3 / 33
偵察任務
しおりを挟む
流石に、着任後すぐに突撃とかの無茶は無かった。
訓練をし、お互いに戦い方や考え方を呑み込み合い、俺とルイスは、ここというよりも、戦地そのものに慣れるようにしていく。
隣国のスリムラとは、町はずれを境にして睨み合っており、膠着状態が続いていた。戦いが無いのでケガ人は出ないが、ストレスは溜まって行くし、気は緩む。
基地の全将兵が大食堂を利用するのだが、俺達を見ると、こそこそと囁き合ったり、嘲笑を向けられたりする。完全に俺達の小隊は、舐められていた。
それでも、メンバー達は涼しい顔で食事を摂っているし、ルイスは元々楽天家だし、俺も、逮捕以来これには慣れた。
なので、嫌がらせの効果は出ていない。却って、彼らの士気や規律の低下が心配だ。
そんなある日、俺は大隊長に任務を言い渡された。
「偵察ですか」
「そうだ。この一帯を挟んで両軍が睨み合っている」
地図を指し示しながら言う。
両軍の間には森と川があり、森の向こうには湿地帯が広がっている。お互いに攻めあぐねているのは、向こうまで攻めるには物資の運搬が難しく、孤立の危険があるからだ。
しかし、スリムラがそろそろ攻勢に出そうだという分析が出ているらしい。
「了解しました!」
俺は了承し、すぐに仲間にそれを伝えた。
「オレ達が偵察?」
ガイが考えるようなそぶりを見せる。
「普通なら、もっとベテランのチームがやりそうだけどな、確かに」
俺もその点はちょっと違和感があった。しかし、上に逆らえないのが軍隊だ。殴り飛ばしたロタは凄い。
「まあ、遊ばせとくのもどうかって事じゃないのか?湿地帯とかだと、泥だらけになりそうだし」
ルイスが言うと、ゼルが嫌そうに同意した。
「泥まみれで帰って来たワシらを笑おうって魂胆だろうよ。ちぇっ」
「後ろから命令するのが貴族の基本だからな。この任務は嫌なんだろう、泥の中に行かなくてはならないから」
マリアも肩を竦める。
「まあ、行かなければいけない事には変わりがないし、行くぞ」
言い、俺達は偵察任務の準備を始めた。
森は深く、小道を外れると方向もわからなくなって出られなくなってしまうとか。魔の森、呪いの森などと呼ばれているそうだ。なので、スリムラも森を通るなら、この道を進むしかない。
俺達は警戒しながら、進んでいた。
スリムラもだが、マリアがうっかり離れて迷ってしまわないように、だ。
進んでいくと、川に出た。支流という事もあって、今は水が少なく、水かさが膝くらいまでしかないし、川幅も、随分と細くなっているようだと、周囲を見てわかった。
下流側にもう少し行った所は崖になっているそうだ。
川を水に浸かりながら渡る。
しばらく進んで、ガイが止まった。
「そろそろ暗くなります。この辺で今日は泊まりましょう」
それで俺達は、道からやや外れた所に細い糸を這わせながら入り、テントを張った。
訓練でやったが、それよりも皆の方が当然手慣れていて早い。2人用のテントを張り終えた時には、皆は周囲の警戒をしながら、夕食の支度に入っていた。
こういう時、缶詰などの行軍食を支給されるのだが、俺達に与えられたのは、水と干し肉と硬いパンだった。
説明では、
「火を使って煙が出たり、においのするものを持って行ったら、バレて偵察にならないだろう」
という事だったが、半分嫌がらせらしい。
火を使わなくてもいいものも、柔らかいパンも、あるという。
ガイは小型のコンロに火を点け、鍋に水とガチガチの干し肉、乾燥野菜を入れてスープにし、人数分のカップに注ぎ入れた。パンはそれに浸けて食べるといいそうだ。
「おお。殴ったら死にそうなパンが!」
ルイスが感動の声を上げた。
「主計課に懇意にしてる奴がいて、屑野菜を貰って、干して乾燥させてたんだ。こういう時に役に立つ」
ガイが言うのを訊いて、俺は、主計課には嫌われてはいけない、と思った。
「2人ずつ見張りをする。
そうだな。今日は念の為、フィーとルイスは別々にコンビを組んだほうがいいな」
そうして、俺とガイ、ルイスとロタ、ゼルとマリアになった。
順番をじゃんけんで決めたのだが、俺は連敗した。そうだった、忘れてた。俺はじゃんけんに弱い。
俺はガイに警戒の仕方を教わった。ルイスもそうだろう。
そして翌朝、俺達は昨夜と同じ食事を摂った後、出発した。
訓練をし、お互いに戦い方や考え方を呑み込み合い、俺とルイスは、ここというよりも、戦地そのものに慣れるようにしていく。
隣国のスリムラとは、町はずれを境にして睨み合っており、膠着状態が続いていた。戦いが無いのでケガ人は出ないが、ストレスは溜まって行くし、気は緩む。
基地の全将兵が大食堂を利用するのだが、俺達を見ると、こそこそと囁き合ったり、嘲笑を向けられたりする。完全に俺達の小隊は、舐められていた。
それでも、メンバー達は涼しい顔で食事を摂っているし、ルイスは元々楽天家だし、俺も、逮捕以来これには慣れた。
なので、嫌がらせの効果は出ていない。却って、彼らの士気や規律の低下が心配だ。
そんなある日、俺は大隊長に任務を言い渡された。
「偵察ですか」
「そうだ。この一帯を挟んで両軍が睨み合っている」
地図を指し示しながら言う。
両軍の間には森と川があり、森の向こうには湿地帯が広がっている。お互いに攻めあぐねているのは、向こうまで攻めるには物資の運搬が難しく、孤立の危険があるからだ。
しかし、スリムラがそろそろ攻勢に出そうだという分析が出ているらしい。
「了解しました!」
俺は了承し、すぐに仲間にそれを伝えた。
「オレ達が偵察?」
ガイが考えるようなそぶりを見せる。
「普通なら、もっとベテランのチームがやりそうだけどな、確かに」
俺もその点はちょっと違和感があった。しかし、上に逆らえないのが軍隊だ。殴り飛ばしたロタは凄い。
「まあ、遊ばせとくのもどうかって事じゃないのか?湿地帯とかだと、泥だらけになりそうだし」
ルイスが言うと、ゼルが嫌そうに同意した。
「泥まみれで帰って来たワシらを笑おうって魂胆だろうよ。ちぇっ」
「後ろから命令するのが貴族の基本だからな。この任務は嫌なんだろう、泥の中に行かなくてはならないから」
マリアも肩を竦める。
「まあ、行かなければいけない事には変わりがないし、行くぞ」
言い、俺達は偵察任務の準備を始めた。
森は深く、小道を外れると方向もわからなくなって出られなくなってしまうとか。魔の森、呪いの森などと呼ばれているそうだ。なので、スリムラも森を通るなら、この道を進むしかない。
俺達は警戒しながら、進んでいた。
スリムラもだが、マリアがうっかり離れて迷ってしまわないように、だ。
進んでいくと、川に出た。支流という事もあって、今は水が少なく、水かさが膝くらいまでしかないし、川幅も、随分と細くなっているようだと、周囲を見てわかった。
下流側にもう少し行った所は崖になっているそうだ。
川を水に浸かりながら渡る。
しばらく進んで、ガイが止まった。
「そろそろ暗くなります。この辺で今日は泊まりましょう」
それで俺達は、道からやや外れた所に細い糸を這わせながら入り、テントを張った。
訓練でやったが、それよりも皆の方が当然手慣れていて早い。2人用のテントを張り終えた時には、皆は周囲の警戒をしながら、夕食の支度に入っていた。
こういう時、缶詰などの行軍食を支給されるのだが、俺達に与えられたのは、水と干し肉と硬いパンだった。
説明では、
「火を使って煙が出たり、においのするものを持って行ったら、バレて偵察にならないだろう」
という事だったが、半分嫌がらせらしい。
火を使わなくてもいいものも、柔らかいパンも、あるという。
ガイは小型のコンロに火を点け、鍋に水とガチガチの干し肉、乾燥野菜を入れてスープにし、人数分のカップに注ぎ入れた。パンはそれに浸けて食べるといいそうだ。
「おお。殴ったら死にそうなパンが!」
ルイスが感動の声を上げた。
「主計課に懇意にしてる奴がいて、屑野菜を貰って、干して乾燥させてたんだ。こういう時に役に立つ」
ガイが言うのを訊いて、俺は、主計課には嫌われてはいけない、と思った。
「2人ずつ見張りをする。
そうだな。今日は念の為、フィーとルイスは別々にコンビを組んだほうがいいな」
そうして、俺とガイ、ルイスとロタ、ゼルとマリアになった。
順番をじゃんけんで決めたのだが、俺は連敗した。そうだった、忘れてた。俺はじゃんけんに弱い。
俺はガイに警戒の仕方を教わった。ルイスもそうだろう。
そして翌朝、俺達は昨夜と同じ食事を摂った後、出発した。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる
青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。
ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。
Hotランキング21位(10/28 60,362pt 12:18時点)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる