灰色のエッセイ

板倉恭司

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変わった歯磨き粉の話

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 先日、テレビを観ていた時のことです。画面には、山の中で自給自足をしている家族が映し出されていました。
 その一家は、自作の歯磨き粉を用いて歯を磨いていたのです。それも、チューブから出るアレではありません。本物の粉なんですよね。材質は何かわかりませんが、自宅にて栽培した植物や塩などで作ったようでした。
 その映像を見ているうち、私は知人の持っていたものを思い出しました。


 その知人の名は、スミスとでもしておきましょう。
 スミスは、かつて罪を犯し刑務所に入っていました。やがて出所してきましたが、その時に様々なものを持っていました。刑務所で使っていたものです。
 その中のひとつが、粉末の歯磨き粉でした。確かビニール製の袋の中に粉が入っていて、ビニール袋は飾り気のない紙の箱に入っていた……ものを見せられた記憶があります。
 
「こ、これで歯を磨くの?」

 思わず聞くと、スミスは頷きました。

「ああ。最初のうちは、それで歯を磨いてた」

 答えた後、刑務所の事情について語り出したのです。

 言うまでもないことですが、刑務所は罪を犯した者を収容する施設です。罪を犯すような者がどんな人種であるかというと、大半は金が欲しくて法を破ってしまった人間です。
 それゆえ、中には金が全くない者もいます。塀の中では「ゼロ銭」と呼ばれたりする人種らしいです。しかし受刑者といえども、人間として最低限の生活を営ませなくてはなりません。
 そこで、金のない人に支給されるのが、粉末の歯磨き粉と「チリ」と呼ばれるティッシュペーパーです。
 この粉末の歯磨き粉ですが、見た目は灰色でクレンザーのようでした。こんなものを歯につけるのか、と思うと、ちょっとヤな気分がしましたね。
 さらに、チリ紙も見せてもらいました。こちらは、キッチンペーパーみたいな材質でした。月々の枚数に限度はあるものの、一応はただで支給されるそうです。ちなみに、刑務所ではティッシュといわずチリ紙と呼ばされるとか。
 スミスは、最初のうちは歯磨き粉もチリ紙も、支給される物……いわゆる「官物」を使っていました。刑務所の中では、当然ながら収入がありません。家族に迷惑をかけたくないため、なるべく金を使わないように生活しよう……と、心がけていたそうです。
 しかし、官物の歯磨き粉もチリ紙も、あまりにも使い心地が悪いため、仕方なく金を出して市販の物を買い使うようになりました。刑務所に入っていた間は、ずっと市販の物を使っていたそうです。
 やがて仮出所が決まった時、スミスはわざわざ官物の歯磨き粉とチリ紙を支給してもらったとか。シャバの人間に、その二つを見せるためだそうです。
 個人的には、なぜこんなものを支給するのか、ちょっと理解できないですね。今時、むしろ粉末の歯磨き粉を支給する方が、かえってコストがかかる気がします。まあ、ひょっとすると、これも刑罰のひとつなのかもしれませんが。




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