【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【22】内剛外柔~天に在りては比翼の鳥、地に在りては連理の枝

みなさん大人でよかったわあ(棒)

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 全く自分たちのしでかした失態に気づかない夫婦は、スーツのレベルも知らず、まあ、まるで制服みたいな紺色の可愛いスーツですこと、お若いわあ、と笑っている。
「君、」
 御堀の父が思わず宇佐美に言うも、宇佐美は懐から名刺を取り出そうとした。
「いえ、お時間は結構。お渡ししたらすぐに失礼します」
 名刺さえ渡せばお前に用はない、時間の無駄だ。
 そう宇佐美が言っていると痛いほど判った御堀の父は、頭を下げて宇佐美に告げた。
「当方の無礼を、どうぞ謝罪させてください。大変申し訳ありません」
 深々と頭を下げる御堀の父に、仲人夫婦は驚き、首をかしげている。
 宇佐美は黙っている、という事はまだチャンスはあると御堀の父は理解した。
「お許し下さい。息子は報国院に通えるのを何より喜んでおります。どうか、足を留めおかれますよう、」
 御堀の父の言葉に、横で黙って聞いていた、誉会の黒田の奥様がさっと腰を下ろし宇佐美に言った。
「……どうぞおあがり下さいませ。周防の作法は非礼ではございません」
 安に、あの二人が愚かなだけだとの援護射撃だ。
 宇佐美は黙って靴を脱ぎ始める。
 上がるとのサインに、御堀の父は言った。
「息子に聞かせる内容ではありませんから、どうか席を外させるお時間を頂戴したいのですが」
 父親の立場を最大限利用してそう伝えれば、宇佐美は合格点だと言わんばかりの笑顔で頷き御堀の父に告げた。
「お早めに」
「……感謝いたします」
 あくまでお前の立場が下だ。
 そう宇佐美の言葉は告げている。
 勝負にならない。もう負けてしまった。
 御堀の父は慌てて息子と小早川の娘が待っている応接室に向かい、二人に外に出るように告げると、再び玄関へと戻った。


 御堀の父と宇佐美の為に応接室は開けられ、仲人夫婦の無礼を謝罪した後、宇佐美はやっと御堀の父の名刺を受け取った。
 仲人夫婦は別の部屋に案内され、小早川の両親や、今回関わった誉会の奥様方も、別の部屋で待っていることとなった。
 そして御堀の父は、宇佐美の名刺を受け取り、報国院の話を聞いて青ざめることになった。
 というのもまさか報国院に交際禁止の規定があった事も知らなかったし、正直に言えば、学校規則の概容など読んでいなかった。
 どの学校も似たようなものだと思っていたから、まさか校則を破った親にペナルティーが存在するとは知らなかったのだ。
「わが校の学校規則は大変厳しいものとなっております。それは生徒だけではなく、保護者の方へも責任を同じくしております」
 宇佐美は言う。
 報国院の学校規則は厳しく、その事を報国院出身であれば、よく知っていて、親達は報国院がどんな学校か理解しているからこそ、決してひとつも取りこぼさないように必死に学校規則を読み込む。
 なぜなら報国院のペナルティとは、単純に、即、金、であるからだ。
 だったら、解決は楽そうだなと御堀の父は思った。
 正直に言えば、御堀の父はこれまで金に困った事はない。
 あるとすればそれはあくまで企業の帳簿上の事で、実際に支払い云々に困ったことはなく、面倒は出来るだけ金でカタをつけてきた。
 今回もそうできればたやすい、と思ったのだが。

 宇佐美は告げた。
「御堀君は首席ではありますが、学院の規則を破るものは問答無用で退学となります。しかも今回は本人の交際ではなく、親ぐるみとあっては、報国院は詐欺にあったようなものですから」

 そんなつもりはなかった、などという言い分が通らないことくらい、御堀の父はよく判っていた。
 なぜこんなバカげたミスをしたのかといえば、息子が報国院に進学したことを腹立たしく思っていたからだ。
 自分勝手な娘が勝手に息子を唆して、知らぬ間に進路を変えさせた。
 ただそれでも、レベルは高いクラスで、首席入学した上に、長州市で仕事をすれば、報国院の首席と言うだけで親はご立派だと尊敬されたから、そう悪い気分でもなかった。
 だけどその気分も、もう台無しだ。
 完全に、学校の規則なんてと舐めていた御堀の父のミスだ。
 宇佐美はにこやかに話をつづけた。
「高校生の身で交際しトラブルが起きれば、息子さんではなく保護者の方がその責を負うことになるわけですが、生徒はこの事を知らなくても問題はありません。むしろ、わが学院は保護者の怠慢であると認識します」
 男子高校生が、女性と付き合って、もし子供でもできたなら、その責任を本人に負えと言っても無理な話で、だから保護者である親はしっかり読んでおけ、その責任はお前の教育にある。
 言葉を選ばないならそんな事を宇佐美は説明した。
 全く返す言葉もなかった。
 報国院から仕向けられた刺客は、若い男性で、まるで人のいい表情で笑っているのに、伝えてくる内容は取引に負けてしまった企業への断罪に等しかった。

 ―――――完敗だった。

 周防市では有能な部類に入る企業のトップであったし、自分はくだらないミスなんかしないと御堀の父はタカをくくっていた。
 だが、自分よりよっぽど若いその男性は、仕立てのいいスーツを着てにこやかな笑顔で、二つ目の名刺を出してきた。
 一つは報国院の、そしてもう一つは、よく見知った名前の会社。
 御堀庵は長州市にも店舗が存在し、そのうち手広くやるつもりでいた。
 だから息子の誉も、長州市で有名な学校ならと渋々進学を許した。
 特に報国院は、学校全体が地元企業に根付いていて、しかも出身者も多いときている。
 それなのに今、ここで不興を買うわけにはいかない。

 保護者から一瞬で企業家に戻った御堀の父は、無駄な抵抗は一切せず、淡々と宇佐美の指示に従った。
 確認をしていなかった自分のミスだし、それを今更後悔しても遅い。
 起こった事は片付けるしかなく、後で支払いをどうすませるかを今から考えておかなければならない。
 どうにでもなる。金の話なら。
「私一人のミスです。どうか、息子には責が及びませんようにお願いしたく」
 深々と頭を下げる御堀の父の言葉に嘘はない。
 自分の手を抜いたせいで、まさか御堀のこれまでの学業成績すら危うく、おまけに下手をすれば退学でもう一度どこかの学校に入学しなければならない事になるかもしれないなんて。
 だが、宇佐美は静かに微笑んで告げた。
「責が及んでしまっているから、私がこうして派遣されてきたのだとまだお分かりにならないと」
 御堀の父は言葉を失う。
 なんて学校で、なんて連中だ。
 普通であれば、生徒の為を思って丸く収めるのではないのか。
 しかも御堀は首席で、一度も成績を落としたことはないと言っていたのに。
「……報国院は、成績優秀者には甘いとお聞きしたのですが」
 御堀の父が言うと、宇佐美は頷く。
「勿論です」
「でしたら、」
 なぜ息子を退学になどと、と言おうとした御堀の父に、宇佐美は懐から手帳を取り出し、そこから紙を一枚広げてみせた。
 校外秘とプリントされたその用紙には、数字がいくつも並んでいた。
「ご覧ください。こちらがあなたの息子さんの成績です。ここに並んでいるのがわが校での順位、そしてこちらが県内、そしてここにあるのが全国区での順位です」
 宇佐美が指さした一番上の列の数字が御堀の成績と言うわけだ。
「そしてこのひとつ下が、わが校の次点、その次点者の成績です」
 指をさしたのは、御堀の下の行にある数字。
「―――――、」
 御堀の父は言葉を止めた。
 数字を見ればすぐに宇佐美の言わんとすることが分かったからだ。
 御堀の成績、そしてその次点、その次。
 そこに名前はないが、三吉普と滝川翼の成績になるそれは、御堀とわずかな差しかなかった。
 言われなくても判っている。
 甘いのはお前にだけじゃない。
 お前なんか要らない。
 御堀が消えれば、次点が主席になるだけのことだ。
 成績が良く、報国院のプライドを守ってくれる者であればそれで良いが、マイナスを生むなら即退学。
 当然だ、と御堀の父は思った。
 授業料を支払うどころか、むしろ学校は生徒に投資している立場で、投資している生徒がマイナスを生むなら投資は引き上げるのが当然だ。
 つまり、御堀は今回の見合いによって、投資の枠から外された。
 それだけの事だ。
 報国院にとって御堀は、暫定の首席でしかない。
 いくらでも次はいる。
 そう宇佐美は言っているのだ。
「御存じの通り、わが校は成績優秀者からは経費を一切徴収しておりません」
 つまり、成績優秀者が学校を辞めても、これっぽっちもダメージはない。
 報国院には成績の良い連中は御堀以外にも存在していて、必要なのはプライドだけ。
 そのプライドも、保護者が護る義務を怠ったのならお前は必要ない、とそう報国院は言っているのだ。
 御堀の父は、報国院に寄付はしていたが、その寄付の桁が違っていた事にようやく気付いた。
 報国院に退場を命じられているのは御堀の父であり、息子はあくまで巻き込まれただけ。
 さあ、どうする、と気づいたとき、御堀の父は両手を膝に置いたまま握りしめた。
 ここまで見事な完敗は久しぶりだった。
「―――――どうすれば、息子を退学にせずに済みますか」
 負けてしまったなら、相手の要求は全て受け入れる必要がある。
 御堀の父の言葉に宇佐美は答えた。
「取引をお望みであれば応じます」
 御堀の父は、頷くしかなかった。


 幾久が抱きしめた御堀が、やがて顔を上げると、いつもの表情に戻っていて、幾久はほっとした。
 そこでようやく、幾久は御堀の着物姿をじっくりと見つめた。
「誉、そういや今日お見合いなのに、なんで花婿さんになってんの?」
「これが男性の最高の礼服だからだよ。授業でやっただろ」
「そうだったっけ?なんかあったような、なかったような」
「覚えてないの?」
 呆れる御堀に幾久は答えた。
「寝てたかも」
 多分、マナーとかそういった授業の話だったのかもしれないが、興味がなくてうっかり寝てしまっていたかもしれない。
「それより幾、どうやってここまで?まさか一人で?」
「宇佐美先輩の車だよ。いま一緒に来ててさ」
「宇佐美先輩が?どうして」
「いやー、それにはちょっとした事情があるんだけど……」
 そこで幾久は視線に気づく。
 御堀の見合い相手である、小早川(こばやかわ)芙綺(ふうき)で、突然現れた幾久に驚き、立ち尽くしていた。
「あの子、誉の見合い相手だろ?」
「そうだけど」
 だったら、と幾久は御堀から離れた。
「誉、事情は後から詳しく話すけど、見合いは中止だ。学校がおこだ。っていうかウィステリアが激おこ案件だ」
「え?」
 いきなり学校の話が出て御堀は驚く。
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