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side 王子 ミスラル1キロ持ってきな
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「それよりじいちゃん。マリオンを早く保護しないと」
新聞を見て速攻駆けつけた研究学園の、マリオンが暮らしていた小屋を見てエドアルド王子も配下の騎士たちも自分たちが見たものが信じられなかった。
そこは本当に倉庫だったのだろう。
風通しの悪いカビ臭い室内に、毛布と枕代わりのブランケット一枚きり。
もう季節は11月の冬だ。小屋には暖房設備もなく、平家の小さな空間には学園内の講義用の教科書や、マリオンが準備しただろう資料や機材。
魔導具師のポケットのたくさん付いたローブや衣服、タイアド王国に来るとき使っただろう旅行用のスーツケースなどはそのまま残っていた。
リュックの中には財布など貴重品もそのまま。
学園内で当時の聞き取り調査の結果、マリオンは綿毛竜に騎乗してそのまま逃亡したそうだから、荷物の回収の暇もなかったと見える。
床に置かれた座卓代わりの小さな木箱と、その上に置かれた乾パンの切れっ端、半分だけ残っていたオレンジは帰宅後用に取っておいたのだろうか。
そのあまりの侘しさに、涙を滲ませたのはエドアルド王子だけではない。一緒に来ていた配下の騎士たちも言葉を失っていた。
(「ひでぇ……エドアルド王子終わったな、大好きな子がこんな目に遭うまで放置してるとか」って終わりになんかするわけがない! 挽回! 挽回する! がんばる!)
「王宮に来る前に出国管理局に確認してきたが、まだ国外に出てねえ。多分、王都のどこかで潜伏して様子見てるんだろうよ」
「なら早く探さないと!」
「おっと。それは家族のわしの役目だ。他人のお前さんにゃ関係ねえな」
「じいちゃん!」
再びデコピンされるも、今度はエドアルド王子も引かなかった。
鮮やかなエメラルド色の瞳で、ダリオンの水色の瞳の眼力に必死で対抗している。
「マリオンに会ってどうする? こんな酷い目に遭わされてかわいそうに……『もうエド君なんて大嫌い、顔も見たくない』ぐらい思ってるんじゃね?」
「そ、そんなことはない……はず……」
やめて想像させないで、泣いてしまう。もう泣いてるけど!
「とりあえずわしはマリオンを探す。そっちはまあ適当に頑張れや」
「ま、待って!」
レストルームから出て行こうとしたダリオンの正装の端を王子は掴んだ。
「なんだ?」
「……ま、マリオンへの不払いになってる報酬とか預かってる荷物とか、渡すときに直接謝りたいんだ……だめ?」
上目遣いにうるうる潤んだエメラルドの瞳で訴えられた。
可愛い。あざとくも可愛い。
だがこの王子はダリオンの可愛い孫を掻っ攫おうとしている敵だ。容赦はできない。
と却下しようとしたら、王子が更に先を続けた。
「じいちゃん。じいちゃんが昔言ってた『マリオンに相応しい男』の基準ってなに? 騎士と冒険者ランクA? S? それともじいちゃんと同じSS? でもじいちゃんがSSランクになったのって三十路入ってからって言ってたじゃない?」
はあああああ~、とダリオンは深く深く長い溜め息を吐いた。
びくうっとエドアルド王子が身を震わせたが、負けないぞと言わんばかりにエメラルドの瞳で睨んできた。ダリオンの威圧に抵抗するとはなかなか胆力がある。
「あのな、エド君。お前が狙ってるわしの可愛いマリオンちゃんは、魔導具師なわけ。例えお前さんが伝説級のSSSを獲得しても、それだけじゃ足らんのよ」
「そ、それはいったい……?」
ドキドキと緊張していることが丸わかりの表情でエドアルド王子がダリオンを見上げて来る。
(えーっと。どうしようかな)
何かそれらしいことを言って煙に巻こうとしたのだが、上着の裾を掴む王子の手は離れそうもない。
「わかんねえの? 魔導具師のマリオンにはお前さんが王子だったり、たくさん財産持ってる資産家だったり、優秀な剣士だったりは関係ないわけ」
「な、なら何があればいいの!?」
「魔導具師が喜ぶものなんて決まってんだろ。良い設備、良い器具、良い薬品に実験施設。あとは希少素材」
ハッと王子が何かに気づいた顔になる。
よし、何とか誤魔化せた!
「とりあえず詫びにミスラル聖銀1キロでも持ってきな。話はそれからだ」
ミスラルはこの世界では銀の上位金属と言われている。
「わかった! 1キロだね!」
あれっ、何か反応が予想と違うな? とダリオンが思ったときには遅かった。
「帰還前にお野菜モンスターを討伐してた地域でミスラルの鉱脈が見つかったばかりなんだよ。俺の直轄地だから採掘に国王の許可も要らないし。じゃ、行ってきます!」
「……マジで?」
聖銀と呼ばれるミスラルは1グラムあたり大金貨1枚(約20万円)以上する非常に高価な希少金属だ。
それだけ高価にも関わらず、魔導具に使われることが多く、価格は常に高騰している。
それを1キロとなると単純計算で大金貨千枚。(約2億円)
「ミスラル採掘できたらどこに持っていけばいい?」
「あ、ああ。わしはしばらく王都の冒険者ギルドにおるぞ」
「了解、またねじいちゃん!」
そしてエドアルド王子は元気いっぱいにレストルームを出て行った。
「おいおい、ミスラル1キロだぜ? 冗談に決まってるじゃん……」
ヤバい。あの調子だと本当にミスラル1キロ持ってきかねなかった。
新聞を見て速攻駆けつけた研究学園の、マリオンが暮らしていた小屋を見てエドアルド王子も配下の騎士たちも自分たちが見たものが信じられなかった。
そこは本当に倉庫だったのだろう。
風通しの悪いカビ臭い室内に、毛布と枕代わりのブランケット一枚きり。
もう季節は11月の冬だ。小屋には暖房設備もなく、平家の小さな空間には学園内の講義用の教科書や、マリオンが準備しただろう資料や機材。
魔導具師のポケットのたくさん付いたローブや衣服、タイアド王国に来るとき使っただろう旅行用のスーツケースなどはそのまま残っていた。
リュックの中には財布など貴重品もそのまま。
学園内で当時の聞き取り調査の結果、マリオンは綿毛竜に騎乗してそのまま逃亡したそうだから、荷物の回収の暇もなかったと見える。
床に置かれた座卓代わりの小さな木箱と、その上に置かれた乾パンの切れっ端、半分だけ残っていたオレンジは帰宅後用に取っておいたのだろうか。
そのあまりの侘しさに、涙を滲ませたのはエドアルド王子だけではない。一緒に来ていた配下の騎士たちも言葉を失っていた。
(「ひでぇ……エドアルド王子終わったな、大好きな子がこんな目に遭うまで放置してるとか」って終わりになんかするわけがない! 挽回! 挽回する! がんばる!)
「王宮に来る前に出国管理局に確認してきたが、まだ国外に出てねえ。多分、王都のどこかで潜伏して様子見てるんだろうよ」
「なら早く探さないと!」
「おっと。それは家族のわしの役目だ。他人のお前さんにゃ関係ねえな」
「じいちゃん!」
再びデコピンされるも、今度はエドアルド王子も引かなかった。
鮮やかなエメラルド色の瞳で、ダリオンの水色の瞳の眼力に必死で対抗している。
「マリオンに会ってどうする? こんな酷い目に遭わされてかわいそうに……『もうエド君なんて大嫌い、顔も見たくない』ぐらい思ってるんじゃね?」
「そ、そんなことはない……はず……」
やめて想像させないで、泣いてしまう。もう泣いてるけど!
「とりあえずわしはマリオンを探す。そっちはまあ適当に頑張れや」
「ま、待って!」
レストルームから出て行こうとしたダリオンの正装の端を王子は掴んだ。
「なんだ?」
「……ま、マリオンへの不払いになってる報酬とか預かってる荷物とか、渡すときに直接謝りたいんだ……だめ?」
上目遣いにうるうる潤んだエメラルドの瞳で訴えられた。
可愛い。あざとくも可愛い。
だがこの王子はダリオンの可愛い孫を掻っ攫おうとしている敵だ。容赦はできない。
と却下しようとしたら、王子が更に先を続けた。
「じいちゃん。じいちゃんが昔言ってた『マリオンに相応しい男』の基準ってなに? 騎士と冒険者ランクA? S? それともじいちゃんと同じSS? でもじいちゃんがSSランクになったのって三十路入ってからって言ってたじゃない?」
はあああああ~、とダリオンは深く深く長い溜め息を吐いた。
びくうっとエドアルド王子が身を震わせたが、負けないぞと言わんばかりにエメラルドの瞳で睨んできた。ダリオンの威圧に抵抗するとはなかなか胆力がある。
「あのな、エド君。お前が狙ってるわしの可愛いマリオンちゃんは、魔導具師なわけ。例えお前さんが伝説級のSSSを獲得しても、それだけじゃ足らんのよ」
「そ、それはいったい……?」
ドキドキと緊張していることが丸わかりの表情でエドアルド王子がダリオンを見上げて来る。
(えーっと。どうしようかな)
何かそれらしいことを言って煙に巻こうとしたのだが、上着の裾を掴む王子の手は離れそうもない。
「わかんねえの? 魔導具師のマリオンにはお前さんが王子だったり、たくさん財産持ってる資産家だったり、優秀な剣士だったりは関係ないわけ」
「な、なら何があればいいの!?」
「魔導具師が喜ぶものなんて決まってんだろ。良い設備、良い器具、良い薬品に実験施設。あとは希少素材」
ハッと王子が何かに気づいた顔になる。
よし、何とか誤魔化せた!
「とりあえず詫びにミスラル聖銀1キロでも持ってきな。話はそれからだ」
ミスラルはこの世界では銀の上位金属と言われている。
「わかった! 1キロだね!」
あれっ、何か反応が予想と違うな? とダリオンが思ったときには遅かった。
「帰還前にお野菜モンスターを討伐してた地域でミスラルの鉱脈が見つかったばかりなんだよ。俺の直轄地だから採掘に国王の許可も要らないし。じゃ、行ってきます!」
「……マジで?」
聖銀と呼ばれるミスラルは1グラムあたり大金貨1枚(約20万円)以上する非常に高価な希少金属だ。
それだけ高価にも関わらず、魔導具に使われることが多く、価格は常に高騰している。
それを1キロとなると単純計算で大金貨千枚。(約2億円)
「ミスラル採掘できたらどこに持っていけばいい?」
「あ、ああ。わしはしばらく王都の冒険者ギルドにおるぞ」
「了解、またねじいちゃん!」
そしてエドアルド王子は元気いっぱいにレストルームを出て行った。
「おいおい、ミスラル1キロだぜ? 冗談に決まってるじゃん……」
ヤバい。あの調子だと本当にミスラル1キロ持ってきかねなかった。
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