異世界大使館はじめます

あかべこ

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9:大使館と戦乱の火

9-12

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それから1週間にわたって金羊国と西の国は一進一退の攻防を繰り広げていた。
昼に西の国が大森林を抜けようとするのを金羊国はゲリラ的奇襲と撤退の繰り返しで進行を食い止め、夜になれば金羊国が夜襲や妨害工作で相手の元気を削り取るという地味な戦法を取っていた。
ポアロ大佐はこれを「弱者であるが故にひねり出した戦法」と評し木栖は「いきなり地味な削りあいにもちこんだな」と苦笑いをこぼした。
暦はまだ4月の半ばに差し掛かろうというタイミングで、まだ麦の収穫の季節には早すぎる。
その様子を液晶画面越しに見ていると階段を上る足音と同時に「ちょっと様子見に来たぞ」という声がかけられた。
「グウズルン情報管理官」
「相変わらず人んちの喧嘩の観察会か、ちょっとは助力してくれればいいものを」
「地球側はあくまで静観の方針ですから」
「日本側が武器を貸すって話もあったはずなんだがな」
グウズルン情報管理官の言っている武器の件は現状政府内部で要検討にとどまっており、他国も日本を経由しなければ金羊国に武器を貸し出せないのがネックでうまいこと話がまとまらずにいた。
「すいません、上がごたついているので」
「まあいいや。ひとつ頼みがある」
「頼みですか?」
「停戦協定の仲介を日本側でやれないか?下手に大陸内の他国を巻き込むとややこしくなりそうでな」
「もう停戦協定の準備を?早すぎませんか?」
いささか気の早い心配に思えた俺に対して、グウズルン情報管理官は冷静だった。

「収穫準備を考えたら今月中にはお帰りいただきたいぐらいだ、遅くとも5月半ばまでには終わらせたいんだがあちらさんはプライドが高くてね。戦勝しこの地を占領する他の選択肢がない。ハルトルには甘い北の国あたりに仲介を任せるにも後ろ盾の教会が怖くて動きづらい、かといって南や東に仲介を任せるとこっちに不利な条件で話をまとめられかねん。
そこでこっちの世界とのしがらみのない地球って訳だ」

言い分はなんとなくわかるが、俺個人が背負うにはいささか荷の重い依頼でもあるように思う。
まあ国家首脳単位と考えれば俺ではなく政府から人を引きずり出せばいい。
「……上に話はしておきますよ」
「ハルトルから預かった書類も渡しとくんで、うまく頼むよ」

****

この話を木栖・ポアロ大佐・トムリンソン准将に打ち明けると「動きが早いな」と同じ意見を示した。
「しかし、西の国側は俺たちを金羊国側とみなしてる可能性が高いんじゃないか?」
トムリンソン准将の指摘はもっともでこの1年間俺や木栖は金羊国と行動を共にし、今回の件でも観戦武官に向けた敵対行為が散見された。
そこを考えると日本ではいささか不適格な依頼のように思えた。
「地球の中でもこちらの世界との接点の少ない国を仲介に立てられないか動くのが妥当じゃないでしょうか?」
「ポアロ大佐の意見が妥当ですかね」
明日にでも木栖に行ってもらってこの情報を伝えに行く必要がありそうだ。
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