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第2章 覚悟と旅立ち(まとめ)
突然の転機
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あれから1ヶ月ほど経った。
毎日午前中は4人のレベル上げに付き合い、お昼を食べた後は各自自由にしていた。リミルは自身のレベル上げの時間が午後にしか取れないので依頼を受けるついでにレベル上げをやったりもした。ガッツリ稼ぐ日もあれば、たまにトウと街で散歩したり、クライと森を散歩したり。
依頼は最近まで、リミルとクライとジャックでやっていた。3人の時もあれば2人の時もあり、1人の時もあった。3人での依頼は徐々に減っていった。別れて稼いだ方が効率がいいからだ。そして高位への依頼はリミルとクライかリミル単体でしか受けられないため、2人での仕事もやり、リミル1人でも良さそうな依頼の時は効率を優先して3人それぞれで依頼を熟した。
最近ではアキリム、ニーナ、クロトが簡単な依頼なら出来そうなくらいにはなったので新たな経験を積ませレベル上げも同時に行っていたりする。3人で出来そうな依頼は任せ、少し難しい依頼はクライかリミルが一緒に行う。ジャックはジャックの判断で参加したりしなかったりだ。
皆も毎日依頼を受けている訳ではない。リミルが今までの生活と同じようにやっておきたいことややらないといけないことを優先にしたので、皆も同じように自由に今日は休もうかなとか今日は依頼を受けようかなとかその日の気分でそれぞれ行動している。依頼を受けようと思った者同士で組んで依頼を受けることもあった。
連絡は《チャット》でやり取りし、夜第2リビングに集まった時に何をしたとか誰の依頼を受けたとか話し、情報交換はこまめに行った。パーティでの活動については特に。個人の休みについては自分から話さない限りは踏み込んだりしない。
『今日の依頼は面白かった。食材集めっていいね!どんな料理になるのか考えながらやるとワクワクして!』
『考えすぎてお腹減ったけどな。』
『報酬に食べさせてくれたから助かったわ。シチューを食べさせてくれたんだけど美味しかった。』
「ココリの依頼か!ココリの料理ってほっこりする味だよな。」
『それは気になる。俺も一緒に行けばよかった。』
<今度全員で受ければ良いんじゃないか?>
『まあココリなら人数が増えるのは喜ぶだろうが、あんまり迷惑はかけるなよ?あー、リミルとクライ、向こうのリビングで話がある。』
「?わかった。」
<ああ。>
『皆はそのまま話してても寝ても良いぞ。』
3人はダイニングを通って元からあるリビングに入った。コの字型のソファに座ると中庭を挟んで向かい側にあるリビングからこちらを気にしている4人の姿が見えた。
手をヒラヒラと振り、ギルレイの言葉に耳を傾ける。
『実はな、前にグレモスが言ってたお前の両親の親、つまりお前の祖父母についてグレモスから連絡がきた。』
リミルはたじろいだ。前にグレモスの店で話した時は、親かも知れないと言っていた。
リミルはずっと親が欲しいとは望んで来なかった。下手な願いは自分を傷つける。期待はせずにいた方が何かを得られた時、喜びが大きいからだ。
ただ…、目に映る子ども達が、親子連れが、家族連れが、羨ましかった。自分とは違うのだと妬ましい気持ちもあった。
幸いなことに、人族に出会って直ぐアンリと出会い、優しさに触れ温かさを知ったお陰で、クライと出会ったお陰で、独りでは無かったため激しい嫉妬などはしなかった。気づいたら自分の状況を受け入れていた。諦めもあった。
それらが今、崩されようとしている。
両親らしき2人は行方不明だと言っていた。もし仮に両親だったとしても家族が手に入る訳では無い。祖父母が突然現れるに過ぎない。大丈夫。大丈夫。
リミルは自分を落ち着かせるために1度深呼吸し、とりあえず確定なのかギルレイに確認する。
「断定して話すってことは…」
『ああ。確認が取れたらしい。リーマスとミルレアは間違いなくリミルの両親だ。』
「………。」
リミルは絶句した。喜びが大きいかと思いきや、哀しみと戸惑いと不安が心の大半を占めていた。これまでのことが一気に甦り、心の中は何とも言い難い感情だらけで複雑な状態だった。受け入れたいような受け入れたくないような矛盾した気持ちが綯い交ぜになり、叫び出したい気分だ。そんな葛藤を抱え悶々としていると戸惑ったようなギルレイの声がかかる。
『………それでな、リミルに言わなくちゃ行けないことがあるんだ……』
何を言われるのか、不安に苛まれる。ただでさえ混乱しているのにこれ以上混乱させないでくれというリミルの願いは聞き届けられなかった。
『俺はミルレアの兄で、つまりはお前の叔父にあたる……。グレモスからミルレアの名前が出たとき、直ぐに言うべきだったんだが、ずっと家族とは連絡を取っていなかった。駆け落ちをしたから取れなかったんだが、ミルレアが結婚をしたのは風の噂に聞いていた。それが失踪していたのも子どもを産んでいたのも俺には驚きで…。言い出せなかった……。すまん。』
「ちょ、と、待って、くれないか?ギルレイが俺の叔父?…そうか。それで態度が変わったのか。ならそんなの知らないままの方が良かった。」
『態度?なんの事だ?』
ギルレイは言わなかったことに怒ると思っていたみたいだ。正反対の言葉に驚きつつ、リミルの言ったことに引っかかった。
「…グレモスの話を聞いた後くらいからギルレイに義務感みたいなのが透けて見えて、俺は素直に好意として受け取れなくなったんだ。最初は気のせいかとも思ったけど、依頼で離れて、アイツらを連れ帰ったらより実感が湧いて。俺もアイツらに対してギルレイと同じようにしないといけなくなる気がして。」
『そんなこと!…確かに俺はミルレアの名前が出てから俺が連絡を取っていれば、早くに気づいていれば、もっと気にかけておけばと何度も後悔した。それで叔父として出来ることはやろうとも思った。それが態度に出ていたかもしれない。親戚としての義務感もあったと思う。でも、それはあくまで俺の事情であってリミルがアイツらにしてやらないといけない訳では無い。リミルはアイツらと同世代だ。世話を焼いたり面倒をみたりするのは中世代以上に任せておけばいい。リミルもアンリと出会ってからの経験で知っているだろ?子どもは皆で育てるものだと。』
リミルはアンリエットとベテラン冒険者達に様々なことを教わった。もちろんギルレイやクリード、リリアン達にも。その時の記憶が思い起こされ、ふっと強ばっていた身体の力が抜けた。
「そうだな。確かに。俺はアイツらと同じ幼世代だ。でもギルレイはまだ壮世代で中世代じゃないだろ?」
『俺の世代だと、あと70年くらい大して変わらない。リミル達からすれば幼世代から青世代に変わるから大きな違いかもしれないがな。』
ギルレイはそういっておどけたように肩を竦ませた。確かに1000年以上生きている人族からすれば70年は短いのかもしれない。
ちなみに世代毎の年齢幅は下の通り。
幼世代→100歳未満
青世代→100歳以上300歳未満
壮世代→300歳以上1200歳未満
中世代→1200歳以上3000歳未満
高世代→3000歳以上10000歳未満
越世代→10000歳以上
「俺からすれば…70年は2~3倍?」
『あ、リミルの年齢な、調べてきたぞ。叔父ということで戸籍が見れたからな。2人はここから東南東に向かった所、この大陸で見ると1番東にある港街ルセフに住んでいるみたいだ。ルセフのギルドでリミルの戸籍も登録されていた。リミルの年齢は今年28歳だった。』
「ルセフか…行ってみたいな。俺、28歳だったんだな。これからはちゃんと年齢が言えるよ。」
リミルは旅に出た際の最終目的地をルセフにしようと決めた。
ルセフに住んでいたはずなのになぜリンドの森にいたのかは不明だし、両親がどこに行ったのか、何をしているのか、生きているのかさえ分からない。
両親がどんな人達なのか知りたいような、知りたくないような。生死も分からず、今後会えるのかも分からないのに知ってどうするという気持ちと、何故一人森に置き去りにされることになったのかを知りたい気持ちと。
ただ、自分が生まれた街は見ておきたいと思った。どれくらいの期間居たのかも分からないが戸籍の登録はされていたのだから暫くはいたはずだ。
自分の痕跡くらいは探してみたい。
リミルが考えに耽っているとギルレイがガサゴソと何かを取り出した。
『問い合わせた時にな、宛先が書かれた手紙があるからと送られてきたんだが…。リーマスとミルレアからだった。2人は俺とお前に手紙を残していた。』
そう言ってギルレイは取り出した手紙をリミルに渡した。リミルは躊躇いつつも受け取ってじっくりと読んだ。
☆──────────☆──────────☆
┃親愛なる兄様、ギル兄へ ┃
┃ ┃
┃拝啓 ┃
┃如何お過ごしでしょうか。 ┃
┃兄様が駆け落ちされてからどれ程の時間が経っ┃
☆たことでしょう。 ☆
┃先生はお元気ですか? ┃
┃私は二百年ほど前にリーマスと結婚し、最近に┃
┃なってようやく子を授かりました。 ┃
┃名前はリミルです。 ┃
┃可愛い男の子で、私にとても似ているとよく言┃
☆われます。 ☆
┃リーマスが抱っこするとリミルもリーマスも穏┃
┃やかな顔をするので見ていて微笑ましいのよ?┃
┃是非見て欲しいから写し絵を同封するわ。 ┃
┃兄様も大事に持っててね。 ┃
┃リミルが大きくなったらそちらに行くだろうか┃
☆ら。 ☆
┃ ┃
┃ギル兄、お久しぶりです。 ┃
┃結婚の挨拶に行けなくて残念ですが、何とか御┃
┃両親に許可を頂けるくらいに強くなり、結婚し┃
┃ました。 ┃
☆──────────☆──────────☆
☆──────────☆──────────☆
┃先生の降魔病は治せそうですか? ┃
┃僕の方でも調べてみましたが研究者達の報告会┃
┃でも進展はしていないそうです。 ┃
┃お役に立てず、すみません。 ┃
┃その研究者の一部で怪しい噂を聞き、今度調査┃
☆する事になりました。そこで頼みがあります。☆
┃調査の間、ミルレアとリミルを預かって頂けま┃
┃せんか?何やら不穏な気配で、二人を巻き込み┃
┃たくありません。ミルレアは着いてきたい気持┃
┃ちとリミルを残したくない気持ちとで揺れてい┃
┃ましたが、もし万が一があった時、両親が居な┃
☆いのはリミルが可哀想だからと納得してくれま☆
┃した。それにまだリミルは二歳です。 ┃
┃甘えん坊で好奇心旺盛でとても可愛い、僕らの┃
┃大事な息子です。 ┃
┃安心して調査に打ち込めるよう暫く預かっても┃
┃らうだけです。一週間後、イレアに向かいます┃
☆ので、会えるのを楽しみにしていてください。☆
┃ ┃
┃兄様、暫くリミルとお世話になります。アンリ┃
┃先生にもよろしくお伝えください。 ┃
┃敬具 ┃
┃ ギルレイの妹、義弟より┃
☆──────────☆──────────☆
☆──────────☆──────────☆
┃僕の大事な息子、リミルへ ┃
┃ ┃
┃一応、何かあった時のために残しておくね。 ┃
┃文字が読めるようになったら。いや、僕がいな┃
┃くなった事が理解出来るようになった頃見せて┃
☆貰ってくれ。 ☆
┃リミルを残すことになるのはツラいから、パパ┃
┃頑張ってくるから。悪い事をしてる人達をちゃ┃
┃んと捕まえて戻ってくるから。優しくて強い子┃
┃に育ってくれ。いつも大切な人達の味方で居て┃
┃やるんだぞ。リミルの家族や友達や仲間を大切┃
☆だと思えるのはリミルだけだ。他の誰かが大事☆
┃にしてくれるとは限らないんだ。ごめんとあり┃
┃がとうくらいは言える大人になれよ。 ┃
┃ ┃
┃パパはいつもリミルの味方だ。 ┃
┃パパずるい、ママもよ。 ┃
☆愛してるわ、リミル。 ☆
┃僕も愛してるよ、リミル。 ┃
┃ ┃
┃僕の物は全部ミルレアとリミルの物でもある。┃
┃何かあればギル兄を頼るんだよ?ママを頼む。┃
┃ リミルが大切なパパとママより┃
☆──────────☆──────────☆
リミルは捨てられたのではないと、愛されていたのだと分かって泣いた。愛情を感じて嬉しくて、その2人が居なくて悲しくて。
知りたかったけど知りたくなかった。この手紙の感じだと父は死んでいる可能性が高い。それに母も。ギルレイがリミルや母と合流出来ていなかったからリミルは森にいたのだろう。それに手紙自体が届いていなかったからギルレイがリミルの存在に気づく事も出来なかった。
そう考えると悲しくて寂しくて辛い。
<リミル、居ない2人が両親だった事はマイナスでは無い。今までと状況は同じだ。愛されていたのだから境遇はプラスに変わる。グレモスが気づかなければ捨てられたかどうかすらも知らないままだった。良い両親で良かったと思うべきだ。どうせなら生きていて欲しいのも分かるが行方不明で死亡と決まったわけじゃないだろ。 ならいつも通り過ごすしかない。>
クライは捨てられたと思っている。実際は少し前までのリミルと同じで何故1人なのか不明だ。境遇が同じだったからこそ、子どもを捨てるような親で無くて良かったという言葉に重みを感じた。
「クライ…そう…だな。ありがとう。いつも通り期待はしないようにしよう。生きてるかもって思ってて死んでたって聞くのは流石にキツい。」
流れていた涙が止まり、少し腫れた目で、乾いたように、寂しげに微笑むリミルを見て、ギルレイは拳をキツく握りしめた。その反対の手で写し絵をリミルに渡した。
『リミル、手紙に添えられていた写し絵だ。リーマスも抱っこされてるリミルもそれを見るミルレアも穏やかな顔をしている。これはお前が持っておけ。』
「でもミルレアがギルレイに持っておいて欲しいって…。」
『俺はコピーしたのをちゃんと持ってるから。俺宛だったから先に読んだんだ。リミルの家族写絵なんだからリミルが元絵を持っておいた方がいいだろうと思ってな。』
「そっか…。ありがとう。大切にする。手紙も貰っていい?」
リミルは写絵の中の小さな男の子のように穏やかな笑みを浮かべた。
『ああ。俺宛の所はコピーさせてもらったぞ?』
「うん。とうさ……パパ、ママって呼んで欲しいのかな?」
リミルは父さん母さんと呼ぼうとして手紙に強調するように書かれた文字を思い出し、呼び方を改めた。手紙をもう一度見る。何度か出てくるパパやママの文字だけ太字で書かれていて、ふっと笑ってしまう。
2枚目を見て顔を引き締め直し、ギルレイを見据えて話す。
「パパの書いた内容について調べるんだろ?鬼神候補だったって言ってたくらいだからパパだって強かったはずだ。1人で調べたりしないだろうけど、ギルレイたちも気をつけろよ?」
『もちろんだ。リミル達は絶対首を突っ込むなよ。もし必要なら安全を確保した上で頼るから知らぬ振りをするんだ。良いな?』
リミルは嫌そうな顔をした。両親に何かした奴には報復したいが鬼神候補と言われた父親がやられたかも知れないのだ。負ける可能性の方が高い。出来れば捕まえてもらって裁く時になってから呼んで欲しい。重めの求刑をするから。
「お願いされても出来れば巻き込まれたくないけど…。まぁパパやママの事が分かるなら安全を確保された上で協力するよ。」
<俺もリミルに同じ。出来れば巻き込まないでくれ。リミルの両親のためなら一応出来ることはやるが。>
僻んだりすること無くリミルの両親やリミルのために動こうとしてくれるクライにリミルは尊敬と敬愛と信頼の念を込めてありがとうと言った。シンクロしてるので通じたのか照れるクライが珍しい。だが、初めての父の言葉なので、出来る限り実行したいし、そうありたいと思った。
『ああ。でももしその相手にリーマスの息子がいるとか知られたり知られていたりしたら巻き込まざるを得ないけどな。』
「今まで何ともなかったんだから何も無い事を願うよ。」
怒ったり拗ねたり泣いたり笑ったり。ギルレイと話している間に何があったのかと中庭を挟んで見守っていた4人はヒヤヒヤしていた。
「ごめん。待っててくれたんだな。」
『何かあったの?』
ニーナが心配そうに聞いたが今話してしまうと言わない方がいい事まで言ってしまいそうだったリミルは落ち着く時間を作ることにした。
「うん。でもまだ俺も混乱してるから。落ち着いたら話すよ。」
ギルレイと何かあったのかと思った4人はギルレイに目線を向ける。
『リミルの事だから俺からは話せない。』
『2人が喧嘩したとかじゃない?大丈夫?仲直りは早くした方がいいよ?』
アキリムの言葉にギルレイとリミルは顔を見合わせ同時に否定した。
『「違う違う!」』
<喧嘩なら一緒にいる俺が止めてるだろ。>
『『『確かに。』』』
アキリム、ニーナ、ジャックが声を揃えて言い、クロトが話題を変えた。
『落ち着いたら話してくれるって言ってるんだし、あんま突っ込むのは良くないだろ。この話は終わり。とりあえず今後のパーティでの予定だけ立てとこうぜ。』
皆頷いてニーナを筆頭にレベル上げのそれぞれの状況を話した。
『そーだね!あたしそろそろレベル伸びなくなってきたからレベル上げの方法を少し変えて欲しいんだけどどう思う?』
『僕も最近伸びが良くないから僕も!』
『俺はレベルの解放率は順調に上がってるよ。』
『俺はそのうち2人に追いつかれそうで正直焦ってるよ。先に冒険者やってるのになーって。』
恐らくジャックは成人してから鍛え始めたとリミルは考えていた。
ジャックの称号を見るに、子どもの頃、魔力が高すぎる故に魔力暴走を起こした。それから両親が心配から過保護になり、成人してから必死で説得して冒険者になった。魔法の才能の称号を持ちながらも魔力暴走の後遺症みたいなもので魔力に制限がかかっていたせいで夢追人や魔法バカという称号がついたといったところか。
ピロンッ。
正解だったのか近かったのか探偵のレベルが上がった。
アキリムは年齢とレベルの差から恐らく成人前からレベル上げを行っている。
そう言えば、アキリムは28歳だと聞いた。同い歳だ。
自分の年齢を言えるタイミングがあれば言おう。
流石にリミルほど早くからという訳では無いが成人になる数年前位からではないかと思う。
ニーナから聞いた話ではニーナも両親を殺されて必要にかられてレベル上げを始めたと言っていたのでジャックよりも早い。
やはり成人前からレベル上げを始めるとレベルの上がり方が早くなるらしい。
しかし最近伸びが悪くなってきたのは慣れからか、あるいは若年ボーナス(仮)が減少傾向にあるのか。
ニーナはまだ未成年なため慣れの可能性が高い。そろそろ6階層にパーティでなら行けそうなくらいにはなったので行ってみようかと考える。
「レベルが上がるほどに伸びにくくなるらしいから仕方ないよ。とりあえず、始まりのダンジョン6階層にパーティ全員+ギルレイで行ってみる?」
4人は行きたそうにしているがギルレイがどう答えるのかを待っている。
『俺も?』
「3人で行くって言ってたの覚えてる?一応パーティでなら6階層がギリギリ行けるかなって思うんだけど心配だし約束もしてたしどうせなら一緒にどうかなって。」
『ああ。そういやそうだな。毎日は流石に無理だが5日に1回午前中だけとかならまあ大丈夫だと思う。会議があると日にちが前後する可能性もあるけどな。』
それでもいいということで4人にとってはキツめの訓練が追加されることになった。ジャックは恐らくキツいだろうと覚悟している気がする。だが3人は少し強くなるくらいに思っている様子だ。
「一応もう一度言っておくけど、6階層はパーティでギリギリ行けるかなって程度だからな?」
『えと7階層は行けないってこと?』
アキリムが少し考えて答える。
「そうそう。今までと違ってハードな訓練になると思う。敵のレベルが一気に上がるし、相手もパーティとして戦うし、1つのパーティ相手だとは限らないし。」
『ええ!それってむちゃくちゃハードじゃん!同程度のパーティかもしくは格上のパーティと戦うようなもんじゃない?』
クロトが驚愕しているがジャックが平然と補足する。
『しかもそれが1つとは限らないからレベル上げには良いけどハード過ぎてしんどいやつな。5日に1回で逆に有難いよなー。』
『しんどくてもレベル上げが出来るのは嬉しいわ。行く日までに職業を何か増やしておこうかな?』
『あ、それいいな!俺も増やそー。』
ニーナとジャックは激しめの訓練にとても前向きだ。むしろ楽しそうですらある。クロトとアキリムもそれに乗せられてか、驚いていたのが今では寧ろ燃えているように感じる。
『なあギルレイ、リミル。俺が戦闘に幅を持たせるためにはどんな職業を取得すれば良いかな?』
ジャックは魔法剣士が主力で魔法主体の戦い方をする。剣や自身への強化魔法や補助魔法も得意だ。ならそれを活かしつつ補佐する役割のできそうな職業が良いだろう。
「様々な小道具を使うことが出来てなおかつ身軽さも習得できる忍者とかどうだ?」
『え!忍者いるの!?』
「いるって?忍者は職業の1つだよ。暗部系の職業だけど小刀や苦無や手裏剣、バフやデバフ効果を付与できる煙玉が使えて、なおかつ身軽になるんだ。足音も減るし、動きも早くなるしジャンプ力も付くから結構誰にでもオススメじゃない?暗部系の中では比較的忌避されない職業だし。」
クロトは『苦無や手裏剣に煙玉まで…。あ、そうか俺の知ってる言葉に翻訳されてるだけか。…形まで一緒だったらどうしよう…。それこそ日本で作られたゲームだよな…。でも感覚が生々しいし寝たら戻るとかもなくて普通に夢とか見るし…。いや、形が似てても不思議は無いな。似てるからこそそう翻訳されてるんだし…うん。忍者装束が無ければ大丈夫だ。きっと無い。だってクラスの1つって言ってたし…。』と1人ブツブツと独り言を呟いている。
クロトは放置してギルレイがリミルの補足をする。
『そうだな。森を移動する時にも役に立つから取っておくと便利だな。魔法剣士で剣への魔法付与が得意なジャックには使い勝手が良いだろうし。小刀には無理だったと思うが、苦無や手裏剣には浮遊効果も付けられるから剣で攻撃しながら飛ばした苦無や手裏剣で追加攻撃なんかも出来るし、ジャックなら魔力も高いからいくつか待機させておいて一斉攻撃させて自分は下がるとか、自由に扱えるんじゃないか?』
『へぇー。良さそうだな!俺は忍者を取得しようかな。それって取得方法公開されてる?』
職業によって取得方法は異なるが系統によっては似たり寄ったりだったりもする。公開非公開はギルドが管理しており、情報公開が出来ない物は秘匿され、代わりにオススメできる物は詳しい方法が公開されていたりする。方法が似ている系統の物はまとめて公開されている。
『忍者は一般公開ではなくて聞かれれば答える任意公開だ。一応暗部系だからな。聞けば教えてくれる。ただ、窓口でいきなり言っても教えてもらえない。ギルド窓口では職業の取得について相談に来たと言うんだ。個室に移動してから忍者について聞けば取得条件や方法を教えてくれる。何度聞き直しても良いが窓口で具体的な職業名を口に出すなよ?教えてもらえなくなるからな?』
『分かった。』
ジャック以外の皆も真剣に聞いていた。いつの間にか自分の世界から帰ってきたクロトも。独り言はもう済んだらしい。
「でもアキリムは魔法付与に気を取られるとタンク職を活かせないし、ニーナは野伏だから既に身軽だし、クロトは小物を投げるという点では投擲士の方が精度が高いから3人には別のをオススメするよ。」
そう言うと3人とも興味津々と言った感じで前のめりになった。リミルは若干押され気味で簡単な理由と共にオススメを教えた。
「アキリムは体操者。身体が自分の思うように動くとタンク職として自由度も増すし、少しくらい無理な体勢をとっても体力の減りが少なくなる。それに移動の時に鎧の音が小さくなる。」
『なるほどな。アキリムのタンク力を最大限伸ばすには良い選択だな。タンクの欠点である動きにくさや鎧の音、移動速度も補えるし良いんじゃないか?』
『2人がそう言うなら僕は体操者を取ってみるよ!』
アキリムが納得したようなので安心して次に。
「ニーナには野伏の職業改変をオススメするよ。それに必要な条件がニーナに合ってると思うし、職業改変後は狩人になるんだけど、狩人になった後でも有効だから。」
『そうだな。職業改変について窓口で聞けば個室で詳しく聞くことが出来る。詳しくは聞いてからのお楽しみだな。さっきと同じで具体的な職業名を出すのは控えろよ?』
『分かったわ。とりあえず狩人を目指せば良いのね?』
頷いてみせるとニーナも楽しみにしてくれているようなので次に。
「クロトは生産職に向いている職業か戦闘職で投擲士と相性の良い職業かにもよるけど今欲しいのは?」
『んー…どっちも欲しいけどとりあえず今は戦いやすくしたいかな。』
クロトは少し考えて、戦闘職を選んだ。パーティでの戦い方がまだアキリムに守ってもらいながらになっていることに引っかかりを覚えていた。それをどうにかしたいと思っていたからこその選択だった。
「なら軽業師が良いと思う。ジャンプ力や脚力、軽い身のこなし、壁や物を使っての高い跳躍などが出来るようになる。」
『跳躍?それってパルクールとかアクロバット的な?』
日本では出来る気もしなかったし、怪我しそうでやろうとも思わなかったが見ている分にはカッコイイと憧れていた。
クロトは最近、やればやるだけレベルが上がるこの世界の理を理解し始めており、憧れていただけだった動きが出来るのかと思うとテンションが上がった。
『そうだな。身体だけを使っているパルクールと物を使うアクロバットを混ぜた名前なんだ。翻訳がどうなってるかは知らない。派手な技とかやりたいやつは大体取ってるだろうな。向いてない奴が取ると怪我をするから一応任意公開なんだ。普通はアキリムが取る体操者を取らせてからにすることが多い。身体を痛めないためにな。アキリムは体操者を覚えてある程度レベルが上がってもし興味があれば取るといい。』
翻訳は正直どうなっているかクロトに確認する術は無かった。軽業がアクロバットを指すこともトレーサーがパルクールをする人を指すことも知らない。だが今軽業師の職業を取ると何が出来るようになるのかは教えて貰ったので問題ない。
『俺はいきなりでも大丈夫なの?』
「まあな。逃げ回りながら投擲するからかクロトの脚力が強くなっている。だから大丈夫だ。」
『なら軽業師を取得しようかな。』
しばらくの方向性は決まったので解散となった。
リミルとクライは部屋で一応《密談》を使って話す。
「皆にはどこまで話そう。」
<巻き込みたくないなら親戚と戸籍が見つかった事とギルレイが親戚だった事、グレモスから祖父母に会ってみないかと言われている事を言えば良いんじゃないか?>
「祖父母とギルレイが親戚として現れて動揺して、戸籍が見つかったことで年齢も分かって泣いて、会うことに悩んでるって感じか?概ね事実だしそれで行くか…。」
<手紙もたまに眺めるなら3枚目のリミル宛の奴だけにしろよ?それだけなら父親は捜査機関の人間だったで済むだろ。実際にそうだったら疑われずに済むかもしれない。ギルレイに確認しよう。>
「そうだな。」
次の日、早朝にギルレイの部屋へ入った2人は話し合った事を伝えた。するとリミルの家族写絵を取り出してじっくりみたギルレイが肯定した。
『写し絵に捜査機関のバッジを付けたリーマスが写ってるから間違いないな。失踪した捜査員の捜索は捜査機関がやっているだろう。グレモスが言っていた捜査の進展というのも恐らく捜査機関のことだ。今日にでも詳しい捜査状況を聞いておく。』
皆が降りてくる時間になりいつも通り朝食を食べると全員でギルドに向かう。ギルレイとは別れて受付に行き、職業について知りたいと伝えリリアンと共に個室に入った。
リミルのパーティはルスタフやノフテスからの移動組ばかりなので必然的にリミルの担当をしているリリアンがパーティの担当になっている。
リリアンからそれぞれの職業についての説明を聞いた。
『アキリム君が取得したい体操者は柔軟と体幹トレーニングが重要になります。このふたつを毎日軽く、寝る前と起きた後に無理のない程度に続けてください。どちらもある程度出来るようになったタイミングで職業自体は現れます。現れたら睡眠の前後にやるのとは別に体幹トレーニングを追加してください。徐々にキツいメニューを増やすと効果的にレベル上げが出来るはずです。』
『わかった。睡眠の前後にやる軽い柔軟と体幹トレーニングはずっと続ける方がいい?』
『はい。続ける方がレベル上げがしやすいそうです。焦ってキツいものにしてしまったりすると筋肉を痛めるなどして返って時間がかかってしまうので睡眠の前後はあくまで軽く無理のない程度にが原則となります。』
アキリムは分かったようで頷いて一連の流れを確認した。
『次にクロト君の軽業師ですが…リミルちゃんはクロト君の脚力と柔軟性と体幹が大丈夫だと思ったんですよね?』
「うん。戦ってるときに見る限りでは大丈夫そうだった。」
『リミルちゃんが言うなら…。では説明を続けますね。軽業師はアキリム君に説明した事が出来る前提で話します。逆立ちやバック転、転回、着地、受け身、に加え、脚力強化も兼ねてひたすらジャンプ、壁蹴りを含め壁を使ったジャンプ、これらをいくつか覚えれば職業が現れるので全てを難なくこなせるまで反復練習、余裕が出来ればジャンプ中に投擲練習をすれば《流鏑馬》という特殊技能もゲット可能です。』
『わぁ…頑張ろ。』
クロトは少し遠い目をしながら決意を固めるのだった。
『ジャック君の取得したい忍者はジャンプ練習はクロト君のと少し似た所がありますが、それに加えて気配を消す練習や、小刀・苦無・手裏剣を投げたり魔法操作したりという練習もしなければ行けません。』
『職業が現れる条件は?』
『ジャンプと気配を消すのと苦無などの魔法操作を満遍なく練習すれば早い段階で現れるはずです。それからはひたすら練習あるのみ。忍者は残念ながらそれ以上詳しいことは分かっていません。』
『わかった。』
ジャックは相変わらず訓練に前向きでとても楽しそうである。
『最後にニーナちゃんの職業改変についてですね。今ある野伏ともう1つの職業を取得するのが条件で、狩人になれるのだけど、職業改変は慎重にしてくださいね。間違うと大変ですから。』
『慎重にね、わかった。』
気合いを入れすぎているニーナを見てリミルは力を抜かせるために条件を1部教えることにした。
「まあ2つともレベルを100にしないと出来ないから大丈夫だろ。」
『そうですね。でも一応確認するのが決まりですから。それで、もう1つの職業なんですが、生き物使いです。』
『魔獣や魔物とたくさん契約するの?』
これから習得してレベル上げをするからまだ先だなと緊張をといてレベル上げを頑張ろうと意気込んでいたニーナは生き物使いと聞いてたくさんテイムしなければならないのかと思った。
『いいえ。契約するとお世話もしなくちゃならなくなるからそれは大変でしょう。生き物使いは魔獣や魔物に拘わらず、一時的に協力して貰う形で力を借りることが出来る職業です。』
『何それ楽しそう!』
『ですがここで注意事項があります。生き物使いは植物系の生き物達からも力を借りることが出来るのですが、それが出来ないと、動物愛好家という職業になってしまいます。』
ニーナは野伏として生き物達への接し方は注意してきた。異変を教えてくれるのはいつも生き物だからだ。ただ、生き物使いを取得する条件が揃っていなかっただけで、取得条件の一つである生物との平等な接し方という点はクリアしていた。
『取得条件は?』
『生物への種族に拘わらない平等な接し方、生物を頼る代わりに対価を払う、生物を助ける、生物に好かれる、生物を狩る、生物と協力して何かをする。この6点をクリアすれば職業が現れます。』
「知らなかったなぁ…」
『リミル君、狩人の職業持ってたよね?』
リミルは冒険者登録をした時には既に狩人の職業は所持していた。正直、野伏や生き物使いを取得した時のことは覚えていない。使っていた記憶は僅かだがある。ただ、朧気ながら狩人に職業改変した記憶とステータスに痕跡が残っているから職業改変に何と何の職業が必要か分かるだけだ。
ちなみに痕跡は自身のステータスを確認した時のみ見られる項目だ。
「持ってるけど昔過ぎて覚えてない。どっちを先に取ったのかも覚えてないんだ。2つや3つの職業をまとめるタイプの職業改変は先に取得した方の職業に上書きされるんだ。何の職業が何に改変したのかは痕跡が残るが詳しい情報まで残らないからな。」
毎日午前中は4人のレベル上げに付き合い、お昼を食べた後は各自自由にしていた。リミルは自身のレベル上げの時間が午後にしか取れないので依頼を受けるついでにレベル上げをやったりもした。ガッツリ稼ぐ日もあれば、たまにトウと街で散歩したり、クライと森を散歩したり。
依頼は最近まで、リミルとクライとジャックでやっていた。3人の時もあれば2人の時もあり、1人の時もあった。3人での依頼は徐々に減っていった。別れて稼いだ方が効率がいいからだ。そして高位への依頼はリミルとクライかリミル単体でしか受けられないため、2人での仕事もやり、リミル1人でも良さそうな依頼の時は効率を優先して3人それぞれで依頼を熟した。
最近ではアキリム、ニーナ、クロトが簡単な依頼なら出来そうなくらいにはなったので新たな経験を積ませレベル上げも同時に行っていたりする。3人で出来そうな依頼は任せ、少し難しい依頼はクライかリミルが一緒に行う。ジャックはジャックの判断で参加したりしなかったりだ。
皆も毎日依頼を受けている訳ではない。リミルが今までの生活と同じようにやっておきたいことややらないといけないことを優先にしたので、皆も同じように自由に今日は休もうかなとか今日は依頼を受けようかなとかその日の気分でそれぞれ行動している。依頼を受けようと思った者同士で組んで依頼を受けることもあった。
連絡は《チャット》でやり取りし、夜第2リビングに集まった時に何をしたとか誰の依頼を受けたとか話し、情報交換はこまめに行った。パーティでの活動については特に。個人の休みについては自分から話さない限りは踏み込んだりしない。
『今日の依頼は面白かった。食材集めっていいね!どんな料理になるのか考えながらやるとワクワクして!』
『考えすぎてお腹減ったけどな。』
『報酬に食べさせてくれたから助かったわ。シチューを食べさせてくれたんだけど美味しかった。』
「ココリの依頼か!ココリの料理ってほっこりする味だよな。」
『それは気になる。俺も一緒に行けばよかった。』
<今度全員で受ければ良いんじゃないか?>
『まあココリなら人数が増えるのは喜ぶだろうが、あんまり迷惑はかけるなよ?あー、リミルとクライ、向こうのリビングで話がある。』
「?わかった。」
<ああ。>
『皆はそのまま話してても寝ても良いぞ。』
3人はダイニングを通って元からあるリビングに入った。コの字型のソファに座ると中庭を挟んで向かい側にあるリビングからこちらを気にしている4人の姿が見えた。
手をヒラヒラと振り、ギルレイの言葉に耳を傾ける。
『実はな、前にグレモスが言ってたお前の両親の親、つまりお前の祖父母についてグレモスから連絡がきた。』
リミルはたじろいだ。前にグレモスの店で話した時は、親かも知れないと言っていた。
リミルはずっと親が欲しいとは望んで来なかった。下手な願いは自分を傷つける。期待はせずにいた方が何かを得られた時、喜びが大きいからだ。
ただ…、目に映る子ども達が、親子連れが、家族連れが、羨ましかった。自分とは違うのだと妬ましい気持ちもあった。
幸いなことに、人族に出会って直ぐアンリと出会い、優しさに触れ温かさを知ったお陰で、クライと出会ったお陰で、独りでは無かったため激しい嫉妬などはしなかった。気づいたら自分の状況を受け入れていた。諦めもあった。
それらが今、崩されようとしている。
両親らしき2人は行方不明だと言っていた。もし仮に両親だったとしても家族が手に入る訳では無い。祖父母が突然現れるに過ぎない。大丈夫。大丈夫。
リミルは自分を落ち着かせるために1度深呼吸し、とりあえず確定なのかギルレイに確認する。
「断定して話すってことは…」
『ああ。確認が取れたらしい。リーマスとミルレアは間違いなくリミルの両親だ。』
「………。」
リミルは絶句した。喜びが大きいかと思いきや、哀しみと戸惑いと不安が心の大半を占めていた。これまでのことが一気に甦り、心の中は何とも言い難い感情だらけで複雑な状態だった。受け入れたいような受け入れたくないような矛盾した気持ちが綯い交ぜになり、叫び出したい気分だ。そんな葛藤を抱え悶々としていると戸惑ったようなギルレイの声がかかる。
『………それでな、リミルに言わなくちゃ行けないことがあるんだ……』
何を言われるのか、不安に苛まれる。ただでさえ混乱しているのにこれ以上混乱させないでくれというリミルの願いは聞き届けられなかった。
『俺はミルレアの兄で、つまりはお前の叔父にあたる……。グレモスからミルレアの名前が出たとき、直ぐに言うべきだったんだが、ずっと家族とは連絡を取っていなかった。駆け落ちをしたから取れなかったんだが、ミルレアが結婚をしたのは風の噂に聞いていた。それが失踪していたのも子どもを産んでいたのも俺には驚きで…。言い出せなかった……。すまん。』
「ちょ、と、待って、くれないか?ギルレイが俺の叔父?…そうか。それで態度が変わったのか。ならそんなの知らないままの方が良かった。」
『態度?なんの事だ?』
ギルレイは言わなかったことに怒ると思っていたみたいだ。正反対の言葉に驚きつつ、リミルの言ったことに引っかかった。
「…グレモスの話を聞いた後くらいからギルレイに義務感みたいなのが透けて見えて、俺は素直に好意として受け取れなくなったんだ。最初は気のせいかとも思ったけど、依頼で離れて、アイツらを連れ帰ったらより実感が湧いて。俺もアイツらに対してギルレイと同じようにしないといけなくなる気がして。」
『そんなこと!…確かに俺はミルレアの名前が出てから俺が連絡を取っていれば、早くに気づいていれば、もっと気にかけておけばと何度も後悔した。それで叔父として出来ることはやろうとも思った。それが態度に出ていたかもしれない。親戚としての義務感もあったと思う。でも、それはあくまで俺の事情であってリミルがアイツらにしてやらないといけない訳では無い。リミルはアイツらと同世代だ。世話を焼いたり面倒をみたりするのは中世代以上に任せておけばいい。リミルもアンリと出会ってからの経験で知っているだろ?子どもは皆で育てるものだと。』
リミルはアンリエットとベテラン冒険者達に様々なことを教わった。もちろんギルレイやクリード、リリアン達にも。その時の記憶が思い起こされ、ふっと強ばっていた身体の力が抜けた。
「そうだな。確かに。俺はアイツらと同じ幼世代だ。でもギルレイはまだ壮世代で中世代じゃないだろ?」
『俺の世代だと、あと70年くらい大して変わらない。リミル達からすれば幼世代から青世代に変わるから大きな違いかもしれないがな。』
ギルレイはそういっておどけたように肩を竦ませた。確かに1000年以上生きている人族からすれば70年は短いのかもしれない。
ちなみに世代毎の年齢幅は下の通り。
幼世代→100歳未満
青世代→100歳以上300歳未満
壮世代→300歳以上1200歳未満
中世代→1200歳以上3000歳未満
高世代→3000歳以上10000歳未満
越世代→10000歳以上
「俺からすれば…70年は2~3倍?」
『あ、リミルの年齢な、調べてきたぞ。叔父ということで戸籍が見れたからな。2人はここから東南東に向かった所、この大陸で見ると1番東にある港街ルセフに住んでいるみたいだ。ルセフのギルドでリミルの戸籍も登録されていた。リミルの年齢は今年28歳だった。』
「ルセフか…行ってみたいな。俺、28歳だったんだな。これからはちゃんと年齢が言えるよ。」
リミルは旅に出た際の最終目的地をルセフにしようと決めた。
ルセフに住んでいたはずなのになぜリンドの森にいたのかは不明だし、両親がどこに行ったのか、何をしているのか、生きているのかさえ分からない。
両親がどんな人達なのか知りたいような、知りたくないような。生死も分からず、今後会えるのかも分からないのに知ってどうするという気持ちと、何故一人森に置き去りにされることになったのかを知りたい気持ちと。
ただ、自分が生まれた街は見ておきたいと思った。どれくらいの期間居たのかも分からないが戸籍の登録はされていたのだから暫くはいたはずだ。
自分の痕跡くらいは探してみたい。
リミルが考えに耽っているとギルレイがガサゴソと何かを取り出した。
『問い合わせた時にな、宛先が書かれた手紙があるからと送られてきたんだが…。リーマスとミルレアからだった。2人は俺とお前に手紙を残していた。』
そう言ってギルレイは取り出した手紙をリミルに渡した。リミルは躊躇いつつも受け取ってじっくりと読んだ。
☆──────────☆──────────☆
┃親愛なる兄様、ギル兄へ ┃
┃ ┃
┃拝啓 ┃
┃如何お過ごしでしょうか。 ┃
┃兄様が駆け落ちされてからどれ程の時間が経っ┃
☆たことでしょう。 ☆
┃先生はお元気ですか? ┃
┃私は二百年ほど前にリーマスと結婚し、最近に┃
┃なってようやく子を授かりました。 ┃
┃名前はリミルです。 ┃
┃可愛い男の子で、私にとても似ているとよく言┃
☆われます。 ☆
┃リーマスが抱っこするとリミルもリーマスも穏┃
┃やかな顔をするので見ていて微笑ましいのよ?┃
┃是非見て欲しいから写し絵を同封するわ。 ┃
┃兄様も大事に持っててね。 ┃
┃リミルが大きくなったらそちらに行くだろうか┃
☆ら。 ☆
┃ ┃
┃ギル兄、お久しぶりです。 ┃
┃結婚の挨拶に行けなくて残念ですが、何とか御┃
┃両親に許可を頂けるくらいに強くなり、結婚し┃
┃ました。 ┃
☆──────────☆──────────☆
☆──────────☆──────────☆
┃先生の降魔病は治せそうですか? ┃
┃僕の方でも調べてみましたが研究者達の報告会┃
┃でも進展はしていないそうです。 ┃
┃お役に立てず、すみません。 ┃
┃その研究者の一部で怪しい噂を聞き、今度調査┃
☆する事になりました。そこで頼みがあります。☆
┃調査の間、ミルレアとリミルを預かって頂けま┃
┃せんか?何やら不穏な気配で、二人を巻き込み┃
┃たくありません。ミルレアは着いてきたい気持┃
┃ちとリミルを残したくない気持ちとで揺れてい┃
┃ましたが、もし万が一があった時、両親が居な┃
☆いのはリミルが可哀想だからと納得してくれま☆
┃した。それにまだリミルは二歳です。 ┃
┃甘えん坊で好奇心旺盛でとても可愛い、僕らの┃
┃大事な息子です。 ┃
┃安心して調査に打ち込めるよう暫く預かっても┃
┃らうだけです。一週間後、イレアに向かいます┃
☆ので、会えるのを楽しみにしていてください。☆
┃ ┃
┃兄様、暫くリミルとお世話になります。アンリ┃
┃先生にもよろしくお伝えください。 ┃
┃敬具 ┃
┃ ギルレイの妹、義弟より┃
☆──────────☆──────────☆
☆──────────☆──────────☆
┃僕の大事な息子、リミルへ ┃
┃ ┃
┃一応、何かあった時のために残しておくね。 ┃
┃文字が読めるようになったら。いや、僕がいな┃
┃くなった事が理解出来るようになった頃見せて┃
☆貰ってくれ。 ☆
┃リミルを残すことになるのはツラいから、パパ┃
┃頑張ってくるから。悪い事をしてる人達をちゃ┃
┃んと捕まえて戻ってくるから。優しくて強い子┃
┃に育ってくれ。いつも大切な人達の味方で居て┃
┃やるんだぞ。リミルの家族や友達や仲間を大切┃
☆だと思えるのはリミルだけだ。他の誰かが大事☆
┃にしてくれるとは限らないんだ。ごめんとあり┃
┃がとうくらいは言える大人になれよ。 ┃
┃ ┃
┃パパはいつもリミルの味方だ。 ┃
┃パパずるい、ママもよ。 ┃
☆愛してるわ、リミル。 ☆
┃僕も愛してるよ、リミル。 ┃
┃ ┃
┃僕の物は全部ミルレアとリミルの物でもある。┃
┃何かあればギル兄を頼るんだよ?ママを頼む。┃
┃ リミルが大切なパパとママより┃
☆──────────☆──────────☆
リミルは捨てられたのではないと、愛されていたのだと分かって泣いた。愛情を感じて嬉しくて、その2人が居なくて悲しくて。
知りたかったけど知りたくなかった。この手紙の感じだと父は死んでいる可能性が高い。それに母も。ギルレイがリミルや母と合流出来ていなかったからリミルは森にいたのだろう。それに手紙自体が届いていなかったからギルレイがリミルの存在に気づく事も出来なかった。
そう考えると悲しくて寂しくて辛い。
<リミル、居ない2人が両親だった事はマイナスでは無い。今までと状況は同じだ。愛されていたのだから境遇はプラスに変わる。グレモスが気づかなければ捨てられたかどうかすらも知らないままだった。良い両親で良かったと思うべきだ。どうせなら生きていて欲しいのも分かるが行方不明で死亡と決まったわけじゃないだろ。 ならいつも通り過ごすしかない。>
クライは捨てられたと思っている。実際は少し前までのリミルと同じで何故1人なのか不明だ。境遇が同じだったからこそ、子どもを捨てるような親で無くて良かったという言葉に重みを感じた。
「クライ…そう…だな。ありがとう。いつも通り期待はしないようにしよう。生きてるかもって思ってて死んでたって聞くのは流石にキツい。」
流れていた涙が止まり、少し腫れた目で、乾いたように、寂しげに微笑むリミルを見て、ギルレイは拳をキツく握りしめた。その反対の手で写し絵をリミルに渡した。
『リミル、手紙に添えられていた写し絵だ。リーマスも抱っこされてるリミルもそれを見るミルレアも穏やかな顔をしている。これはお前が持っておけ。』
「でもミルレアがギルレイに持っておいて欲しいって…。」
『俺はコピーしたのをちゃんと持ってるから。俺宛だったから先に読んだんだ。リミルの家族写絵なんだからリミルが元絵を持っておいた方がいいだろうと思ってな。』
「そっか…。ありがとう。大切にする。手紙も貰っていい?」
リミルは写絵の中の小さな男の子のように穏やかな笑みを浮かべた。
『ああ。俺宛の所はコピーさせてもらったぞ?』
「うん。とうさ……パパ、ママって呼んで欲しいのかな?」
リミルは父さん母さんと呼ぼうとして手紙に強調するように書かれた文字を思い出し、呼び方を改めた。手紙をもう一度見る。何度か出てくるパパやママの文字だけ太字で書かれていて、ふっと笑ってしまう。
2枚目を見て顔を引き締め直し、ギルレイを見据えて話す。
「パパの書いた内容について調べるんだろ?鬼神候補だったって言ってたくらいだからパパだって強かったはずだ。1人で調べたりしないだろうけど、ギルレイたちも気をつけろよ?」
『もちろんだ。リミル達は絶対首を突っ込むなよ。もし必要なら安全を確保した上で頼るから知らぬ振りをするんだ。良いな?』
リミルは嫌そうな顔をした。両親に何かした奴には報復したいが鬼神候補と言われた父親がやられたかも知れないのだ。負ける可能性の方が高い。出来れば捕まえてもらって裁く時になってから呼んで欲しい。重めの求刑をするから。
「お願いされても出来れば巻き込まれたくないけど…。まぁパパやママの事が分かるなら安全を確保された上で協力するよ。」
<俺もリミルに同じ。出来れば巻き込まないでくれ。リミルの両親のためなら一応出来ることはやるが。>
僻んだりすること無くリミルの両親やリミルのために動こうとしてくれるクライにリミルは尊敬と敬愛と信頼の念を込めてありがとうと言った。シンクロしてるので通じたのか照れるクライが珍しい。だが、初めての父の言葉なので、出来る限り実行したいし、そうありたいと思った。
『ああ。でももしその相手にリーマスの息子がいるとか知られたり知られていたりしたら巻き込まざるを得ないけどな。』
「今まで何ともなかったんだから何も無い事を願うよ。」
怒ったり拗ねたり泣いたり笑ったり。ギルレイと話している間に何があったのかと中庭を挟んで見守っていた4人はヒヤヒヤしていた。
「ごめん。待っててくれたんだな。」
『何かあったの?』
ニーナが心配そうに聞いたが今話してしまうと言わない方がいい事まで言ってしまいそうだったリミルは落ち着く時間を作ることにした。
「うん。でもまだ俺も混乱してるから。落ち着いたら話すよ。」
ギルレイと何かあったのかと思った4人はギルレイに目線を向ける。
『リミルの事だから俺からは話せない。』
『2人が喧嘩したとかじゃない?大丈夫?仲直りは早くした方がいいよ?』
アキリムの言葉にギルレイとリミルは顔を見合わせ同時に否定した。
『「違う違う!」』
<喧嘩なら一緒にいる俺が止めてるだろ。>
『『『確かに。』』』
アキリム、ニーナ、ジャックが声を揃えて言い、クロトが話題を変えた。
『落ち着いたら話してくれるって言ってるんだし、あんま突っ込むのは良くないだろ。この話は終わり。とりあえず今後のパーティでの予定だけ立てとこうぜ。』
皆頷いてニーナを筆頭にレベル上げのそれぞれの状況を話した。
『そーだね!あたしそろそろレベル伸びなくなってきたからレベル上げの方法を少し変えて欲しいんだけどどう思う?』
『僕も最近伸びが良くないから僕も!』
『俺はレベルの解放率は順調に上がってるよ。』
『俺はそのうち2人に追いつかれそうで正直焦ってるよ。先に冒険者やってるのになーって。』
恐らくジャックは成人してから鍛え始めたとリミルは考えていた。
ジャックの称号を見るに、子どもの頃、魔力が高すぎる故に魔力暴走を起こした。それから両親が心配から過保護になり、成人してから必死で説得して冒険者になった。魔法の才能の称号を持ちながらも魔力暴走の後遺症みたいなもので魔力に制限がかかっていたせいで夢追人や魔法バカという称号がついたといったところか。
ピロンッ。
正解だったのか近かったのか探偵のレベルが上がった。
アキリムは年齢とレベルの差から恐らく成人前からレベル上げを行っている。
そう言えば、アキリムは28歳だと聞いた。同い歳だ。
自分の年齢を言えるタイミングがあれば言おう。
流石にリミルほど早くからという訳では無いが成人になる数年前位からではないかと思う。
ニーナから聞いた話ではニーナも両親を殺されて必要にかられてレベル上げを始めたと言っていたのでジャックよりも早い。
やはり成人前からレベル上げを始めるとレベルの上がり方が早くなるらしい。
しかし最近伸びが悪くなってきたのは慣れからか、あるいは若年ボーナス(仮)が減少傾向にあるのか。
ニーナはまだ未成年なため慣れの可能性が高い。そろそろ6階層にパーティでなら行けそうなくらいにはなったので行ってみようかと考える。
「レベルが上がるほどに伸びにくくなるらしいから仕方ないよ。とりあえず、始まりのダンジョン6階層にパーティ全員+ギルレイで行ってみる?」
4人は行きたそうにしているがギルレイがどう答えるのかを待っている。
『俺も?』
「3人で行くって言ってたの覚えてる?一応パーティでなら6階層がギリギリ行けるかなって思うんだけど心配だし約束もしてたしどうせなら一緒にどうかなって。」
『ああ。そういやそうだな。毎日は流石に無理だが5日に1回午前中だけとかならまあ大丈夫だと思う。会議があると日にちが前後する可能性もあるけどな。』
それでもいいということで4人にとってはキツめの訓練が追加されることになった。ジャックは恐らくキツいだろうと覚悟している気がする。だが3人は少し強くなるくらいに思っている様子だ。
「一応もう一度言っておくけど、6階層はパーティでギリギリ行けるかなって程度だからな?」
『えと7階層は行けないってこと?』
アキリムが少し考えて答える。
「そうそう。今までと違ってハードな訓練になると思う。敵のレベルが一気に上がるし、相手もパーティとして戦うし、1つのパーティ相手だとは限らないし。」
『ええ!それってむちゃくちゃハードじゃん!同程度のパーティかもしくは格上のパーティと戦うようなもんじゃない?』
クロトが驚愕しているがジャックが平然と補足する。
『しかもそれが1つとは限らないからレベル上げには良いけどハード過ぎてしんどいやつな。5日に1回で逆に有難いよなー。』
『しんどくてもレベル上げが出来るのは嬉しいわ。行く日までに職業を何か増やしておこうかな?』
『あ、それいいな!俺も増やそー。』
ニーナとジャックは激しめの訓練にとても前向きだ。むしろ楽しそうですらある。クロトとアキリムもそれに乗せられてか、驚いていたのが今では寧ろ燃えているように感じる。
『なあギルレイ、リミル。俺が戦闘に幅を持たせるためにはどんな職業を取得すれば良いかな?』
ジャックは魔法剣士が主力で魔法主体の戦い方をする。剣や自身への強化魔法や補助魔法も得意だ。ならそれを活かしつつ補佐する役割のできそうな職業が良いだろう。
「様々な小道具を使うことが出来てなおかつ身軽さも習得できる忍者とかどうだ?」
『え!忍者いるの!?』
「いるって?忍者は職業の1つだよ。暗部系の職業だけど小刀や苦無や手裏剣、バフやデバフ効果を付与できる煙玉が使えて、なおかつ身軽になるんだ。足音も減るし、動きも早くなるしジャンプ力も付くから結構誰にでもオススメじゃない?暗部系の中では比較的忌避されない職業だし。」
クロトは『苦無や手裏剣に煙玉まで…。あ、そうか俺の知ってる言葉に翻訳されてるだけか。…形まで一緒だったらどうしよう…。それこそ日本で作られたゲームだよな…。でも感覚が生々しいし寝たら戻るとかもなくて普通に夢とか見るし…。いや、形が似てても不思議は無いな。似てるからこそそう翻訳されてるんだし…うん。忍者装束が無ければ大丈夫だ。きっと無い。だってクラスの1つって言ってたし…。』と1人ブツブツと独り言を呟いている。
クロトは放置してギルレイがリミルの補足をする。
『そうだな。森を移動する時にも役に立つから取っておくと便利だな。魔法剣士で剣への魔法付与が得意なジャックには使い勝手が良いだろうし。小刀には無理だったと思うが、苦無や手裏剣には浮遊効果も付けられるから剣で攻撃しながら飛ばした苦無や手裏剣で追加攻撃なんかも出来るし、ジャックなら魔力も高いからいくつか待機させておいて一斉攻撃させて自分は下がるとか、自由に扱えるんじゃないか?』
『へぇー。良さそうだな!俺は忍者を取得しようかな。それって取得方法公開されてる?』
職業によって取得方法は異なるが系統によっては似たり寄ったりだったりもする。公開非公開はギルドが管理しており、情報公開が出来ない物は秘匿され、代わりにオススメできる物は詳しい方法が公開されていたりする。方法が似ている系統の物はまとめて公開されている。
『忍者は一般公開ではなくて聞かれれば答える任意公開だ。一応暗部系だからな。聞けば教えてくれる。ただ、窓口でいきなり言っても教えてもらえない。ギルド窓口では職業の取得について相談に来たと言うんだ。個室に移動してから忍者について聞けば取得条件や方法を教えてくれる。何度聞き直しても良いが窓口で具体的な職業名を口に出すなよ?教えてもらえなくなるからな?』
『分かった。』
ジャック以外の皆も真剣に聞いていた。いつの間にか自分の世界から帰ってきたクロトも。独り言はもう済んだらしい。
「でもアキリムは魔法付与に気を取られるとタンク職を活かせないし、ニーナは野伏だから既に身軽だし、クロトは小物を投げるという点では投擲士の方が精度が高いから3人には別のをオススメするよ。」
そう言うと3人とも興味津々と言った感じで前のめりになった。リミルは若干押され気味で簡単な理由と共にオススメを教えた。
「アキリムは体操者。身体が自分の思うように動くとタンク職として自由度も増すし、少しくらい無理な体勢をとっても体力の減りが少なくなる。それに移動の時に鎧の音が小さくなる。」
『なるほどな。アキリムのタンク力を最大限伸ばすには良い選択だな。タンクの欠点である動きにくさや鎧の音、移動速度も補えるし良いんじゃないか?』
『2人がそう言うなら僕は体操者を取ってみるよ!』
アキリムが納得したようなので安心して次に。
「ニーナには野伏の職業改変をオススメするよ。それに必要な条件がニーナに合ってると思うし、職業改変後は狩人になるんだけど、狩人になった後でも有効だから。」
『そうだな。職業改変について窓口で聞けば個室で詳しく聞くことが出来る。詳しくは聞いてからのお楽しみだな。さっきと同じで具体的な職業名を出すのは控えろよ?』
『分かったわ。とりあえず狩人を目指せば良いのね?』
頷いてみせるとニーナも楽しみにしてくれているようなので次に。
「クロトは生産職に向いている職業か戦闘職で投擲士と相性の良い職業かにもよるけど今欲しいのは?」
『んー…どっちも欲しいけどとりあえず今は戦いやすくしたいかな。』
クロトは少し考えて、戦闘職を選んだ。パーティでの戦い方がまだアキリムに守ってもらいながらになっていることに引っかかりを覚えていた。それをどうにかしたいと思っていたからこその選択だった。
「なら軽業師が良いと思う。ジャンプ力や脚力、軽い身のこなし、壁や物を使っての高い跳躍などが出来るようになる。」
『跳躍?それってパルクールとかアクロバット的な?』
日本では出来る気もしなかったし、怪我しそうでやろうとも思わなかったが見ている分にはカッコイイと憧れていた。
クロトは最近、やればやるだけレベルが上がるこの世界の理を理解し始めており、憧れていただけだった動きが出来るのかと思うとテンションが上がった。
『そうだな。身体だけを使っているパルクールと物を使うアクロバットを混ぜた名前なんだ。翻訳がどうなってるかは知らない。派手な技とかやりたいやつは大体取ってるだろうな。向いてない奴が取ると怪我をするから一応任意公開なんだ。普通はアキリムが取る体操者を取らせてからにすることが多い。身体を痛めないためにな。アキリムは体操者を覚えてある程度レベルが上がってもし興味があれば取るといい。』
翻訳は正直どうなっているかクロトに確認する術は無かった。軽業がアクロバットを指すこともトレーサーがパルクールをする人を指すことも知らない。だが今軽業師の職業を取ると何が出来るようになるのかは教えて貰ったので問題ない。
『俺はいきなりでも大丈夫なの?』
「まあな。逃げ回りながら投擲するからかクロトの脚力が強くなっている。だから大丈夫だ。」
『なら軽業師を取得しようかな。』
しばらくの方向性は決まったので解散となった。
リミルとクライは部屋で一応《密談》を使って話す。
「皆にはどこまで話そう。」
<巻き込みたくないなら親戚と戸籍が見つかった事とギルレイが親戚だった事、グレモスから祖父母に会ってみないかと言われている事を言えば良いんじゃないか?>
「祖父母とギルレイが親戚として現れて動揺して、戸籍が見つかったことで年齢も分かって泣いて、会うことに悩んでるって感じか?概ね事実だしそれで行くか…。」
<手紙もたまに眺めるなら3枚目のリミル宛の奴だけにしろよ?それだけなら父親は捜査機関の人間だったで済むだろ。実際にそうだったら疑われずに済むかもしれない。ギルレイに確認しよう。>
「そうだな。」
次の日、早朝にギルレイの部屋へ入った2人は話し合った事を伝えた。するとリミルの家族写絵を取り出してじっくりみたギルレイが肯定した。
『写し絵に捜査機関のバッジを付けたリーマスが写ってるから間違いないな。失踪した捜査員の捜索は捜査機関がやっているだろう。グレモスが言っていた捜査の進展というのも恐らく捜査機関のことだ。今日にでも詳しい捜査状況を聞いておく。』
皆が降りてくる時間になりいつも通り朝食を食べると全員でギルドに向かう。ギルレイとは別れて受付に行き、職業について知りたいと伝えリリアンと共に個室に入った。
リミルのパーティはルスタフやノフテスからの移動組ばかりなので必然的にリミルの担当をしているリリアンがパーティの担当になっている。
リリアンからそれぞれの職業についての説明を聞いた。
『アキリム君が取得したい体操者は柔軟と体幹トレーニングが重要になります。このふたつを毎日軽く、寝る前と起きた後に無理のない程度に続けてください。どちらもある程度出来るようになったタイミングで職業自体は現れます。現れたら睡眠の前後にやるのとは別に体幹トレーニングを追加してください。徐々にキツいメニューを増やすと効果的にレベル上げが出来るはずです。』
『わかった。睡眠の前後にやる軽い柔軟と体幹トレーニングはずっと続ける方がいい?』
『はい。続ける方がレベル上げがしやすいそうです。焦ってキツいものにしてしまったりすると筋肉を痛めるなどして返って時間がかかってしまうので睡眠の前後はあくまで軽く無理のない程度にが原則となります。』
アキリムは分かったようで頷いて一連の流れを確認した。
『次にクロト君の軽業師ですが…リミルちゃんはクロト君の脚力と柔軟性と体幹が大丈夫だと思ったんですよね?』
「うん。戦ってるときに見る限りでは大丈夫そうだった。」
『リミルちゃんが言うなら…。では説明を続けますね。軽業師はアキリム君に説明した事が出来る前提で話します。逆立ちやバック転、転回、着地、受け身、に加え、脚力強化も兼ねてひたすらジャンプ、壁蹴りを含め壁を使ったジャンプ、これらをいくつか覚えれば職業が現れるので全てを難なくこなせるまで反復練習、余裕が出来ればジャンプ中に投擲練習をすれば《流鏑馬》という特殊技能もゲット可能です。』
『わぁ…頑張ろ。』
クロトは少し遠い目をしながら決意を固めるのだった。
『ジャック君の取得したい忍者はジャンプ練習はクロト君のと少し似た所がありますが、それに加えて気配を消す練習や、小刀・苦無・手裏剣を投げたり魔法操作したりという練習もしなければ行けません。』
『職業が現れる条件は?』
『ジャンプと気配を消すのと苦無などの魔法操作を満遍なく練習すれば早い段階で現れるはずです。それからはひたすら練習あるのみ。忍者は残念ながらそれ以上詳しいことは分かっていません。』
『わかった。』
ジャックは相変わらず訓練に前向きでとても楽しそうである。
『最後にニーナちゃんの職業改変についてですね。今ある野伏ともう1つの職業を取得するのが条件で、狩人になれるのだけど、職業改変は慎重にしてくださいね。間違うと大変ですから。』
『慎重にね、わかった。』
気合いを入れすぎているニーナを見てリミルは力を抜かせるために条件を1部教えることにした。
「まあ2つともレベルを100にしないと出来ないから大丈夫だろ。」
『そうですね。でも一応確認するのが決まりですから。それで、もう1つの職業なんですが、生き物使いです。』
『魔獣や魔物とたくさん契約するの?』
これから習得してレベル上げをするからまだ先だなと緊張をといてレベル上げを頑張ろうと意気込んでいたニーナは生き物使いと聞いてたくさんテイムしなければならないのかと思った。
『いいえ。契約するとお世話もしなくちゃならなくなるからそれは大変でしょう。生き物使いは魔獣や魔物に拘わらず、一時的に協力して貰う形で力を借りることが出来る職業です。』
『何それ楽しそう!』
『ですがここで注意事項があります。生き物使いは植物系の生き物達からも力を借りることが出来るのですが、それが出来ないと、動物愛好家という職業になってしまいます。』
ニーナは野伏として生き物達への接し方は注意してきた。異変を教えてくれるのはいつも生き物だからだ。ただ、生き物使いを取得する条件が揃っていなかっただけで、取得条件の一つである生物との平等な接し方という点はクリアしていた。
『取得条件は?』
『生物への種族に拘わらない平等な接し方、生物を頼る代わりに対価を払う、生物を助ける、生物に好かれる、生物を狩る、生物と協力して何かをする。この6点をクリアすれば職業が現れます。』
「知らなかったなぁ…」
『リミル君、狩人の職業持ってたよね?』
リミルは冒険者登録をした時には既に狩人の職業は所持していた。正直、野伏や生き物使いを取得した時のことは覚えていない。使っていた記憶は僅かだがある。ただ、朧気ながら狩人に職業改変した記憶とステータスに痕跡が残っているから職業改変に何と何の職業が必要か分かるだけだ。
ちなみに痕跡は自身のステータスを確認した時のみ見られる項目だ。
「持ってるけど昔過ぎて覚えてない。どっちを先に取ったのかも覚えてないんだ。2つや3つの職業をまとめるタイプの職業改変は先に取得した方の職業に上書きされるんだ。何の職業が何に改変したのかは痕跡が残るが詳しい情報まで残らないからな。」
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前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。
主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
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13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~
クロン
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俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。
だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。
リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。
だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。
あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。
そして身体の所有権が俺に移る。
リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。
よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。
お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。
お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう!
味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。
絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ!
そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
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平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
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底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
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目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
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記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
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突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
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