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第二章
二人の出逢い
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オスカーとゼルダが村で別れた翌日。クリミナ城、執務室。
「あれ? 言ってなかったかな。明日は友好交流の為、帝国に行く」
「初めて聞いた。いつ出発するんだ?」
「今日だ。ここから帝国のヴァルト城までは一日かかるからね」
「そんなに遠いのか?」
「そんなことも知らないのか。いいか? 王都アディセルは北に、帝都クラルヴァインは南西にある。いわゆる端と端にあるんだ。馬車を使えば一日で着く。まあ、歩けば二日かかるがな」
ユージーンは鼻で笑い、上から目線でオスカーに説明する。その間ユージーンは両手を使って北と南西を表していたので、ちょっと可愛いなと思ったオスカーだった。
「綺麗な場所だったよ」
「お前は帝国に行ったことがあるのか?」
「王国と帝国の友好交流は昔から行われていて、俺が子供の頃に一度父に連れてってもらったことがあるんだ。皇太子のアルベルトと三人の可愛い姉弟がいてね。城内で遊んでいたよ。彼とはあれ以来会っていないが、とても優しくて気さくな性格だった。きっとオスカーも彼のことを好きになると思う」
「ちょっと待ってくださいクロード様。オスカーも帝国について行くということですか?」
ユージーンが問いかける。
「いや、違うよ。行くのはオスカーだけだ。ユージーン、お前には俺が留守の間、王国の全てを任せたい」
「……は?」
流石のユージーンも呆気に取られていた。クロードはたまに突飛なことを言うが、まさか王国のことを任せると言われるとは思わなかったからだ。
「それはつまり、僕が国王の責務をするってことですか? 無理ですよ僕には」
「お前はずっと俺の側にいて国王の仕事を見てきただろう? たまに補佐してくれたし。国王の大まかな仕事は分かるよね? いいや、分かるはずだ。これはお前だから言っているんだよ? 信頼しているんだ」
正直クロードの言うことは腑に落ちなかったが、信頼していると真っ直ぐ目を見て言われたら舞い上がってしまうものだ。ユージーンはこの頼みを承諾した。
「そこまで仰るなら。王国のことは僕にお任せを。それでオスカー。貴様は何があってもクロード様から目を離すな。クロード様に万一のことがあった時には、僕が貴様を殺す。いいな?」
クロードに向かい左胸に手を当て敬礼をした後、オスカーを睨みつけた。
「友好交流とは、これからも仲良くしようね的なことだろう? そんな楽しげな場でクロードの命が狙われるとは思わないがな。分かった、約束しよう。俺は決してクロードから目を離さない」
よし、とユージーンは言い二人は握手を交わし、次いで肘タッチをした。その自然な流れを見ていたクロードは、
「お前ら、本当は仲良いよね?」とツッコんだ。
一方その頃、ヴァルト帝国。ヴァルト城、執務室。
「そういえば、前に他国との交流は緊張するって言ってたじゃないですか? クロードが来るのはこれで二度目です。流石に緊張の心配はいらないのでは?」とエーミールが問う。
「だから貴方は適当すぎるのです。あの頃はアルベルト様もクロードも子供でしたが、今は皇帝と国王。お互い立場が変わったのです」
エルトリアがエーミールを叱る。
「そんなもんですかね? 立場は変わっても友情までは変わらないと思いますが」
「わたし、貴方の考え方結構好きよ。アルベルト様はどうお考えですか?」
「友情までは変わらない、ね。わたしもそう思うよ。ただ、わたしは昔と何も変わっていない。まだ子供のままだ。クロードは立派に国王としての務めを果たしていると聞いている。彼は子供の頃から立派だったからね。そんな彼の隣に同じ国の長として立てるだろうか?」
自信をなくしているアルベルトに
「あまりご自分を卑下なさらないでください。アルベルト様もご立派な皇帝です。その証拠に民をご覧ください。皆、貴方様を心から慕っております。無論、わたし達もそうですよ」とエルトリアが宥ねる。
「姉上の言う通りです。そんな卑屈な皇帝じゃ、民も離れていってしまいますよ。それに、クロードは意外と適当なところもある人物でした。今この時もエルロンド家に仕えるアリアの者に王国を任せるとか無茶言ってるんじゃないですか?」
このエーミールの発言に、皆一斉に笑い出した。
「流石のクロードでも側近に国を任せることは言わないでしょう。本当だったら呆れてしまうわ」
「エーミールは冗談が上手ですね。貴方は場を和ませるのが本当にお上手。その点では尊敬しますよ」
「ふふふ。君達姉弟は本当に面白い。退屈しないよ。あと言っておくけど、クロードが帝国にいる間は呼び捨てはやめてね」
それはちゃんと心得てますよ、とリーデンベルク姉弟は同時に口を開いた。
帝国でアルベルト達が談笑していた頃。王都アディセル。
帝国に向けて発つ為に、城の前には馬車が準備されていた。クロードとオスカーは馬車に乗り込み、ユージーンと城の兵士達は二人の見送りに整列していた。辺りを見回すと、王の出発を見送りに大勢の民がアディセルに集まっていた。
ハクション、とクロードがくしゃみをする。
「風邪か? 今の時期は昼でも冷える。これでも着ていろ」とオスカーは自分の羽織っていたマントをクロードに掛けながら言った。
「まあ、風邪じゃないんだけど。ありがとう、優しいね」
オスカーから受け取ったマントを顔まで引っ張り上げ、赤くなった顔を隠す。
その時、馬車の窓をコンコンと叩く音がした。その音の方向を見ると、ユージーンだった。クロードは窓を開ける。
「クロード様、僕は貴方の信頼を裏切る様なことはしません。僕なりのやり方で国王の責務をこなしてみせます。おいオスカー。貴様に頭を下げるなど癪に触るが、今は貴様だけが頼りだ。クロード様を頼んだぞ」
ユージーンは左胸に手を当て、深く敬礼した。それに倣い、他の兵士達も敬礼をする。それは馬車が見えなくなるまで続いた。
「じゃあ皆、行ってくるよ。出してくれ」
はっ、と御者が馬を走らせる。アディセルの門まで走っている間、民からの歓声が途切れることなく続いていた。
アディセルの門を抜けると、目の前には美しい草木が咲き誇る平原が広がる。村から出たことがないオスカーにとっては新鮮な景色であった。美しい景色に見惚れているオスカーに声を掛ける。
「お前もそんな表情をするんだな。目を輝かせて、子供みたいだ」とクロードは笑う。
「うるさい」とオスカーは視線を下に落とした。
「その様子からすると、オスカーは村から出たことないみたいだね。どうだ、外の世界は? いいものだろう?」
「そうだな。あのままゼルダと暮らしていたらこの景色を見ることはなかったかもしれない。その点ではお前の頼みを聞いて良かったと思ってる。それにしても、お前があんなに民から慕われていたのは正直驚いた。お前のビビりな性格がバレたら民はどんな反応をするだろうな」とオスカーが毒づく。
「ビビりって……、言い方酷いな。まあ、その通りなんだけど。話は変わるが、今まであの女の子と暮らしていたのか? 両親は? お前はどんな子供だった?」と質問攻めにするクロードに、
「別に俺は壮絶な過去を送ってきた訳じゃないが、自分のことはあまり人に話したくはない。それに俺とお前は知り合ったばかりだろう? 関係の浅い相手にそう質問攻めをするもんじゃない」とクロードを一蹴する。
「悪かった。配慮が足りなかったよ」
その後、帝国と王国の国境に着くまで馬車の中を静寂が支配していた。
国境は巨大な壁によって分たれていた。だが、壁の南側には鉄の柵で造られた門があり、そこに王国側の門番が二人、帝国側の門番が二人と、計四人の門番が立っていた。馬車が門前で停まったことを確認すると、王国側の門番の一人が御者に話しかけた。話しかけられた御者は門番に手紙を渡す。その手紙はクロード直筆であった。それを見た門番は帝国側の門番に手紙を渡す。その手紙を見ると門が開き、門番達は「お通りください」と声を上げ敬礼する。馬車は国境を越え、帝国に入国した。
馬車の中にクロードの姿を確認した門番が
「クロード様ご本人がいらっしゃるなら、手紙なんて書かなくても良かったと思うんだけど」と呟く。
「そうだな。それより、隣の男見たか? 美しい。俺もあんな男と付き合いたいけど平民の男なんてどれもなあ。どうやったらあんな美しい男と出会えるんだ?」
「クロード様が羨ましい。はあ……。激しく犯されたい」
二人の門番の話に聞き耳を立てていたクロード。
「オスカーってやっぱモテるんだね。さっきの門番達、お前に一目惚れみたいだよ」
「そうか。悪いが、俺にはそういう趣味はない」
帝国は王国とは違い、石畳の美しい道が続いていた。その景色を見ながらオスカーが口を開く。
「帝国に入った途端景色が変わったな。本当に元は一つの国だったのか?」
「昔、神々が王国を創った話はしたよね? その時、アイリーン様が帝国と王国を分ける為にこの壁を造ったんだ。聞いた話だと、近々壁が取り壊されるみたいだよ。昔と違って今は仲良くやってるんだから壁なんてなくてもいいんじゃないかってね。でもそんな動き感じられないんだよね。本当なのかな? ……っと、そんなことより、お城に着いたみたいだよ。間に合って良かった」
「門からは結構早かったな」
馬車が城の門前で止まった。御者がドアを開け、オスカーとクロードが降りる。馬車から降りると、オスカーの目には立派な建物が映った。クリミナ城と同等の豪華絢爛さを誇る帝国の城、ヴァルト城である。ヴァルト城の門前には帝国の民族衣装に身を包んだ短身の男と、その男の側に三人の男女が控えていた。四人がオスカー達に近づくと、短身の男が口を開いた。
「久しぶりだね、クロード。ええと、そちらの男性は?」
短身の男はオスカーをまじまじと見つめる。その視線に気付いたオスカーは「見過ぎだ」と男を睨みつける。
「オスカーだ。彼は小さい村出身でこういう場には慣れていないから優しくしてあげてくれ。 俺が留守の間の王国が気になるかな? それなら心配には及ばないよ。エルロンド家に代々仕えるアリアの者に王国の全てを任せている」
貴方の言う通りね、などと三人の男女は沸いていた。短身の男が咳払いで三人を制する。
「初めましてオスカー、わたしはアルベルト。こう見えてヴァルト帝国の皇帝なんだ。彼らは帝国王家に仕える魔道士のリーデンベルク姉弟。こちらからエルトリア、アデル、エーミールだ」
よろしく、と姉弟が同時に口を開く。
「やっぱり姉弟っていうのは揃うもんだねえ」とクロードが笑いながら言った。
「彼女らは小さい頃から仲良しでね。しかも、とても面白いんだ。あっ、すまないね。立ち話も何だし、中へどうぞ」
アルベルトがクロードとオスカーを招き入れる。城の前には美しい庭が広がっていた。玄関に向かって石畳の道が続いている。石畳の道の脇の花壇には赤色の小さい花が咲いていた。扉の前に着くと、兵士がアルベルトに向かって一礼をし、扉を開けた。外装はクリミナ城と同じような豪華さだったが、内装は王国のそれとは違っていた。クリミナ城は城の中にも緑が広がっていたが、ヴァルト城は一面大理石であった。ロビーの丁度中心に来た時、中央にある階段から三人の男と女が降りてきた。三人共アルベルトと同様、民族衣装に身を包んでいた。
「こちらはわたしの家族だ。左から、父のエルナバス、母のベルタ、弟のカミルだよ」
最初にエルナバスが「ようこそ、ヴァルト帝国へ」と挨拶をした。次に「さあ、長旅で疲れたでしょう? ダイニングへどうぞ。ご飯が出来ているわ」とベルタ。最後に「料理長のレヴェルナさんの作った料理はとても美味しいんですよ。王国では薄味が好まれていると聞いたので最初は帝国の濃い味付けに戸惑うと思いますが、きっと気に入りますよ」とカミルが順に口を開いた。
オスカーとクロードはエルナバス達に続いた。
「なあアルベルト、昔も思ったけど、やはりお前の家族はいい人達だね。カミルだっけ? 彼とは初めて会ったけど、とてもいい子だと分かるよ」とクロードがアルベルトに話しかけていた。
「でしょう? わたしの自慢の家族で、とても愛しているよ」とアルベルトは笑いながら答えていたが、その表情が一瞬曇ったのをオスカーは見逃さなかった。
ヴァルト城、ダイニング。
テーブルは長方形の形になっており、長い一辺にはクロードとオスカーが、反対側の一辺にはアルベルト、ベルタ、カミルが、短い一辺にはエルナバスが座っていた。姉弟三人はいつの間にか姿が見えなくなっていた。テーブルの上には色とりどりの料理が並んでおり、肉料理や魚料理、スープなど様々であった。そこに白いコックコートに身を包んだ男が入ってきた。料理長のレヴェルナである。レヴェルナは、銀髪に長身という風貌であった。
「クロード様、オスカー様、初めまして。料理長のレヴェルナ=ロウドと申します。王国の薄い味付けを再現出来るよう心掛けましたが、わたしとしては帝国の味付けも好きになってもらいたいと力を入れて作りました。是非心ゆくまでお楽しみください」
それでは失礼します、とレヴェルナは厨房へと消えていった。レヴェルナの姿が見えなくなったのを確認してベルタが口を開く。
「レヴェルナは元は帝都のレストランで働いていたシェフだったのですけれど、カミルちゃんがお忍びで帝都に行った時に彼の料理に惚れてスカウトしたのよ。あの時は護衛も付けずに出かけたカミルちゃんを怒りましたが、流石カミルちゃん、あたしの天使。レヴェルナの料理は今迄城で雇っていたどの料理人より美味しいの。カミルちゃんは見る目があるわ」と息子のカミルを褒め散らかしていた。当の本人は照れ臭そうにしていた。だが、次にベルタがアルベルトに向ける目は少し冷たいものだった。
「それに比べてアル、貴方は何なのかしら? 皇帝として世継ぎを作らなくてはいけないのに伴侶となる女性もいない。アルはもう二十なのだから」
「おいベルタ、客人の前だぞ。そこら辺にしておけ」
エルナバスが止めようとしたが、「貴方は黙っていてください」とベルタは一蹴する。
「ごめんなさい母上。わたしもお母様の思いはわかっているつもりです。もう少し待っていただけませんか? 最低でも二十五になる前には……」
「あのね、アル。エルナバスとあたしはもう二十の頃には結婚していたわ。子供も若くして産んだ。遅いと健康な子が産まれるとは限らないのよ? 貴方には危機感がないのかしら?」
アルベルトに対して厳しい言葉を投げかけるベルタに
「おい、さっきから聞いていれば、弟とは扱いが違いすぎないか? 王族の世継ぎの話は知らんが、こいつはこいつだ。こいつの生き方はこいつ自身に決めらせればいいだろう? それより、喧嘩は後でやってくれないか? 耳障りだ」と痺れを切らしたオスカーが声を上げる。
その様子を見たクロードが
「オスカーの言う通りです。人生は一度きりなんだから。俺だって国王ですけど、伴侶なんていませんし。さあ、食べましょう。せっかくの料理が冷めちゃいますよ」と持ち前の明るさでその場を和ませた。
クロードの言葉を皮切りに、六人は料理を食べ始めた。終始無言だったので楽しい会食とはいかなかったが。
会食後、エルナバスとベルタとカミルの三人はそれぞれの寝室へ戻っていった。クロードも先に寝るよ、とオスカーに言い残しゲストルームへと向かっていった。オスカーはバルコニーに出て星を眺めていた。アルベルトはオスカーにそうっと近寄り、後ろから抱きしめた。
「ひゃあっ!」とオスカーは飛び上がる。振り返るとアルベルトがクスクスと肩を震わせていた。
「ふふふ。ひゃあって、クールな外見で意外と可愛い声を出すんだね」
「あ?」
笑い続けるアルベルトを睨みつける。
「ふふ……ふ……。ごめん、わたしが悪かったよ。だからそんな顔で睨まないで。怖いよ。そんなことより、寒くないの?」
「心配はいらない。このマント、暖かくてな。ゼルダという幼馴染の女から貰ったんだ」
「へえ、素敵な女性だね」
「そうだな。だが俺はそんな素敵な女に酷いことを言ってしまった。もうあいつに合わせる顔がない」
「それってどんな酷い……くしゅんっ」とアルベルトがくしゃみをした時だった。オスカーはマントのボタンを外し、その中にアルベルトを入れるように抱きしめた。アルベルトは赤くなった顔を隠すように、オスカーの胸に顔を埋める。
「急に抱きしめないでよ。恥ずかしい」
「俺を後ろから抱きしめた奴が何言ってんだ?」
オスカーはニヤリと口角を上げ、アルベルトを揶揄う。ぷうっと赤い顔を膨らませたアルベルトが顔を上げた。その時、彼の中の何かがゾクッとするのを感じた。オスカーは今抱いた感情に少し疑問を感じながらアルベルトを離した。
「もう終わりかい? わたしはもう少し抱き合っていたかったんだけど」とアルベルトは残念そうにオスカーを見つめる。その時、オスカーの中にあの感覚が蘇る。
「さっき抱きしめられた時に思ったんだけど、君って華奢に見えて意外と筋肉あるよね。抱きしめ方も優しかったし。ねえ、わたし、君のこと気に入っちゃった。好きだよ」と告白するが、
「悪いな皇帝様。俺にそんな趣味はないんだ。……そういえば、クロードにもタイプだと言われたな」とアルベルトを拒絶する。
「クロードに? 君とクロードはそういう関係なの?」
「だから言っただろう? 俺にそんな趣味はないって」
「でも、さっきの行動からするとわたしのこと嫌いじゃないよね? 嫌いだったら抱きしめるなんてことはしない筈だし。君がその気になるように何回でもアピールしちゃおうかな」と悪戯をする少年のような表情をするアルベルトに、
「チッ。好きにしろ」とオスカーは呆れ気味に返した。
次の日から、アルベルトは積極的にオスカーにアタックしていった。
食事の時は必ずオスカーの隣に座る。そして、料理をオスカーに食べさせてあげることも。その様子をベルタは汚い物でも見るかのような目で見ていた。
食事後。
「おい、人前であれはやめてくれないか? 恥ずかしい」
「なら、あの時拒絶すればよかったじゃない。満更でもないような感じだったけど?」
オスカーの中に蘇るあの感覚。それを誤魔化すようにオスカーはその場から立ち去る。
時は流れ、数日後の夜。とても冷える夜だった。オスカーはゲストルームで横になっていると、部屋の中に一筋の光が刺した。扉の方を見ると、アルベルトが立っていた。アルベルトが手招きをする。
「今からわたしの寝室に来てくれる?」
「いや、だが……」
オスカーはクロードをチラリと振り返る。クロードは深い眠りについていた。
「クロードが気になる? でも彼は今ぐっすり夢の中だよ。大丈夫、すぐに終わるから。だから、ね?」
オスカーの返答を待たずにアルベルトは手を取り寝室に向かった。
アルベルトの寝室。
扉を閉めると、オスカーの首に手を回しキスをする。そして、舌を入れ口内を舐め回す。
「おい、どういうつもりだ?」
アルベルトを引き剥がすと、一筋の銀糸が二人を繋いでいた。
「言ったよね、君をその気にさせるって。でも、もう前みたいにアピールしなくてもいいのかな? だってさ、ほら……」
アルベルトはオスカーの下半身に手を伸ばす。そこには硬く反り立ったモノがあった。触られたオスカーはビクンと体を反応させる。それを確認したアルベルトはオスカーの服を脱がし、胸筋や腹筋を人差し指でなぞる。
「ねえオスカー。今日はいつも以上に寒いよね。人肌が恋しいな」と妖艶な表情で挑発した時だった。オスカーはアルベルトを持ち上げるとベッドに押し倒し、服を脱がし始めた。華奢に見られがちだが、程よく筋肉のついた肉体が露わになる。それを見ると、オスカーは首筋にキスマークを付け、そこから体中にキスマークを付けていく。脚にキスマークを付けようとズボンに手をかけた時だった。
「待ってオスカー! そこはまだ……嫌なんだ……。恥ずかしい」
拒絶しようとして、オスカーを蹴り上げると、当たりどころが悪かったのかオスカーが顔を顰めた。
「あっ、ごめん。わざとじゃないんだ」
「謝るな。別に俺は怒ってなどいない。それに、挑発してきたのはそっちだろう? 俺はもう我慢出来ないんだ。お前も苦しそうだな。一緒に楽になろうぜ」
アルベルトには、もうギラついたオスカーを止めることなど出来なかった。オスカーはアルベルトのズボンをずり下ろすと、脚の付け根にキスマークを付けた。腕で口を塞ぎ声を抑えるアルベルト。それを見たオスカーは、
「我慢するなよ。喘ぎまくるふしだらな皇帝様を見せてくれよ」とニヤリと笑う。
「もう……、オスカーって意外と意地悪な人だね」
アルベルトは顔を真っ赤にし、目を潤ませている。それを見て更に興奮したオスカーは、無理矢理アルベルトを貫いた。アルベルトは大きく体をくねらせる。そして更なる快感を求め腰を動かし始めると、寝室にはアルベルトの喘ぎ声とベットが軋む音が響いた。
「あれ? 言ってなかったかな。明日は友好交流の為、帝国に行く」
「初めて聞いた。いつ出発するんだ?」
「今日だ。ここから帝国のヴァルト城までは一日かかるからね」
「そんなに遠いのか?」
「そんなことも知らないのか。いいか? 王都アディセルは北に、帝都クラルヴァインは南西にある。いわゆる端と端にあるんだ。馬車を使えば一日で着く。まあ、歩けば二日かかるがな」
ユージーンは鼻で笑い、上から目線でオスカーに説明する。その間ユージーンは両手を使って北と南西を表していたので、ちょっと可愛いなと思ったオスカーだった。
「綺麗な場所だったよ」
「お前は帝国に行ったことがあるのか?」
「王国と帝国の友好交流は昔から行われていて、俺が子供の頃に一度父に連れてってもらったことがあるんだ。皇太子のアルベルトと三人の可愛い姉弟がいてね。城内で遊んでいたよ。彼とはあれ以来会っていないが、とても優しくて気さくな性格だった。きっとオスカーも彼のことを好きになると思う」
「ちょっと待ってくださいクロード様。オスカーも帝国について行くということですか?」
ユージーンが問いかける。
「いや、違うよ。行くのはオスカーだけだ。ユージーン、お前には俺が留守の間、王国の全てを任せたい」
「……は?」
流石のユージーンも呆気に取られていた。クロードはたまに突飛なことを言うが、まさか王国のことを任せると言われるとは思わなかったからだ。
「それはつまり、僕が国王の責務をするってことですか? 無理ですよ僕には」
「お前はずっと俺の側にいて国王の仕事を見てきただろう? たまに補佐してくれたし。国王の大まかな仕事は分かるよね? いいや、分かるはずだ。これはお前だから言っているんだよ? 信頼しているんだ」
正直クロードの言うことは腑に落ちなかったが、信頼していると真っ直ぐ目を見て言われたら舞い上がってしまうものだ。ユージーンはこの頼みを承諾した。
「そこまで仰るなら。王国のことは僕にお任せを。それでオスカー。貴様は何があってもクロード様から目を離すな。クロード様に万一のことがあった時には、僕が貴様を殺す。いいな?」
クロードに向かい左胸に手を当て敬礼をした後、オスカーを睨みつけた。
「友好交流とは、これからも仲良くしようね的なことだろう? そんな楽しげな場でクロードの命が狙われるとは思わないがな。分かった、約束しよう。俺は決してクロードから目を離さない」
よし、とユージーンは言い二人は握手を交わし、次いで肘タッチをした。その自然な流れを見ていたクロードは、
「お前ら、本当は仲良いよね?」とツッコんだ。
一方その頃、ヴァルト帝国。ヴァルト城、執務室。
「そういえば、前に他国との交流は緊張するって言ってたじゃないですか? クロードが来るのはこれで二度目です。流石に緊張の心配はいらないのでは?」とエーミールが問う。
「だから貴方は適当すぎるのです。あの頃はアルベルト様もクロードも子供でしたが、今は皇帝と国王。お互い立場が変わったのです」
エルトリアがエーミールを叱る。
「そんなもんですかね? 立場は変わっても友情までは変わらないと思いますが」
「わたし、貴方の考え方結構好きよ。アルベルト様はどうお考えですか?」
「友情までは変わらない、ね。わたしもそう思うよ。ただ、わたしは昔と何も変わっていない。まだ子供のままだ。クロードは立派に国王としての務めを果たしていると聞いている。彼は子供の頃から立派だったからね。そんな彼の隣に同じ国の長として立てるだろうか?」
自信をなくしているアルベルトに
「あまりご自分を卑下なさらないでください。アルベルト様もご立派な皇帝です。その証拠に民をご覧ください。皆、貴方様を心から慕っております。無論、わたし達もそうですよ」とエルトリアが宥ねる。
「姉上の言う通りです。そんな卑屈な皇帝じゃ、民も離れていってしまいますよ。それに、クロードは意外と適当なところもある人物でした。今この時もエルロンド家に仕えるアリアの者に王国を任せるとか無茶言ってるんじゃないですか?」
このエーミールの発言に、皆一斉に笑い出した。
「流石のクロードでも側近に国を任せることは言わないでしょう。本当だったら呆れてしまうわ」
「エーミールは冗談が上手ですね。貴方は場を和ませるのが本当にお上手。その点では尊敬しますよ」
「ふふふ。君達姉弟は本当に面白い。退屈しないよ。あと言っておくけど、クロードが帝国にいる間は呼び捨てはやめてね」
それはちゃんと心得てますよ、とリーデンベルク姉弟は同時に口を開いた。
帝国でアルベルト達が談笑していた頃。王都アディセル。
帝国に向けて発つ為に、城の前には馬車が準備されていた。クロードとオスカーは馬車に乗り込み、ユージーンと城の兵士達は二人の見送りに整列していた。辺りを見回すと、王の出発を見送りに大勢の民がアディセルに集まっていた。
ハクション、とクロードがくしゃみをする。
「風邪か? 今の時期は昼でも冷える。これでも着ていろ」とオスカーは自分の羽織っていたマントをクロードに掛けながら言った。
「まあ、風邪じゃないんだけど。ありがとう、優しいね」
オスカーから受け取ったマントを顔まで引っ張り上げ、赤くなった顔を隠す。
その時、馬車の窓をコンコンと叩く音がした。その音の方向を見ると、ユージーンだった。クロードは窓を開ける。
「クロード様、僕は貴方の信頼を裏切る様なことはしません。僕なりのやり方で国王の責務をこなしてみせます。おいオスカー。貴様に頭を下げるなど癪に触るが、今は貴様だけが頼りだ。クロード様を頼んだぞ」
ユージーンは左胸に手を当て、深く敬礼した。それに倣い、他の兵士達も敬礼をする。それは馬車が見えなくなるまで続いた。
「じゃあ皆、行ってくるよ。出してくれ」
はっ、と御者が馬を走らせる。アディセルの門まで走っている間、民からの歓声が途切れることなく続いていた。
アディセルの門を抜けると、目の前には美しい草木が咲き誇る平原が広がる。村から出たことがないオスカーにとっては新鮮な景色であった。美しい景色に見惚れているオスカーに声を掛ける。
「お前もそんな表情をするんだな。目を輝かせて、子供みたいだ」とクロードは笑う。
「うるさい」とオスカーは視線を下に落とした。
「その様子からすると、オスカーは村から出たことないみたいだね。どうだ、外の世界は? いいものだろう?」
「そうだな。あのままゼルダと暮らしていたらこの景色を見ることはなかったかもしれない。その点ではお前の頼みを聞いて良かったと思ってる。それにしても、お前があんなに民から慕われていたのは正直驚いた。お前のビビりな性格がバレたら民はどんな反応をするだろうな」とオスカーが毒づく。
「ビビりって……、言い方酷いな。まあ、その通りなんだけど。話は変わるが、今まであの女の子と暮らしていたのか? 両親は? お前はどんな子供だった?」と質問攻めにするクロードに、
「別に俺は壮絶な過去を送ってきた訳じゃないが、自分のことはあまり人に話したくはない。それに俺とお前は知り合ったばかりだろう? 関係の浅い相手にそう質問攻めをするもんじゃない」とクロードを一蹴する。
「悪かった。配慮が足りなかったよ」
その後、帝国と王国の国境に着くまで馬車の中を静寂が支配していた。
国境は巨大な壁によって分たれていた。だが、壁の南側には鉄の柵で造られた門があり、そこに王国側の門番が二人、帝国側の門番が二人と、計四人の門番が立っていた。馬車が門前で停まったことを確認すると、王国側の門番の一人が御者に話しかけた。話しかけられた御者は門番に手紙を渡す。その手紙はクロード直筆であった。それを見た門番は帝国側の門番に手紙を渡す。その手紙を見ると門が開き、門番達は「お通りください」と声を上げ敬礼する。馬車は国境を越え、帝国に入国した。
馬車の中にクロードの姿を確認した門番が
「クロード様ご本人がいらっしゃるなら、手紙なんて書かなくても良かったと思うんだけど」と呟く。
「そうだな。それより、隣の男見たか? 美しい。俺もあんな男と付き合いたいけど平民の男なんてどれもなあ。どうやったらあんな美しい男と出会えるんだ?」
「クロード様が羨ましい。はあ……。激しく犯されたい」
二人の門番の話に聞き耳を立てていたクロード。
「オスカーってやっぱモテるんだね。さっきの門番達、お前に一目惚れみたいだよ」
「そうか。悪いが、俺にはそういう趣味はない」
帝国は王国とは違い、石畳の美しい道が続いていた。その景色を見ながらオスカーが口を開く。
「帝国に入った途端景色が変わったな。本当に元は一つの国だったのか?」
「昔、神々が王国を創った話はしたよね? その時、アイリーン様が帝国と王国を分ける為にこの壁を造ったんだ。聞いた話だと、近々壁が取り壊されるみたいだよ。昔と違って今は仲良くやってるんだから壁なんてなくてもいいんじゃないかってね。でもそんな動き感じられないんだよね。本当なのかな? ……っと、そんなことより、お城に着いたみたいだよ。間に合って良かった」
「門からは結構早かったな」
馬車が城の門前で止まった。御者がドアを開け、オスカーとクロードが降りる。馬車から降りると、オスカーの目には立派な建物が映った。クリミナ城と同等の豪華絢爛さを誇る帝国の城、ヴァルト城である。ヴァルト城の門前には帝国の民族衣装に身を包んだ短身の男と、その男の側に三人の男女が控えていた。四人がオスカー達に近づくと、短身の男が口を開いた。
「久しぶりだね、クロード。ええと、そちらの男性は?」
短身の男はオスカーをまじまじと見つめる。その視線に気付いたオスカーは「見過ぎだ」と男を睨みつける。
「オスカーだ。彼は小さい村出身でこういう場には慣れていないから優しくしてあげてくれ。 俺が留守の間の王国が気になるかな? それなら心配には及ばないよ。エルロンド家に代々仕えるアリアの者に王国の全てを任せている」
貴方の言う通りね、などと三人の男女は沸いていた。短身の男が咳払いで三人を制する。
「初めましてオスカー、わたしはアルベルト。こう見えてヴァルト帝国の皇帝なんだ。彼らは帝国王家に仕える魔道士のリーデンベルク姉弟。こちらからエルトリア、アデル、エーミールだ」
よろしく、と姉弟が同時に口を開く。
「やっぱり姉弟っていうのは揃うもんだねえ」とクロードが笑いながら言った。
「彼女らは小さい頃から仲良しでね。しかも、とても面白いんだ。あっ、すまないね。立ち話も何だし、中へどうぞ」
アルベルトがクロードとオスカーを招き入れる。城の前には美しい庭が広がっていた。玄関に向かって石畳の道が続いている。石畳の道の脇の花壇には赤色の小さい花が咲いていた。扉の前に着くと、兵士がアルベルトに向かって一礼をし、扉を開けた。外装はクリミナ城と同じような豪華さだったが、内装は王国のそれとは違っていた。クリミナ城は城の中にも緑が広がっていたが、ヴァルト城は一面大理石であった。ロビーの丁度中心に来た時、中央にある階段から三人の男と女が降りてきた。三人共アルベルトと同様、民族衣装に身を包んでいた。
「こちらはわたしの家族だ。左から、父のエルナバス、母のベルタ、弟のカミルだよ」
最初にエルナバスが「ようこそ、ヴァルト帝国へ」と挨拶をした。次に「さあ、長旅で疲れたでしょう? ダイニングへどうぞ。ご飯が出来ているわ」とベルタ。最後に「料理長のレヴェルナさんの作った料理はとても美味しいんですよ。王国では薄味が好まれていると聞いたので最初は帝国の濃い味付けに戸惑うと思いますが、きっと気に入りますよ」とカミルが順に口を開いた。
オスカーとクロードはエルナバス達に続いた。
「なあアルベルト、昔も思ったけど、やはりお前の家族はいい人達だね。カミルだっけ? 彼とは初めて会ったけど、とてもいい子だと分かるよ」とクロードがアルベルトに話しかけていた。
「でしょう? わたしの自慢の家族で、とても愛しているよ」とアルベルトは笑いながら答えていたが、その表情が一瞬曇ったのをオスカーは見逃さなかった。
ヴァルト城、ダイニング。
テーブルは長方形の形になっており、長い一辺にはクロードとオスカーが、反対側の一辺にはアルベルト、ベルタ、カミルが、短い一辺にはエルナバスが座っていた。姉弟三人はいつの間にか姿が見えなくなっていた。テーブルの上には色とりどりの料理が並んでおり、肉料理や魚料理、スープなど様々であった。そこに白いコックコートに身を包んだ男が入ってきた。料理長のレヴェルナである。レヴェルナは、銀髪に長身という風貌であった。
「クロード様、オスカー様、初めまして。料理長のレヴェルナ=ロウドと申します。王国の薄い味付けを再現出来るよう心掛けましたが、わたしとしては帝国の味付けも好きになってもらいたいと力を入れて作りました。是非心ゆくまでお楽しみください」
それでは失礼します、とレヴェルナは厨房へと消えていった。レヴェルナの姿が見えなくなったのを確認してベルタが口を開く。
「レヴェルナは元は帝都のレストランで働いていたシェフだったのですけれど、カミルちゃんがお忍びで帝都に行った時に彼の料理に惚れてスカウトしたのよ。あの時は護衛も付けずに出かけたカミルちゃんを怒りましたが、流石カミルちゃん、あたしの天使。レヴェルナの料理は今迄城で雇っていたどの料理人より美味しいの。カミルちゃんは見る目があるわ」と息子のカミルを褒め散らかしていた。当の本人は照れ臭そうにしていた。だが、次にベルタがアルベルトに向ける目は少し冷たいものだった。
「それに比べてアル、貴方は何なのかしら? 皇帝として世継ぎを作らなくてはいけないのに伴侶となる女性もいない。アルはもう二十なのだから」
「おいベルタ、客人の前だぞ。そこら辺にしておけ」
エルナバスが止めようとしたが、「貴方は黙っていてください」とベルタは一蹴する。
「ごめんなさい母上。わたしもお母様の思いはわかっているつもりです。もう少し待っていただけませんか? 最低でも二十五になる前には……」
「あのね、アル。エルナバスとあたしはもう二十の頃には結婚していたわ。子供も若くして産んだ。遅いと健康な子が産まれるとは限らないのよ? 貴方には危機感がないのかしら?」
アルベルトに対して厳しい言葉を投げかけるベルタに
「おい、さっきから聞いていれば、弟とは扱いが違いすぎないか? 王族の世継ぎの話は知らんが、こいつはこいつだ。こいつの生き方はこいつ自身に決めらせればいいだろう? それより、喧嘩は後でやってくれないか? 耳障りだ」と痺れを切らしたオスカーが声を上げる。
その様子を見たクロードが
「オスカーの言う通りです。人生は一度きりなんだから。俺だって国王ですけど、伴侶なんていませんし。さあ、食べましょう。せっかくの料理が冷めちゃいますよ」と持ち前の明るさでその場を和ませた。
クロードの言葉を皮切りに、六人は料理を食べ始めた。終始無言だったので楽しい会食とはいかなかったが。
会食後、エルナバスとベルタとカミルの三人はそれぞれの寝室へ戻っていった。クロードも先に寝るよ、とオスカーに言い残しゲストルームへと向かっていった。オスカーはバルコニーに出て星を眺めていた。アルベルトはオスカーにそうっと近寄り、後ろから抱きしめた。
「ひゃあっ!」とオスカーは飛び上がる。振り返るとアルベルトがクスクスと肩を震わせていた。
「ふふふ。ひゃあって、クールな外見で意外と可愛い声を出すんだね」
「あ?」
笑い続けるアルベルトを睨みつける。
「ふふ……ふ……。ごめん、わたしが悪かったよ。だからそんな顔で睨まないで。怖いよ。そんなことより、寒くないの?」
「心配はいらない。このマント、暖かくてな。ゼルダという幼馴染の女から貰ったんだ」
「へえ、素敵な女性だね」
「そうだな。だが俺はそんな素敵な女に酷いことを言ってしまった。もうあいつに合わせる顔がない」
「それってどんな酷い……くしゅんっ」とアルベルトがくしゃみをした時だった。オスカーはマントのボタンを外し、その中にアルベルトを入れるように抱きしめた。アルベルトは赤くなった顔を隠すように、オスカーの胸に顔を埋める。
「急に抱きしめないでよ。恥ずかしい」
「俺を後ろから抱きしめた奴が何言ってんだ?」
オスカーはニヤリと口角を上げ、アルベルトを揶揄う。ぷうっと赤い顔を膨らませたアルベルトが顔を上げた。その時、彼の中の何かがゾクッとするのを感じた。オスカーは今抱いた感情に少し疑問を感じながらアルベルトを離した。
「もう終わりかい? わたしはもう少し抱き合っていたかったんだけど」とアルベルトは残念そうにオスカーを見つめる。その時、オスカーの中にあの感覚が蘇る。
「さっき抱きしめられた時に思ったんだけど、君って華奢に見えて意外と筋肉あるよね。抱きしめ方も優しかったし。ねえ、わたし、君のこと気に入っちゃった。好きだよ」と告白するが、
「悪いな皇帝様。俺にそんな趣味はないんだ。……そういえば、クロードにもタイプだと言われたな」とアルベルトを拒絶する。
「クロードに? 君とクロードはそういう関係なの?」
「だから言っただろう? 俺にそんな趣味はないって」
「でも、さっきの行動からするとわたしのこと嫌いじゃないよね? 嫌いだったら抱きしめるなんてことはしない筈だし。君がその気になるように何回でもアピールしちゃおうかな」と悪戯をする少年のような表情をするアルベルトに、
「チッ。好きにしろ」とオスカーは呆れ気味に返した。
次の日から、アルベルトは積極的にオスカーにアタックしていった。
食事の時は必ずオスカーの隣に座る。そして、料理をオスカーに食べさせてあげることも。その様子をベルタは汚い物でも見るかのような目で見ていた。
食事後。
「おい、人前であれはやめてくれないか? 恥ずかしい」
「なら、あの時拒絶すればよかったじゃない。満更でもないような感じだったけど?」
オスカーの中に蘇るあの感覚。それを誤魔化すようにオスカーはその場から立ち去る。
時は流れ、数日後の夜。とても冷える夜だった。オスカーはゲストルームで横になっていると、部屋の中に一筋の光が刺した。扉の方を見ると、アルベルトが立っていた。アルベルトが手招きをする。
「今からわたしの寝室に来てくれる?」
「いや、だが……」
オスカーはクロードをチラリと振り返る。クロードは深い眠りについていた。
「クロードが気になる? でも彼は今ぐっすり夢の中だよ。大丈夫、すぐに終わるから。だから、ね?」
オスカーの返答を待たずにアルベルトは手を取り寝室に向かった。
アルベルトの寝室。
扉を閉めると、オスカーの首に手を回しキスをする。そして、舌を入れ口内を舐め回す。
「おい、どういうつもりだ?」
アルベルトを引き剥がすと、一筋の銀糸が二人を繋いでいた。
「言ったよね、君をその気にさせるって。でも、もう前みたいにアピールしなくてもいいのかな? だってさ、ほら……」
アルベルトはオスカーの下半身に手を伸ばす。そこには硬く反り立ったモノがあった。触られたオスカーはビクンと体を反応させる。それを確認したアルベルトはオスカーの服を脱がし、胸筋や腹筋を人差し指でなぞる。
「ねえオスカー。今日はいつも以上に寒いよね。人肌が恋しいな」と妖艶な表情で挑発した時だった。オスカーはアルベルトを持ち上げるとベッドに押し倒し、服を脱がし始めた。華奢に見られがちだが、程よく筋肉のついた肉体が露わになる。それを見ると、オスカーは首筋にキスマークを付け、そこから体中にキスマークを付けていく。脚にキスマークを付けようとズボンに手をかけた時だった。
「待ってオスカー! そこはまだ……嫌なんだ……。恥ずかしい」
拒絶しようとして、オスカーを蹴り上げると、当たりどころが悪かったのかオスカーが顔を顰めた。
「あっ、ごめん。わざとじゃないんだ」
「謝るな。別に俺は怒ってなどいない。それに、挑発してきたのはそっちだろう? 俺はもう我慢出来ないんだ。お前も苦しそうだな。一緒に楽になろうぜ」
アルベルトには、もうギラついたオスカーを止めることなど出来なかった。オスカーはアルベルトのズボンをずり下ろすと、脚の付け根にキスマークを付けた。腕で口を塞ぎ声を抑えるアルベルト。それを見たオスカーは、
「我慢するなよ。喘ぎまくるふしだらな皇帝様を見せてくれよ」とニヤリと笑う。
「もう……、オスカーって意外と意地悪な人だね」
アルベルトは顔を真っ赤にし、目を潤ませている。それを見て更に興奮したオスカーは、無理矢理アルベルトを貫いた。アルベルトは大きく体をくねらせる。そして更なる快感を求め腰を動かし始めると、寝室にはアルベルトの喘ぎ声とベットが軋む音が響いた。
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