記憶のかけら

Yonekoto8484

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第21話

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数年後,別のことで揉めている時に母に,「あなたは彼女の命を奪った」と責められたことがある。もちろん祖母のことだ。

私が見ているときに車椅子から落ちたのが発作の原因で,発作のせいで病気が急激に進行し,必要以上早く亡くなったのかもしれないと母は続けた。

母が見ている時にも,祖父が見ている時にも,祖母は何度も何かの拍子に転倒し,怪我をしている。私が見ていたあの日は初めてではないし,亡くなったこととは関係ないと否定したかった。

しかし,私にはあの時の祖母の体の弱さを知っているから,安易に否定できなかった。関係ないとは言い切れない。

ただ言い切れるのは,私には祖母を怪我させるなんて意地悪な思いは微塵もなかったということだ。私は祖母を心底から愛していた。彼女の病気が治るのなら自分が病気になってもいいともずっと思っていた。その彼女の人生が私の過失のせいで一日でも予定より早く終わってしまったのであれば,死んでしまいたいくらい苦しいことだ。

そして,母に責められなくても,祖母があの日車椅子から落ちたことを私はずっと気にしていた。思い出さない日はなかった。過去はやり直せないから考えてもしょうがないと振り切ろうとしても,私の心の奥底にとても拭い去れない不安を残す出来事だった。母は私のその葛藤の存在も知らずに無神経に責めてきた。

私はそのあと,とても苦しくなり、母と衝突してばかりの日々を過ごしたのだった。些細なことでもすぐに喧嘩になり、ますます苦しくなった。母には自分の言葉が原因だと思い当たることはなかったと思うし,撤回したり謝ったりしたこともない。いつかしてくれるとは期待していないし,言われてもしょうがないとも思っている。

しかし,その言葉はいつまでも私と母との間に壁を作っている。おそらく越えられない壁を。でも,それも仕方のないことだ。

言われても仕方がないけれど,
私は祖母を殺していない。
そう思っている。

しかし,自分には悪意は全くなかったとはわかっていても,悔いはいつまでも残る。
どうして祖母のそばを離れたのだろう?
どうして両親が帰宅するまでそばで見ていられなかったのだろう?
どうして一瞬の油断の危険を見通せなかったのだろう?

その答えは,全部「子供だったから」だ。

しかし,大人になった今でも,忘れることはない。忘れてはならないとも思っている。忘れてしまうと,教訓として今後の人生に活かせなくなるからだ。自分の生きる力に変えていくしかないのだ。

過去をやり直すことは誰にもできない。それなら,私に出来ることは,祖父母の記憶を心の中で息づかせながら,命が尽きるまでまともに精一杯生きることだけだ。そうしようと心に決めている。
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