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第四十章 希少鉱石の国で学ぶ人と神の習性

支配者同盟

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芝生に置かれた木組みの机と椅子、屋外お茶会セット。そこにハスター、いや、スメラギを案内する。腕がいいとは言えないが物がいいのでそれなりに美味しいお茶になっているはずだ。

「……この間はごめんね~?」

スメラギはお茶を一口飲み、そう言った。まさか素直に謝ってくるとは思っておらず、反応が遅れる。

『ぁ、いや……うん、大丈夫だったから』

やはり他の邪神よりは善良に近いようだ。油断は禁物だけれども。

『ほんで何の用があって来はったんな自分』

「国関係なく、新支配者としてのター君に話があってね~」

『新支配者……って何や』

酒呑はお茶に手を付けず持ち歩いている酒を飲んでいる。用意したのだから一口くらい飲んで欲しい。

『それ、僕も気になってる。新支配者ってたまに呼ばれるんだよ、何なのそれ』

「……そもそもこの星は君達人類が支配していたものではなかった。その当時星を支配していたモノ達を、今は旧支配者と呼んでいる──それが僕達の物語なんだよ~」

『…………物語?』

「神話、だね~……不本意ながら、僕は邪神。今使っている顕現はニャルラトホテプのものでもある。だから今、僕は少々メタフィクションな話が出来る」

スメラギは周囲を見回し「今日はにゃる君居ないんだね」と安堵のため息をついた。ライアーは彼を苦手としていたけれど、彼もライアーが苦手なのか?

「僕達はこの世界の存在じゃないんだ~。悪魔も、創造神も、神降の国の神々も、アース神族も、砂漠の国に降りた神々も、他全て、上位存在はこの世界の存在じゃない」

『……天界とか、アスガルドって意味だろ? 君達も別に自分達の世界を持ってるってことだよね?』

「……僕達の世界は他の神々の世界とは違う。次元が、ね……でも君達の世界に現実として顕れられたことで実在の上位存在になれた……みたい~? うぅん、にゃる君ならもう少し詳しいんだけどなぁ~」

話が難しいな。つまり何だ? 侵略者ということか?

「…………ねぇ、君は神が人を創ると思う~? 人が神を作ると思う~?」

急に何の質問だ? 人界と人間を創ったのは創造神のはずだ。その人間が他の神を崇めだしたら攻撃的になるのは当然のことで──待てよ、神降の国では人を創ったのは降臨した神々で、砂漠の国ではそこの神が人を創ったとされている。あれ……?

『人や。人が作る』

「……君は妖鬼の国の鬼か~。そうだね~、君の国ではそうだ。魂は生き物だけのものではなく、遍く全てに存在する。器物百年……魔力や信仰、知名度、呪い…………あらゆる人間の意志によって神が増えていく」

『せやけど俺らんとこの神さんと創造神やら何やらは違うんやろ?』

「そうだね、同じ言葉ながら意味が違う。だから君達のところのは大抵妖怪と呼ばれる」

酒呑は話についていけているようだ。頭が悪そうな雰囲気を出しておいて、時折聡明なところを見せるのだから……彼は右腕として優秀だ。

「砂漠の国の神々が何故この世界から撤退したと思う? この世界のこの星は丸いからさ。彼らの世界と法則が違うことが多過ぎた。それに彼ら神々には人間が大して必要ではなかった。でも僕達は違う、僕達には人間がまだ必要だ、まだ存在が確立できていない。妖鬼の国の妖怪のように、僕達には知名度と信仰が足りない」

『そりゃ、外から来たんじゃ……当たり前だよ』

「そうさ僕らは外から来た。この星の外? この世界の外? あるいは宇宙? それは重なってしまったこの世界では解明出来ないだろう? されたら困るんだ、ボクは未知でいないといけない! 仮面の下に顔が無いからこそボクは自由になれる、無貌のボクこそ千貌なのさ!」

『……っ!? ハスター!? ハスター、ハスター……だよね?』

「………………あれ~? ター君……? あぁ、うん、ちょっとアクセスし過ぎたかな~……危ない危ない。この顕現は今とても大事だからね~、渡さないようにしないと~……」

車椅子から立ち上がっていたスメラギは思い出したようにガシャンと座り込む。そうして黒革に包まれた歪な手を伸ばし、僕の頭を撫でた。

「名前、呼んでくれてありがとう~。それだよ、それが僕達が欲しいもの。みんな存在を確立させていたいんだ~」

存在の確立……僕には馴染み深いモノだ。『黒』は名前を失ったから存在も失った、僕は『黒』の名を奪ったからヘルシャフト・ルーラーを失った。

『……じゃあ、もうハスターでいいよね? ここには誰も入ってこないしさ、スメラギさんである必要は無いよ』

「そうだね~、うん、ありがとう~」

ライアーもナイに関わりあるモノに干渉し続けると顕現を奪われると言っていた。ハスターもそうなのだろうか? 少なくとも今目の前に居る顕現は不安定らしい。

「えーっと、どこまで話したかな~? うぅん……とりあえず僕達が外から来て~、ずっと昔から居たことになったって言うのは話したね~」

『……歴史を捏造したってこと?』

「歴史ごと、ね~。本当に昔から居たんだよ~。そうなったんだ~。君達人間が歴史書を書き換えるように、僕達は……にゃる君は世界を書き換えた」

相変わらずとんでもなく迷惑なことをしてくれる。

「そう、だから僕達は旧支配者と呼ばれる。現在の支配者は君達人類。創造神の庇護下にあり玉蜀黍の奴隷ではあるけれど、神でもないのに地形を変え住処を整える君達は支配者と呼ぶに相応しい」

大規模な社会性を保ったまま大陸間を移動したり、ここまで広く分布している生命体は他にないだろう。そういう意味なら支配者と呼ばれるのも納得が行く。

「そして君は新支配者。僕達の次、人類の次の支配者。魔性を統べ、世界を納め、君臨し続ける絶対的魔王」

『……僕は、そんなんじゃ……』

「そんな新支配者にそろそろ復活できる旧支配者が関わりたがるのは当然のことだよね~? 支配されちゃたまらないから今のうちに潰す……それがクトゥルフ。支配下の世界に居させて欲しいから仲良くなりたい……それが僕」

魔王と呼ばれるのも新支配者と呼ばれるのも好きではない。けれど誰もが決定事項として話す。僕はただ誰もが幸せに暮らせるようにしたいだけなのに。

「ねぇ~、ター君。僕は君が支配する星の一角、大洋の到達不可能点を埋め立てて~、そこを含めたどこかで羊飼い達を眺めていたい。文明の進化は止めたいけれど、君が支配する過程で少しは衰退するだろうし~、最悪人類が滅んでも羊と羊飼いとその土地だけは守ってみせる」

どうしてそんなに羊に固執するのかは知らないが、この要求なら飲める。

『……人類を滅ぼしたり、文明を破壊したりはしないんだね?』

「うん……したいけど~、君がする気になるまでは大人しくするよ~。する気になったら一緒にやろうね~」

不安要素ではあるけれど、それを開示するのだから「大人しくする」という言葉は信用出来る。

『じゃあ、同盟を組もう。ハスター。僕と君はこれから友達だ』

「うん! 友達友達……じゃあ~、早速大洋の到達不可能点を埋め立てよう~!」

羊以外にも固執しているものがあった。環境破壊を嫌うような素振りを見せておいて、どうしてそんなに埋め立てたがるのだろう。

『……そこ、何かあるの?』

「クトゥルフと街が沈んでる~。星が揃って封印が解けたら浮いてくるから~、今のうちに埋めておきたいんだ~」

『クトゥルフ!? ホンマに!? んなとこ居ったんか!』

肘をついて暇そうに話を聞いていた酒呑が急に顔を上げ、サラッと話されたクトゥルフの居場所よりもそっちに驚いた。

『そっか……それは埋めたいね。埋めたら出てこないの?』

「さぁ……? それは分かんないけど~、とりあえず埋めたい~」

仲悪いのかな。

『…………大洋のド真ん中だよね。相当深い……どこから土持ってくる? 酒呑、アイディア』

『あい……であ……?』

『何か、思い付きの斬新な発想ちょうだい』

僕も混乱しているのだろうか、無茶振りをしている。

『んー……兄さん空間転移っちゅうの使えたやん。アレで海の底から大陸の下に移動させたええんちゃうん』

『すごい! それ採用!』

そう言いながらハスターの方を見ると、彼はあまり喜んでいなかった。

「海水で遮断されてるテレパシー、その大陸に染み込まない~?」

『そんなん埋め立ててもそうやん』

「そうなんだよね~…………僕みたいにこの星から追い出して幽閉しても~……うぅん……」

テレパシーは海水で弱まるのに土中では弱まらないのか? そもそも海水で弱まるというのもよく分からない話だが。

「……うぅん……まぁ、まだ時間あるし~……考えておくよ~。思い付かなかったら彼の……土中に埋めるっての採用して~。にゃる君が何重にも結界張れば多分大丈夫だし、僕はそこに住むよ~」

『あ、監視してくれる? うん……じゃあ、何も思い付かなかったらそうしよっか。酒呑も何か考えておいてね、海は君の専門なんだから』

『何で俺海軍大将なんや……』

父親が水神だから。他に水が得意な仲間が居ないから。改めて振り返っても酷い理由だ。
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