喫茶店のマスター黒羽の企業秘密2

天音たかし

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第22話 第七章 悪意の寝床③

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 破壊痕により、豊かさが無残にも減ってしまった豊潤の森が、ニコロの足元で流れゆく。
 吹き付ける風は、愛馬のたてがみを揺らし、夜空に浮かぶ月が、夜景の美を一層引き立てる。
「あーあ。彩希ちゃんくらいの美女が一緒なら、最高のシチュエーションなんだけどな」
 彼のぼやきを聞いた愛馬は、諦めろと呟くように小さく嘶く。
 ニコロは首をさすってやりながら、視線を下に向けると、光源石が森の暗さに抗っている一角を見つけた。テントが行儀よく整列して並んでおり、その中でも一際大きなテントに目を止める。
「あった。やっと、見つけたぜ」
 ニコロは手を上空に向けると、光の魔法を一定の間隔で放つ。ジッと、下の方を見ていると、すぐに反応が返ってきた。あの光のパターンは、
「武装を解除して、降りて来いってか? 敵じゃねえっつの」
 騎士を刺激しないように、ゆっくりと高度を下げつつ、地へと降りた。
「何者だ。武器を捨て、膝を付け」
 槍を持った五人の騎士に囲まれたニコロは、言われた通りに槍を放り投げ、膝をついた。五人のうち、童顔の騎士がゆっくりと近づき、震える槍をニコロの喉に近づけた。
「名を名乗れ」
「男に名乗る名前はねえな」
「ば、馬鹿にして。この!」
 石突で小突こうとする騎士の一撃を、首を振って躱すと、そのまま槍を奪い取ってピタリと喉に突き付けた。
「槍っつうのは、こうやって使うんだよ。分かったかよ、素人が」
 残りの騎士が一斉に怒鳴り声を上げ、今まさにニコロに殺到しようとした時、
「武器を収めろ!」
 と聞く者の体が瞬時に硬直する鋭い声が轟いた。
「おっせーよ。もう少し遅かったら、騎士を辞めちまうくらい、こいつらをボコボコにしてやるところだったぞ」
「それは困る。最近、事件だけじゃなくて、新興国による動きも不穏なんだ。国を守る盾は、もっと増えてもらわねば」
 角刈りで、口ひげを生やし、精悍な顔立ちをしている男性は、ニコロに近づくなり、がっしりと握手を交わした。
「久しいな友よ。相変わらず、大した腕前だ」
「お前も、相変わらずむさ苦しいヤツだぜ、キース」
 周りの騎士がポカンと口を開けていると、彼は鋭い声で叱責した。
「貴様ら、誇り高き騎士であるくせになんという様だ。バツとして、これから素振り千本、筋力トレーニング二時間を行え。サボるなよ。しっかりと他の騎士に見張らせるからな」
 五人の騎士は、直立不動の姿勢になると、槍を胸の前に持ち、左手で胸をリズミカルに二度叩いた。
 ウトバルク王国騎士団の敬礼で、槍は敵に対して一歩も引かぬ構えを、胸を二度叩く動作で国と君主に対する忠誠を意味する。
「では、始め。ニコロ、こっちへ来い」
 罰を命じられた騎士達は、嫌な顔をせずに指示に従う。よほど、慕われているのだと、友としてニコロは誇らしく思った。
「突然どうした? 来るなら前もって連絡をしてくれれば、迎えの者をよこしたのに」
「いや、実は早く確かめておきたいことがあってよ」
「……あまり良くない表情だな。よし、俺のテントで話を聞こう」
 キースはニコロを連れて、歩き出した。
 テントは横に五列、縦に十列並んでおり、各テント十人ずつで使用している。キースのテントは、それらのテントに囲まれる形で、ちょうど真ん中に位置している。
「へ、結構な人数だな。何人いる?」
「俺を除いて五百人だな」
「五百だと! 戦争でもおっぱじめるつもりかよ」
「戦争……か。ある意味、そうかもしれん」
 キースは厳しい表情で、そう呟いた。ニコロは、戦を嫌う彼の気質を知っているだけに、部下の命が心配なのだと思い当たった。
 夜の森の涼やかな風が吹き、しばらく無言で二人は歩く。
 時間にすれば数分、体感的には長い時間が経過した頃に、この場で最も大きなテントが見えてきた。五角形で、入り口に吊るされた光源石のランプが風に揺れて左右に動いている。キースは、ニコロを中に招くと、入り口付近にいた騎士に人払いを命じた。
「手紙でも伝えたな。現在、プリウ周辺は盗賊と麻薬による被害が拡大している」
 テントの中は、簡易テーブルが中央にあり、地図が広げられている。赤くマークされた場所がいくつかあり、キースはそれらをなぞるように指で叩いた。
「昔から盗賊被害が絶えない地域だ。被害があることそのものは驚かない。だが、件数の多さ、盗賊団の異常な強さ。加えて、バーラスカの拡大。コレは、数年前に王都周辺で発生した一連の事件に酷似している」
 キースの言葉に、ニコロは頷いた。
 
 ――「狂乱の殺戮事件」
 五年前、ウトバルク王国周辺で、麻薬の拡大、盗賊団による殺人・強姦・強盗の被害の増加。加えて謎の誘拐事件が横行した。
 王族の一人が誘拐され、無残な死体となったことからも、世界中で騒がれた事件だ。影でこれらの事件を操っている組織がいる疑いがあったが、結局見つからずに多くの謎を残している。
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