勇者一行が魔王の財宝に目が眩んだ結果

雨模 様

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追憶

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 わたしは辺境の貧しい村に生まれた。
 幼いころから一度たりとも人に優しくされた記憶がない。
 わたしの周りでは時々変わった現象が起こった。
 家が揺れたり、突然火がついたり、水桶から水が溢れたり、棚から物が落ちたり、人が怪我をしたり……、それは決まってわたしが泣いたり驚いたり恐怖した時に起こった。
 それらはすべてわたしのせいだと言われた。
 わたしが無意識で魔法を暴走――【魔力暴発】させているのだと。

 村人が言うには、わたしは呪われてるらしい。
 だからわたしは村人みんなに嫌われて恐れられた。
 わたしは建物を壊し、人を傷つけ、時に火を熾し、村を混乱させていた。
 そんなことが何度も続き、そのうち誰もわたしに近づかなくなった。
 親ですらわたしを白眼視するようになった。
 そんな呪いの力は年齢を重ねるごとに強く大きくなっていった。
 
 そして五歳になったある日、わたしは山を幾つか越えた深い森に捨てられた。

 帰る村も家も失ったわたしには行く当てなど無かった。
 食べ物もなく水もなく、ただわたしは山――森林を彷徨った。
 山には人を襲う獣――オオカミがいた。
 耳まで裂けた大きな口には鋭く尖った無数の牙が見える。
 口から異臭を放つ粘液がダラリと垂れている。
 わたしは必至で山の中を逃げた。
 だけど四肢で走る獣たちの足はわたしの貧弱な足より速い。
 獣はわたしに追いつくとその牙と爪を振るった。
 わたしは身体に深い傷を負わされ地面を転がった。
 だけどオオカミはそれ以上わたしを襲ってこなかった。
 二匹のオオカミが赤い血で染まり無残な死骸と化している。
 四肢が千切れ眼球が飛び出し裂けた腹から臓物をさらけ出している。
 わたしが無意識に【魔力暴発】を起こした結果だ。
 オオカミは他にも数匹いたが怯えたように逃げ去っていた。

 深手だと思った傷は少し休めば血が止まっていた。
 開いた傷口は塞がり翌日には傷跡も綺麗に治っていた。
 幼いころからそうだが、わたしは怪我をしても治るのが異常に早い。
 それも呪いのせいらしい。
 わたしは無意識下で魔法を使っていたらしいが、自分ではどうしようもなかった。

 森を彷徨っているとお腹が空いて喉も乾いた。
 水分は湧き水や朝露を飲んで凌いだ。
 空腹はそこいらに生えている野草や木の実や木の根を口にした。
 苦いだけの野草や固くて噛み千切れない木の根、そして毒々しい色のキノコも食べた。
 時にはお腹を壊し嘔吐を繰り返し、死にそうになったこともある。
 殺した獣の肉を食べたいと思うこともあった。
 だけどさすがに死んだ獣の生肉を食べるのは気味悪く怖かった。
 せめて火を熾せれば焼いて食べれたかもしれない。
 だけどわたしは自分の意志で魔法を使うことが出来ない。
 小さな火すら熾すことも出来なかった。
 そして思ったことは『山から降りたい』『人里に行きたい』だった。
 わたしが暮らしていた村は王国の西にあって、ずっと東には王都と呼ばれる大きな街があることは何度か耳にしていた。
 だからわたしは山を越え谷を越え東へ東へと歩いた。
 そして何日も歩き辿り着いたのは高い石の壁に囲まれた大きな街だった。

 そこは大勢の人や物で溢れかえっていた。
 たくさんのお店や見上げる様な大きな教会もあった。
 わたしはお腹が空いていた。
 だけど薄汚いわたしに誰も手を差し伸べてくれなかった。
 汚いからどこかに行けと言われた。
 臭いから近寄るんじゃないと言われた。

 孤児であるわたしは泥水を啜って生きるしかなかった。
 ひもじさから泥棒や乞食こじきの真似事をしたりゴミをあさる毎日だった。
 食べ物を挙げるとだまされてさらわれた事もあった。
 逃げ出すために屋敷を壊したこともある。
 捕まり、売られて、悪戯されて、その相手が死んだこともある。
 わたしを捕えようとした役人を吹き飛ばしたこともある。
 何人も大怪我をしたはずだ。
 死んだ人の数は片手に余るだろう。

 わたしは暗い下水道で膝を抱えて毎日泣いていた。
 生きていくのが嫌になった。
 死にたいと何度も思った。
 わたしはなんでこうなったのか考えてみた。

 みんながわたしを嫌うから?
 誰かがわたしに石を投げるから?
 両親がわたしを捨てたから?
 知らない誰かがわたしをだますから?
 汚い大人がわたしをもてあそぶから?
 大勢で寄ってたかってわたしを捕まえようとするから?
 全部、他人のせいだ。
 結論、わたしはなにも悪くない。

 これまでわたしにとって他人は怖い存在だった。
 でも、それが憎い存在に変わった。
 死ぬのが馬鹿らしくなった。
 死のうと思ったことに腹が立ってきた。
 わたしは生きてやろうと思った。
 生きて見返してやろうと思った。

 だけど、生きていくためには食べなくちゃいけない。
 見返してやるには強くならないといけない。
 わたしは魔法を覚えたいと思った。だけどその方法が全然分からない。
 だから街で有名な魔法使いに教えてとお願いした。
 だけど何度も拒まれた。
「しつこい」と怒鳴られ「もう来るな」と追い返された。
 それでもしつこく毎日お願いしたら、その魔法使いは「手を出せ」と言った。
 わたしが恐る恐る手をだすと、その手を握って「これが魔力だ」と言った。
 握られた手は、じわぁーと不思議な力に包まれているような感じだった。
 魔法使いは「これを自分で感じられるようになれば魔法を使えるようになるだろう」と言った。
 それからのわたしは下水道にこもり魔力を感じる練習をした。
 あの時の手に感じた不思議な力を思い出して魔力を集める訓練をした。
 そして小さいけれど火を操る魔法を使えるようになった。
  
 わたしは食べる為、生きる為に冒険者になった。
 魔法使いだと言えば色々なパーティーがわたしを迎えてくれた。
 でも仲間という関係は長くは続かなかった。
 それはやっぱりわたしの異常な魔力のせいだ。

 わたしは魔力を安定させることが苦手だった。
 怖かったり驚いたりすると【魔力暴発】を引き起こした。
 それで何度も仲間を危険に晒した。
 わたしはパーティーを何度も首になった。

 そしてわたしは考えを改め始めた。
 嫌われ、恐れられ、虐められ、石を投げられ、唾を吐きかけられるのは、本当はわたしの異常な魔力のせいだと気が付いた。
 だからパーティーに入るのを止めた。
 一人で生きていくことにした。
 それで死んだらそれまでだと思った。

 そしてわたしはダンジョンに一人で潜った。
 深いダンジョンは下に行けば行くほど、モンスターは強くなる。
 わたしは一人で行けるとこまで行ってやろうと思った。
 そして深層とよばれる地下二十階で本当に死にそうになった。
 魔獣は普通の獣と違って恐怖に鈍感だ。
 だからいくら仲間が無残な死に方をしても逃げ出さない。
 魔獣の群れに囲まれて絶体絶命のピンチに陥った。
 そして完全に諦めた時だった。

 三人組のパーティーがわたしの前に現れた。
 黒髪の美男子と白髪白髭の老人と金髪碧眼の美少女。
 彼等三人がわたしを囲み魔獣から守ってくれた。
 巧みな連携と卓越した技量で彼らはあっという間に魔獣を殲滅した。
 なのに、わたしはそんな時ですら【魔力暴発】を起こしてしまった。

 それなのに、それなのに……、彼らはわたしの【魔力暴発】を笑った。
 笑いながらわたしの【魔力暴発】を弾き、笑いながら受け止め、笑いながら無効化した。
 わたしの【魔力暴発】を面白いと、手を取って、肩を抱いて、頭をくしゃくしゃに撫でてくれた。

 美男子の名はアベル。彼はわたしの【魔力暴発】を剣で弾き返した。
 魔法を剣で弾き返せるなんて聞いたことがない。剣聖か、はたまた変態か。

 美少女の名はユリス。彼女はわたしの【魔力暴発】を片手で受け止めた。
 その力はまぎれもなく聖女。ちょっと頭がアレだけど。

 そしてわたしの【魔力暴発】を未然に無効化したのはメルキールと名乗った白髪の老人。
 ただその方法は、魔力を具現化させた無数の触手で、わたしの身体を舐める様に触るという、猥褻わいせつ行為が問題だったけれど……。

 彼らは他のパーティーとは違った。
 彼らはこんなわたしでも必要としてくれた。
 このパーティーだけがわたしを見捨てなかった。

 彼らは誰もわたしを恐れなかった。
 誰もわたしを嫌わなかった。
 わたしを優しく受け入れてくれた。
 わたしにいつも笑って話してくれた。

 そしてメルキールとユリスがわたしに新たな魔力の扱いを教えてくれた。
 魔力を外に出すのではなく、内に抑える方法だ。
 その結果、わたしは内攻的な魔力の扱いが向いているとわかった。
 おかげで魔力の制御が得意になり【魔力暴発】は完全になくなった。
 そして付与魔法を教わった。

 その成長にはメルキールも目を剥き、彼を凌ぐようになっていった。
 そんな仲間との冒険は楽しかった。
 毎日がバラ色の様に輝いていた。
 そして彼らとパーティーを組んで数年が過ぎた。
 そんなある日、
 魔王討伐という特別依頼――特命ミッションが発生した。


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