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第十六章 里帰り、あの人達は…

第497話 その日、王様は涙目だったよ…

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 王様も連れてやって来た王都の中央広場。
 市が立って賑わう広場、空いてる場所を見繕ってアルトが舞台を出したんだ。
 『STD四十八』の興行に使っている舞台の予備。

 突如として現れた大きな舞台に人々はギョッとしてたよ。
 そして、いったい何事かと野次馬達が舞台の前に集まって来た。

 そこへすかさず、アルトはモカさんと王様を出現させたの。
 またもや、何処からともなく現れた二人に広場が騒然としてたよ。
 でも、この二人が何者かに気付いた人は居ないようだった。
 一般大衆が王様の顔を目にする機会は、余り無い様子だからね。
 何やら偉そうな人が出て来たくらいにしか、みんな思ってなかったのだと思う。

 そんな民衆に向けて。

「皆の者、聞いてくれ。
 私は、モカ・シュアラ・ド・クレーム。
 近衛騎士団長を拝命している。
 今から、ここにおられる国王陛下が重要な宣旨を下される。
 皆の者、心して聞くように。」

 モカさんは自分の素性を明かすと、王様から重要な発表があると公言したの。
 モカさんの堂々とした声は広場全体に響き渡り、周囲の注目が集まったよ。
 と、同時に、アルトは捕らえたパーティー参加者の男を舞台の上に放り出したよ。
 まだ、全員、『ラリッパ草』で酩酊してて、いっちゃった目をしてたんだ。

 そして、…。

「皆の者、良く聞け。
 この度、あろうことか余のお膝元でご禁制の『ラリッパ草』の流通組織が摘発された。
 ここに転がる者共は、『ラリッパ草』を常用し、夜な夜ないかがわしい宴を催しておった。
 昨夜、その宴の最中に現行犯で捕縛したものだが、この通り薬が回ってロクに話も出来んほどだ。
 しかも、昨夜目撃されたおびただしいワイバーンもこ奴らが引き寄せたと判明した。
 余は、禁を破り享楽に耽るのみならず、王都を危険に晒したこの者共を断じて赦すことはできない。
 『ラリッパ草』の栽培・販売・服用に手を染めた者の末路がどうなるか。
 それを広く知らしめるために、ここに公開処刑を行うものとする。」

 珍しく威風堂々とした態度で、『ラリッパ草』に手を染めた者は断罪すると宣言した王様。
 よっぽど、ワイバーン討伐に駆り出されそうになったことを恨んでいるんだね。

 王様の言葉を受け、モカさんが民衆に向けて昨夜の大捕物の顛末を公表したの。
 『ラリッパ草』を焚き込めた部屋の中で、こいつ等は拉致した娘さんの自由を奪って凌辱してたこととか。
 それが恒常的になされていて、毎月百人近い娘さんが拉致されていたこととか。
 更には、その娘さん達の殆どが惨たらしく殺害されていたこととか。
 広い栽培地で、『ラリッパ草』をはじめご禁制の薬草が大量に栽培されていたこととか。
 最後に、昨晩のワイバーンが『ラリッパ草』に引き付けられたものだと明かした時には、広場は非難の声に包まれていたよ。

 広場は、一刻も早く男達を処刑すべきだって雰囲気になってたの。

     **********

 これから、捕えた男達の公開処刑を行うと言う時になって。

「モカ、処刑を担当する者を使って、処刑直前にこれを与えなさい。
 あれだけの悪事を働いておいて、自分は何の恐怖も感じずに冥途に行くなんて赦せないわ。」

 アルトが差し出したのは、『妖精の泉』の水。
 今、連中は酩酊状態なので、死に瀕しても何の恐怖も感じない。
 いや、自分が処刑されることも理解できないだろうって。
 アルトは、死の恐怖を味わいながら処刑されるべきだと主張したんだ。

 モカさんもそれに同意して、アルトが差し出した水を受け取っていたよ。

 そして、最初に二人の男が舞台の中央に引き摺って来られ、その場で水を飲まされていた。

「この者達は、ペデラスティ伯爵とその息子である。
 この者達は拉致した娘を凌辱する宴の常連で。
 自らも大量の『ラリッパ草』を購入、常用していたことが判明している。」

 モカさんが最初に処刑する二人の素性を明かし、その罪状を読み上げると。

「おい、ちょっと、待った!
 その者達、ペデラスティ伯爵とその息子だと?」

「陛下、何か問題でも?」

 やっと、王様はことの重大さに気付いたみたい。
 ペデラスティ伯爵って、王の取り巻きの中でも一番の重鎮らしいからね。
 でも、もう遅いよ。ここで、処刑を取り止めようものなら暴動が起こるもん。
 しかも、実はもう一つ、仕込みがあるんだよね。

 待ったを掛けた王様だけど、モカさんの問い掛けに返答を窮していたんだ。
 それは言えないよね、自分の取り巻きだから大目に見ろなんて。
 そこへ…。

「騎士様、恐れながらお願いしたきことが御座います。」

 一人の娘さんが、舞台の下に駆け寄りモカさんに声を掛けたんだ。

「うむ? 何かな、申して見よ。」

「はい、その者、処刑する前に是非とも私に制裁を加えさせて頂きとう御座います。」
 
「制裁とは穏やかではないな。
 一体何があったか、申して見よ。
 事情次第では許可しても良いぞ。」

 この娘さん、ウルシュラ姉ちゃんのお母さんだよ。ミントさんの仕込み。
 モカさんに促されて、ペデラスティ伯爵にされた仕打ちを話し始めたの。
 散々辱めを受けた挙げ句、身籠ったら着の身着のまま無一文で放り出されたと語ると。
 周囲の人々の怒りはピークに達し、非難の声があちこちから上がってたよ。

「かまわねえ、娘さん、その人でなし貴族をのしちまえ!」

 批難轟々の民衆の中から、そんな言葉が聞こえてくると…。

「お嬢さん、そんな仕打ちを受けてさぞかし辛かったことでしょう。
 良いでしょう。どの道、この男、間も無く処刑されるのです。
 気の済むまで、制裁を加えてください。」

 モカさんが許可を与えたんだ。もちろんこれも打ち合わせ通り。

      **********

 舞台に上がったウルシュラ姉ちゃんのお母さんがペデラスティ伯爵に近付くと…。

「おい、やめろ、下賤の娘が吾に手を上げるつもりか。
 伯爵たる吾に狼藉を働こうなどとは、万死に値することだぞ。
 モカ、貴様も何を許可しておるのだ。
 村娘の一人や二人、犯そうが、殺そうが、吾の勝手であろうが。」

 正気に戻ったペデラスティ伯爵は自分が悪いことをしたとは露ほども思っていないようで。
 ウルシュラ姉ちゃんのお母さんとモカさんに、声を張り上げて怒声を浴びせたんだ。
 それが、ますます民衆のヘイトをかって、ここで対処を間違えば暴動になりそうだったよ。

「あんたは私のことなんか覚えてもいないのでしょうね。
 でもね、私はあの日のことは絶対に忘れない。
 無一文で放り出されて、…。
 悪阻に苦しみながら丸一日かけて村まで歩いたあの日のことを。
 あれから、私がどんなに肩身の狭い思いをして生きて来たことか。
 あんたには想像もつかないでしょうね。
 それも、これも、全部、この小汚いモノが悪いんだ!」

 ウルシュラ姉ちゃんのお母さんは、ペデラスティ伯爵にそんな言葉をぶつけると…。
 全身の力を振り絞ったって雰囲気で、伯爵の股間を蹴りあげたんだ。
 伯爵、相当痛かった様子で悲鳴すら上げることが出来なかったよ。
 伯爵が苦しそうに蹲まると、今度はその頭部に何度も何度も蹴りを入れてたよ。

 ウルシュラ姉ちゃんのお母さんの気が済む頃には、伯爵は見るも無残な姿になっていた。
 それを見ていた民衆の中から歓声が上がったよ。

「娘さん、良くやった!
 そんな奴の事は忘れて、これからは強く生きて行くんだぞ!」

 そんな励ましの声があちこちから聞こえたよ。
 その状況を目にして冷や汗を垂らしていた王様だけど…。

「陛下、先程、何か言い掛けたようですが。
 ペデラスティ伯爵を処刑することに何か異存がございますか?」

 意地悪く尋ねるモカさん。
 この状況で、伯爵の処刑はあいならんなんて言えないじゃない。

「い、いや、何でもない。
 異存はない故、刑を執行するが良い。」

 そう言った王様の表情からは、断腸の思いって雰囲気が手に取るように窺えたよ。
 そして、広場から女子供とお年寄りに退避が告げられ、ペデラスティ伯爵親子の刑が執行されたんだ。

 それから。

「次、アナルスキー伯爵及びその子息。」

「えっ!」

「次、ペドフィリア伯爵」

「おい!」

「続いて、ロリコーン子爵。」

「ちょっ…。」

 モカさんの口から処刑する者の素性が明かされる毎に、王様は焦っていたけど。
 周囲の雰囲気に飲まれて、小心者の王様は異議を口にするとは出来なかったよ。

         **********

 こうして、あっという間に、十四家十八人の貴族が処刑されたの。
 でも、これで終わりじゃないよ。

「さて、次に今回の事件の黒幕の処刑を執り行う。
 別邸で手広くご禁制の薬草を栽培し、貴族に売り捌いていた張本人である。」

 モカさんがそう宣言すると、アルトが舞台の上にエロスキー子爵を出したんだ。

「おっ、お前、エロスキー子爵!
 お前まで、この一件に関与していたのか!」

 驚嘆の声を上げる王様。無理もない、一番の腹心(?)らしいからね。
 でも、王様、違うよ。モカさんの言葉をちゃんと聞いていた?
 関与してたんじゃなくて、黒幕だからね。

 一方のエロスキー子爵は、そんな王様の声を耳にして喜色を表したんだ。
 そして、

「陛下、この融通の利かん騎士を何とかしてくだされ。
 陛下の側近たるこの儂の邸宅に押し入ったばかりか。
 こともあろうに、この儂を拘束したのですぞ。
 ご禁制の薬草を栽培したとか、町娘をオモチャにしたとか。
 たかだか、そのくらいの事で難癖を付けおってからに。」

 王様に自分を解放するように懇願したの。
 自分のやったことをハッキリと認めたうえで、『それがどうした』とでも言いたそうにね。
 居直った訳じゃなくて、端から悪いことだとは思ってないの。

 当然、エロスキー子爵に周囲の非難の目が向けられる訳だけど。
 同時に、こんな奴を側に置いていた王様にも非難の目が注がれていたよ。

「ひっ! 黙れ! エロスキー!
 これ以上、余の立場を悪くするのではない。
 それに、余は肝を冷やしたのだぞ。
 余は危うくワイバーン討伐をさせられるところであった。
 お前が栽培していた『ラリッパ草』のせいでな。
 こればかりは、赦しておける訳がないであろう。」

 小心者の王様は民衆の不穏な視線を感じて子爵を黙らせると、本音ダダ漏れで叱責したんだ。

「何を仰るのですか、陛下。
 そのくらいのことで儂を罰すると申されるか。
 今まで、あれほど陛下に尽くしてきたではございませぬか。
 陛下の意に沿わぬ意見を述べる貴族があれば闇討ちし…。
 またある時は、陛下に逆らう貴族の屋敷に動物の死体を投げ入れ。
 常に陛下の意向が通るように工作してきたではございませんか。
 ここで、儂が居なくなれば誰がそれをすると言うのですか。」

 とんでもないことを暴露しつつ、尚も王様に命乞いをするエロスキー子爵。
 良くこの王様に王の仕事が務まるものだと、常々不思議に思っていたけどそう言うことだったんだ。
 ますます、周囲の王様を見る目が冷たくなったよ。

「ええい、もうそいつに喋らせるな!
 モカ、さっさとそいつの首を刎ねんか!」

 これ以上立場を悪くされたら叶わないと思ったんだろうね。
 王様は刑の執行を急がせたよ。

 そして、中央広場の露と散ったエロスキー子爵。
 もちろん、その後、子爵のどら息子も後を追ったよ。

 その日、全ての処刑を終えたモカさんは、民衆に向かって高らかに宣言したんだ。

「今回の『ラリッパ草』の取引に関与したものの名簿をエロスキー子爵から押収し。
 既に、騎士千人を動員して、その全員の摘発に動いている。
 今回の事件、危うくワイバーンの王都襲来に繋がるところであった。
 冒頭、陛下の宣下にあった通り、『ラリッパ草』に手を染めた者は決して赦さない。
 全員を捕えて、この場で公開処刑に処するので心しておくように。」

 エロスキー子爵の顧客名簿にあった者は、全員の素性を公表すると共に公開の場で処刑するってね。

 モカさんの言葉を聞いて、王様は顔を引き攣らせてた。
 今日処刑された貴族は全員王様の取り巻き貴族だったらしいから。
 残りも推して知るべしと思ったんだろうね。
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