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第七章 俺様、南方へ行く
14、反則だろ!
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直線的な攻撃は避けられる。ならば広範囲攻撃しかない。
「我が劫火に焼かれよ!」
「グルゥォォォォオオ!」
さっき割と効いてたブレスを仕掛けるが、それに合わせて奴も火球を飛ばしてきやがった。
そうだ。熊にはこれがあったんだった。さきほどから咆哮しか使ってこないから失念していた。
が、何の問題もない。MPもAtkも俺の方が上。つまり、俺のブレスが奴の火球に負けるわけがないのだ。
「ギャアァッ!」
俺のブレスが火球を押し戻し、奴の鼻先を潰し顔を炎で押し包む。
熊は堪らず鼻を抑えるようにして転がった。そうすれば火が消せると本能で知っているのか。
だが、火が消えるのを待っていてやるほど俺は優しくないのでね!
「血飛沫と共に踊れ!」
隙だらけの腹をめがけて斬撃を飛ばす。
背よりも防御力が弱いのか、決して浅いとは言えない傷が多数つく。
えっと、ここでブレスを使ったら傷が塞がるよな? このまま出血多量でくたばるのを待つ方が良いか?
「血飛沫と共に踊れ!」
「グギャァァァッ」
コロコロ転がる熊を追いかけるように追撃していく。
このままハメ技的に終わってくれれば楽なんだけどな。やっぱそう簡単には行かないか。
俺が追撃しているからか、火がまだ消えていないにも関わらず立ち上がり、焼け爛れていく顔で俺を睨む。ドロリと左の眼球が溶け落ちた。グロい。
「ちょっと! そのグロい顔こっちに向けないでよね! 気色悪い!」
奴の顔を直視できなくて、さらに追撃をしていく。まぁ、そんな顔にしちゃったのも俺なんだけど。
長くいたぶるのは趣味じゃないし、早いとこ倒したいんだけど。無駄にステータスが高いせいでそうもいかない。
と、熊は避けるでもなく仁王立ちしたままそれを全て受け止めた。
「グォォォォォオオオ!!」
そして咆哮。その振動と衝撃にバランスを崩す。
何とか墜落せずに持ちこたえ熊に向き直ると、額の角の先に何やら黒いもやもやした球状の物体が浮かんでいた。
暗黒空間としか言いようがない、質量を感じないそのもやもやは、見る見る大きくなっていく。
やばい、何あれ何あれ?! 何となく、あれに触れてはいけない気がする。
「天罰!!」
とにかく奴がアレをこちらに向けて放つ前に何とかしなければ、と今まで避けられまくっていた天罰を繰り出した。
避ける様子のないまま、直撃する、と思った瞬間、俺の天罰は黒い球体に吸い込まれて消えた。
そして、球体はさらに大きくなる。
「何だそれ! 反則だろ!」
続け様にウォーターカッター、竜爪斬、ブレスと持てる遠距離攻撃手段で追撃していくが、全て謎の球体に吸い込まれていく。俺の攻撃などものともせずに球体はどんどん大きくなっていく。
唖然とする俺に、片目の熊がニヤリと嗤った気がした。
――来る!
俺は咄嗟に翼を畳み地面に落下する。そのスレスレの所を謎の球体が掠めていった。
速度的にはそれほど早くないその球体は、背後にあった巨木に吸い込まれるようにして消える。
「?」
ぶつかっても何ともない、のか……?
何だ、ビビらせやがって。あんなのに危険を感じるなんて、俺もまだまだ……
ドゴォッ!!
安心した直後、例の巨木が爆発した。同時に、俺の翼の先も何の前兆もなく弾けた。
どうやらあれはぶつかったものの内部に入り込み膨張して爆ぜる性質のようだ。
掠めてしまった分、威力が落ちたのだろう。あの巨木のようになる自分を想像してゾッとする。この程度で済んで良かった。
「グォォォォォオオオ」
俺が無事なことに苛立ちを隠さない熊が、その角を振りかぶって突進してくる。
俺がもう飛べないと踏んでの攻撃なのだろうが、悪いな熊。俺はまだ動けるんだよ。
「うらぁあああっ!」
身を低くして突進してくる熊の角を地面に伏せて躱す。そして、熊が俺の上を通り過ぎるその瞬間に柔らかな喉に爪を突き立て、そのまま腹まで引き裂いた。
俺、ちび竜で良かった。
地面に翼の傷口を思い切り擦ることになって泣きそうなほど痛いけど。もし俺がもっと大きい体だったら、こんな避け方はできなかっただろう。
爪もまだ小さいから致命傷になるほど深い傷はつけられなかったが、十分だ。
全身に浅い傷を無数に付けた片目の熊と睨み合う、翼を潰された俺。
あれだけ傷ついても向かってくるのは熊の習性かね?
地面に転がったままの俺を見て、呼吸の苦しそうな熊は再びあの黒いもやもやを角の先に集め出す。
「とどめってか?」
だが、その技は一度見た。
俺の攻撃を吸い込んで大きくなったから、恐らく俺の攻撃をエネルギーに変換しているんだろう。
事実、俺が何もしないから、今度は大きくなる速度が遅い。
俺が何の対処もしようとしないことにしびれを切らしたのか、熊がゆっくりと近づいてくる。まるで、その球体を動けない俺の中に直接ねじ込んでやろうとでもするかのように。
「ははっ、悪いな、俺にはまだ奥の手があるんだよ! 反転せよ!」
俺はただ転がって見ていたわけじゃない。あることを念話でエミーリオに指示していた。
そして、力尽きたと見せかけ近寄ってくる瞬間を待っていたのさ。
黒い球体が触れる直前、俺は怪我を自分の回復スキルで全快させ上空に逃げる。
熊はまさか飛べるとは思っていなかったのだろう、ポカンとした間抜け面で俺を見上げていた。
「我が劫火に焼かれよ!」
「グルゥォォォォオオ!」
さっき割と効いてたブレスを仕掛けるが、それに合わせて奴も火球を飛ばしてきやがった。
そうだ。熊にはこれがあったんだった。さきほどから咆哮しか使ってこないから失念していた。
が、何の問題もない。MPもAtkも俺の方が上。つまり、俺のブレスが奴の火球に負けるわけがないのだ。
「ギャアァッ!」
俺のブレスが火球を押し戻し、奴の鼻先を潰し顔を炎で押し包む。
熊は堪らず鼻を抑えるようにして転がった。そうすれば火が消せると本能で知っているのか。
だが、火が消えるのを待っていてやるほど俺は優しくないのでね!
「血飛沫と共に踊れ!」
隙だらけの腹をめがけて斬撃を飛ばす。
背よりも防御力が弱いのか、決して浅いとは言えない傷が多数つく。
えっと、ここでブレスを使ったら傷が塞がるよな? このまま出血多量でくたばるのを待つ方が良いか?
「血飛沫と共に踊れ!」
「グギャァァァッ」
コロコロ転がる熊を追いかけるように追撃していく。
このままハメ技的に終わってくれれば楽なんだけどな。やっぱそう簡単には行かないか。
俺が追撃しているからか、火がまだ消えていないにも関わらず立ち上がり、焼け爛れていく顔で俺を睨む。ドロリと左の眼球が溶け落ちた。グロい。
「ちょっと! そのグロい顔こっちに向けないでよね! 気色悪い!」
奴の顔を直視できなくて、さらに追撃をしていく。まぁ、そんな顔にしちゃったのも俺なんだけど。
長くいたぶるのは趣味じゃないし、早いとこ倒したいんだけど。無駄にステータスが高いせいでそうもいかない。
と、熊は避けるでもなく仁王立ちしたままそれを全て受け止めた。
「グォォォォォオオオ!!」
そして咆哮。その振動と衝撃にバランスを崩す。
何とか墜落せずに持ちこたえ熊に向き直ると、額の角の先に何やら黒いもやもやした球状の物体が浮かんでいた。
暗黒空間としか言いようがない、質量を感じないそのもやもやは、見る見る大きくなっていく。
やばい、何あれ何あれ?! 何となく、あれに触れてはいけない気がする。
「天罰!!」
とにかく奴がアレをこちらに向けて放つ前に何とかしなければ、と今まで避けられまくっていた天罰を繰り出した。
避ける様子のないまま、直撃する、と思った瞬間、俺の天罰は黒い球体に吸い込まれて消えた。
そして、球体はさらに大きくなる。
「何だそれ! 反則だろ!」
続け様にウォーターカッター、竜爪斬、ブレスと持てる遠距離攻撃手段で追撃していくが、全て謎の球体に吸い込まれていく。俺の攻撃などものともせずに球体はどんどん大きくなっていく。
唖然とする俺に、片目の熊がニヤリと嗤った気がした。
――来る!
俺は咄嗟に翼を畳み地面に落下する。そのスレスレの所を謎の球体が掠めていった。
速度的にはそれほど早くないその球体は、背後にあった巨木に吸い込まれるようにして消える。
「?」
ぶつかっても何ともない、のか……?
何だ、ビビらせやがって。あんなのに危険を感じるなんて、俺もまだまだ……
ドゴォッ!!
安心した直後、例の巨木が爆発した。同時に、俺の翼の先も何の前兆もなく弾けた。
どうやらあれはぶつかったものの内部に入り込み膨張して爆ぜる性質のようだ。
掠めてしまった分、威力が落ちたのだろう。あの巨木のようになる自分を想像してゾッとする。この程度で済んで良かった。
「グォォォォォオオオ」
俺が無事なことに苛立ちを隠さない熊が、その角を振りかぶって突進してくる。
俺がもう飛べないと踏んでの攻撃なのだろうが、悪いな熊。俺はまだ動けるんだよ。
「うらぁあああっ!」
身を低くして突進してくる熊の角を地面に伏せて躱す。そして、熊が俺の上を通り過ぎるその瞬間に柔らかな喉に爪を突き立て、そのまま腹まで引き裂いた。
俺、ちび竜で良かった。
地面に翼の傷口を思い切り擦ることになって泣きそうなほど痛いけど。もし俺がもっと大きい体だったら、こんな避け方はできなかっただろう。
爪もまだ小さいから致命傷になるほど深い傷はつけられなかったが、十分だ。
全身に浅い傷を無数に付けた片目の熊と睨み合う、翼を潰された俺。
あれだけ傷ついても向かってくるのは熊の習性かね?
地面に転がったままの俺を見て、呼吸の苦しそうな熊は再びあの黒いもやもやを角の先に集め出す。
「とどめってか?」
だが、その技は一度見た。
俺の攻撃を吸い込んで大きくなったから、恐らく俺の攻撃をエネルギーに変換しているんだろう。
事実、俺が何もしないから、今度は大きくなる速度が遅い。
俺が何の対処もしようとしないことにしびれを切らしたのか、熊がゆっくりと近づいてくる。まるで、その球体を動けない俺の中に直接ねじ込んでやろうとでもするかのように。
「ははっ、悪いな、俺にはまだ奥の手があるんだよ! 反転せよ!」
俺はただ転がって見ていたわけじゃない。あることを念話でエミーリオに指示していた。
そして、力尽きたと見せかけ近寄ってくる瞬間を待っていたのさ。
黒い球体が触れる直前、俺は怪我を自分の回復スキルで全快させ上空に逃げる。
熊はまさか飛べるとは思っていなかったのだろう、ポカンとした間抜け面で俺を見上げていた。
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