アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~

物太郎

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四章 第一妃の変化

302、初めての宿泊学習  1(宿泊学習の報せ)

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「楽しみだね、来週の宿泊学習」

「だねぇ」

 中期が始まって三日目の授業の終り。リドの言葉にユリが頷いた。

「特待生は特待生で、貴族は貴族で部屋の区域まとめてくれてるっていうし有難いよね。――まぁ……部屋からの眺めに関しては仕方ないとして。私達の部屋なんて特に木しか見えないじゃん。折角湖があるっていうのに惜しいなぁ」

「リド、ちゃんと前見てよ」

「大丈夫大丈夫」

 リドは学園から配られた薄い冊子を眺めていた。学園所有の屋敷について書かれているものだ。今は学生の宿泊施設と化しているその屋敷は昔は王族が所有していた物だそうで、学園の設立祝いに学園へと贈呈されたものだという。

 リドは歩きながら冊子をぺらぺらと開き、自分達が使用する部屋の絵と屋敷の二階にあるという高級な部屋の幾つかを見比べてため息を零した。自分達に与えらえる部屋も一般的に言えばいい部類なのだが、王族や高位の貴族が使うようにと準備された最高級な部屋の類と比べれば当然見劣る。

「いつか出世してこんな部屋に泊まりたいな~」

「そうだね。この部屋だと……一泊三十~四〇万リングとか? こっちは……なんだろう。絵だから分からないけど全部最高級の品だとしたら百万とかしそうだよね」と絵の中の調度品を見てユリは大雑把に計算してみる。

「百万!? 四〇万ってだけでも驚きなのに……だって平均的な平民の月給の二~三倍だよ!? 世知辛すぎるって……」

 と肩を落とすリドにくすりとユリは笑う。

「学園をちゃんと卒業出来ればいつかこんな部屋に泊まれるチャンスあるかな、頑張ろう!」

「あるかぁ~?」

「へへ、無くはないんじゃない?」

「―――おいお前等」

 声を掛けられ二人が振り返ると、特待生仲間のナナー・ヤッツが呆れた顔をしていた。彼は声を潜め体の影に片手を隠し自分の後方を親指で示す。

「声がでかい……笑われてるぞ」

 言われてみればと、ユリとリドは周囲のくすくす笑いに気がつく。リドは「……ぁぁ、」と目を細めた。「貧乏人」という言葉を拾ったユリは恥ずかし気に「返す言葉もないです」と小声で返す。

「まぁ気持ちは分かるけどよ。俺もそのエメラルダの部屋だとかガーネッドの部屋とかいつかは泊まってみた―――」



『あぁ、当然エメラルダの部屋をとった』



「―――いし……」 

 丁度話に出ていた部屋の名を、しかもそこに泊まるのだという男子生徒の声に三人の視線は自然とそちらに吸い寄せられる。

『あの部屋は二階に上がってすぐだしベッドや窓も他の部屋よりでかいって聞いてな』

『まぁ……流石ですわね』

『あの部屋は眺めも素敵だと聞いておりますわ、羨ましいです』

『おう。景色が見たいなら幾らでも招待いたしましょうお嬢様方。まぁ都合が合えばだが』

 視線の先は校舎に挟まれた中庭だった。そのベンチに腰掛けた大柄な長髪の男子生徒―――ベルルッティ公爵家の令息ウォーフが数人の令嬢方に囲われていた。

 「あぁ……公爵家なら納得だな」と遠い目をしたナナーが呟く。

 リドはと言えば「うわぁ……なんか泥沼ぁ……」と話の内容とは別の点が気になっているようだ。

 ユリがその言葉の意味を探し周りの令嬢を見てみれば、同じくその様子に気付いたナナーが「あー、なるほど」と頷いた。

 ウォーフの隣には先に話をしていたのだろう令嬢が枝垂れかかっていた。彼女は後から来て声を掛けてきたのであろう令嬢達の話に微笑んではいたが、たまに不満げな目を向けていた。通りがかりに声を掛けたであろう令嬢達の数人も、ウォーフの隣に居座る彼女へたまに牽制するような目を向けていた。

「あれ二年の先輩だよね。で、あっちは三年」とリド。

「なるほど。二年の分際で三年の私らを差し置いて、って所か」

「どう始末つけるんだろ」

「始末なんてつけやしないだろ。ありゃぁ周りの女がどう争おうと知ったこっちゃねぇって顔だぞ」

「流石高位貴族様……遊び方がえげつないなぁ……」

 リドとナナーのやり取りを聞きながらユリは劇を観るような感覚で中庭の小競り合いを眺めていた。

「なんで……」

 ユリの言葉にリドが「ん?」と目を向けた。視線の先の友人は少しムッとしたような顔をしており、「なんであんな風に人を振り回せるんだろうね。信じらんない」と冗談めかした軽いノリで言う。

「まぁ貴族だから……私達とは培ってきた感性が違うんだね」とリドは苦笑する。

「貴族の感性……難解だなぁ」とユリは首をふる。

「そりゃお前が平民だからだろ」とナナーが揶揄うように笑うので「ナナーもでしょ」とユリはすかさずナナーも同類であることを指摘した。

「おいおい、これでも平民の中では俺はお坊ちゃまな方だろ」

 それでも平民である事に変わりはないだろうに胸を張るナナーにリドはニヤリと笑む。

「あはは、そうだったね~。じゃあお坊ちゃま~、モルディーギのケーキ今度驕ってよ~」

 リドに小突かれたナナーは「馬鹿いえ、俺の小遣いが大した額無いの知ってんだろ」とリドの手を払う。

「じゃあパルニャ・コーヴはどう?」とユリも便乗し、少し値段のランクを下げた店を提案する。

「おいおい、パルニャはリアルすぎるだろ……。嫌だね。なんで何もない日にお前らにケーキを奢らなきゃなんねー……おい、何だよその顔……悪かったって、けど散財は勘弁してくれ。俺もお前等と同じしがない平民に変わりないのは認めるからそんな目で見るな」

「―――お前らな、」

「お、ゴルゴン良い所に」

 リドとユリに腕を捕まえられ、両サイドを固められたナナーが助けの声に目を輝かせた。

 三人の前、特待生仲間のゴルゴン・ロックは呆れたように額に手を当てていた。

「声がでかい。笑われてるぞ」

「……うっ」

 通り過ぎていった女生徒が「パルニャのケーキも驕れないなんて」「平民って大変なのね」というやりとりとクスクス笑いが聞こえる。

 ナナーは恥ずかしさに顔を赤くし、ユリとリドは「またか」とお互い自分達の学習の無さに困ったように顔を見合わせた。





 ***





 中期の前半。気候が安定し過ごしやすいこの時期、王都立高等学園では三学年合流の校外での宿泊学習がある。

 参加は自由。学習とは名ばかりで二泊三日のバカンスと言ってもいい代物だ。学園が所有する敷地の近くには城が管理する聖域があり、限られた時間ではあるが生徒達はそこへの立ち入りも許されている。

 馬車や騎獣、そしてとても希少だとも言われている転移の魔術を使って、学園の敷地内から聖域近くの安全な道まで長距離の移動を行うのだそうだ。

(私の中で転移の魔術の希少性が大暴落をおこしている……)

 アルベラは学園の冊子を前にレイニー教諭の話を思い返しながら目を細めた。

 ―――本日は中期一週目の平日最終日。

 この日になるまで生徒達は、親しい者達との長期休暇の土産や土産話の交換をすっかり終えていた。

 アルベラもスカートンや他の親しい友人達とは、授業の時間や合間でどんな休みを過ごしたか報告し合った。王子様やその騎士様にも土産の品を渡し、旅の詳細も不都合と思う内容を伏せてお披露目済みだ。アルベラも二人の愚の討伐についてを聞いていたし、他のちょっとした出来事など、あちらの話したい範囲の話は聞き終えていた。

 前期休暇の報告合いをし終わった学生たちの最近の話題は、これからの学園でのイベントについてに移り始めていた。そしてその一番近い時期に行われるイベント―――生徒達のもっぱらの話題となっているのが宿泊学習なのである。





「アルベラはアメジスタの部屋か。僕らとは真反対だね」とラツィラス。

「そうですね」と嫌でも嬉しそうでもなさそうにただ頷き、アルベラは「スカートンは何処だった?」と尋ねる。

「えぇと、私はここよ」

 とスカートンは自分の泊まる部屋を指した。

 図書館横のテラス席、今朝配られた冊子を囲みアルベラ、スカートン、ラツィラス、ジーンも宿泊学習を話題に言葉を交わしていた。





 ***





 今日の最期の授業を終えて、アルベラは廊下でスカートンと出会い共に図書館を訪れていた。

 スカートンは神聖学で神々の歴史とやらで補強しておきたい知識があるらしく、アルベラも「そう言えば神様とか悪魔とか、ここの図書館ではまだ調べてなかったよな」とふと思い付いて来たのだ。

 アルベラが特に神や悪魔についての知識を深めたいのではない。彼女が気になるのはこの世界に残されたアスタッテの記述だ。彼がこの地でどんな存在なのか、以前ストーレムの図書館で神やら悪魔やらの本を調べた事があった。その時、幸いにも「アスタッテ」という名前を見つけることは出来たが、書かれた本では詳細は不明となっていた。一部の地域では悪魔と呼ばれているとか、他のどこかの地では別の名で神として崇められているらしいとか……書かれていたのはそんな曖昧で短い内容だ。

 他にもなにか残されている記録があるなら見てみたい、あの町に無かった本がこちらにはあるかもしれないと探しに来て、幾つかの見覚えのない読みやすそうな本を借り、「落ち合おう」と約束していたテラスへ行くとスカートンが王子様に絡まれていた―――というのが今に至る流れである。

 正面の席に座り世間話をする王子様に、強張った表情で話しを聞くスカートン。そして遠めなので何を考えているのか分かりずらいが―――おそらく状況的に……スカートンが怯えているのを分かってる上で話しかけている主に呆れているのだろうジーン。

 このまま自分が行かずに居れば、スカートンの王子様への免疫力が上がるのではと思ったアルベラはあの席に向かう事を少しためらった。

 だがスカートンはそれなりに距離があり、そして多分死角に居たであろうアルベラにどう勘づいたのか、顔を向け名前を呼び手を振って招いたのだ。

 ―――『あ! アルベラ、どうしたの? ほらこっちよ』

 ほほ笑むスカートンの瞳は笑ってはおらず、アルベラの脚元にはアルベラを中心に僅かな旋風が起こっていた。アルベラはごくりと唾を飲み、笑顔を張り付け「オ、オマタセー」と片言の挨拶と共に彼等の元に合流したのだった。





 ***





(スカートン、私を脅す気概があるなら王子様と話すくらい余裕でしょ)

 アルベラはスカートンが指さした部屋を見て思考を現実へと戻す。

「普通の部屋にしたのね。聖女様の娘って高位貴族と同じ扱いだと思っていたんだけど違うの?」

「宿泊学習の連絡が来た時、お母様が私達は貴族じゃないからって部屋の振り分けについて学園に申し出たらしいの」

「じゃあもともとは私達と同じ個室だったのね」

「ええ。私もお母様の言葉と同じ意見だから、こうなってくれてほっとしてるわ」

 安心している様子のスカートンに、「スカートンらしいな」と思いながらアルベラは頷く。

「慎ましいね。同室は誰になったの?」とラツィラスが尋ねる。





 アルベラが聞いた話だと、もともとこの屋敷にあった「特別質のいい部屋」というのはは四つだったそうだ。だが今現在の三学年あわせの王族を含めた高位貴族の数は王族三人、公爵家三人、大伯家六人。今回の宿泊学習にスチュートとルーディンは参加しないらしく、となると高位貴族の参加者は計十名。

 参加の人数に合わせあと足りない数は、公爵家や大伯家という地位に見合う部屋を前期の頃から作っていたらしい。

 そしてその部屋も無事整い、本人達の希望を聞いたうえで振り分けも済まされた。

 きっとかなりの額が動いたのだろうなと想像すると、アルベラに残された一般人だった頃の価値観が彼女の心をざわつかせた。





 「そういえば」とラツィラスは男女の区域を分ける境目の側の部屋に指を移す。

「エメラルダの部屋はウォーフ君が使うそうだよ」

 「なんというか……女性好きの彼らしいですね」とアルベラが疚しい意味合いを込めて返すと、スカートンが「そう?」と首を傾ぎ風の噂で耳にした話を補足するように持ち出した。

「ベルルッティ様がこの部屋選んだ理由、ベッドが大きいからだそうよ」

「……」

「……」

 にこにこと微笑むラツィラスとアルベラの視線を受け、スカートンは「え、えぇと……?」と居心地が悪そうに椅子の上後退する。

「―――そう、ベッドが大きいから……。つまりどういう事かしらね殿下」

「そうだね……どういう事だと思う、ジーン」

「ベルルッティは図体がでかいから小さいベッドじゃ頭か足が収まらないって事だろう」

 素知らぬ顔で答えたジーンにラツィラスとアルベラは「まぁそうだよね」「まぁですわよね」ととぼけたよう頷く。

(一般的に貴族が使用するベッドでも十分間に合うはずですけどね……)

 ベッドの大きさについて自分以外の三人が妙なやり取りを挟んだことにスカートンは疑問符を浮かべている。

(……ぅ、)

 スカートンはもの問いたげな視線をアルベラへ向け、それに耐えられなくなったアルベラは話題を逸らした。

「あ、あぁ……そう言えば明日は休息日ね。皆さんはどうお過ごしになるのかしらぁ」

 あまりに露骨な話題転換にラツィラスはクスクス笑いを溢しながら乗っかる。

「僕はお城でお勉強。と言っても今週の王都の状勢とどんな対策案が出てるかとか、大雑把にかいつまんで教えてもらうだけだけど」

「毎週大変ですね」と社交辞令的にアルベラが相槌を打つ。

「ただ報告受けてるだけで何かの決定を迫られることはないから……楽と言ったら楽なんだけどね。学生だからかなり大目に見てもらってるよ」

 「卒業した後が怖いなぁ」とラツィラスは笑う。

 そう言えばと気になり、アルベラは上二人の王子様の事を訊いてみる。

「そう言うの、スチュート殿下やルーディン殿下も受けられてるんですか?」

「あぁ。あちらにはあちらの教育係が居て教育方針があるからどうだろうね。全く同じかは分からないけど……、もしかしたら似たような事もやってるんじゃないかな」

「そうでしたか」

「僕が王座から逃げた時の後釜は必要だもの。僕だけにしか重要な教育を受けさせてないなんてことは無いと思うよ」

「また軽々しく滅多な事を……」とアルベラは呆れる。

「えぇと……殿下は王座から逃げたいんですか?」

 スカートンが遠慮気味に尋ねた。ラツィラスは彼女に目を向けると「そうだなぁ……」と考えるように目を細める。スカートンは昔のようにすぐに視線はそらさないもののやはり居心地は悪そうだ。

「実はさ、小さい頃はいつか逃げようかと思う事もあったんだ。けど最近はそうでもないよ」

 ほほ笑む王子様にスカートンは目を瞬かせ、ワンテンポおいて「そう、ですか……」と緊張を忘れたように目元を緩ませた。彼女は安堵するように、いつもお守りの様に首に下げたロケットを両手で包み込んでいる。

「なにか心境の変化でも?」

 前は王座に後ろ向きで、なぜ最近は前向きなのか。気になったアルベラが問いかける。

「単純な話さ。ここに来た時よりこの国に……人に愛着が湧いたんだよ。僕の手の内に置いて僕が守れるならそれもいいかもって」

 出会った頃から今に至るまで、その心境の変化を近くで見て何となく感じていたジーンは改めて言葉として彼の意思を聞き「そうか」と内心で思う。だがやはり「まだ決めた訳でもないのだな」と。

「……と、言っても。まだ正式な王太子ではない僕が王座を語るのもおかしな話なんだけどさ」

「なぜ任命式を先延ばしにされてるんです?」

 尋ねたのはアルベラだ。ラツィラスはなんてことないように「まだやりたい事があるんだ」と返す。

「だからそれを済ませても僕の気が変わってなければ正式に王太子の座を頂こうと思ってるよ」

「王太子になってからではダメなんですね」

「うん。できなくはないんだろうけど……こればかりは僕の気分の問題だね」

「陛下は寛大でらっしゃる」

 「そうだね、感謝してるよ」とクスクス笑いながらラツィラスは返す。そして思い付いたように「あ、例えばだけどいいかな?」と三人を見た。

「―――もしもの話さ。もしも、僕が王太子という立場だとか王座だとか、王族に関係する色んなものから逃げる日があったとしたら、君達は変わらず僕の友人でいてくれるかい?」

「お前が大悪党とかになってなければな」とジーンはさらりと返す。

 一瞬質問の意図を探ろうとし答えに詰まるアルベラだったがジーンの返答に「そういうノリで良いのなら」とあまり考えずそれなりに正直に返す。

「お互い不都合の無い範囲であれば」

 先に二人が答えてしまい、最後となってしまったスカートンは恥ずかしそうに俯いて答えに迷っていた。意を決した様に視線を上げた彼女は、

「殿下が、私を友人と言ってくださるなら……」と返す。

「大悪党でも? 無一文になって君にたかりに行っても?」

 くすりと笑いながら問われたこれが、先の二人の答えを皮肉ったものであるのは明かだ。アルベラは「この野郎」と思いながらスカートンの返答に耳を傾けた。

「ええと……大悪党でも、場合によっては仲良くなれると思うので……。それに困ってる方に恵みを与えるのは教会の役目ですし……」

 細められた赤い目にスカートンはおどおどしながらアルベラに視線を送り助けを求める。やはり自分なんかが「友達」などとは厚かましいのでは、問われたからとはいえここは「私ごときが殿下の友人なんて滅相もありません」と答えるべきだったのでは、と不安になる。

 各々の返答を聞いたラツィラスは「そっか……」と呟き満足そうに笑みをこぼした。

「は……ははは……、聞いたかい二人とも。スカートンの寛大さを見習ってほしいな」

 王子様に散々振り回されてきたジーンは知った事かと意に介さず、アルベラは余計なお世話だとじとりとした目で王子様の笑う姿を眺める。スカートンは王子様の意識が自分から逸れてほっとしていた。

「ふふふ……そうだ、休息日についてだったよね。僕の話になっちゃってごめん」

 とラツィラスは目じりの涙を指先で拭う。

「ジーンは僕が城に居る間、城周りの警備だよね。夕方は訓練。明日も明後日も同じ。だよね?」

「ああ」

「二人は?」

「私は恵みの教会で聖職者の務めを。と言っても銀光なので下っ端の雑用ですが……。アルベラは?」とスカートン。

 教会の朝が早いのを聞いているアルベラは「大変ね」と返し、明日の己を想像して表情を曇らせた。

「私は……―――明日は……冒険者の方方と打ち上げです……」

「打ち上げって旅行のかい?」とラツィラス。

「はい。色々あったので快気祝いも含め無事帰って来た事を祝おうと。本当は帰ってきてすぐ行う予定だったんですが予定がずれてしまい明日に……。皆さんには本当にとても助けていただいたのでやらない訳にはいかないので……」

「本当はやりたくないって言い方だな」というジーンの言葉。

「そ、そんなわけないじゃない」とアルベラはすかさず返す。

 ラツィラスは他人事に「それは盛大に祝わないと。楽しんできてね」と笑っていた。何となく行く末を分かっているような言い方にアルベラは悔しさを噛み締める。

「はい……有難うございます……楽しんできます……」

「アルベラ、大丈夫? 顔色が悪いわ」

「大丈夫、気のせいよ……ただの打ち上げだし……」

 と言うも、アルベラは明日の事を考えると今から胸焼けや頭痛が起きる心境だった。

 アンナに酒を飲まされ潰れた冒険者やチンピラ達の姿が脳裏をよぎる。自分も明日ああなるのではと思うと純粋に楽しみに思える筈もない。

(どうにかああならないまでに逃げ切れますように……)

 着々と迫ってきている明日という日を前に、切にそう願わずにはいられなかった。



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