17 / 45
第二章 とんでもない相手を好きになり
寝ても覚めても
しおりを挟む
ズボンの前を寛げると、立派に育った肉棒がいきなり飛び出した。
オルガはそれを笑いながら冷たい指先で裏筋を辿り、揶揄うようにカリの部分を擽る。
そうしながら、椅子に座ったグレウスの上を向かい合わせに跨って、肩に置いた手を支えに膝立ちになった。
赤い瞳で挑むように見下ろしてくるのは、触れてもいいという印だ。グレウスはオルガの膝のあたりから裾を割って、ローブの中に手を入れる。
オルガが黒いローブの下に纏うのは、シャツとズボンの時もあれば、腰にベルトを締めた長衣の時もある。今日は後者だった。
柔らかな生地を裾からたくし上げ、ひやりとしたオルガの肌に触れる。すらりとした腿は滑らかで、形の良い筋肉をつけている。
グレウスはその感触を楽しみながら、太腿の裏側に手を這わせて上へと遡っていった。
「あ……」
指が際どい辺りに辿り着くころには、ローブに隠されたオルガの牡も欲情の滾りを主張していた。グレウスがそれを撫でると、オルガの腰が淫靡に揺れる。
引き締まった小振りな尻と、その狭間にある小さな窄まり。ヒクヒクと上下に跳ねる雄の部分を愛撫していると、オルガが息を乱しながら手を差し出した。
「……これを」
どこから取り出したのか、ほんのりと目元を染めたオルガの手には、小さな香油の瓶が乗っていた。
グレウスは片手を裾から出して、掌にとろりとした潤滑剤を受け止める。熟れた果実のような甘い芳香が書斎に広がり、夜を待てずに情交するのだという興奮を煽った。
香油が指に纏わりついて温まるのを待って、グレウスはその手を再びローブの中へと差し込む。
「あぁ……」
窄まりに触れると、悩ましい溜息がオルガの口から漏れた。唇は薄く開き、眉は切なく寄せられる。
その表情を見守りながら、グレウスは温かな肉の壺へと指を埋めていった。
挙式から一か月余り。
グレウスが女の肌を知らなかったように、オルガもまた高貴な身分ゆえに人肌の温もりは知らなかったらしい。
初めの数日は苦痛を堪える様子も見せていたが、体を重ねるうちに、オルガはすぐにグレウスとの交合に馴染んでいった。体の奥に熱い迸りを受けることを好み、時には自分から誘ってくることもある。
指の動きに合わせて、引き締まった腰がビクリと震えた。
「辛くありませんか?」
苦痛と快楽の表情は根底でよく似ていて、グレウスには区別がつきがたい。
昨夜も深く愛し合い、今朝もこの体の中に精を放ち、そして夕暮れ時の今だ。グレウスは構わなくても、受け止めるオルガの負担は大きいのではないか。
心配になって尋ねると、潤みを帯びた目がグレウスを睨んだ。
「このまま生殺しで焦らすつもりか。そのような真似をしてみろ。明日の朝日を拝めぬようにしてくれる」
朝焼けの色の瞳がグレウスを射貫く。
迷信深い貴族たちならば、黒の魔王に呪いを掛けられたと恐れおののくのかもしれない。だが、グレウスは怒気を露わにしているときのオルガの顔が好きだ。
冴え冴えと冷たい美貌に血の気を昇らせて、まるで鋭い剣の切っ先のような煌めきに心が躍る。美しくて少し禍々しいその顔は、グレウスの本能を刺激して、全身の神経を逆立てるのだ。
なけなしの自制心が霧散していく。
「あっ」
グレウスは腰の位置を合わせ、脚を開かせたオルガの体をその上に引き下ろした。
「あ、ッ――……ッ!」
苦しげに眉を寄せ、緩やかに煩悶しながらも、麗しの黒の魔王はグレウスの手に逆らわない。されるがままに体の力を抜き、太い剛直を尻の中に呑み込んでいく。
白かった頬が紅潮し、噛み締めた歯の間から微かな悲鳴が漏れた。
それでも嫌がる素振りは見せない。やがて喘ぐような吐息を何度も漏らしながら、ゆっくりと尻を下してしゃがみこんだ。
肩に置かれた手が、グレウスのシャツをきつく握りしめている。僅かに尻を浮かせたまま動きを止めて、浅い息を吐くオルガの腰を、グレウスは両手で支えた。
磁器のような肌に汗が滲み、首筋や頬に髪を貼りつかせた様が色めかしい。目眩がするほど妖艶だ。
「好きです、オルガ……貴方が欲しくて堪らない……」
今すぐ突き上げたいのを必死で我慢して、グレウスは目の前の髪の一房に口づけする。
謁見の間で初めて顔を合わせた時には、まさか自分がこんな盲目的な恋に落ちるとは思いもしなかった。
無能者の皇子、呪われた皇弟、黒の魔王――。
悪し様にオルガを呼ぶ名は幾つもある。オルガ自身が決して純粋無垢な聖人ではないことも知っている。
だがグレウスの腕の中に居るときのオルガは、美しくて愛らしい最高の伴侶だった。
体格に優れている分、グレウスの男の部分も相応の大きさだ。挿入の初めはいつも苦しそうにしているが、オルガがそれをできるだけ面に出さないようにしていることもわかっている。
普段の居丈高な様子からは思いもかけないほど、この年上の伴侶は健気な一面も持っているのだ。
「オルガ……愛しています……」
少しでも苦しみが早く和らぐようにと、グレウスは頬に口づけした。白いこめかみにも――それから、髪に隠された耳朶にも。
「あ……っ」
オルガの顔が逃げるように仰け反った。
白い肌にパッと薔薇のような赤みが散り、赤い瞳が潤みを帯びて、グレウスを責めるように睨んできた。
グレウスを呑み込んだ媚肉が、誘うように蠕動する。
「動いてもいいですか……」
「……いい……」
顔を遠ざけて悔しそうな表情を見せながら、オルガは許しを出した。
グレウスは口づけを乞い、しぶしぶ顔を寄せてきたオルガの唇を吸ってから、椅子の上で体を揺らし始める。
初めは緩く小刻みに。
そこから徐々に動きを大きくして、オルガがこの頃覚えたばかりの弱みを突いてやる。
「あ!……ぁ、そこ、は…………あっ……ぁ、アッ、アッ……!」
鋭い美貌が快楽に蕩けた。
シャツを握っていた両手がグレウスの首にしがみついてくる。
「ここが、いいですか……?」
「ああぁ……い、いい………………ッ、気持ち、いい……」
グレウスの動きに合わせて、オルガの腰も獣のように揺れ始めた。
時折グレウスの唇を求めながら甘えるようにしがみついて、艶やかな声を惜しみもせずに解き放つ。
長い黒髪が乱れ、雪のような肌が淡く染まった。
美しくも高貴な魔王が、グレウスの体の上で淫婦へと変わっていく。
「好きです……オルガ……ッ……」
終わりが近づき、下から突き上げる動きを激しくしながら、グレウスは想いを伝えた。
初めは政略結婚だった。不吉な噂を持つ皇弟を娶るなど、荷が重すぎると思っていた。
だが今は、伴侶となったオルガが愛しくてならない。
ともに過ごせる一日一日がまるで夢のようで、こんな幸せがあっていいのかと思うほどだ。
「あ、ぁ……オルガ……出る、ッ……中に、出します……!」
愛する相手を抱き寄せて、グレウスはその体内奥深くに精を放った。昨夜も今朝も枕を交わしたとは思えぬほど、大量の精が迸り出る。
「あ――……あ、あぁ――……ッ……」
黒を纏った麗人が、目に鮮やかな白磁の肌を見せつけて、腕の中でしなやかに体を仰け反らせた。
グレウスを包み込む媚肉が精を搾り取るようにキュンと締まった。白い喉からは歓喜の叫びがあがり、表情は恍惚と蕩けていく。
ビクビクと断続的に震える体が、オルガもまた快楽の頂点を極めたことを知らせてきた。
「……ああぁ……グレウス、いい…………」
終わりを迎えたオルガが、荒い息を吐いてグレウスの腕に身を委ねてくる。
なんのためらいもなく、安堵しきった様子で。
汗ばんだ体を両腕に抱き留めながら、グレウスは複雑な思いを押し隠す。
このひと月あまり、グレウスは毎夜オルガを腕に抱いた。
初めは近寄りがたく思えたオルガだが、意外なことにグレウスを拒むことは一度もなかった。
寝室の中だけではなく、在宅中にはほとんどの時間を同じ部屋で過ごしている。
食事もそうだ。貴族の屋敷では食事を別々に摂ることも珍しくないらしいが、オルガは違った。朝は起きてこられないことも多いが、夜の食事は必ずグレウスと一緒に食卓についてくれる。
寝室に入れば、オルガはかなり積極的だ。グレウスの名を呼び、何度も口づけを強請って身を寄せてくる。求めれば微笑み、肌を合わせれば悦びを隠そうともしない。
まるでグレウスが心に思い描いていたとおりの、仲睦まじい夫婦そのものの姿だった。
オルガは何の屈託もなく、グレウスを受け入れてくれているように見える。
――そのせいで不安になるのだ。
自分が愛を囁くたびに、かえってオルガの心を傷つけ、惨めな思いにさせているのではないだろうかと。
かつて、次期皇帝の座は確実とまで言われたオルガだ。魔力も身分も失って、冴えない男の妻になったことは耐えがたい屈辱に違いない。
しかしオルガは、不遇を嘆く様子をグレウスの前では一切見せない。
嫌々嫁いできたのだとは思えないほど、完璧な『妻』を演じてくれている。
その代わり、どれほどグレウスが想いを伝えても、決して『私もお前が好きだ』とは言ってくれないのだ。
夕食の時間を過ぎても、マートンは書斎に現れなかった。
品のいい老執事が扉を叩いたのは、事を終えた二人がようやく衣服を整え始めた頃だった。頃合いを見透かされていたような気もしたが、グレウスは深く考えないことにした。
食堂へと向かう前に、ディルタスから託された書簡はオルガの手に渡っている。
皇帝の様子では重要な手紙かと思われたが、一読したオルガは眉一つ動かさず、何の興味もなさそうに引き出しの中に放り投げた。
――半月後。
この書簡の正体は、グレウスの想像をはるかに超えた形で明らかになった。
オルガはそれを笑いながら冷たい指先で裏筋を辿り、揶揄うようにカリの部分を擽る。
そうしながら、椅子に座ったグレウスの上を向かい合わせに跨って、肩に置いた手を支えに膝立ちになった。
赤い瞳で挑むように見下ろしてくるのは、触れてもいいという印だ。グレウスはオルガの膝のあたりから裾を割って、ローブの中に手を入れる。
オルガが黒いローブの下に纏うのは、シャツとズボンの時もあれば、腰にベルトを締めた長衣の時もある。今日は後者だった。
柔らかな生地を裾からたくし上げ、ひやりとしたオルガの肌に触れる。すらりとした腿は滑らかで、形の良い筋肉をつけている。
グレウスはその感触を楽しみながら、太腿の裏側に手を這わせて上へと遡っていった。
「あ……」
指が際どい辺りに辿り着くころには、ローブに隠されたオルガの牡も欲情の滾りを主張していた。グレウスがそれを撫でると、オルガの腰が淫靡に揺れる。
引き締まった小振りな尻と、その狭間にある小さな窄まり。ヒクヒクと上下に跳ねる雄の部分を愛撫していると、オルガが息を乱しながら手を差し出した。
「……これを」
どこから取り出したのか、ほんのりと目元を染めたオルガの手には、小さな香油の瓶が乗っていた。
グレウスは片手を裾から出して、掌にとろりとした潤滑剤を受け止める。熟れた果実のような甘い芳香が書斎に広がり、夜を待てずに情交するのだという興奮を煽った。
香油が指に纏わりついて温まるのを待って、グレウスはその手を再びローブの中へと差し込む。
「あぁ……」
窄まりに触れると、悩ましい溜息がオルガの口から漏れた。唇は薄く開き、眉は切なく寄せられる。
その表情を見守りながら、グレウスは温かな肉の壺へと指を埋めていった。
挙式から一か月余り。
グレウスが女の肌を知らなかったように、オルガもまた高貴な身分ゆえに人肌の温もりは知らなかったらしい。
初めの数日は苦痛を堪える様子も見せていたが、体を重ねるうちに、オルガはすぐにグレウスとの交合に馴染んでいった。体の奥に熱い迸りを受けることを好み、時には自分から誘ってくることもある。
指の動きに合わせて、引き締まった腰がビクリと震えた。
「辛くありませんか?」
苦痛と快楽の表情は根底でよく似ていて、グレウスには区別がつきがたい。
昨夜も深く愛し合い、今朝もこの体の中に精を放ち、そして夕暮れ時の今だ。グレウスは構わなくても、受け止めるオルガの負担は大きいのではないか。
心配になって尋ねると、潤みを帯びた目がグレウスを睨んだ。
「このまま生殺しで焦らすつもりか。そのような真似をしてみろ。明日の朝日を拝めぬようにしてくれる」
朝焼けの色の瞳がグレウスを射貫く。
迷信深い貴族たちならば、黒の魔王に呪いを掛けられたと恐れおののくのかもしれない。だが、グレウスは怒気を露わにしているときのオルガの顔が好きだ。
冴え冴えと冷たい美貌に血の気を昇らせて、まるで鋭い剣の切っ先のような煌めきに心が躍る。美しくて少し禍々しいその顔は、グレウスの本能を刺激して、全身の神経を逆立てるのだ。
なけなしの自制心が霧散していく。
「あっ」
グレウスは腰の位置を合わせ、脚を開かせたオルガの体をその上に引き下ろした。
「あ、ッ――……ッ!」
苦しげに眉を寄せ、緩やかに煩悶しながらも、麗しの黒の魔王はグレウスの手に逆らわない。されるがままに体の力を抜き、太い剛直を尻の中に呑み込んでいく。
白かった頬が紅潮し、噛み締めた歯の間から微かな悲鳴が漏れた。
それでも嫌がる素振りは見せない。やがて喘ぐような吐息を何度も漏らしながら、ゆっくりと尻を下してしゃがみこんだ。
肩に置かれた手が、グレウスのシャツをきつく握りしめている。僅かに尻を浮かせたまま動きを止めて、浅い息を吐くオルガの腰を、グレウスは両手で支えた。
磁器のような肌に汗が滲み、首筋や頬に髪を貼りつかせた様が色めかしい。目眩がするほど妖艶だ。
「好きです、オルガ……貴方が欲しくて堪らない……」
今すぐ突き上げたいのを必死で我慢して、グレウスは目の前の髪の一房に口づけする。
謁見の間で初めて顔を合わせた時には、まさか自分がこんな盲目的な恋に落ちるとは思いもしなかった。
無能者の皇子、呪われた皇弟、黒の魔王――。
悪し様にオルガを呼ぶ名は幾つもある。オルガ自身が決して純粋無垢な聖人ではないことも知っている。
だがグレウスの腕の中に居るときのオルガは、美しくて愛らしい最高の伴侶だった。
体格に優れている分、グレウスの男の部分も相応の大きさだ。挿入の初めはいつも苦しそうにしているが、オルガがそれをできるだけ面に出さないようにしていることもわかっている。
普段の居丈高な様子からは思いもかけないほど、この年上の伴侶は健気な一面も持っているのだ。
「オルガ……愛しています……」
少しでも苦しみが早く和らぐようにと、グレウスは頬に口づけした。白いこめかみにも――それから、髪に隠された耳朶にも。
「あ……っ」
オルガの顔が逃げるように仰け反った。
白い肌にパッと薔薇のような赤みが散り、赤い瞳が潤みを帯びて、グレウスを責めるように睨んできた。
グレウスを呑み込んだ媚肉が、誘うように蠕動する。
「動いてもいいですか……」
「……いい……」
顔を遠ざけて悔しそうな表情を見せながら、オルガは許しを出した。
グレウスは口づけを乞い、しぶしぶ顔を寄せてきたオルガの唇を吸ってから、椅子の上で体を揺らし始める。
初めは緩く小刻みに。
そこから徐々に動きを大きくして、オルガがこの頃覚えたばかりの弱みを突いてやる。
「あ!……ぁ、そこ、は…………あっ……ぁ、アッ、アッ……!」
鋭い美貌が快楽に蕩けた。
シャツを握っていた両手がグレウスの首にしがみついてくる。
「ここが、いいですか……?」
「ああぁ……い、いい………………ッ、気持ち、いい……」
グレウスの動きに合わせて、オルガの腰も獣のように揺れ始めた。
時折グレウスの唇を求めながら甘えるようにしがみついて、艶やかな声を惜しみもせずに解き放つ。
長い黒髪が乱れ、雪のような肌が淡く染まった。
美しくも高貴な魔王が、グレウスの体の上で淫婦へと変わっていく。
「好きです……オルガ……ッ……」
終わりが近づき、下から突き上げる動きを激しくしながら、グレウスは想いを伝えた。
初めは政略結婚だった。不吉な噂を持つ皇弟を娶るなど、荷が重すぎると思っていた。
だが今は、伴侶となったオルガが愛しくてならない。
ともに過ごせる一日一日がまるで夢のようで、こんな幸せがあっていいのかと思うほどだ。
「あ、ぁ……オルガ……出る、ッ……中に、出します……!」
愛する相手を抱き寄せて、グレウスはその体内奥深くに精を放った。昨夜も今朝も枕を交わしたとは思えぬほど、大量の精が迸り出る。
「あ――……あ、あぁ――……ッ……」
黒を纏った麗人が、目に鮮やかな白磁の肌を見せつけて、腕の中でしなやかに体を仰け反らせた。
グレウスを包み込む媚肉が精を搾り取るようにキュンと締まった。白い喉からは歓喜の叫びがあがり、表情は恍惚と蕩けていく。
ビクビクと断続的に震える体が、オルガもまた快楽の頂点を極めたことを知らせてきた。
「……ああぁ……グレウス、いい…………」
終わりを迎えたオルガが、荒い息を吐いてグレウスの腕に身を委ねてくる。
なんのためらいもなく、安堵しきった様子で。
汗ばんだ体を両腕に抱き留めながら、グレウスは複雑な思いを押し隠す。
このひと月あまり、グレウスは毎夜オルガを腕に抱いた。
初めは近寄りがたく思えたオルガだが、意外なことにグレウスを拒むことは一度もなかった。
寝室の中だけではなく、在宅中にはほとんどの時間を同じ部屋で過ごしている。
食事もそうだ。貴族の屋敷では食事を別々に摂ることも珍しくないらしいが、オルガは違った。朝は起きてこられないことも多いが、夜の食事は必ずグレウスと一緒に食卓についてくれる。
寝室に入れば、オルガはかなり積極的だ。グレウスの名を呼び、何度も口づけを強請って身を寄せてくる。求めれば微笑み、肌を合わせれば悦びを隠そうともしない。
まるでグレウスが心に思い描いていたとおりの、仲睦まじい夫婦そのものの姿だった。
オルガは何の屈託もなく、グレウスを受け入れてくれているように見える。
――そのせいで不安になるのだ。
自分が愛を囁くたびに、かえってオルガの心を傷つけ、惨めな思いにさせているのではないだろうかと。
かつて、次期皇帝の座は確実とまで言われたオルガだ。魔力も身分も失って、冴えない男の妻になったことは耐えがたい屈辱に違いない。
しかしオルガは、不遇を嘆く様子をグレウスの前では一切見せない。
嫌々嫁いできたのだとは思えないほど、完璧な『妻』を演じてくれている。
その代わり、どれほどグレウスが想いを伝えても、決して『私もお前が好きだ』とは言ってくれないのだ。
夕食の時間を過ぎても、マートンは書斎に現れなかった。
品のいい老執事が扉を叩いたのは、事を終えた二人がようやく衣服を整え始めた頃だった。頃合いを見透かされていたような気もしたが、グレウスは深く考えないことにした。
食堂へと向かう前に、ディルタスから託された書簡はオルガの手に渡っている。
皇帝の様子では重要な手紙かと思われたが、一読したオルガは眉一つ動かさず、何の興味もなさそうに引き出しの中に放り投げた。
――半月後。
この書簡の正体は、グレウスの想像をはるかに超えた形で明らかになった。
51
あなたにおすすめの小説
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】
蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。
けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。
そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。
自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。
2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。
置き去りにされたら、真実の愛が待っていました
夜乃すてら
BL
トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。
というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。
王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。
一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。
新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。
まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。
そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?
若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?
婚約破棄された俺の農業異世界生活
深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」
冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生!
庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。
そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。
皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。
(ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中)
(第四回fujossy小説大賞エントリー中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる