召し使い様の分際で

月齢

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第22章 ねちねち

とりあえず請求

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 この際なので悪徳代官になりきって、悪い笑顔で四家の人々を見回すと、みんなそろって襲われる寸前の村娘みたいな顔で僕を見た。
 頭の中で『よいではないか、よいではないか』と悪ノリしつつ、ここからはキリリと冷徹にと自分に言い聞かせる。

「では、『請求増額』について話を戻します。琅珠嬢と久利緒嬢がコーネルくんを碧雲町へと送り込み、ありもしない不正をでっち上げさせようとした行為は、威力業務妨害です。コーネルくんが肥溜めに落ちたために、療養施設代わりに使わせてもらう予定だった宿の主人に嫌がられ、危うく計画中止に追い込まれるところでした。
 おかげでほかのお客様への対応にも忙殺され、付随して僕の薬湯代が嵩みましたし、臨時雇いの従業員への賃金支払いも発生。さらに肥溜め臭の消臭作業と、」

「肥溜め肥溜めって、そいつが肥溜めに落ちたのは、わたくしたちと無関係でしょ!」

 久利緒嬢が叫び、コーネルくんも肩身が狭そうに身を縮めたが、僕は横に首を振った。

「あなたたちがこの純朴なコーネルくんを利用したりしなければ、コーネルくんはスリに遭って彷徨ったあげく肥溜めに落ちることもなかったのです。首謀者の罪はよりいっそう重い。そういうわけで諸々にかかった実費が六百万キューズ、慰謝料をとりあえず三百万キューズ上乗せして」

「とりあえずって何だ!」

 アルデンホフ氏に問われたが、それはこれからわかるだろうから、無視して続ける。

「ちなみにコーネルくんとはすでに和解が成立していますし、過失を補って余りあるほど協力してもらっていますので、彼を訴える気はまったくありません」

 苦笑したカイネルさんが、コーネルくんの額を小突いた。仲良し親子だね。
 癒しの父子の光景から、怒りのアルデンホフ父娘へと視線を移して僕は続けた。

「それと、この流れで最も重要なことが。僕の侍従の白銅くんが、コーネルくんの惨状に衝撃を受けたあまり、獣化してしまったのです。それほどに深い悲しみをおぼえたということです……!」

「え」

 目を丸くしたコーネルくんを、カイネルさんが肩でどついた。さすが大商人、的確に空気を読んでいる。
 より正確に言うなら、汚れを落とす前のコーネルくんが、青月に怯えて白銅くんに抱きついた拍子に獣化したのだけど。
 汚れて悪臭を放つコーネルくんに抱きつかれて衝撃を受けたという点で間違いではない。

「子供の獣化など、珍しくも何ともない! いちいち騒ぐほどのことか!」

 懲りずに怒鳴ったアルデンホフ氏に反応して、白銅くんが僕の懐からピョコッと顔を出した。中でモゾモゾしたから無造作ヘアになっている。可愛いったらありゃしない。
 僕は悲しみを込めてアルデンホフ氏を見た。

「なんて心無いことを仰るのです。こんなにも超絶愛らしい、いたいけな子猫ですよ? この子が悲鳴を上げるほどショックを受けたのに、責任を感じないのですか?」
『……アーネスト様ぁ……』

 白銅くんが、まん丸おめめをウルウルさせた。

『僕のことにゃんていいのです……アーネスト様こそ、お仕事増えて大変でした。僕、それがとっても心配でした……』
「白銅くん! なんて優しく思いやり深く可憐なぽわ毛くんなんだ!」

 きゅっと抱き合う子猫と僕。
 しかしアルデンホフ氏は、「ぽわ毛って何だ」と怪訝な表情をしている。
 
「とにかく、あなたたちのせいで、うちの侍従も孤児院の子供たちもえらい迷惑をこうむりました。子供に怖い思いをさせるとは何ごとですか」
「魔物と思わせたのは御形じゃないの!」

 久利緒嬢が悲鳴のような声を上げたが、僕はチチチと人差し指を振った。

「当然、彼にもしかるべき償いを受けてもらいます。しかしここで語っているのは首謀者責任です」

 話しながら白銅くんの頭を撫でて、それとなくお耳を塞いだ。

「子供たちの心的苦痛に対する見舞金として、五百万キューズほど寄付を納めていただければと」
「寄付だと!? なんでそれを貴様に命じられなきゃならな」
「まだ僕の話は続いてますよ~」

 アルデンホフ氏の声を遮ってにっこり笑うと、弓庭後侯の顔が歪んだ。
 僕はひとまずカップに残った薬湯を飲み干し、白銅くんを懐から出した。

「白銅くん。コーネルくんと一緒に、新しい薬湯を淹れてきてもらえる?」
『ミャッ! わかりました、アーネスト様!』

 いつも熱心に僕が薬湯を淹れるのを見ていた白銅くんは、初めて任された任務にオレンジ色の目を輝かせた。可憐だ。
 コーネルくんも心得た様子で駆け寄って来て、その頭に子猫が飛び乗ると、足早に部屋を出て行った。
 よし。この先は、醜い大人の争いになりそうだからね……白銅くんの綺麗な目にも耳にも入れたくない。

「では、続けます。令嬢方は碧雲町まで僕を迎えに来てくださった浬祥様に、僕への伝言を託されました。『王都に戻ってきたとき、両殿下の隣にいるのは誰かお楽しみに』『子供を授かったら、召し使いの僕を子守りに雇ってあげる』――そんな内容でしたが」

「なんだと!」
「誰だ、そんなこと言った奴は!」

 初耳の双子がいきり立った。
 伝言の主の繻子那嬢と壱香嬢がビクッと身を縮めたが、僕は「重要なのは」とまたチチチと指を振って二人を制した。

「ご令嬢方が、全裸祭りの目的のひとつとして、僕への意趣返しを狙った点です」
「「「全裸祭りなんてしてないってば!」」」

 おおお。琅珠嬢以外、みごとに声がそろった。

「そんな恥ずかしがらずとも……王族の離宮に忍び込んで全裸で暴れて、ハグマイヤーさんに怒られ、貫頭衣姿で帰路につくという大恥を晒したのですから、裸族であることくらい今さら」

「裸族でもない!」
「あなた、ほんとはものすごく根に持ってるわね!?」

 真っ赤になって睨んできた壱香嬢と繻子那嬢に、僕はこっくりうなずいた。

「当然です。双子殿下への害については、陛下がお沙汰を下すでしょう。なので僕は僕個人の要求を。僕への意趣返しが愛する人たちの命運を左右するかもしれないという危機感もまた、激しく僕の仕事の妨げとなりました。
 よってそれに対しても慰謝料おひとり百万キューズ、合計四百万キューズを上乗せして請求します」

「ぼ、ぼったくりもいいところよ!」
「その通りだ! そんな言いがかりは」

 目を剥いた久利緒嬢とアルデンホフ氏に、僕はまた笑顔を向けた。

「まだ終わっていませんよ~」
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