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妄想編
28話【off duty】岡林 幸太郎:電話(岡林編)
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はあ、まいったよ。藍原先生のいいつけ通り、あのナースを家まで送って、あからさまに家に誘われるのを何とか振り切って、やっと帰宅。……チクショー、俺は藍原先生を送っていきたかったのに。
でも、これからもこうやって、藍原先生を口説こうとするたびにあのナースに邪魔されちゃたまらないから、しっかり、釘を刺しておいた。いや、もちろん、女を敵に回すようなことはしない。しっかり、でもやさしく、「今はそういうのは考えられない。佐々木さんには、これからも頼りになる先輩スタッフとして、世話になりたいから」って。今は無理だけど、将来的にはわからない。ちょっと含みを持たせておいて、気が向いたら……ってね。
それより、藍原先生だ。次にふたりきりになれるのはいつかわからないし、もう少し攻めておきたい。
部屋に帰ると、俺は電話を手に取った。今は……12時10分。夜中だけど、さっきまで飲んでたし、許されるよね。
『はい、藍原です。どうしたの?』
3コールで出た。意外としっかりした声してる。よかった、まだ起きてたんだな。
「あの、さっき別れたとき、藍原先生が結構酔っ払ってたから、大丈夫かな、と思って」
こういう電話、女子って好きなんでしょ。
『あたしは無事帰宅したわよ。ちゃんとシャワーも浴びて、さらに一杯飲んで、いい気分になってたところ』
藍原先生、もうシャワー浴びたんだ。……ちょっと想像してみる。でかい胸と、ぷりぷりのおしり。それから……。やべ、ちょっとムラムラ来た。しかも、なに? あのあとさらに、酒飲んでんのかよ。大丈夫か、藍原先生。お店でだって、すでにろれつ回ってなかったけど……。
『そっちこそ、楓ちゃんは? 大丈夫だったのかしら』
また楓ちゃんか。藍原先生、楓ちゃんとどんだけ仲良しなんだよ。楓ちゃんは、もうめんどくさいから遠回しにしっかりとお断りしてきましたよ。
「すみません先生、心配したつもりが、寝るところ邪魔しちゃったみたいですね」
『いいのよ。わざわざ気を遣ってくれてありがとう』
「ははは、気遣ったわけじゃないです。……わかるでしょ」
……沈黙。……先生、今ので意識したかな? それともまさか、素でわかってない? あれだけいろいろと接近して触ったりしてるのに、言葉でもいってるのに、これで俺の気持ちわかってなかったら、マジ鈍感すぎる。……中村がいってた、ちょっと天然って、このことか?
「先生……今、ベッドの中なの?」
仕方ない。もうちょっと直接的に匂わしていくか。まだしばらく上司と部下の関係が続くから、失敗したら痛いけど。……まあ、大丈夫だろ。
「……先生の声を聞いてたら、目が覚めてきちゃった。ほら、先生の声が、直接耳に入ってくるでしょ? イタリアンレストランでの……先生のあのときの声、俺、覚えてますよ』
そう、俺が先生のピアスを直すふりをして耳たぶを触ったとき。間違いなく、藍原先生は、感じてた。体だって、震えてたし。あのときの声がすっごく可愛くて、俺、うっかり本当に襲おうかと思ったし。……電話越しに先生の声を聞いていると、あのときを思い出す。……もう一度、あの声を聞きたい。
『岡林くん、やっぱり酔ってるでしょ。明日も勤務なんだから、もう寝なさいってば』
藍原先生、ちゃんと意識はしてくれてるみたいだけど、なんだろ? すぐ乗っかってくるわけでもなく、でもまったく脈なしってふうでもなく。でも、駆け引きしてる感じもないし……やっぱりこれが、天然ってやつか……。
「無理。先生の声、色っぽいから、俺からは切れそうにない」
決めた。もういいや、ちょっとくらいのやりすぎは酒のせいにして、もっと押してみよう。藍原先生、意外と真面目だから、研修医とこういう関係になるの、自制してるのかもしれない。押して押して、一度押し倒してしまえば、意外といけるかも。
「ねえ先生、もっと声聞かせて? 本当はわかってるんでしょ、俺の気持ち」
『……ん……』
藍原先生の、吐息みたいな声が聞こえた。さっきまでと打って変わって、いきなり艶っぽい声だ。……今のって、俺の気持ちに気づいてる、ってことかな? それで、恥ずかしがってるのかな。
「先生……俺、先生のこと、好きだ」
今の反応なら、いけるはず……! なんだかガラにもなくドキドキしながら、しばらくぶりに俺のほうから告白してみる。これでいければ、次にふたりきりになるタイミングで、間違いなくヤれるはず。
「……先生。先生は、どうなの……?」
……。え……無視……? それとも、緊張だか興奮だかのあまり言葉が出ないのか……? くそ、電話だとこういうとき、相手の表情が見えないから作戦たてにくいなあ。やっぱり早まったか?
「先生。返事してよ……」
……ん? よく耳を澄ますと……。藍原先生の、息遣いが聞こえる……。すごくゆったりとした、規則的な息遣いで……え、うそ。もしかして……寝てる? マジか……。マジか!? 俺の声聞きながら寝るとか、マジかよ!?
「先生。藍原先生!」
ちょっと叫んでみたけど、まったく反応なし。
ああチクショー、電話越しに寝落ちされるとか、屈辱だ! クソ、絶対意識させて、落としてやる。もう、すぐにでも、落としにかかってやる……!
でも、これからもこうやって、藍原先生を口説こうとするたびにあのナースに邪魔されちゃたまらないから、しっかり、釘を刺しておいた。いや、もちろん、女を敵に回すようなことはしない。しっかり、でもやさしく、「今はそういうのは考えられない。佐々木さんには、これからも頼りになる先輩スタッフとして、世話になりたいから」って。今は無理だけど、将来的にはわからない。ちょっと含みを持たせておいて、気が向いたら……ってね。
それより、藍原先生だ。次にふたりきりになれるのはいつかわからないし、もう少し攻めておきたい。
部屋に帰ると、俺は電話を手に取った。今は……12時10分。夜中だけど、さっきまで飲んでたし、許されるよね。
『はい、藍原です。どうしたの?』
3コールで出た。意外としっかりした声してる。よかった、まだ起きてたんだな。
「あの、さっき別れたとき、藍原先生が結構酔っ払ってたから、大丈夫かな、と思って」
こういう電話、女子って好きなんでしょ。
『あたしは無事帰宅したわよ。ちゃんとシャワーも浴びて、さらに一杯飲んで、いい気分になってたところ』
藍原先生、もうシャワー浴びたんだ。……ちょっと想像してみる。でかい胸と、ぷりぷりのおしり。それから……。やべ、ちょっとムラムラ来た。しかも、なに? あのあとさらに、酒飲んでんのかよ。大丈夫か、藍原先生。お店でだって、すでにろれつ回ってなかったけど……。
『そっちこそ、楓ちゃんは? 大丈夫だったのかしら』
また楓ちゃんか。藍原先生、楓ちゃんとどんだけ仲良しなんだよ。楓ちゃんは、もうめんどくさいから遠回しにしっかりとお断りしてきましたよ。
「すみません先生、心配したつもりが、寝るところ邪魔しちゃったみたいですね」
『いいのよ。わざわざ気を遣ってくれてありがとう』
「ははは、気遣ったわけじゃないです。……わかるでしょ」
……沈黙。……先生、今ので意識したかな? それともまさか、素でわかってない? あれだけいろいろと接近して触ったりしてるのに、言葉でもいってるのに、これで俺の気持ちわかってなかったら、マジ鈍感すぎる。……中村がいってた、ちょっと天然って、このことか?
「先生……今、ベッドの中なの?」
仕方ない。もうちょっと直接的に匂わしていくか。まだしばらく上司と部下の関係が続くから、失敗したら痛いけど。……まあ、大丈夫だろ。
「……先生の声を聞いてたら、目が覚めてきちゃった。ほら、先生の声が、直接耳に入ってくるでしょ? イタリアンレストランでの……先生のあのときの声、俺、覚えてますよ』
そう、俺が先生のピアスを直すふりをして耳たぶを触ったとき。間違いなく、藍原先生は、感じてた。体だって、震えてたし。あのときの声がすっごく可愛くて、俺、うっかり本当に襲おうかと思ったし。……電話越しに先生の声を聞いていると、あのときを思い出す。……もう一度、あの声を聞きたい。
『岡林くん、やっぱり酔ってるでしょ。明日も勤務なんだから、もう寝なさいってば』
藍原先生、ちゃんと意識はしてくれてるみたいだけど、なんだろ? すぐ乗っかってくるわけでもなく、でもまったく脈なしってふうでもなく。でも、駆け引きしてる感じもないし……やっぱりこれが、天然ってやつか……。
「無理。先生の声、色っぽいから、俺からは切れそうにない」
決めた。もういいや、ちょっとくらいのやりすぎは酒のせいにして、もっと押してみよう。藍原先生、意外と真面目だから、研修医とこういう関係になるの、自制してるのかもしれない。押して押して、一度押し倒してしまえば、意外といけるかも。
「ねえ先生、もっと声聞かせて? 本当はわかってるんでしょ、俺の気持ち」
『……ん……』
藍原先生の、吐息みたいな声が聞こえた。さっきまでと打って変わって、いきなり艶っぽい声だ。……今のって、俺の気持ちに気づいてる、ってことかな? それで、恥ずかしがってるのかな。
「先生……俺、先生のこと、好きだ」
今の反応なら、いけるはず……! なんだかガラにもなくドキドキしながら、しばらくぶりに俺のほうから告白してみる。これでいければ、次にふたりきりになるタイミングで、間違いなくヤれるはず。
「……先生。先生は、どうなの……?」
……。え……無視……? それとも、緊張だか興奮だかのあまり言葉が出ないのか……? くそ、電話だとこういうとき、相手の表情が見えないから作戦たてにくいなあ。やっぱり早まったか?
「先生。返事してよ……」
……ん? よく耳を澄ますと……。藍原先生の、息遣いが聞こえる……。すごくゆったりとした、規則的な息遣いで……え、うそ。もしかして……寝てる? マジか……。マジか!? 俺の声聞きながら寝るとか、マジかよ!?
「先生。藍原先生!」
ちょっと叫んでみたけど、まったく反応なし。
ああチクショー、電話越しに寝落ちされるとか、屈辱だ! クソ、絶対意識させて、落としてやる。もう、すぐにでも、落としにかかってやる……!
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