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後書き
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本当に不思議な時代になった。最近まで当たり前に行われていた,知人や友人との食事やイベントの開催,学校の授業や海外旅行は全部古い時代の思い出話に変わった。最初はそう思った。
しかし,長引くウイルスとの戦いに備えて,新しい生活様式の本当の意味を模索しつつ日常を営んでいると,我慢しているはずのことをいつからか我慢と感じなくなっている自分に気がついた。そして,この最初不思議に感じた感覚は,決して新しいものではなく,前にも味わっていたものなのだとふと思った。
祖父母と一緒に過ごした日々もこういう単調で刺激の少ない,我慢の連続の生活だった。しかし,その生活しか知らなかったから我慢や忍耐に感じたことはなかった。あの時の感覚に近づいていると最近思う。
祖父母が亡くなり,大学生になった私はこれまでできていなかった様々なことに挑戦した。コミュニケーション能力に欠けていると思い,発表やプレゼンを頑張り,疎いと危機感を抱いていた人間関係もいろんな人と付き合い,人間力を身につけようと必死で努力した。学習も際限なく自分の関心のあるものを勉強した。失敗を沢山重ねて,たまには成功を収めることもあった。
働き始めて,意気込みすぎては絶望するの繰り返しの生活をしばらく続けた。ややこしい人間関係で悩み,自分の感情に沢山振り回され,涙に暮れる時期もあった。悔しくて不甲斐ない時間を沢山過ごした。でも,どん底に陥り,もう頑張れないと思った,その度に祖父母を思い出し,また立ち上がる力をもらった。
そして,数年悪戦苦闘しながら踏ん張ってみると,良い人間関係も築けたし,気が付いたら振り回されているだけのはずだったのが自分もいつからか舵を取るようにはなっていた。豊かな自然や温かい人の心に癒され,少し成長した。仕事も軌道に乗り,僅かではあるが実績を残すことが出来た。仕事の赴任先で素敵な人と知り合い,交際を経て結婚した。子供も授かった。
しかし,今ではこの挑みと挫折の日々も,暖かい人の輪の中で過ごした日々も,全部遠い夢のようで,幻にまで感じてしまう。こういう自由で屈託なく過ごせた時代があったことの方が不思議で,信じられない感じがする。
そして,その時期に思い出すことが少なくなっていた祖父母と過ごした時間は、むしろこれまでのどの時間よりも近く感じ,しょっちゅう蘇るようになった。
祖父母と一緒の自分の思い出すと,最初窮屈に感じていた育児も楽しく,有り難く感じるようになり、気持ちが楽になった。
そして,その時に見たり聞いたり感じたりしたものは全部本物だったと改めて思い知った。会社の売り上げや経済の動向,浅い人間関係や余暇の過ごし方などこのウイルスのような伝染病で簡単に左右されたり壊れたり失われたりするような軽薄で儚いものではなく,むしろこういう時代にこそ一層心の中で輝きを増し,力をくれるものなのだと気付かされた。
物や地位や名誉を追求すること,こだわること,人によく見られようと好かれようと同調したり妥協したりすること,無理して人に合わせることで自分を失うこと,これらは全て浅はかなものだと祖父母から教わっていたのに,時間が経ってみれば,その虜になっていた。原点に立ち返るきっかけをいただき,感謝せずにはいられない。このウイルスが終息しても,祖父母との思い出を胸に,我が子と手を繋ぎ導きながら,今後の人生を歩んでいきたいと思う所存である。
このウイルスが世界中で猛威を振るう時代に,命があっけなく失くされていくこの尋常ではない現状を見つめて,自分や自分の大事な人が生きた証を残したくなるのは、私だけではないだろう。
しかし,長引くウイルスとの戦いに備えて,新しい生活様式の本当の意味を模索しつつ日常を営んでいると,我慢しているはずのことをいつからか我慢と感じなくなっている自分に気がついた。そして,この最初不思議に感じた感覚は,決して新しいものではなく,前にも味わっていたものなのだとふと思った。
祖父母と一緒に過ごした日々もこういう単調で刺激の少ない,我慢の連続の生活だった。しかし,その生活しか知らなかったから我慢や忍耐に感じたことはなかった。あの時の感覚に近づいていると最近思う。
祖父母が亡くなり,大学生になった私はこれまでできていなかった様々なことに挑戦した。コミュニケーション能力に欠けていると思い,発表やプレゼンを頑張り,疎いと危機感を抱いていた人間関係もいろんな人と付き合い,人間力を身につけようと必死で努力した。学習も際限なく自分の関心のあるものを勉強した。失敗を沢山重ねて,たまには成功を収めることもあった。
働き始めて,意気込みすぎては絶望するの繰り返しの生活をしばらく続けた。ややこしい人間関係で悩み,自分の感情に沢山振り回され,涙に暮れる時期もあった。悔しくて不甲斐ない時間を沢山過ごした。でも,どん底に陥り,もう頑張れないと思った,その度に祖父母を思い出し,また立ち上がる力をもらった。
そして,数年悪戦苦闘しながら踏ん張ってみると,良い人間関係も築けたし,気が付いたら振り回されているだけのはずだったのが自分もいつからか舵を取るようにはなっていた。豊かな自然や温かい人の心に癒され,少し成長した。仕事も軌道に乗り,僅かではあるが実績を残すことが出来た。仕事の赴任先で素敵な人と知り合い,交際を経て結婚した。子供も授かった。
しかし,今ではこの挑みと挫折の日々も,暖かい人の輪の中で過ごした日々も,全部遠い夢のようで,幻にまで感じてしまう。こういう自由で屈託なく過ごせた時代があったことの方が不思議で,信じられない感じがする。
そして,その時期に思い出すことが少なくなっていた祖父母と過ごした時間は、むしろこれまでのどの時間よりも近く感じ,しょっちゅう蘇るようになった。
祖父母と一緒の自分の思い出すと,最初窮屈に感じていた育児も楽しく,有り難く感じるようになり、気持ちが楽になった。
そして,その時に見たり聞いたり感じたりしたものは全部本物だったと改めて思い知った。会社の売り上げや経済の動向,浅い人間関係や余暇の過ごし方などこのウイルスのような伝染病で簡単に左右されたり壊れたり失われたりするような軽薄で儚いものではなく,むしろこういう時代にこそ一層心の中で輝きを増し,力をくれるものなのだと気付かされた。
物や地位や名誉を追求すること,こだわること,人によく見られようと好かれようと同調したり妥協したりすること,無理して人に合わせることで自分を失うこと,これらは全て浅はかなものだと祖父母から教わっていたのに,時間が経ってみれば,その虜になっていた。原点に立ち返るきっかけをいただき,感謝せずにはいられない。このウイルスが終息しても,祖父母との思い出を胸に,我が子と手を繋ぎ導きながら,今後の人生を歩んでいきたいと思う所存である。
このウイルスが世界中で猛威を振るう時代に,命があっけなく失くされていくこの尋常ではない現状を見つめて,自分や自分の大事な人が生きた証を残したくなるのは、私だけではないだろう。
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