いやって、ホー姐と盛り上がってしまった。
男の友情物語はいつでも盛り上がれる。
しかし、ホー姐の観察眼には驚いた。さすがです姐さん。
あ、馬界でもあるの?おお!スゲー!!
でもそう、当事者が良ければいいよね。
じれったい恋人同士を見守る近所のおばさんトークになってしまった。

マティスがスー兄と話しているようだ。
もう一周みてきたのかな?
ちがう、盛り上がりすぎてだいぶ時間がたったんだ。


(マティスごめん!待たせた?)
(いや、今戻ったところだ。たのしそうに話していたな?)
(ぐふふふふ。うん、女同士の話)
(おんな。そうか。)
(そそ。スー兄、ごめんね、ホー姐独占しちゃって!面白話あった?)
(今聞いていた、あとで話そう。戻るぞ)
(はーい。じゃまたね)





「ああ、いいところに。いまから晩餐会です。
気配を消して来ますか?」
「もちろん!おいしいお料理はこのお皿に移動させてください。」

大皿を用意した。

「わかりました。うまくやりましょう。」



王様の席に領主、
その前にメインのゲストのワイプ師匠。
師匠の正面は次期領主だ。
息子、奥さん、息子、娘、奥さん、娘、奥さんと並んで、
管理者の館に来ていた2人のきれい処がいて、息子。
その息子が次期領主とそっくりだ。
次期領主の横には母親はいなかったからもう他界しているのか。

(おどろくほど似てますね)
(末席は?いくつ?)
(10にもなっていない?はっきりしませんけど。)
(へー、あのお醤油少年より?)
(そうですね、この大きさに去年なったばかりという感じですね)
(急激に大きくなるの?)
(雨の日が終わったら大きくなってる)
(うわお!!)
(え?おどろくことなのですか?)
(最近の結婚事情よりもおどろきました)
(アヒルを見せてくれた少年からいきなり大人のからだ?)
(ああ、そうなるな)
(中間がないんだ、すごい成長期。美少年ってことばはないんだ)
(びしょうねん?はじめてきくな)
(うわー、そこらへんが好きなところなのに!!)
(大丈夫か?愛しい人!)
(うん、ホー姐の話がやっとわかったよ、
チョイスが渋いなって思たんだ。だってそこしかないから!!)
(マティス君?モウは大丈夫ですか?)
(わからん。さっきまでホーとスーを避けて話し込んでいた、女同士の話だと)
(?わかりませんね)
(ああ、わからん)


ないものねだりしても仕方がない。
雨の日の10日ぐらいで、大人になるのはさぞかし体に負担だろうな。
そういう風になってるのか。
もしかして、繭をつくるとか?それを聞くのは怖い!
軽い感じでそうだよ?なんていわれたらショックだ。
ほんとに体のつくりが違う。
いや、知らないほうがいいという奴だ。聞くまい。



もんもんと考えている間に、
晩餐会は始まっていた。
料理は次々出されるタイプ。隠密さんたちはいない。
師匠は一口食べておいしかったものをうまく移動させている。
だれにも気付かれていないというのがすごい。
末席のぼくちゃんをよくみるとなるほど子供だ。
食べ方がへたなのだ。うん、うん、子供だね。
横のきれい処の一人が世話をしている。
お母さんなのかな?じゃ、もう一人は?
ちがう、姉弟だ。耳の形いっしょ。ん?その横のきれい処もいっしょ?
3姉弟?んー?

(どうした?)
(いや、耳の法則はここでは通用しないみたい)
(耳の法則?)

師匠が聞いてくるので説明する。

(面白いですね!同じ父同じ母ですか?)
(そう、父親と母親の遺伝子、あー、こう、受け継がれる要素ね?
お父さんににてるとかお母さんににてるとかそういうのね、
それが組み合わされて耳の形ができるって考えると、
同じなら、両親はおなじってこと。
で、その組み合わせは様々だから、
違うからって兄弟じゃないっていうわけでもない。
でも、同じなら高確率で兄弟。高確率っていうのは
その要素は兄弟で同じものをもってるから、似るってことね。
血のつながりはあると考えて間違いはないけど、うーんと遠い親戚かもしれない。
そこは、わたしの故郷でもきちんと調べないとわからないかな?)
(いえ、これはちょっと重要な要素ですよ?)
(ああ、それで決定づけるのはダメですよ、酒の席の話程度です)
(ええ、わかりました。それで?)
(ああ、で、末席の3人が同じだから、法則では姉弟って
なるけどちがうなって。末席は領主の息子でしょ?)
(そうですね。しかし、あの2人は女性2人は親子ですよ?)
(え?自分の娘との子供?え?)
(?多いですよ?特に貴族、王族は)
(ちょっとなんというか、そうですか、としかいえないな)
(そうなんですか?)
(べつにおかしくないんだ)

近親婚は大丈夫なんだ。遺伝学的にどうなんだろうね。

(うん、3人似てるね。耳は親子でも似るからね。
あの形がでる遺伝なんだ。ちょっと独特だよね)

後ろに広い感じ。ロシアのくまでもさるでもないあの動物の耳ににている。
あの次期領主と見分けるのなら耳だけだ。
それほどそっくり。

(でる遺伝?)
(んー、くわしくは説明できないけど、
人間を形成する要素を両親からもらうんだけど、
そのときに2通りあったら、どっちが優先になるかって奴。
でも、別の要素は各自もってるから
時々でないほうもでる。絶対とは言い切れない)
(そんな研究をしてるんですか?故郷で?)
(あー、植物でねしてたよ。より多く実る木とそうでない木とか
なにが違うのか、組み合したらどうなのか、それでその分野の学問ができて
人や動物でもそうなんだーって話)
(やはり最初は食べ物なんだな)
(そりゃそうでしょ?ん?ちがうのかな?ごめん、そこまで詳しくない)
(いえ、かまいませんよ。しかし、なるほどね)
(ああ、いつも言いますが、わたしの話、まるごと信じないでくださいね)
(ええ。わかっていますよ)

あっという間に甘味の時間だった。
おそろしく静かな晩餐会だ。
甘味はやはり定番のぶどう。
季節的なものもあるのだろう。


部屋にもどって、移動したものを食べる。
うん!おいしいよ!素材そのものの味がするのが!

「肉はさすがにいいところですね。ちょっと焼きすぎですが。」
「お芋もおいしく食べれますよ。メイガで味付けしてる。」
「汁物は移動できなかったが、あれは?赤茄?」
「そうですね。野菜を煮詰めているんでしょうか?
えぐみはありましたが。」
「・・・マティス、ラーメン食べたい。」
「わたしもですよ!」
「そうだな、作ってこよう。」
「やった!!」
「はー、たのしみですね。」
「テーブル出しとくね。」
「わかった。」


テーブルと椅子、冷たい水をだして、準備万端。

「師匠?」
「なんです?」
「今日はお仕事に外にでる?」
「ああ、仕事ね。そうですね。ツイミ殿の話が聞けましたし、
さっと一回りはしますがね。」
「ついていっていいですか?」
「ああ、モウ。心配はいりませんよ。大丈夫ですから。」
「大丈夫じゃなかった!!」
「ええ、そうですね。もう、油断なんてしませんから。
ちょっとはやく仕事を済まそうとね。2人が同行していましたし、
ゆっくり街を見るのもいいなと。」
「わたしたちが一緒じゃなければよかった?」
「そんなことはないですよ。違いますよ?ああ、モウ、泣かないで。
わたしのかわいい一番弟子は泣いてはいけませんよ?でないと、ほら?」
「ワイプ!!死ね!!」

トレーにラーメン鉢を3つ並べて
マティスがあらわれた。器用に回し蹴りを繰り出すが、
両手がその状態ではだめだろう、相手は師匠だし。


テーブルに置くとマティスがわたしを抱きしめる。
「大丈夫だ。なにも心配することはない。」
「うん、わかってる。わかってるよ。
でも、あとちょっとでも遅かったらダメだった!
マティスは繋げてたんでしょ?
それでも、向こうから呼びかけてくれないとわかんない。
でも、常に話してる状態にはできない。仕事だとはわかってるよ。
でも、一緒にいたのに!」
「ああ、そうだな。一緒にいたから助かったんだ。
良かったんだ。そうだろ?」
「・・・うん。そうだね。そうだ。」
「そうだ。ワイプはもっと感謝すべきだ!」
「そうだ!師匠はもっと感謝すべきだ!」

2人で師匠に訴える。
マティスだって心配したんだ。
師匠は笑ってわたしたちを見る。

「はいはい。感謝してますよ~。」
「もう!師匠は軽い!!」
「さ!このうまそうなものを食べさせてくださいよ。」
「うふふふ。これは大元はわたしだけど、
ここまで完成させたのはマティスだからね?
師匠はとうとうマティスにひれ伏すことになるね。」
「そうですか?それは相当ですよ。」
「そうなる!さ、冷めないうちに召し上がれ。」
「「はーい。」」

ズゾーっと食べる。
ラーメン鉢がいい。味もさらに良くなっている!レンゲもばっちり!

少し泣いたあとだから、鼻水もでる。
ティッシュってないよね。
しかたがなくコットワッツのふわふわタオルで拭く。

一気に完食だ。

はー、うまかった。

師匠はもちろんひれ伏していた。




「ちょっとこれは問題ですよ?え?マティス殿?マティス様?」
「やめろ!気持ち悪い!」
「ああ、そうですか。よかった。自分で言ってても気持ち悪いです。
しかし、おいしかった。」
「これのお醤油味もありますよ。」
「オショウーユ!!それもいいですね。」
「それは今度の焼肉の時にね。お酒飲んだ後の〆ですよ。」
「すばらしい!」
「で、これを簡単麺にしますね。お湯を掛けて食べられるように。」
「あのおうどんとお茶漬けの部類ですね。はー、ほんとうに素晴らしい。」
「ラーメンはセサミンにも教えてるから食の祭りで広まると思います。
でも、簡単麺はお願いしてるから、わたしたちだけね。」
「そうですか。わたしが食べられるなら問題ないですよ?」
「うふふふ。そうですね。」

マティスがスー兄から聞いた話を教えてくれた。


「人の入れ替わりが激しいそうだ。
今までいた厩係が今年にはいって2回変わっているそうだ。
領主館の仕事は給金もいいので首になるか、
なにか自分で仕事を始める以外辞める人間は少ないのにだ。
館で働いてる人間も若いものが多くなった。
ブラッシングがへたくそだ。ということらしい。」
「なるほど。なんというか、わたしが調べるよりスーに調べてもらったほうが
詳しいですね。今日はもう、出向かなくてすみそうです。」
「そういうことだ。スーからこの情報が役に立つのなら、
それなりの報酬を出すようにとのこと。以上だ。」
「・・・わかりました。」
「ああ、食べ物関係は当分大丈夫ですよ?
ブラッシングでしょうね、いいブラシを買いましょうか?」
「・・・わかりました。」
「ふふふ。あれ?じゃ、あのカップ君は最近入ったのかな?」
「そうみたいだな。若いのになかなか働くと褒めていたそうだ。」
「・・・それ、スーが他の馬に聞いての話ですよね?」
「そうだろ?御者にしては足さばきが暗部級なんで疑問におもって聞いたそうだ。
あの2人といっしょにツイミが連れてきたそうだ。2年前だな。」
「さすが!スー兄だ!」
「わかりました。報酬は弾みましょう。
しかし、モウは前からですが、
マティス君もわかるのですね、スーのいうことが。」
「スーだけだな。ここまではっきりわかるのは。
あとは漠然としたものだ。」
「え?スー兄と通じるものがあるの?ちょっと!ホー姐に報告せねば!」
「愛しい人?」
「モウ?」
「え?なんでもないです。どーぞ、お話を続けてください。」
「?あの2人と御者は兄弟。これは本人たちも言ってるから間違いはない。
で、ツイミも同じ耳だ。気付いたか?」
「意識してないとわかりませんね。これからは気を付けましょう。
ああ、モウはなにをあんなに驚いていたんですか?」
「え?どれ?驚くことばかりだったよ?」
「たとえば?」
「ああ、まず、雨の日で急に大きくなるんでしょ?
成長期っていって故郷でも急に大きくなることはあるけど、
見た目子供から大人になるなんてことはない。骨と筋肉の成長が追い付かないよ。
これ、聞くの怖かったけど、雨の日に寝てるって、繭かなんかつくって?」
「は?それはないですよ。虫でもあるまいし。」
「あ!そなの?よかった!」
「寝っぱなしではないですよ。大体10回くらい起きて寝ます。
目が覚めれば、一回り大きくなってる感じですかね。
なにぶん昔のことなので。目が覚めれば、大量に食料を食べて、
また寝て、を繰り返しますね。」
「あー、それならなんか納得。10年分を10日でって感じね。なるほど。」
「・・・説明がへただったか?」
「いやいや、違うよ?びっくりして、質問することもできなかっただけ。
じゃ、その雨の日に十分ご飯を用意できない家とかは?そういうのないの?」
「それはよほどのことですよ。食料というのは一番安いものです。
服1枚我慢すれば、かなりの食料が買える。それもできない家庭はないはずです。」
「病気をしたりしてたら?その稼ぎ頭が。」
「ああ、それこそ、村長、管理者、領主これらが面倒を見ますよ。」
「そうなんだ。それはいいね。そこは故郷よりいいよ。」
「そうなんですか?」
「だって、子供の餓死とかあるもの。」
「「・・・・。」」
「親がね、育児放棄とか虐待とかね。それ、こっちではないね。」
「近いものはありますが、子供の餓死はない。」
「そうだよね。そういうのあるんだ、故郷は。ものがあふれてるんだけどね。」
「・・・。モウ、それから?ほかには?」
「近親婚?」
「きんしんこん?ああ、娘との婚姻ですか?多くはないですが、珍しくはない。
王族は多いといったでしょ?へたなところから嫁や婿を迎えるよりも安心だ。
子供は多いほど治世の安泰につながる、という考え方ですからね。」
「それはわかるんだけどね。その、生まれた子供って元気な子?」
「というと?」
「さっきの耳の話でもいったけど、父親と母親と、ま、生物として、
長く生きられるように、どちらかを選んで受け継がれるのね。
で、まったくの他人なら、選ぶ選択肢もあるけどさ、
親子なら両方ともおなじような内容でしょ?だから選びようがない。
悪いほうを選んじゃう確率が多くなるのよ。んー、うまく説明はできないけど。
で、虚弱体質な子供が生まれるってことが多くなったって。
同じような理由でね、権力を拡散しないため?とかそういうので、
で、伯父と姪とか、親子とか?兄妹もあったのかな?
なんせ、いわゆる家族で結婚したりしてたら、体の弱い子ばっかりできて、
一族が滅んだとか。いまは法律で禁止してるよ。
一番近いつながりでいとこ同士かな?
だから、それがあるって聞いてさ、驚いたの。」
「虚弱体質?だけですか?」
「あー、ほんと詳しくないから言い切れないけど、
ものすごく賢い人が生まれることもある。
逆にちょっと困った人も生まれることもある。というけど、
おそらく、ちょっと困った人が生まれる確率が多いと言われてるっていうぐらい。
なんせ、こういうのっておおっぴらに話は出ない。
そうだったとしても隠されてる。
だから統計的にもわからないし、もう試しようがない。
でも、昔、これが原因で滅んだ一族はある。
けど、ほんとにそれが原因?っていうところもある。」
「要はわからないんだな?」
「そう、わかんない。
でもね、年頃の娘さんは父親を避けるってことない?あるでしょ?
それは父親と性交するのはよろしくないって本能がいってるのよ、だから避ける。
と、言われているって話。」
「モウも?」
「いや、わたしは物心ついたときから父親はいなかったからわからんのよ。
だから、逆に年上の人にあこがれる。」
「愛しい人!!」
「いや、だから、渋めが好みなだけで、好きなのはマティスだって!!」
「あー、その話は2人でしなさい。しかし、なるほどね。」
「この手の話はものすごくデリケート、繊細な話なのよ。
昔は廻りと違う姿かたちで生まれた子はね、神様の御使いだとかいってね、
大事にしたりしてたみたいだよ?
ま、これはいい例かもしれないけどね。
知らない間に殺されてるっていうのもあったと思う。
それ以前によほど親に力がないと育てていけないよね。
いまは、ないよ?国からも援助とかあるからね。
医療も発達している。
己の体が5体満足なのはたまたまなんだ。確率の問題なんだよ。
ある一定の確率で不具合がおこる。あたりませだ。
それを生まれたときに背負うことがある。
自分じゃないだけで、それは自分なんだ。
それをそれを理由に排除するという考え方は自分を排除することだ。
生まれは大丈夫でもいつそうなるかわからない。
人にやさしくできるのはいいかえれば自分に優しくしているんだよ。
ただ、ひと昔前は違っていただろうなって。
いまでは治せる病気も隔離したりしていたからね。
わからないってことは怖いことなんだ。
でもね、これって当事者にならないとなかなかわからないのよ。
知ってるだけでなにもしないっていう人が多いとおもう。
その中の一人なの。
こっちに来てから、体の不自由なひとってああ、
マティスが腕の上がりが悪いぐらいしかみたことないね。
片目だったしね。
もっと、悪い人っているの?」
「いない。私の状態でよく生きていけるなと言われるぐらいだ。
あれ以上悪ければ一人では生きていけない。死を待つだけだ。
親がいたとしても、親に死なれれば、そこまでだ。
結婚もできない。私もあのままあそこで朽ちると思っていた。」
「ああ、そうなるんだ。マティス、おいで。」

ガイライを抱きしめた時のように、脚を開いて、太ももを叩いた。
マティスは黙って、床に膝を付き私に抱き付く。

「頑張ったね。タロスさんに感謝しないとね。
わたしが来るまで待っててくれたんだね?
ありがとう、マティス。愛してる。」

マティスはぐりぐりと頭を擦り付ける。
よかった、ほんとうに。

「あなたが言う、困ったというのは体だけではないですよね?」
「ええ、そうです。」
「そうですか。こちらもだからなにができると言えることもないですね。」
「ただ、親子っていうのはどうなの?っていうところで、
それがまかり通っているのならそうですか、としか言えません。」
「あなたのいた故郷とこちらどれほどの違いがありますか?」
「違いですか?」
「ええ、良ければ教えてください。ああ、申し訳ないですが、
ガイライ殿に話していることはわたしも聞いていましたから。」
「いえ、かまいません。そうですね。まず、時間の概念がちがう。」



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