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第1章

第102話《雲が見える鷲ノ宮さん宅に到着するすずめ》

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エレベーターの扉が閉まり、巧斗さんが119階行きのボタンをスッと押す。

(へぇ~巧斗さんの部屋って119階なんだ。…って119!?19階の間違いじゃなくて!?マンションでそんな階数がある所って…今まで聞いた事もないんだけど…。)

ぎょっとしてエレベーターのボタンの数を見るも、ボタンがきっちり119個(地下も合わせたら121個)あり、吃驚した。

(何だ、このボタンの数…。しかも最上階って…!確かマンションって上に行けば行くほど家賃も比例して高くなるんじゃなかったっけ…?)

この人本当に石油王か何かじゃないの?とエレベーターのボタンと睨めっこしていると、巧斗さんが《ああ!》と何かを思い出したかのように手を叩く。


「そういえば、すずめは高い所は大丈夫ですか?これから一緒に住むというのに肝心な事を聞いていませんでしたね…。うっかりしていました…。」
「あ、それは全然大丈夫。むしろ高い所は大好きだよ!」

眉を下げながら申し訳なさそうに声をかけてくれる巧斗さんに、高い所が平気な事を伝えると、彼は安堵したように胸に手を置いてみせた。


「!それは良かったです。もし、すずめが高所恐怖症だったら、引っ越さないといけませんからね。」
「ええ、そんなもったいないよ!せっかくこんな素敵なマンションに住んでるのに…。」

というか、知り合いを数日家に泊めるために自分が引っ越そうとするだなんて、本末転倒な気がするけど、どれだけお人好しなんだろう。


「実は俺も高い所がどんな場所よりも落ち着くので、そのためだけにこのマンションを建…借りたんですよ。すずめと趣味があって嬉しいです。
このマンションの最上階は高いだけあって眺めは絶景ですよ。運が良い時は程よく雲海が見える事もあります。」

「雲海…!それは楽しみだなぁ。」

(ん?今、《たて》って聞こえたけど、噛んだのかな…。いや、そんなことより窓から雲が見えるって一体どんな景色なんだろう?)

飛行機にも乗った事の無い俺が今まで訪れた事がある高い場所っていったら、総一郎の11階建てマンションの最上階(ここでもかなり高く感じる)だけなので、その約10倍の高さともなるとどんな光景が見られるのか全然想像できない。


◇◇◇


ピン!とエレベーターの到着の音が鳴って自動ドアが開き、そこからすぐ近くに雲がうつるガラス張りのホールが見えて、あまりに未知の絶景に圧倒される。


「うわ…す、すごい…、本当に俺、雲の中にいる…。」
「すずめ、あまり外側を歩くと落っこちますから気を付けてくださいね?」

「!!」

落ちるという言葉に一瞬驚いて思わず巧斗さんに飛びつくと、俺に思いっきり抱き締められる形になった彼がくっくっと口元に手を抑えて笑い出したので、そこではじめてからわれたのに気づく。

「って…!巧斗さん!窓があるんだから外側歩いても落ちる訳ないでしょ!」
「ふふ、おっしゃる通りです。揶揄ってすみません。君を俺の家に招待出来て、ついはしゃいでしまいました。」


巧斗さんは穏やかな笑顔でからかった事を謝りながら、俺の背中に手を回してぽんぽんと優しく撫でてくれた。
その仕草になんとなく頬が赤くなる。

(この人…悪戯っぽかったり、紳士だったり、かと思えば意外と積極的だったり…こういう緩急をつけるのズルいよな…。)

彼の素顔はまだ分からないが、性格だけでもかなりモテるタイプであろう事は分かる。

巧斗さんの冗談にはちょっとびっくりさせられたけど、先程まで感じていた他の人の家(しかも超高級マンション)にお世話になる緊張や申し訳なさは紛れ、気持ちが落ち着くのを感じた。



◇◇◇



「さて、着きましたよ。ここが俺の部屋です。どうぞ中に入って?」
「あ、うん、お邪魔します!」

巧斗さんがドアを開け巧斗さんがドアを開けると、その先に広がる内装はまるで一流高級ホテルさながらだった。

高い天井から吊るされたシャンデリアが、部屋全体を柔らかく照らしていて、ガラス張りの大きな窓からは雲海混じりの都市全体が一見できる絶景が広がり、一つ一つのビルが宝石のように輝いている。

部屋の内装やインテリアは先ほど見たエントランスと同じく、黒とブラウンと金で統一されており、高級感が漂いつつも静かでリラックスできる大人っぽい色合いでまとめられていた。

エレベーターからこの場所に到着するまで、一方通行で住宅用のドアが一つしかなかったため、ワンフロア全体を占める広い空間が広がっているのは薄々察してはいたけれど…まさか本当に最上階をまるごと貸し切りにするなんて……家賃を知るのが末恐ろしい。


「さて、今日は色々あって疲れたでしょうし、とりあえず一旦ソファにでも座ってくつろぎましょうか。例の約束もしましたしね?」

「約束…?って…あっ!チョーカーの事?」
「はい、是非俺に着け替えさせてください。」


俺達は歩きっぱなしで疲れた足を休めるように、二人揃って座り心地が最高すぎるソファに沈み込むと、巧斗さんは嬉しそうに早速持っていた紙袋からチョーカーの入った箱を取り出した。

(どうしよう…、さっきは機械音痴だからチョーカーを着けてくれる事にただ単に嬉しい感情しか無かったけど、いざ実際に着けてもらうとなると意外と照れてしまうな…。)


なんせ、今彼との距離はわずか数十センチしかないので、相手の顔が間近に来てしまう。

(!この人よく見ると、目の造形がとてもきれいだな…。でもどこかで見た事があるような…)

「ではまず、すずめのチョーカーを外しますよ?」
「あっう、うん…!」


チ、チョーカー位自分で外せるのに…!

あまりの恥ずかしさに目をぎゅっと瞑ると、巧斗さんの手が俺の髪をさらっと耳にかけた。

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