無想無冠のミーザ

はらわた

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第二章 「深十島〇〇一作戦」

二章 義憤と復讐の女神達(1)

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 一日の学校の終わりに近づき、ホームルームが始まった。

 さっきまで後ろに座っていたはずのフリアエの姿はなく、俺は不思議と何かが変わり始めている雰囲気を感じる。

 教壇に立つスキンヘッドのリゴレット先生は教室の入り口に視線を向けた後、声を張った。

「いきなりで混乱するかもしれんが、特別生徒であるアレク……コホン、フリアエが研究機関にしばし帰らなければならなくなった。よってこのクラスの特別生徒の代理として、二人のゴッドシリーズのミーザがたった『今』到着したので紹介しようと思う」

 その情報にクラスメート達の声は、

『え? フリアエさんいないの!? 私結構好きだったのに……』

『マスコットの居なくなった一組って感じだなぁ』

『あれでもオレ達が誇れる特別生徒だったよな?』

『割と寂しいね』

『睨むくせに普通にありがとうとかごめんなさいって言うのがすごく魅力的だったな』

『仕草も可愛いかったよね!』

『ってフリアエはもういないのか』

『実は俺、あいつに勉強教えてもらったことがあってさぁ』

『なんか自分で焼いたクッキーとか持ってきてて、それお願いして食べさせてもらったときはすごく美味しかったよねぇ……』

『意外とあれですげぇ料理上手なんだよ』

『ハムチーズカツとか食わせてもらったぜ』

『私はハンバーガーを半分こしてもらったよ!』

『プリントで指切った時には絆創膏貼ってくれたっけ』

『笑った顔見たことなかったから、帰ってきたらなにかしてあげようか』

『髪結っておさげにしてくれたことあったね』

『あんなので計算してやったことじゃないんだから好印象だわ』

『私のいじめ相談受けてくれたことあってね、フリアエちゃんも色々あったらしく親身に乗ってくれたんだよ~寂しいわ~』

『他クラスの特別生徒の方が話しやすかったけど、フリアエの方が接しやすくて良かったな』

『フリアエさんの字がね、ゴッドシリーズとは思えないほどに
可愛いの知ってる?』

『あ、知ってる~』

『寮で会った時、襟元直してくれたことあったよ』

『猫に餌あげてるのも見たことあるなぁ』

『黒板掃除するときにはぴょんぴょん跳ねててさぁ』

『怖い先輩に絡まれたことあってね、フリアエさんが助けてくれたんだよ』

『案外古代とくっついてるだけじゃないんだな』

『古代君とはカップルみたいだよね』

『まさか。あのフリアエが古代と?』

『けど意外とお似合いなのがなぁ。ないだろうが』

『ていうかフリアエが嫌いな奴このクラスにいねぇだろ』

 あまりにも騒がしいようで、リゴレット先生は話を進められず咳払いをした。

「……えーでは、えー、二人を教室に、えー、招きたいと思う。えー二人ともとてもえー個性がえー強いのでえー偏見などはしないように」

 先生も動揺はするようで、言葉に詰まりながら話を終えると、入り口の扉が開いて二人の少女が中に入る。

「ふっふん。これからこれから」「……あまり騒がないで欲しい」「なに言ってんですか、今日からわたし達は未来を獲得したってんですよ、やりたいことやりますがな~」「本当にお願いだから」

 なにやら二人は小声で会話しており、俺の耳には届かない。

 黒板前に立つとクラスメート達へ顔を向けた。

「ふふ……」隣で緋苗の笑う声。

 二人の特別生徒は二人とも少女だ。身長が二人とも一緒で、顔もほぼ似ており、肌の色さえ差がない。だが髪と目の色は違うし、髪型もそれぞれである。

 一人が喋った。

「皆さん、授業お疲れ様です。わたしはフリアエの代理としてこのクラスの特別生徒に選定された、ゴッドシリーズのネメシスと言います。長い長~い付き合いになると予感が知らせてます、長く長~くよろしくお願いしまーす♪」

 涼しさ感じる薄紫の長髪、ポニーテールにして。ブレザーを着けず我が校の制服のワイシャツの上から黒いカーディガンを羽織り、スカートも巻いて短くして、プチ不良の服装をした彼女ネメシスは、最後に浅い青紫の瞳を俺に向けて頭を下げる。

 その姿、声は聞き間違えることなくエリニュスのもので、エリニュスがやりそうな格好だ。

 一体何がどうなっているのか。

 もう一人も喋る。

「……わたしはフリア。フリアエの代理として特別生徒になる。だからあなた方とは長く付き合うことになれば、学校行事も共にする。……気軽に呼びかけてもらって構わない」

 フリアエだ。

 あー、これフリアエだろ。

『あれフリアエだろ』

『フリアエさんじゃん』

『フリアエだな』

『結局帰らないんじゃん』

『居なくならなくてよかったー』

『まんまフリアエ。色以外まんま』

『うちのマスコット枠は健在だぜ』

『また他クラスと張り合えるな』

『可愛さならフリアエ、いやフリアが最強だからな』

『しかし、なんかフリアエさらにかわいくなってないか?』

『確かにー。あんな綺麗な金髪、憧れちゃうなぁ』

 フリアの挨拶になるとクラスメート達は再びがやがやとしだし、リゴレット先生を困らせる。

 フリアは癖っ毛一つないさらっとした黄金色の長く綺麗な髪に黒いキャップ帽を乗せ、多くの宝石の中から選別された最高級のルビーを埋め込んだような深く赤い瞳をしている。

 しかしフリアはそれに納得がいかなかったのか、黒キャップを外して、手首に結んであった黒い布で自分の目を覆うように結んだ。

「『ああー!!!! やっぱりフリアエだぁー!!!!!!!!!』」

 流石に普段から目隠しをする生徒など一人しかおらず、みんなは九九パーセントの推測を一〇〇パーセントへと変えた。

 その受け答えに対し、フリアは口を押さえて笑うと、黒キャップ帽を横に投げ、俺の頭の上へと着地させる。


 フリアは愛されていた。
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