篠辺のお狐様

梁瀬

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要石 1 神楽紹介

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 ガタッ…ドンッ

【〖アレが動くか…〗】
狐と狼は呟いた。
〖やはり、此処へ来たか。考える事は同じようだな。〗
【もし動くなら、此処へ来たところで何も出来ぬがな。】
松の木を挟んで両隣に鎮座した。

 篠辺神社は、12月29日午前4時。東雲神社は、12月29日午後16時までで、仕事納めじゃ。
12月30日から1月7日までは、年末休業。これが2つの神社の決め事じゃ。
 そこらの神社なら、年末年始は大忙しなのじゃろうが、此処の2つの神社は、古くから29日に仕事納めじゃ。

 12月31日は篠辺神楽を奉納。1月1日は東雲神楽を奉納しておる。
どちらの神楽も、狐や狼、境内に祀られておる神々に奉納するものじゃから、この期間中は両神社の鳥居に置石をし、閉門しておる。
 故に、誰も境内に立ち入れず、両神楽とも部外者のが見る事はない。
年末休業中に2日間だけ執り行われる、それぞれの神社の神楽以外に仕事はない。唯一の長期休暇じゃ。

 篠辺神楽は、初年度に神主が笛、巫女が舞。次年度は神主が傘、巫女が扇。
3年目の今年は、神主が剣、巫女が弓を持ち、それぞれの型や舞が奉納される。
4年目は、神主が舞、巫女が笛と決まっておる。
 東雲神楽は、篠辺神楽の逆順じゃ。初年度に舞と笛。次年度に剣と弓。
3年目の今年は、神主が傘、巫女が扇じゃ。
4年目は、笛と舞に決まっておる。

 型や舞は同じじゃが、衣装や小物などの色や形、素材といったものまで、全く異なるものじゃ。
故に、両神楽は決して同じものには見えぬ。
 狐は見た事ないが、両神社に伝わる古い文献には、細かく衣装や小物、色や形、素材に至るまで、意味や込められた思いが書き記されておるらしい。型や舞も同様に、細部まで書き込まれておって、複雑で難しいらしい。

 狐は滅多に褒めたりせぬが、満月か新月。そして年末休業以外に休みもない、あやつらが何時、どのように神楽を身に付けておるかは知らぬが、両神社の神楽は見事じゃ。毎年、神楽の内容が違うのに両神社とも、秀逸じゃ。
 あやつらは仕事に関して実に手堅いのぉ。狐が驚かされるのは、手堅いという所だけではない。仕事を楽しんでおるように見えるからじゃ。確かに身を切るような仕事が篠辺には多いが、どんな仕事にも小さな救いを見つけ、切り替える強さを持ち、辛い時こそ前を見て歩く為に努力をしておる。

 
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