上 下
141 / 228
第七章 俺様、南方へ行く

13、これはやばい

しおりを挟む
 次々と襲い来る熊をあっさりと倒しつつ進む俺達。その度に鑑定で欠片の有無を確認して進む。
 度々足止めを喰らうためほとんど進めず、夕方になってしまった。

「夜間はモンスターの力も増しますし、こちらが不利です」
「リージェ様も戦ってばかりですし、そろそろ休まれた方が……」
『仕方ない、そうしよう』

 本当を言うとまだMPは半分くらい残っているのだが、俺よりエミーリオやルシアちゃんに休憩が必要だろう。
 これまでの熊はあっさりやられてくれたが、角つきもそうとは限らないしな。

 いつもの如くルシアちゃんに結界を張ってもらい、野営の準備をする。
 火の明りに熊が寄ってきたが、角無しの熊は結界を破れないらしくて先日と同じよう結界を取り囲むようにしてウロウロとこちらの様子を窺っている。
 これなら角つきが出てきた時だけ警戒していれば大丈夫だな。
 グルグルと低い唸り声を完全に無視しながら、温かい食事に舌鼓を打って眠りについた。


 そして、夜が明けようという頃。

 グォォォォォオオオオオオオ!!

「な、何だ?!」
「わ、わかりません。あっ! 結界を囲んでいたオルソが去っていきます」

 地面を揺らすような音で俺達は飛び起きた。
 ルシアちゃんが示した通り、あれほど俺達を獲物と定め固執していた熊達が去っていく。左右に分かれて慌てたように去っていく姿は、まるで何者かに道を譲るようにも見える。
 いや、実際その通りだった。

 ドッドドッドッドドッとリズミカルに地面が揺れ、索敵を使うまでもなく殺気の塊のような何かが恐るべきスピードで近づいてくるのを感じる。
 もしこれが角つきなら、結界は効果がないかもしれない。

『エミーリオ、ルシア! 横に大きく飛べ!』

 黒い塊が見えたと思うと、どんどんその姿がハッキリする。でかい。まだ距離があるはずなのに、既に去っていった熊と同じくらいの大きさに見える。
 そいつは周囲の熊には目もくれず一直線にこちらに向かってくる。
 一直線にこっちに来るなら! と俺は上空に飛び上がり眼前にウォーターカッターを振り下ろす。
 今までの調子ならこれで一刀両断にできるはずだった。

『何だと?!』

 透き通った黒曜石のような角まで目視できる距離になってから詠唱しギリギリまで引き付けたというにも関わらず、ヒョイ、と軌道を逸らし避けられてしまった。
 さすが角つき。今までの奴らとは動きが違う。

『ルシア、結界を張り自分を守れ! エミーリオ、囲まれても助けてやれん。数が減るまで結界内で待機!』
「は、はい!」

 大声でルシアが返事したからか、角つきがぐる、とルシアの方を向き突進しようとする。
 最初結界を取り囲んでいた熊が子熊に見えてしまうくらいでかい。あの巨体のどこにそんな機敏さが? と驚くほどの身のこなし。
 あの鋭く長い角も脅威だが、あの巨体とスピードで突っ込まれたらルシアちゃんは潰されてしまう。

『チッ!』

 間に合え、と俺は斬撃を飛ばす。
 キャァ、とルシアちゃんの悲鳴が聞こえる。貫通力はウォーターカッター程じゃないとはいえ、かすったかもしれない。いや、熊のどでかい背が壁になってるからきっと大丈夫だ。
 そう信じて二撃三撃と追撃する。

「グォォォォォオオオ!!」

 空気をビリビリと震わせる怒声と共に、傷だらけの背中をくるりと反転させこちらに向き直る熊。
 二足で立ち上がり両腕を広げ、再び威嚇の咆哮を上げた。あまりの音量に耳と頭に激痛が走る。同時にバキ、と爆ぜるように後方の木の枝が落ちた。っこれはやばい……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【レ・オルソ・モルテネーロ】

オルソ種の中でも最凶最悪、死の紫斑と呼ばれるモルテヴィオーラの変異種。暗黒破壊神の大きな欠片を取り込んで進化した模様。欠片によってステータスが特大強化されています。
もともと群れのボスだったようですが、欠片の影響かその知能や慎重さなどは失われたようでただ凶暴性だけが増しているようです。気を付けて。

レベル  : 76 

HP   : 79974/88860
MP   : 31148/38935
Atk  : 83675
Def  : 28325

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 音という情報源が潰されてしまった。
 熊の意識がルシアちゃんから俺に移り、睨み合いながらステータスを鑑定するとHP、MPでは負けていた。
 が、AtkもDefも俺の方が倍以上あるし、ゴリ押しで何とかなる気がする。
 現にさっきの攻撃が通って、残HPも俺の方が高い。よし。

「天罰! 天罰! 天罰! 天罰! くそ、当たらねぇ!」
「グォォォォォ!!」

 チラ、とルシアちゃん達を見るとしっかり結界を張ってくれていたので遠慮なく大技を出す。が、ヒョイヒョイ、と最小限の動きで躱してこちらに接近してきやがる。
 直線的な攻撃は無駄打ちになる、と思った瞬間の咆哮。空気を震わす衝撃波のようなものを浴びてしまってバランスを崩し地面に落ちてしまった。
 熊は?! と顔を上げると、角をこちらに向け突進してくる姿が視界一杯に映る。

「グギャァァァッ!」

 咄嗟にブレスを吐いたらこの至近距離ではさすがに避けられなかったらしく、火に包まれた頭を抱えるようにしてゴロゴロと転がる。火を消そうとしているのだろう。
 チャンスだ! 俺は体勢を立て直し、再び空中へと舞い上がる。

「血飛沫と共に踊れ!」

 一瞬貫通力・切断力に優れたウォーターカッターにしようかとも思ったが、散々避けられまくったせいか今回も避けられる予感しかせず、広範囲攻撃である竜爪斬にした。
 弱いモンスターならそれで細切れにできるのに、固い体毛に阻まれるのか致命傷にはならない。
 風圧で火が消えた熊が、こちらを睨みながらフーフーと荒い息で立ち上がる。
 さぁ、仕切り直しと行こうか!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

聖女にしろなんて誰が言った。もはや我慢の限界!私、逃げます!

猿喰 森繁
ファンタジー
幼いころから我慢を強いられてきた主人公。 異世界に連れてこられても我慢をしてきたが、ついに限界が来てしまった。 数年前から、国から出ていく算段をつけ、ついに国外逃亡。 国の未来と、主人公の未来は、どうなるのか!?

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...