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5 MI作戦
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しかし、この翌日の四月六日、インド洋で発生した第一航空艦隊とイギリス東洋艦隊との戦闘が、海軍の作戦計画のすべてを狂わせてしまった。
セイロン沖海戦と呼ばれる一連の海戦は、英戦艦ウォースパイト、空母インドミタブル、フォーミダブル、ハーミス、重巡コーンウォール、ドーセットシャー、駆逐艦・輸送船多数撃沈という大戦果を挙げたものの、セイロン島を発進したブレニム爆撃機によって空母赤城、翔鶴が被弾するという損害をこうむってしまったのである。
幸い、飛行甲板が破壊されて航空機の発着が不能となる程度の損害で船体に重大な損傷を受けたわけではなく、無事に両艦は四月二十二日、内地へと帰還した。しかし、その修理に二ヶ月はかかるという見通しが立てられたことは、海軍に以後の作戦の日程を改めさせるのに十分なものであった。
さらに第一航空艦隊の内地帰還直前の四月十八日に発生したドーリットル空襲が、海軍全体に哨戒線を大きく東方に広げる必要性を痛感させる事態となったことも、赤城、翔鶴の被弾と合せて海軍が作戦全般の見直しを行う契機となった。
それまでミッドウェー作戦に懐疑的であった軍令部も、ドーリットル空襲によって作戦の実施に積極的になったのである。
問題は、この時、一航艦の使用出来る空母が加賀、蒼龍、飛龍、瑞鶴の四隻に減じてしまったことであった。
ポートモレスビー攻略「MO作戦」に際して、加賀、蒼龍、飛龍を参加させる予定であったが、ここでもしさらに空母が損傷すれば、以後の作戦はすべて実施が不可能となってしまう。
そうした不安に駆られた軍令部と連合艦隊司令部は、第二段作戦の重点をミッドウェー攻略に移していたこともあり、MO作戦とそれに付属するナウル・オーシャン攻略作戦の延期を決定。ミッドウェー作戦の実施を最優先とした。
ミッドウェー攻略作戦と同時に予定されていたアリューシャン攻略作戦「AL作戦」についても、米空母部隊とミッドウェーの基地航空隊を同時に対処するには一航艦単独では不足と考えられたことから、これは中止と決定された。
セイロン沖海戦で英艦隊との戦闘中に基地航空隊の襲撃を受けた経験が、軍令部や連合艦隊司令部ではよほど不安材料となっていたようである。
さらに、ミッドウェー作戦自体が一ヶ月繰り下げとなった。
四月末段階における海軍の情勢判断では、米海軍の使用可能な空母サラトガ、エンタープライズ、ホーネット、ワスプの四隻と見積もられていた。レキシントンについては二月時点において一度は撃沈されたと認定されていたが、この頃になると米西海岸で修理中であるとの判断がなされるようになっていた(実際にはサラトガが修理中でワスプは大西洋。この他に太平洋にはヨークタウンが存在)。
このため、第一航空艦隊は六隻が揃った万全の状態での出撃が必要であると判断され、当初、二ヶ月と判断された赤城と翔鶴の修理は一ヶ月以内に完了させるよう通達が出された。
そして上陸日の月齢の関係から、当初の六月七日上陸予定を七月七日に繰り下げたのである。
アリューシャン方面の作戦を実施しないことになったため、当該海域でこの時期発生しやすくなる霧についても考慮する必要がなくなった。だからこそ、六月の攻略予定日の一ヶ月繰り下げという決断が出来たのである。
もちろん、この一ヶ月の遅延により真珠湾で壊滅したアメリカ艦隊に再建の時間的余裕を与えてしまうことも、軍令部も連合艦隊司令部も理解していた。だからこそ、作戦は一ヶ月だけの繰り下げとし、赤城と翔鶴の修理を急がせるように命じたのである。
そして、この作戦予定日の一ヶ月繰り下げは、艦隊側には歓迎を以て受入れられた。
開戦以来すでに半年あまり。その間、各艦は常に作戦行動に従事しており、乗員の休養と艦の整備が必要な時期に差し掛かっていたのである。
さらに第一段作戦の終了と共に海軍内部で人事異動が行われ、赤城や翔鶴、瑞鶴などでは艦長が交代、飛行隊長など母艦搭乗員も一部が交代していた。
こうした事情から艦隊側では整備と訓練に一定の期間が必要であると連合艦隊司令部にたびたび上申していたので、この作戦期日の一ヶ月繰り下げは好意的に受け止められたわけである。
セイロン沖海戦と呼ばれる一連の海戦は、英戦艦ウォースパイト、空母インドミタブル、フォーミダブル、ハーミス、重巡コーンウォール、ドーセットシャー、駆逐艦・輸送船多数撃沈という大戦果を挙げたものの、セイロン島を発進したブレニム爆撃機によって空母赤城、翔鶴が被弾するという損害をこうむってしまったのである。
幸い、飛行甲板が破壊されて航空機の発着が不能となる程度の損害で船体に重大な損傷を受けたわけではなく、無事に両艦は四月二十二日、内地へと帰還した。しかし、その修理に二ヶ月はかかるという見通しが立てられたことは、海軍に以後の作戦の日程を改めさせるのに十分なものであった。
さらに第一航空艦隊の内地帰還直前の四月十八日に発生したドーリットル空襲が、海軍全体に哨戒線を大きく東方に広げる必要性を痛感させる事態となったことも、赤城、翔鶴の被弾と合せて海軍が作戦全般の見直しを行う契機となった。
それまでミッドウェー作戦に懐疑的であった軍令部も、ドーリットル空襲によって作戦の実施に積極的になったのである。
問題は、この時、一航艦の使用出来る空母が加賀、蒼龍、飛龍、瑞鶴の四隻に減じてしまったことであった。
ポートモレスビー攻略「MO作戦」に際して、加賀、蒼龍、飛龍を参加させる予定であったが、ここでもしさらに空母が損傷すれば、以後の作戦はすべて実施が不可能となってしまう。
そうした不安に駆られた軍令部と連合艦隊司令部は、第二段作戦の重点をミッドウェー攻略に移していたこともあり、MO作戦とそれに付属するナウル・オーシャン攻略作戦の延期を決定。ミッドウェー作戦の実施を最優先とした。
ミッドウェー攻略作戦と同時に予定されていたアリューシャン攻略作戦「AL作戦」についても、米空母部隊とミッドウェーの基地航空隊を同時に対処するには一航艦単独では不足と考えられたことから、これは中止と決定された。
セイロン沖海戦で英艦隊との戦闘中に基地航空隊の襲撃を受けた経験が、軍令部や連合艦隊司令部ではよほど不安材料となっていたようである。
さらに、ミッドウェー作戦自体が一ヶ月繰り下げとなった。
四月末段階における海軍の情勢判断では、米海軍の使用可能な空母サラトガ、エンタープライズ、ホーネット、ワスプの四隻と見積もられていた。レキシントンについては二月時点において一度は撃沈されたと認定されていたが、この頃になると米西海岸で修理中であるとの判断がなされるようになっていた(実際にはサラトガが修理中でワスプは大西洋。この他に太平洋にはヨークタウンが存在)。
このため、第一航空艦隊は六隻が揃った万全の状態での出撃が必要であると判断され、当初、二ヶ月と判断された赤城と翔鶴の修理は一ヶ月以内に完了させるよう通達が出された。
そして上陸日の月齢の関係から、当初の六月七日上陸予定を七月七日に繰り下げたのである。
アリューシャン方面の作戦を実施しないことになったため、当該海域でこの時期発生しやすくなる霧についても考慮する必要がなくなった。だからこそ、六月の攻略予定日の一ヶ月繰り下げという決断が出来たのである。
もちろん、この一ヶ月の遅延により真珠湾で壊滅したアメリカ艦隊に再建の時間的余裕を与えてしまうことも、軍令部も連合艦隊司令部も理解していた。だからこそ、作戦は一ヶ月だけの繰り下げとし、赤城と翔鶴の修理を急がせるように命じたのである。
そして、この作戦予定日の一ヶ月繰り下げは、艦隊側には歓迎を以て受入れられた。
開戦以来すでに半年あまり。その間、各艦は常に作戦行動に従事しており、乗員の休養と艦の整備が必要な時期に差し掛かっていたのである。
さらに第一段作戦の終了と共に海軍内部で人事異動が行われ、赤城や翔鶴、瑞鶴などでは艦長が交代、飛行隊長など母艦搭乗員も一部が交代していた。
こうした事情から艦隊側では整備と訓練に一定の期間が必要であると連合艦隊司令部にたびたび上申していたので、この作戦期日の一ヶ月繰り下げは好意的に受け止められたわけである。
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