私のための小説

桜月猫

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98話

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 公は今日はからくり爺の家にやって来ていた。

「こんにちは」
「おや。いらっしゃい」

 笑顔で出迎えたからくり婆は、公を連れてからくり爺がいる居間にやって来た。

「なんだ。今日は普通に玄関からやって来たのか。つまらんな」

 からくり爺はつまらなそうな表情で公を見ながらため息を吐いた。

「別にからくりをクリアして入ってこないといけないわけじゃないんだからいいだろ」

 公は苦笑しながらからくり爺の向かいに座った。

「そうだが、こうして普通に入ってこられると面白味がないだろ」
「そんなのは知らないよ」

 からくり爺がふて腐れていると、からくり婆お茶を持ってきた。

「前回、からくりをあっさりと攻略されたからね。次来たときは絶対に負かすと意気込んでいたからふて腐れてるのよ」

 からくり婆の説明に納得しながらからくり爺を見ると、からくり爺はそっぽを向いた。
 その反応がおかしくて公が笑っていると、からくり爺は少し不機嫌になった。

「通算で言ったらからくり爺のほうが勝ってるんだからふて腐れることないのに」
「ここ最近は勝ちまくっているくせに」

 からくり爺は公を軽く睨み付けた。

「まぁまぁ。爺さんもいつまでもふて腐れてないで。それで、今日はなにしにきたんだい?」

 からくり婆がからくり爺をなだめながら公に問いかけた。

「あの黒服達はこの辺りに来てますか?」

 公の問いかけに、からくり爺はふて腐れるのを止めて真面目な表情になった。

「あぁ。来ているぞ。トラ」
「はいはい」

 トラが返事をしたかと思うと、天井からモニターがおりてきていくつかの画像を映し出した。

「さすがに黒服だと目立つから私服に変わったが、見ての通りたまに通りかかっているな」

 その画像を確認した公。

「それで、あの子のことはなにかわかったのか?」
「えぇ」

 公は白の情報を2人に教えた。

「なるほどな。それで公はどうするんだ?」
「どうするもなにも、家庭の事情に首を突っ込む気はないですよ」

 きっぱりと言いきる公だが、からくり爺はジトーと、からくり婆は微笑みを浮かべながら公を見つめていた。

「なんですか?その反応は?」
「お2人ともこう言いたいんだよ。関わるつもりがないのなら、なんで黒服のことを聞きに来たのか、と」

 モニターに映ったトラがそんなことを言った。

「それは、黒服達がここら辺の人に迷惑をかけてないか心配だったからで、関わるつもりはないよ」

 しかし、2人の公を見る目は変わらず、さらにトラまでもジーと公を見つめた。

「なんだよ」
「なんでもないわ」
「そうだな」
「はい。なんでもありません」

 口ではそう言いつつも、視線は相変わらずな3人の「なんでもない」という言葉に「そうですか」と納得できるはずもない公は、憮然とした表情を3人に向けた。

「言いたいことがあるなら言ってください」

 すると、からくり爺と婆は顔を見合わせた。

「なら言わせてもらうが、関わるつもりがないのなら、なぜ白の情報を集めたのだ?別に集めなくても問題ないだろ?」

 からくり爺は疑問を公に投げかけた。

「白の情報を集めたのは、もしもの時のためですよ」
「一体どんなもしもがあるんだ?」

 からくり爺の問いに答えられずに公は黙りこんだ。

「ほら。やっぱり関わるつもりだったんだろ?」

 からくり爺の確信しているその表情に、公は頭の掻きながらため息を吐いた。

「確かに多少は関わるつもりでしたよ。と、いうか、家に居候させている限り、こちらが関わる気がなくても向こうから関わってきそうですしね」
「関わってきそう、じゃなくて、白を居候させた時点で自分から関わりにいってるようにしか見えないぞ」
「うっ」

 からくり爺の的確な指摘に言葉をつまらせた公だが、ごまかすように強引に話を進めた。

「だから、情報を集めたりしたんですよ」
「ふ~ん」

 からくり爺はあえてごまかしたことには触れずに頷いたが、顔は少しニマニマしていた。

「それで、どこまで関わる気なんだい?」

 からくり婆の問いに公は頭を掻いた。

「どこまでって言われても、そこは相手の出方次第だろうし、なんとも言えないよ」
「なるほど。相手の出方をうかがうためにここに来て黒服達を連れていこうってわけか」

 からくり爺の言葉に公は肩をすくめた。

「そこまで考えてるわけじゃないよ」

 その返事にからくり爺とトラはジト目になり、からくり婆は微笑んでいた。
 その反応に、公がなんともいえない表情を浮かべていると、庭のほうが騒がしくなった。

「トラ。誰か来たのか?」
「からくり孫がからくりに挑戦しているね」

 画面に映像が映し出された。そこには、庭のからくりに挑んでいるからくり孫の姿があった。

「なぁ、からくり爺」
「なんだ?公」
「確か、俺にリベンジするためにからくりを強化したんだよな?」
「あぁ」
「それをからくり孫がクリアすることはできるのか?」
「ムリだろうな」

 からくり爺がそう言った矢先、からくり孫は地面から出てきたハリセンにかっ飛ばされて転がり、そのまま落とし穴へ落ちていった。

「そういえば、からくり孫って何歳になったんだっけ?」
「今年で12歳だ」
「相変わらず最高難度のからくりに挑んでいるの?」
「あぁ。見ての通り懲りずに来る度に挑んでいるぞ」

 画面の中では落とし穴から這い上がってきたからくり孫が顔面にバレーボールを受けてまた落とし穴に落ちていた。

「あれは小学生が挑む難易度じゃないと何度言っても聞かなのよ」

 諦め口調のからくり婆はため息を吐いた。
 それから1分もしないうちに気絶したからくり孫はからくり人形達によって居間に運び込まれた。

「やっぱりな結果になりましたね」

 画面の中でトラが少し呆れていた。

「おーい。生きてるか?」

 公がからくり孫の頬を叩くと、からくり孫はすぐに目を覚ました。

「ハッ!」
「おっ、起きたか」

 起きたからくり孫は公の顔を見た瞬間、キッ!と睨み付けた。

「なんで毎回睨むかな」

 そうからくり孫はいつも公を睨むので、公は困ったように頭を掻いた。

「ジー」

 理由を聞いても返事がないのもいつものことなので、公はさらに頭を掻いた。

「それじゃあ今日は帰ります」

 そう言って1度玄関に行った公は靴を持って縁側へと向かった。

「それじゃあまた来ます」
「気をつけてかえるんだぞ」

 からくり爺・婆に見送られて、公はからくり孫が引っ掛からなかったからくりを避けながら庭を通り抜け、生け垣の回転扉から外に出ていった。
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