105 / 254
9:大使館と戦乱の火
9-12
しおりを挟む
それから1週間にわたって金羊国と西の国は一進一退の攻防を繰り広げていた。
昼に西の国が大森林を抜けようとするのを金羊国はゲリラ的奇襲と撤退の繰り返しで進行を食い止め、夜になれば金羊国が夜襲や妨害工作で相手の元気を削り取るという地味な戦法を取っていた。
ポアロ大佐はこれを「弱者であるが故にひねり出した戦法」と評し木栖は「いきなり地味な削りあいにもちこんだな」と苦笑いをこぼした。
暦はまだ4月の半ばに差し掛かろうというタイミングで、まだ麦の収穫の季節には早すぎる。
その様子を液晶画面越しに見ていると階段を上る足音と同時に「ちょっと様子見に来たぞ」という声がかけられた。
「グウズルン情報管理官」
「相変わらず人んちの喧嘩の観察会か、ちょっとは助力してくれればいいものを」
「地球側はあくまで静観の方針ですから」
「日本側が武器を貸すって話もあったはずなんだがな」
グウズルン情報管理官の言っている武器の件は現状政府内部で要検討にとどまっており、他国も日本を経由しなければ金羊国に武器を貸し出せないのがネックでうまいこと話がまとまらずにいた。
「すいません、上がごたついているので」
「まあいいや。ひとつ頼みがある」
「頼みですか?」
「停戦協定の仲介を日本側でやれないか?下手に大陸内の他国を巻き込むとややこしくなりそうでな」
「もう停戦協定の準備を?早すぎませんか?」
いささか気の早い心配に思えた俺に対して、グウズルン情報管理官は冷静だった。
「収穫準備を考えたら今月中にはお帰りいただきたいぐらいだ、遅くとも5月半ばまでには終わらせたいんだがあちらさんはプライドが高くてね。戦勝しこの地を占領する他の選択肢がない。ハルトルには甘い北の国あたりに仲介を任せるにも後ろ盾の教会が怖くて動きづらい、かといって南や東に仲介を任せるとこっちに不利な条件で話をまとめられかねん。
そこでこっちの世界とのしがらみのない地球って訳だ」
言い分はなんとなくわかるが、俺個人が背負うにはいささか荷の重い依頼でもあるように思う。
まあ国家首脳単位と考えれば俺ではなく政府から人を引きずり出せばいい。
「……上に話はしておきますよ」
「ハルトルから預かった書類も渡しとくんで、うまく頼むよ」
****
この話を木栖・ポアロ大佐・トムリンソン准将に打ち明けると「動きが早いな」と同じ意見を示した。
「しかし、西の国側は俺たちを金羊国側とみなしてる可能性が高いんじゃないか?」
トムリンソン准将の指摘はもっともでこの1年間俺や木栖は金羊国と行動を共にし、今回の件でも観戦武官に向けた敵対行為が散見された。
そこを考えると日本ではいささか不適格な依頼のように思えた。
「地球の中でもこちらの世界との接点の少ない国を仲介に立てられないか動くのが妥当じゃないでしょうか?」
「ポアロ大佐の意見が妥当ですかね」
明日にでも木栖に行ってもらってこの情報を伝えに行く必要がありそうだ。
昼に西の国が大森林を抜けようとするのを金羊国はゲリラ的奇襲と撤退の繰り返しで進行を食い止め、夜になれば金羊国が夜襲や妨害工作で相手の元気を削り取るという地味な戦法を取っていた。
ポアロ大佐はこれを「弱者であるが故にひねり出した戦法」と評し木栖は「いきなり地味な削りあいにもちこんだな」と苦笑いをこぼした。
暦はまだ4月の半ばに差し掛かろうというタイミングで、まだ麦の収穫の季節には早すぎる。
その様子を液晶画面越しに見ていると階段を上る足音と同時に「ちょっと様子見に来たぞ」という声がかけられた。
「グウズルン情報管理官」
「相変わらず人んちの喧嘩の観察会か、ちょっとは助力してくれればいいものを」
「地球側はあくまで静観の方針ですから」
「日本側が武器を貸すって話もあったはずなんだがな」
グウズルン情報管理官の言っている武器の件は現状政府内部で要検討にとどまっており、他国も日本を経由しなければ金羊国に武器を貸し出せないのがネックでうまいこと話がまとまらずにいた。
「すいません、上がごたついているので」
「まあいいや。ひとつ頼みがある」
「頼みですか?」
「停戦協定の仲介を日本側でやれないか?下手に大陸内の他国を巻き込むとややこしくなりそうでな」
「もう停戦協定の準備を?早すぎませんか?」
いささか気の早い心配に思えた俺に対して、グウズルン情報管理官は冷静だった。
「収穫準備を考えたら今月中にはお帰りいただきたいぐらいだ、遅くとも5月半ばまでには終わらせたいんだがあちらさんはプライドが高くてね。戦勝しこの地を占領する他の選択肢がない。ハルトルには甘い北の国あたりに仲介を任せるにも後ろ盾の教会が怖くて動きづらい、かといって南や東に仲介を任せるとこっちに不利な条件で話をまとめられかねん。
そこでこっちの世界とのしがらみのない地球って訳だ」
言い分はなんとなくわかるが、俺個人が背負うにはいささか荷の重い依頼でもあるように思う。
まあ国家首脳単位と考えれば俺ではなく政府から人を引きずり出せばいい。
「……上に話はしておきますよ」
「ハルトルから預かった書類も渡しとくんで、うまく頼むよ」
****
この話を木栖・ポアロ大佐・トムリンソン准将に打ち明けると「動きが早いな」と同じ意見を示した。
「しかし、西の国側は俺たちを金羊国側とみなしてる可能性が高いんじゃないか?」
トムリンソン准将の指摘はもっともでこの1年間俺や木栖は金羊国と行動を共にし、今回の件でも観戦武官に向けた敵対行為が散見された。
そこを考えると日本ではいささか不適格な依頼のように思えた。
「地球の中でもこちらの世界との接点の少ない国を仲介に立てられないか動くのが妥当じゃないでしょうか?」
「ポアロ大佐の意見が妥当ですかね」
明日にでも木栖に行ってもらってこの情報を伝えに行く必要がありそうだ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。


クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる