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第四十章 希少鉱石の国で学ぶ人と神の習性

派遣軍

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希少鉱石の国に派遣する軍隊の編成が終わり、ライアーに派遣時期の相談。どうやら土地の確保完了の知らせは少し前から来ていたようで、後はこちらの編成待ちだったらしい。

『明後日あたりかなー?』

『急だね……』

『うん、その人達に話しておいてね』

人達というか魔物達というか……とにかく説明のために彼らを待たせている海辺に行った。

『骨鯨まで捕まえてくる思わんかったわ』

無断で海軍大将に就任させた酒呑も挨拶には出てもらわなければならないので、打ち合わせのため呼び出した。

『骨鯨、有名なの?』

『よぅ祟りよるんやコイツ。見た、絵描いた、それだけで熱出よるらしいで』

『え……? ど、どうしよう。派遣で……紹介のためにたくさんの人の前に出てもらわないとなんだけど』

『隠し玉でええやろ。生きとる鯨とちゃうんやからずっと沈んどっても何ともあらへんやろし』

極秘の潜水艦として扱えと? まぁ、隠して戦力を置くのは良い案だと思う。あまり人目に触れてはいけない妖怪のようだし、酒呑の案を採用しよう。海軍大将としての初仕事だな。

『……頭領にえらいべったりやけどホンマにそれも置いてくんのか?』

『きゅーぅ! きゅいきゅぃい……』

幼竜は逆叉に預けていたのだが、僕が海辺に到着したと同時に海面から飛び出してきた。今は足に尾を絡めて胸に頭をすり寄せている。

『うーん……魔物は正直数合わせだからなぁ』

逆叉の群れと骨鯨、それに水棲竜、彼らは数合わせだ。希少鉱石の国で何が起こっても行動する訳ではない。

『数合わせ……? ほんなら何かあったらどうすんねん』

『…………アインス、ツヴァイ、ドライ』

酒呑には説明しておかなければ。僕は渋々真の戦力である三人を呼び付けた。

『何ー? どうかした?』
『何かあった……待って、何君達』
『……呼んだの僕だけだよね?』

『うぉっ……なんやこれ。兄さんいっぱい居るやん』

『うん……にいさまの分裂体。十三体までなら接続して問題なく動かせるらしいから、とりあえず三体作ってもらった』

本体含め肉体が十五個以上になると伝達に不備が生じ始めるらしい。とはいえ完璧を求めないなら三十体までなら実用的だろうと……相変わらず恐ろしいほどに優秀だ。

『そら強いんやろうけど兄さんら何人も居ったら絶対喧嘩しよるやん。今も怪しいがな』

『いや、皆にいさまと繋がってて独立はしてないはずだから……』

『そう!』
『別に性格とか』
『ないよ!』

『……うん、家に居るにいさまのリモート。多分さっきのはちょっとした冗談……かな?』

三人並んだ兄が揃って頷く。なかなかに嫌な光景だ。

『魔力も供給されてるし』
『メンテナンスも常にやってるようなもの』
『脳を増やして並列処理してるから停止やラグもない』

『……よぅ分からんけど』

『優秀さを自慢してるだけだよ。派遣隊は任せるよ、信じてるからね、にいさま』

兄にやる気を出させるために媚びを売っておく。だが、妙だ。反応がない。

『…………にいさま?』

『本体家で感激してる』
『……ちょっとラグい?』
『サバ落ち気味……』

何を言っているのか分かりにくくなってきたな。そういえば近頃十三体別個操作のためにコンピュータを参考にするとか言って科学の国から大量の資料を盗んできていたような。

『……ぁ、復旧したみたい』
『はぁはぁ言ってるけどね』
『ブラコンここに極まれり』

『…………頭領、ホンマにこいつら性格ないんか?』

『ないと思うけど……あったら扱いにくいよ』

使い捨ての端末ではなくフェルのように個人として扱わなければならなくなるから脳は作るなと言っておいた。彼らの頭にあるのは兄と繋がっておくための魔法陣と魔術回路だけだ。

『さっき名前呼んでたやん、見分けは?』

『いや、一応のナンバリングだから……見分けるのは無理』

『僕アインスね』
『え、僕がアインス』
『やだ、僕がアインス』

『あいんす……? 言うんがえらい人気やの』

『1って数字が大好きなんだろうね。僕はとりあえずにいさまって呼ぶから』

『…………ほな俺も兄さんでええわ』

一人でいいとは思うのだが、同時に並行してやってもらいたい作業もあるだろうし、副と予備として三体にしてもらった。

『にいさまは妄想激しいタイプだから三人で話して暇潰せるだろうし……』

『独り言っちゅうことやんなそれ』

『……家で一人でブツブツ言ってるよりいいでしょ?』

結界さえ張れば天使に襲われなくなると思っていたが、高位の天使には力づくで結界を破る者も居るようだし、目を付けられないために希少鉱石の国には結界を張らないことにした。
それなら攻められても初めは弱い天使だろうから分身一人で対処出来る。その隙に二人目が民間人を避難させればいい、もう一人居るから並行して怪我人の治療もできる。

『……よし、打ち合わせはこのくらいでいいや。酒呑、帰ろっか』

『その竜どうするん』

『…………この港で貿易船の見送りと出迎えを命ずる』

マスコットとして可愛がられて欲しい。もう少し大きくならなければしっかりした仕事は任せられない。

『ちゃんと顔見に来るからねー』

幼竜を引き剥がして海に返し、踵を返す。ドサドサッと背後で人が倒れたような音がして振り向けば、兄の分身達が倒れていた。

『……頭領、これ平気なんか?』

『うん……多分、接続切っただけ。派遣の日になったらまた動くよ。家に戻す必要もないしここに置いておくつもりだと思う』

『港の人らびっくりしはんで』

『ほぼ死体だからね……』

人間の肉体を忠実に再現している訳ではないので脈拍などは測れないだろう。騒ぎになっては困るので見つからないよう物陰に隠しておこう。

『よし、帰ろっ』

『……頭領意外と適当やんな。ほんで、俺も明後日? は行かなあかんねんな。はよ言うといてもらわんと困るわ、しふと組まれへん』

『ご、ごめんね?』

明日は最初にして最終の段取り確認、打ち合わせを徹底し、予定外の動きがないように逆叉達に十分な餌を与えた。
そして派遣隊の派遣当日、開けてもらった海辺の土地にまとめて空間転移。政府関係者や衛兵が集まっていた。丁寧に挨拶を済ませ、基地の建設を始める。

『塀の高さはこんなものかな』
『登れないように返しをつけて』
『登りきる奴が居た時のために接触発動式の魔法陣を』

『にいさまー、バラけて作業してー』

侵入は防ぎつつも危険な施設にはならないよう、秘匿性が高過ぎない好印象な建築物に。

『頭領ー、逆叉らが泳いできてええか聞いとんで』

『いいって言っといてー!』

酒呑は魔獣とある程度話せるようだ。魔力の波長を合わせて意思疎通を可能にする……なんて技があるらしいが、僕はそれほど繊細な調整は出来ない。第一印象が粗暴な男である酒呑に繊細さで負けるというのはかなりの屈辱だ。

『常駐兄さんらだけなんやったら広さこんくらいでええんちゃう』

『んー……魔石ってあるんでしょ?』
『それの研究こっちでしたいから』
『地下室作っておきたいんだけど』

『ほーん……しっかり土の具合見ぃや、下手に掘ったら崩れんで』

安全ながら程よい秘匿性のある塀は出来た。兄達は建物の方に夢中だ、基地内が地面剥き出しというのも格好悪いし、後で舗装させよう。海軍なら船でも持たなければとは思うけれど、戦艦を作るような資源や資産は──

『……りょー、頭領ー! お客さん来てんで!』

『ぁ、あぁ……ごめん。お客さんって……?』

『何や足悪い人や』

塀に溶け込ませて作った扉を開け、客とやらを迎える。

「……そこドアなんだ~。すごいね~、見分けつかないよ~」

『…………や、やぁ……ハスター……こんにちは』

「スメラギって呼んで欲しいな~、他の人に聞かれると面倒だから~」

ハスター……いや、スメラギを迎え入れる。車椅子には舗装されていない地面を動くのは辛いだろうと思っていたが、どうやら悪路にも対応しているらしい。山側に居たのなら当然か。

『……お茶でも、淹れるね』

「おかまいなく~」

完成した一階部分に酒呑の腕を引っ張って入る。作り立てなのに前から住んでいたように揃っている生活用品の中からコップを探し出し、湯を沸かす。

『……頭領? どないしたんえらい怖い顔して』

『…………酒呑、ハスターって知ってる?』

彼はクトゥルフに対して下に出ていた。クトゥルフは知っていたのだ、なら……そう思ったが、酒呑は首を傾げた。

『知らん。何それ』

『あの車椅子の人……に、取り憑いてる神様。話はできるタイプだし、多分温厚。でも、やっぱり怖い……から、君にもできるだけ機嫌取って欲しい』

『…………了解』

面白くなってきたとでも言いそうな笑みを浮かべた酒呑を見て僕は不安を膨らませた。
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