ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

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第1唱 変転する世界とラピスの日常

運命を変えた決断

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 怪我をした幼竜がいることを竜の歌で知り、すっ飛んできたはいいけれど……どう対処すべきなのかがわからない。
 ちょっと途方に暮れかけたところで、ラピスは先ほどの竜の歌を思い出した。
 竜の歌にはいつも、ちゃんと意味がある。

「水とか橡とか歌ってた。ということは、それが治療に必要なのかも?」

 そういえば歌に挙がっていたものはすべて、今時期の森で手に入るものばかりだ。宿木も竜が落としていってくれたから、高所まで登らずに済む。
 ラピスはとりあえず上着で竜をくるみ、「ここで待っててね」と枯れ葉の山におろしたものの、「ギャーッ!」とまたも凄い声で鳴かれて、あわてて抱き上げた。

「寂しいの?」

 その気持ちは、痛いほどわかる。
 やはり一緒に移動するのがいいだろう。
 気合いを入れて幼竜を抱え直し、歌が示した物を探し出した。

 まずは川辺へ。『清流の水』は、これでいいはず。
 だが柄杓も器もないから汲むことができない。

「どうすればいいかな」

 呟くと、幼竜が急にじたばた動き出し、ぼとっと腕から川原に落ちた。

「わあっ、大丈夫!?」

 急いで手を伸ばしたけれど、小さな竜はよたよたと川縁に進み、川から直接水を飲み始めた。べちゃべちゃと、元気に舌を動かす音がする。

「それでいい……の?」

 ?を頭に貼りつけたまま、続いて橡、白樺、七竈、とそれぞれの木へと向かった。馴染みの森だからどの木もすぐに見つかり、結果としてそれで正解だったらしい。
 枯れ落ちた枝や実を拾って差し出すと、幼竜はそれらを気が済むまで貪り、すべて食べ終える頃には、かなり元気を取り戻していた。仕上げに水浴びをするほどに。

「怪我してるのに、しみないの?」

 問いかけながら、まあるくなったお腹を見たラピスは、ぷふっと笑ってしまう。
 幼いといえど竜。この調子なら、治癒は自力でどうにかできるだろう。
 ラピスはもう一度上着で幼竜をつつみ、元いた場所に近い木のうろに入れてやった。

「明日また様子を見に来るよ。その前に、親か仲間が迎えに来てくれるといいね」

 そうして家に戻ろうとしたのだが。
 背を向けた途端、またもけたたましく鳴かれて、ぴょんと躰が跳ね上がった。

「静かにしてぇ! 街まで聞こえたら、人が来ちゃうよ」

 耳を塞いで訴えても、幼竜はギャーギャーと必死で主張してくる。
 試しに抱き上げるとぴたりと止むが、おろすとまた鳴くのだ。

「寂しいのはわかるけど……」

 竜を抱っこしたまま、困り果てた。

 実はラピスは、生前の母と、竜についていくつか約束をしている。

 母ルビアが体調の良いときは、たびたび一緒に森を訪れた。
 そしてその際も、よく竜と遭遇した。
 母は本当に上手に竜の歌を聴く人だった。ラピスにはまだ難しかった歌の意味も、ちゃんとわかっていた。
 けれど…… 

『竜に会ったことも、歌を聴いたことも、誰にも言ってはだめ。二人だけの秘密よ』

 そう、固く約束させらせれていたのだ。
 それが『竜とラピス自身のため』なのだと。

『あなたがもっと大きくなって、本当の本当に、心から信じられる人に出会ったら。そのときは打ち明けてもいいわ。母様がそのように、竜に頼んでおいてあげましょう。打ち明けるべきとき、打ち明けるべき人に、出会えるように』 

 その母の言葉には、子供ごころに、ちっちゃな疑問がいくつか浮かんだのだが……
 ラピスは突き詰めて考える性質たちではなかったものだから、母が言うならそうしよう、と素直に聞き入れた。

 大好きな母との約束を、破るつもりはない。
 けれどすでにずいぶん帰宅が遅れている。
 ほかにもあれこれ仕事を言いつけられているから、早く帰らないと継母たちからひどく怒られるだろう。 

「……仕方ない!」
 
 ラピスは幼竜を連れて帰ることに決めた。
 明日また森に来て、成竜が通ってくれることを祈ろう。そうしてもし逢えたら、この幼竜の面倒を見てもらえないか頼んでみよう。

 早速バスケットから茸を出して幼竜を入れ、上着をかぶせた上から茸をのせた。
 ずしっと重いが、薪運びで鍛えられているし、家まで運べないこともない。

「静かにして、誰にもばれないようにするんだよ。絶対だよ」

 理解したのかしてないのか、幼竜は「キュッ」と返してきた。
 思わずクスッと笑って、北風にクシャミをしてから、誰にも見つからず屋根裏部屋まで帰れますようにと祈る。

「うん、どうにかなるでしょ!」

 ……やはりラピスは、深く突き詰めて考えることはしないのだった。
 けれどこの決断が、彼の運命を大きく変えたのだ。
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