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第二章 「深十島〇〇一作戦」
一章 異常な者達(5)
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それを静かに隣で見ていた緋苗は、何事も無かったように弁当箱を開けていた。
俺とディーラエのやり取りを見ていたとしては、あまりに落ち着いている。
少し居心地の悪さになんとも言い出せない俺に、緋苗は話し掛けた。
「色々とややこしい子ですね、フリアエちゃんは」
「……まぁ、可愛いからある程度は受け入れられるけれど、正直疲れてた」
その気は無かったのだが、口から愚痴が漏れ出す。
フリアエとの日々に飽きが来ているのかもしれない。
「変なこと訊いてもいいか?」
「かまいませんよ」
「俺とフリアエは付き合ってるんだよな?」
「嗣虎くんはそのつもりではないんですか?」
「あ、えっと、付き合えて……ないかも。俺、フリアエに特に何かをしようと自発的に動いたことあまり無かったし……」
どちらかというとフリアエから行動していたような気がする。フリアエの要求にしか応えてないし、果たしてフリアエのことをきちんと想っているのかどうか。
「それは酷いですね。そうなら一旦別れてみるのはいかがですか? 悪気はないんですが、嗣虎くんとフリアエちゃんの相性は良くありませんからね」
「どれくらい悪いんだ?」
「月と太陽くらいですよ。嗣虎くんは特に目的を見いだせないけれどどんな衝撃を受けても崩れない鉄塔だとすれば、フリアエちゃんは例えどんなものが相手だろうと真正面から挑み、受けて立つ止まらない徹甲弾。こうと決めたら絶対に曲げない鉄塔に、絶対に曲げてやると、風穴あけようと、そうして放たれた徹甲弾が向かい合ったらどちらかが信念を捨てなければならないんですよ。難しかったでしょうか?」
「……いや、そういう似たような話はしてたから分かるよ」
一向に減らない弁当。それを見ながらふと思い出す。
今は遠き穏やかな日々。毎日が楽しくて、帰る間際には花園の花一輪を思い出の品としてもらったあの楽園。
俺の中心となっていた魂の安息となる場所とは無関係のフリアエは、あまりに初体験であり、気が合わない。
今まで仲を深めた人達は落ち着いており、会話も互いに反対をせずどちらとも頷いてより良い方向へと持って行けた。
しかしフリアエとはまともに会話をする機会がないように思える。フリアエの一方的な意見を聞いていたり、予想も付かない程の優しさに触れたり……。
そうだ、フリアエは優しいのだ。なんとなくだが、フリアエは優しい人間なのだ。
俺とは別ベクトルで……。
「……それが本当、違いすぎるんですよねぇ。確かに正義で例えても人それぞれですけれど、真逆の正義がくっつくのは心配ですね。嗣虎くんはどうして付き合ったんですか?」
「そりゃ、好きだからじゃねぇの?」
「フリアエちゃんはそれを嘘だと言ってますね、違うんですか?」
「俺は、フリアエ好きだぜ。背が小さくて細いから可愛いくて、くりっとした目は猫みたいで、笑うとドキッとして、怒っても別に怖くなくて、最近良い香りもするし、好きにならない方がおかしい」
「それでも好きじゃないから嘘なんでしょう?」
「あー、これって好きの内に入らないんかな……」
フリアエの外見は、色以外は嫌いではない。内面の信念っぽいところは俺は好きだし、俺の嫌なことをフリアエは一度もしていない。
俺がフリアエを好きな理由の内に、小さくて可愛くて子猫みたいだからというのがあるが、それが駄目なのだろうか。
「嗣虎くん、ミーザのことをきちんと視野に入れていますか? ミーザとはコーディネートされた生物のこと。人間ではないけれど、人間を模して造られた人造人間。性格も身体も全部第三者から造られた自分自身を持たない魂無き存在なんですよ。外見が好みになって、ミーザにそれを理由にして好きだと話しても、相手はちっとも嬉しくないんですね。かといって中身が好きだと言われても、そう造られたのだから自分自身に言われているとも思えない。彼ら彼女らミーザにとって、過去はシナリオ通りにしか進んでいない人形劇……未来にしか居場所がないんですよ。フリアエちゃんと恋人になるというのであれば、全力で考えてあげてくださいね」
特に怒っても、呆れてもなく、あくまで普通のことを日常会話かのように語る緋苗。彼女もまたミーザだからか、俺はそのことを少しも疑わなかった。
大人でもない一五歳の俺が恋愛を語ることなどできないし、悟ることも無理である。緋苗の考えの何を否定できるのだろう。
「緋苗にも何かそういう経験があったのか? 他人事のようではあるけれど」
「私ですかぁ。特に何も。引きこもり体質ですから」
「緋苗はどんなミーザとして造られたか気になる」
「……ミーザねぇ。私はミーザというより、人造人間として生まれたような気がしますね。性格は平凡とか普通で、腕力も特別あるわけでなく、本当は魔法みたいなものも使えない、人間に近けれども人に造られし人間……」
「緋苗は魔法が使えたのか……?」
「ふふ、おかしいものですね。普通なら、もう嗣虎くんには私の能力を知っていても良い程日が経っているはずなのに。世の流れを考えたなら、概要も嗣虎くんと私が中心のはずで、主人公は嗣虎くんでメインヒロインが私で、今頃何かの悲劇に遭遇して解決しようとする最中犠牲者を出しながら人として成長していて、正義という悪がさらなる惨劇を起こし、今この時からフリアエちゃんは精神の寿命で政府に返送され……男達の良いオモチャになっていたでしょうに」
「……!」
「何がここまで狂わせてしまったのか。私は不覚にも楽しい、と感じてしまっているんですよ。こうして美味しそうなお弁当を手元に置いて、恋ではなく、久方ぶりの友情を隣に置いて、気持ちを解いて身を軽くして……ああ気持ちいい」
「……俺、何もしなくても良いんじゃないか」
「それはもっとおかしいですよ。嗣虎くんはかなり早い段階で自分を捨てたんですから。私は思いましたし、事実であると思うのですが、嗣虎くんはバリューで最愛の女性を捨て、興味と好意を持って私を選びましたよね。それって一番好きな人だったってことなんですよ。それを、それをまた捨てた。軽い気持ちが嫌いな嗣虎くんに、連続で捨てさせた……ふふふ。おかしくておかしくて、笑わないと我を見失いそうですね。でも、フリアエちゃんはもっと不幸の身の上。誰よりも恥ずかしがり屋なのに手段が少なく、失敗は自分の未来が一瞬で絶望に塗り替えられる。これもダメ、あれもダメ、それもダメ、気付かれるのもダメ、知られるのもダメ、友人もダメ、食べ物もダメ、薬もダメ、寝るのもダメ、起きるのもダメ、安定もダメ、不安定もダメ、生きるのもダメ、死ぬのもダメ。よくやっていられるものですよ。そう、今頃ならば、本当は、「あ、アレクトーさん居なくなりましたね」と私が話して、「お、そうだな。でもあんな律儀で明るい人がいなくなると、寂しくなるな……」と別れていたんですよ。ええ、フリアエちゃんの人格は多重人格ではなく、一つの完璧な人格で生活を送るはずだった。壊れるまで爆弾のような人格を止めずに保ち続け、精神を殺し、政府に送り返されなければならなかった。アレクトーはゴッドシリーズの面子の為に完璧を演じ、実験型の負荷を考慮させず壊れるまで……しかもたったの半月で壊れるほどの能力と、別にやらなくてもいい感覚機能の強化をして、最後は秘密裏に欲求不満な研究者の解消道具とされる流れで。主軸となるはずだったエリニュスは恐怖のあまり逃げ道として精神の抜け殻を用意して崩壊を防ごうとした。だからこそ保てた数年間。未だに実験型のエウメニデス三号は続く四号を生まれさせず、半月の実験を数年伸ばし、いつまでも壊れず量産型を作り出さず、問題点をわざと作り解決させる途中をいつまでもいつまでも。メンテナンスなど大猿狩りに出掛けるようなものですよ。そんな彼女の苦労を理解できるのは私だけ。姉のティシポネ、メガイラは知らずに実験されたまま、しかもティシポネは楽しんだまま。フリアエちゃんが苦しんで倒れていても政府に報告してはならない。フリアエちゃんが死にたくなっても殺してはならない。フリアエちゃんが精神を壊しても新しい人格を作ってあげればいい。私はフリアエちゃんの強さを充分理解しているんですよ。環境が弱者にさせたフリアエちゃんの心は、例え弱くてもそれが強いものだと理解できるのは私だけ。──ごめんなさい。長く生きているとお話の長さとか短さとか、よく感覚的に鈍くなるんですね。あはは、短いでしょ、お話」
緋苗はそう言った後にこっと笑みを作り、鞄から箸を取り出した。
「フリアエちゃんがもし心の支えを今月の四月に得られなかったとしたら、まず限界が来てどうしようもなくなる。フリアエちゃんのフリアエの人格では問題が起きるのは必然で、きっと中学の転入の時もいじめがあった。ゴッドシリーズでもフリアエちゃんは政府に頼れなかったから、そのよく分からない人格に対し思春期の子供は自由にいじることができた。エリニュスは言わば爆弾のように精神の崩壊を速めるから多用はできないはず、だから普段はフリアエちゃんのような落ち着いていて強い人格を主として崩壊を防ぐほかなかった。でも政府にそのことがばれるのは非常に不味い。きっとその中学にはセットとしてティシポネ、たまにメガイラが通っていたはず。ティシポネは政府を信じているからフリアエちゃんの異変に気付くとすぐに報告するだろうから、フリアエちゃんはそれを防ぐため耐え忍ぶことに強いフリアエを控え、エリニュスが表に出てくる長い期間があった。そこで人格の崩壊が来てしまい、ローテーションをしなくてはならなくなったと思う。フリアエちゃんが学校を担当し、エリニュスが政府に対し異変に気付かれないために完璧を演じる。その時にはまだディーラエは造られていない、いえ、ディーラエは元々造る必要さえなかった。これはきっとフリアエちゃんが死人の人格を取り込むことによって生かされている人格の可能性が高い。ディーラエを除くフリアエちゃんとエリニュスの二人は、その過酷な環境を生き抜いてきたことで、双子の姉妹のように深い絆で結ばれている。だからフリアエちゃんはエリニュスを嫌わないし、エリニュスもフリアエちゃんをなんだかんだ大事にしている。同じ体に二つの心があっても、嫌悪どころか好意を持っている様子ですから。しかし、これは高校までが限界、限界は手遅れとなる。壊れることが前提のエウメニデス三号が壊れることをヘラさんも知っていて、可哀想だからと嗣虎くんに託した初めての寮の出来事。もし嗣虎くんと一緒になれなかったとしたら、フリアエちゃんは精神よりも命を優先し、フリアエちゃん、エリニュスを殺した後、優等生の人格を造るつもりだった。しかしそれも長くは続くはずもなく、きっともう壊れきってしまっていた。だからフリアエちゃんは嗣虎くんと恋人で居続けなければならない。フリアエちゃんが心を許せる、弱さを見せられる好きな人が必要だから。しかも自然と恋をしてしまった相手が、一番欲しかった。命懸けの恋の前で、私は何も言えることはない。だから私は本当はメインヒロインではない。そう、私は命懸けとは無縁、人殺しになる条件を理解している皮肉なメインヒロイン……。せっかく見込んだ男を見逃す甘い少女が私ですね。────私はミーザのくせに」
……今日、俺が印象に残ったのは緋苗の話ではなかった。
明らかに狂っている緋苗の狂い方が穏やかなのが、妙に好きだったのだ……。
俺とディーラエのやり取りを見ていたとしては、あまりに落ち着いている。
少し居心地の悪さになんとも言い出せない俺に、緋苗は話し掛けた。
「色々とややこしい子ですね、フリアエちゃんは」
「……まぁ、可愛いからある程度は受け入れられるけれど、正直疲れてた」
その気は無かったのだが、口から愚痴が漏れ出す。
フリアエとの日々に飽きが来ているのかもしれない。
「変なこと訊いてもいいか?」
「かまいませんよ」
「俺とフリアエは付き合ってるんだよな?」
「嗣虎くんはそのつもりではないんですか?」
「あ、えっと、付き合えて……ないかも。俺、フリアエに特に何かをしようと自発的に動いたことあまり無かったし……」
どちらかというとフリアエから行動していたような気がする。フリアエの要求にしか応えてないし、果たしてフリアエのことをきちんと想っているのかどうか。
「それは酷いですね。そうなら一旦別れてみるのはいかがですか? 悪気はないんですが、嗣虎くんとフリアエちゃんの相性は良くありませんからね」
「どれくらい悪いんだ?」
「月と太陽くらいですよ。嗣虎くんは特に目的を見いだせないけれどどんな衝撃を受けても崩れない鉄塔だとすれば、フリアエちゃんは例えどんなものが相手だろうと真正面から挑み、受けて立つ止まらない徹甲弾。こうと決めたら絶対に曲げない鉄塔に、絶対に曲げてやると、風穴あけようと、そうして放たれた徹甲弾が向かい合ったらどちらかが信念を捨てなければならないんですよ。難しかったでしょうか?」
「……いや、そういう似たような話はしてたから分かるよ」
一向に減らない弁当。それを見ながらふと思い出す。
今は遠き穏やかな日々。毎日が楽しくて、帰る間際には花園の花一輪を思い出の品としてもらったあの楽園。
俺の中心となっていた魂の安息となる場所とは無関係のフリアエは、あまりに初体験であり、気が合わない。
今まで仲を深めた人達は落ち着いており、会話も互いに反対をせずどちらとも頷いてより良い方向へと持って行けた。
しかしフリアエとはまともに会話をする機会がないように思える。フリアエの一方的な意見を聞いていたり、予想も付かない程の優しさに触れたり……。
そうだ、フリアエは優しいのだ。なんとなくだが、フリアエは優しい人間なのだ。
俺とは別ベクトルで……。
「……それが本当、違いすぎるんですよねぇ。確かに正義で例えても人それぞれですけれど、真逆の正義がくっつくのは心配ですね。嗣虎くんはどうして付き合ったんですか?」
「そりゃ、好きだからじゃねぇの?」
「フリアエちゃんはそれを嘘だと言ってますね、違うんですか?」
「俺は、フリアエ好きだぜ。背が小さくて細いから可愛いくて、くりっとした目は猫みたいで、笑うとドキッとして、怒っても別に怖くなくて、最近良い香りもするし、好きにならない方がおかしい」
「それでも好きじゃないから嘘なんでしょう?」
「あー、これって好きの内に入らないんかな……」
フリアエの外見は、色以外は嫌いではない。内面の信念っぽいところは俺は好きだし、俺の嫌なことをフリアエは一度もしていない。
俺がフリアエを好きな理由の内に、小さくて可愛くて子猫みたいだからというのがあるが、それが駄目なのだろうか。
「嗣虎くん、ミーザのことをきちんと視野に入れていますか? ミーザとはコーディネートされた生物のこと。人間ではないけれど、人間を模して造られた人造人間。性格も身体も全部第三者から造られた自分自身を持たない魂無き存在なんですよ。外見が好みになって、ミーザにそれを理由にして好きだと話しても、相手はちっとも嬉しくないんですね。かといって中身が好きだと言われても、そう造られたのだから自分自身に言われているとも思えない。彼ら彼女らミーザにとって、過去はシナリオ通りにしか進んでいない人形劇……未来にしか居場所がないんですよ。フリアエちゃんと恋人になるというのであれば、全力で考えてあげてくださいね」
特に怒っても、呆れてもなく、あくまで普通のことを日常会話かのように語る緋苗。彼女もまたミーザだからか、俺はそのことを少しも疑わなかった。
大人でもない一五歳の俺が恋愛を語ることなどできないし、悟ることも無理である。緋苗の考えの何を否定できるのだろう。
「緋苗にも何かそういう経験があったのか? 他人事のようではあるけれど」
「私ですかぁ。特に何も。引きこもり体質ですから」
「緋苗はどんなミーザとして造られたか気になる」
「……ミーザねぇ。私はミーザというより、人造人間として生まれたような気がしますね。性格は平凡とか普通で、腕力も特別あるわけでなく、本当は魔法みたいなものも使えない、人間に近けれども人に造られし人間……」
「緋苗は魔法が使えたのか……?」
「ふふ、おかしいものですね。普通なら、もう嗣虎くんには私の能力を知っていても良い程日が経っているはずなのに。世の流れを考えたなら、概要も嗣虎くんと私が中心のはずで、主人公は嗣虎くんでメインヒロインが私で、今頃何かの悲劇に遭遇して解決しようとする最中犠牲者を出しながら人として成長していて、正義という悪がさらなる惨劇を起こし、今この時からフリアエちゃんは精神の寿命で政府に返送され……男達の良いオモチャになっていたでしょうに」
「……!」
「何がここまで狂わせてしまったのか。私は不覚にも楽しい、と感じてしまっているんですよ。こうして美味しそうなお弁当を手元に置いて、恋ではなく、久方ぶりの友情を隣に置いて、気持ちを解いて身を軽くして……ああ気持ちいい」
「……俺、何もしなくても良いんじゃないか」
「それはもっとおかしいですよ。嗣虎くんはかなり早い段階で自分を捨てたんですから。私は思いましたし、事実であると思うのですが、嗣虎くんはバリューで最愛の女性を捨て、興味と好意を持って私を選びましたよね。それって一番好きな人だったってことなんですよ。それを、それをまた捨てた。軽い気持ちが嫌いな嗣虎くんに、連続で捨てさせた……ふふふ。おかしくておかしくて、笑わないと我を見失いそうですね。でも、フリアエちゃんはもっと不幸の身の上。誰よりも恥ずかしがり屋なのに手段が少なく、失敗は自分の未来が一瞬で絶望に塗り替えられる。これもダメ、あれもダメ、それもダメ、気付かれるのもダメ、知られるのもダメ、友人もダメ、食べ物もダメ、薬もダメ、寝るのもダメ、起きるのもダメ、安定もダメ、不安定もダメ、生きるのもダメ、死ぬのもダメ。よくやっていられるものですよ。そう、今頃ならば、本当は、「あ、アレクトーさん居なくなりましたね」と私が話して、「お、そうだな。でもあんな律儀で明るい人がいなくなると、寂しくなるな……」と別れていたんですよ。ええ、フリアエちゃんの人格は多重人格ではなく、一つの完璧な人格で生活を送るはずだった。壊れるまで爆弾のような人格を止めずに保ち続け、精神を殺し、政府に送り返されなければならなかった。アレクトーはゴッドシリーズの面子の為に完璧を演じ、実験型の負荷を考慮させず壊れるまで……しかもたったの半月で壊れるほどの能力と、別にやらなくてもいい感覚機能の強化をして、最後は秘密裏に欲求不満な研究者の解消道具とされる流れで。主軸となるはずだったエリニュスは恐怖のあまり逃げ道として精神の抜け殻を用意して崩壊を防ごうとした。だからこそ保てた数年間。未だに実験型のエウメニデス三号は続く四号を生まれさせず、半月の実験を数年伸ばし、いつまでも壊れず量産型を作り出さず、問題点をわざと作り解決させる途中をいつまでもいつまでも。メンテナンスなど大猿狩りに出掛けるようなものですよ。そんな彼女の苦労を理解できるのは私だけ。姉のティシポネ、メガイラは知らずに実験されたまま、しかもティシポネは楽しんだまま。フリアエちゃんが苦しんで倒れていても政府に報告してはならない。フリアエちゃんが死にたくなっても殺してはならない。フリアエちゃんが精神を壊しても新しい人格を作ってあげればいい。私はフリアエちゃんの強さを充分理解しているんですよ。環境が弱者にさせたフリアエちゃんの心は、例え弱くてもそれが強いものだと理解できるのは私だけ。──ごめんなさい。長く生きているとお話の長さとか短さとか、よく感覚的に鈍くなるんですね。あはは、短いでしょ、お話」
緋苗はそう言った後にこっと笑みを作り、鞄から箸を取り出した。
「フリアエちゃんがもし心の支えを今月の四月に得られなかったとしたら、まず限界が来てどうしようもなくなる。フリアエちゃんのフリアエの人格では問題が起きるのは必然で、きっと中学の転入の時もいじめがあった。ゴッドシリーズでもフリアエちゃんは政府に頼れなかったから、そのよく分からない人格に対し思春期の子供は自由にいじることができた。エリニュスは言わば爆弾のように精神の崩壊を速めるから多用はできないはず、だから普段はフリアエちゃんのような落ち着いていて強い人格を主として崩壊を防ぐほかなかった。でも政府にそのことがばれるのは非常に不味い。きっとその中学にはセットとしてティシポネ、たまにメガイラが通っていたはず。ティシポネは政府を信じているからフリアエちゃんの異変に気付くとすぐに報告するだろうから、フリアエちゃんはそれを防ぐため耐え忍ぶことに強いフリアエを控え、エリニュスが表に出てくる長い期間があった。そこで人格の崩壊が来てしまい、ローテーションをしなくてはならなくなったと思う。フリアエちゃんが学校を担当し、エリニュスが政府に対し異変に気付かれないために完璧を演じる。その時にはまだディーラエは造られていない、いえ、ディーラエは元々造る必要さえなかった。これはきっとフリアエちゃんが死人の人格を取り込むことによって生かされている人格の可能性が高い。ディーラエを除くフリアエちゃんとエリニュスの二人は、その過酷な環境を生き抜いてきたことで、双子の姉妹のように深い絆で結ばれている。だからフリアエちゃんはエリニュスを嫌わないし、エリニュスもフリアエちゃんをなんだかんだ大事にしている。同じ体に二つの心があっても、嫌悪どころか好意を持っている様子ですから。しかし、これは高校までが限界、限界は手遅れとなる。壊れることが前提のエウメニデス三号が壊れることをヘラさんも知っていて、可哀想だからと嗣虎くんに託した初めての寮の出来事。もし嗣虎くんと一緒になれなかったとしたら、フリアエちゃんは精神よりも命を優先し、フリアエちゃん、エリニュスを殺した後、優等生の人格を造るつもりだった。しかしそれも長くは続くはずもなく、きっともう壊れきってしまっていた。だからフリアエちゃんは嗣虎くんと恋人で居続けなければならない。フリアエちゃんが心を許せる、弱さを見せられる好きな人が必要だから。しかも自然と恋をしてしまった相手が、一番欲しかった。命懸けの恋の前で、私は何も言えることはない。だから私は本当はメインヒロインではない。そう、私は命懸けとは無縁、人殺しになる条件を理解している皮肉なメインヒロイン……。せっかく見込んだ男を見逃す甘い少女が私ですね。────私はミーザのくせに」
……今日、俺が印象に残ったのは緋苗の話ではなかった。
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