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58 国境の村々
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「お疲れでは無いですか?」
カシュクール城を出てより早数刻、馬車移動のためにまだまだ国境は見えてはこない。のんびりとした風景を楽しみつつ、物見遊山で貴族の道楽を堪能している様な錯覚を起こしそうになる程に視察へと向かう道程は平穏だった。急を要するのならば馬で良いのだが、何ぶんリレランを見ては馬が逃げる…龍の姿で飛んで行けばいいものでもないし、結果レギル王子はリレランと共に馬車で視察へと向かう事にした。
「問題ない。後どれ位か?」
馬に乗って他国を跨いで走り回るくらいのレギル王子であるから、ただ座っての移動に物足りなさはあっても疲れなどなかった。
「はい。丁度、半分という所でございましょうか?」
レギル王子一行が向かうのは国境に沿う村々の視察。カシュクール国内で貧しい人々が住む地域で、天災や疫病に一番打撃を受けてしまった地域にあたる。人が生き延びた村もあり、小さな村は全滅の憂き目にあった所もあったそうだ。国からの支援もいち早くは届けられない所にそれぞれ位置している為に、各領の領主の手腕一つに頼る事になり、村々により対応はまちまちだったのも打撃に差が出てしまった所ではある。
「一番、被害が出た所から回るつもりだ。被害、復興状況に誤差がある場合は領主を城から呼び戻すのでそのつもりでいる様に。」
「は!心得ております。」
ただ今カシュクール王城では時期国王オレイン公の伴侶選びが行われている最中だ。国王の義務として後継を残さなくては行けないのも仕事のうち。各領土からオレイン公の妻へと自領の娘達を伴って領主達はカシュクール王城に出向いている。その隙をつく様にレギル王子一行は視察へと来ているというのだ。共に連れ立っているのは近衞騎士を始め伝令役人を数名、王家の紋入り馬車を使っているので直ぐに視察だとは分かるだろう。国の危機は確かに去った。が、国を揺るがす騒動の後には皇太子の変更、と国民にとっても国幹を揺るがす程の無視できない問題も出て来てしまっている。逸早く国を安定させる為にはもうこれ以上の問題が起きない様に地固をしなくてはいけない。その為の視察でもあった。
馬上の警備へと戻っていく騎士を見つつ、リレランはレギル王子が見ていた資料に手を伸ばして字を読んでいる。この所リレランもカシュクール国の文字は読める様になった様で一文字一文字確認するように読んでいる。
「何か面白い物でも書いてあったか?ラン。」
いつになく真剣な表情のリレランには、自分が仕事をしているのも忘れてレギル王子は相好を崩してしまう。
「ん~、覚えたものを確認しているだけ…人間の文字は複雑………」
渋い顔になるリレランに、ついついフフ、と笑い声を上げてしまってレギル王子はリレランに、ムッとした顔をされてしまった。
「私も精霊語を学ぶ時はそれは大変だったな……意味を理解するのも、話すのも……」
レギル王子はそんな事を呟きながら自身の仕事へと目を走らせる。どの報告書にも違和感はない…
「レギル……この国の人間は精霊語を学ばないの?」
「ん?」
レギル王子の隣でリレランがゆっくりと報告書を音読。時々そんなリレランの読み方に訂正を入れながら、時折リレランの頬や頭を撫でて…見つめあってはキスを落とす……しばらくそんな穏やかな時間を楽しみながらレギル王子も仕事をしていたのだが…ふと、思い出したかの様にリレランがレギル王子に問うた。
「民が…?精霊語を?」
このリレランの質問にはレギル王子はキョトンとした顔になる。
「そう。」
その通り、コックリとリレランは肯く。
そもそも精霊の加護こそ王家の宝……代々その様に繋いできたものであって門外不出…と言うのが暗黙の了解の王家だった。今の今までそんな事さえ考えた事はなかったのだ。
「ラン。どうしてそんな事を言い出した?」
レギル王子は疑問でいっぱいだ。
「前にも言ったろ?この国は居心地が良いって…ここの人間は精気の流れを知っている…精霊と交流を取りやすいと思うけど?」
レギル王子は手に持っていた資料を全て足元に落としてしまった…
「レギル?」
人間と精霊の交流が絶たれてもうどれくらい経つのだろう…リレランは一体何を言い出したんだ?
「…僕、そんなに驚く事を言った?」
レギル王子の驚き様にリレランの方が驚く。
「いや、今まで気が付かなかった……」
レギル王子は紙とペンを出すと何やら書き取り始めた。
「ラン、精霊との交流に値する条件は何だ?」
「え…?条件?…そんなもの考えたことも無いな……強いて言えば相性じゃないの?」
「……相性?」
それだけでいいのか?王家の血を引かなくても?代々の契約者でなくても?
「シェルは、そんな事一言も……」
「シェルツェインにそれ、聞いた事ある?レギルでも、人間の王様でも…?」
「………いや、無いかも知れん。」
じょあ、シェルツェインも言わないよ…リレランの呆れた様な声が馬車内に響いた。そうだ、精霊は個人主義…仲間や誰かのために動くよりかは自分のするべきことのために動く………こちらから知りたい情報を聞いたとしてもホイホイ教えてはくれないものだった……
カシュクール城を出てより早数刻、馬車移動のためにまだまだ国境は見えてはこない。のんびりとした風景を楽しみつつ、物見遊山で貴族の道楽を堪能している様な錯覚を起こしそうになる程に視察へと向かう道程は平穏だった。急を要するのならば馬で良いのだが、何ぶんリレランを見ては馬が逃げる…龍の姿で飛んで行けばいいものでもないし、結果レギル王子はリレランと共に馬車で視察へと向かう事にした。
「問題ない。後どれ位か?」
馬に乗って他国を跨いで走り回るくらいのレギル王子であるから、ただ座っての移動に物足りなさはあっても疲れなどなかった。
「はい。丁度、半分という所でございましょうか?」
レギル王子一行が向かうのは国境に沿う村々の視察。カシュクール国内で貧しい人々が住む地域で、天災や疫病に一番打撃を受けてしまった地域にあたる。人が生き延びた村もあり、小さな村は全滅の憂き目にあった所もあったそうだ。国からの支援もいち早くは届けられない所にそれぞれ位置している為に、各領の領主の手腕一つに頼る事になり、村々により対応はまちまちだったのも打撃に差が出てしまった所ではある。
「一番、被害が出た所から回るつもりだ。被害、復興状況に誤差がある場合は領主を城から呼び戻すのでそのつもりでいる様に。」
「は!心得ております。」
ただ今カシュクール王城では時期国王オレイン公の伴侶選びが行われている最中だ。国王の義務として後継を残さなくては行けないのも仕事のうち。各領土からオレイン公の妻へと自領の娘達を伴って領主達はカシュクール王城に出向いている。その隙をつく様にレギル王子一行は視察へと来ているというのだ。共に連れ立っているのは近衞騎士を始め伝令役人を数名、王家の紋入り馬車を使っているので直ぐに視察だとは分かるだろう。国の危機は確かに去った。が、国を揺るがす騒動の後には皇太子の変更、と国民にとっても国幹を揺るがす程の無視できない問題も出て来てしまっている。逸早く国を安定させる為にはもうこれ以上の問題が起きない様に地固をしなくてはいけない。その為の視察でもあった。
馬上の警備へと戻っていく騎士を見つつ、リレランはレギル王子が見ていた資料に手を伸ばして字を読んでいる。この所リレランもカシュクール国の文字は読める様になった様で一文字一文字確認するように読んでいる。
「何か面白い物でも書いてあったか?ラン。」
いつになく真剣な表情のリレランには、自分が仕事をしているのも忘れてレギル王子は相好を崩してしまう。
「ん~、覚えたものを確認しているだけ…人間の文字は複雑………」
渋い顔になるリレランに、ついついフフ、と笑い声を上げてしまってレギル王子はリレランに、ムッとした顔をされてしまった。
「私も精霊語を学ぶ時はそれは大変だったな……意味を理解するのも、話すのも……」
レギル王子はそんな事を呟きながら自身の仕事へと目を走らせる。どの報告書にも違和感はない…
「レギル……この国の人間は精霊語を学ばないの?」
「ん?」
レギル王子の隣でリレランがゆっくりと報告書を音読。時々そんなリレランの読み方に訂正を入れながら、時折リレランの頬や頭を撫でて…見つめあってはキスを落とす……しばらくそんな穏やかな時間を楽しみながらレギル王子も仕事をしていたのだが…ふと、思い出したかの様にリレランがレギル王子に問うた。
「民が…?精霊語を?」
このリレランの質問にはレギル王子はキョトンとした顔になる。
「そう。」
その通り、コックリとリレランは肯く。
そもそも精霊の加護こそ王家の宝……代々その様に繋いできたものであって門外不出…と言うのが暗黙の了解の王家だった。今の今までそんな事さえ考えた事はなかったのだ。
「ラン。どうしてそんな事を言い出した?」
レギル王子は疑問でいっぱいだ。
「前にも言ったろ?この国は居心地が良いって…ここの人間は精気の流れを知っている…精霊と交流を取りやすいと思うけど?」
レギル王子は手に持っていた資料を全て足元に落としてしまった…
「レギル?」
人間と精霊の交流が絶たれてもうどれくらい経つのだろう…リレランは一体何を言い出したんだ?
「…僕、そんなに驚く事を言った?」
レギル王子の驚き様にリレランの方が驚く。
「いや、今まで気が付かなかった……」
レギル王子は紙とペンを出すと何やら書き取り始めた。
「ラン、精霊との交流に値する条件は何だ?」
「え…?条件?…そんなもの考えたことも無いな……強いて言えば相性じゃないの?」
「……相性?」
それだけでいいのか?王家の血を引かなくても?代々の契約者でなくても?
「シェルは、そんな事一言も……」
「シェルツェインにそれ、聞いた事ある?レギルでも、人間の王様でも…?」
「………いや、無いかも知れん。」
じょあ、シェルツェインも言わないよ…リレランの呆れた様な声が馬車内に響いた。そうだ、精霊は個人主義…仲間や誰かのために動くよりかは自分のするべきことのために動く………こちらから知りたい情報を聞いたとしてもホイホイ教えてはくれないものだった……
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