異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
105 / 234
9:大使館と戦乱の火

9-13

しおりを挟む
停戦協定の話が持ち込まれた次の日、西の森の戦況に新しい変化が現れた。
「……なにか飛んでる?」
ポアロ大佐の指摘したものは人影のように見える。
「何かって金羊国の鳥系獣人兵ではないんですか?」
金羊国がこれまで西の国を抑え込むことができたのは、西の国に飛行戦力がほぼ皆無であったことが大きい。
空を飛ぶ魔術が使える人間は希少で死ねば大きな損害を被ることから、安くて替えの利く鳥系獣人はこの世界における貴重な航空戦力として活用されていた。
しかし西の国が連れてきた鳥系獣人は金羊国が夜襲の際優先的に自国に連れて行っているので現在西の国にはほとんど鳥系獣人がおらず、航空戦力が不在となっている。
「違います、これは……!」
空を飛ぶように走ってきたのは鎧を纏った人間だった。
茶色の鎧(素材はおそらくジョンと同種の生き物の甲羅だろう)にロングソードを腰に佩き、胸には教会に仕える騎士を示すロゴが刻み込まれている。
「異教徒め、覚悟!」
大型ドローンを叩き切ろうとするのを視認したポアロ大佐はすぐさま3台の大型ドローンを撤退させる。
幸い教会の騎士は3分飛ぶのが限界なようで途中で倒れるように落ちていくのが見えたが、自動操縦にしていたドローンが1台通信不能になっている。
『本部、先ほど上空からドローンの墜落を確認。回収しますか?』
『回収可能でしたらお願いします、しかし生命に関わると判断すれば放置しても構いません』
『了解』
壊されたらしいドローンの回収は現場にいるラドフォード中尉にお願いし、残った2台は大使館で点検が行われた。
「戦況打破のための新戦力の投入でしょうか」
「恐らくそうでしょうね。短期決戦のつもりが長引いたので使うつもりのなかった予備兵を投入といったところでしょう」
ドローンで大森林西部の様子が確認できないことに不安がよぎる。
しばらくしてドローンの点検を終えると「少し慎重に飛ばしましょう」と飛ばすドローンを一台だけに絞ることにし、再びドローンは大森林西部へと飛び立った。

****

大森林西部の上空は教会の騎士と金羊国の鳥系獣人兵による剣技格闘が繰り広げられていた。
流れ矢に気を使いつつドローンで偵察を続けていると、地上のほうがいささか金羊国側に不利な流れが生まれてきた。
「金羊国は空から兵を指揮していたのが教会騎士の投入で難しくなってきたようですね」
ポアロ大佐の分析に耳を傾けていると銃声が増えてきたことに気づく。
「これは9ミリ拳銃ではなくM24、アサルトライフルですね。これも彼らがんですか?」
「……そのようです」
「木栖大佐(※自衛隊では1等陸佐と呼ぶが世界的には大佐になるのでそう呼んでいる)が持ち込んだ武器について真柴大使はどの程度把握していますか?」
「配備されている小火器類は大体使えるので持ち込んだと聞いてます」
微妙な表情でごまかすがやはりポアロ大佐にはバレている気がする。
『こちら本部、金羊国側は大使館にあった拳銃・自動小銃・散弾銃を誤認借用して用いている模様。誤射に気を付けて行動するように』
『了解しました』
呆れ気味にポアロ大佐がこちらを見るので「この不始末は自分で片づけますので」というほかなかった。
「まあいいサンプルが出来たと思うことにしましょう」
そう呟きながら地上や上空での戦闘の様子に目を向けると、ファンナル隊長が複数の騎士と殴り合っているのが目に見えた。
襲ってきた騎士のロングソードを蹴ってへし折るとナイフでで動脈を切り、拳銃でアキレス腱を打ち抜くと同時に地面にたたき落とし、切っ先を避けると同時に拳銃でわき腹をぶち抜く。
一瞬で騎士たちを地面に落とすと仲間たちの支援に駆け込んでいく。
それはアクション映画のような激しくも美しい動きであった。
「……まるでガン=カタですね」
いったいファンナル隊長はこの1年で木栖から何を教わってきたのか、大いに聞きたいところである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭
恋愛
西野愛玲奈(えれな)は少しオタクの普通の女子高生だった。あの日、池に落ちるまでは。 目が覚めると知らない天井。知らない人たち。 「もしかして最近流行りの乙女ゲーム転生!?」 しかしエレナはヒロインでもなければ悪役令嬢でもない、ただのモブキャラだった。しかも17歳で妹に婚約者を奪われる可哀想なモブ。 「婚約者とか別にどうでもいいけど、とりあえず妹と仲良くしよう!」 モブキャラだからゲームの進行に関係なし。攻略対象にも関係なし。好き勝手してやる!と意気込んだエレナの賑やかな日常が始まる。 ーー2023.12.25 完結しました

美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。 世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。 意味がわからなかったが悲観はしなかった。 花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。 そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。 奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。 麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。 周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。 それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。 お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。 全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。

馬に蹴られてゆく道で

うらたきよひこ
ファンタジー
薬箱を背負った胡散臭い旅人シハルが出会った人々との物語 かつては神職についていながら神に不適合の烙印を押され力を失ってしまったシハルと神から盗みをはたらこうとして悪霊と化してしまったヴァルダの少し不思議な旅の物語です。 1章が3万文字前後(所要時間30~50分程度)の軽いお話で、少しずつ読めるように3~4000文字くらいでくぎってあります。ゆるゆると隙間時間にでもお楽しみいただければ幸いです。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

勇者召喚に巻き込まれた俺はのんびりと生活したいがいろいろと巻き込まれていった

九曜
ファンタジー
俺は勇者召喚に巻き込まれた 勇者ではなかった俺は王国からお金だけを貰って他の国に行った だが、俺には特別なスキルを授かったがそのお陰かいろいろな事件に巻き込まれといった この物語は主人公がほのぼのと生活するがいろいろと巻き込まれていく物語

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

秘密基地は大迷宮〈ダンジョン〉に

カイエ
ファンタジー
小学校に通う少年少女たちが手に入れた秘密基地は――本物のダンジョン! モンスターを倒して位階を上げて、新しい魔法をゲットしよう! ※レイティングの残酷描写/暴力描写ありは保険です。

処理中です...