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10月1日(土)
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島田との蜜月を終えてアパートに戻ってきた真琴は携帯を手に取る。
胸の動悸は治まらないが、ラインに返事をしなくてはならない。
島田との逢瀬の最中、理沙、そして早紀からそれぞれラインでメッセージが来たが「後にして」とだけ返していたからだ。
この真琴の短い返信に対して、理沙は
〝じゃ帰ったらすぐに教えて〟
と応じ、早紀は2回……午後7時前と午後9時過ぎに
〝なにやってんのよ真琴〟
〝マジで早く連絡して〟
と返してきていた。
どちらも何か急いでいる……。理沙は私が島田くんと会っているのを知った上であえて連絡をとろうとし、早紀に至っては苛立ちすら窺える。
真琴は少し考えて、まず早紀にラインで帰宅を報せた。
すぐに早紀から電話が来る。
(なにやってたのよ真琴)
早紀の声は明らかに苛立っていた。……何があったんだろう。
「え……ゴメン。ちょっとヤボ用で」
(ヤボ用って……真琴、まさか例の島田くんって人と一緒にいたの?)
「……うん……そう」
(マジで?)
「……マジで」
(ありゃあ……先越されたか……)
ん、なんのことだろう。私の方が先に彼氏ができたことを言ってるのか……。
それにしては早紀の言葉には逼迫したものを感じる。
「なによ早紀、その……先を越されたってのは」
(真琴、カレン開いた?)
「え……うん。サークルの前に開いたよ」
(サークルの……前?)
「うん、そう」
(じゃあ、まだチーム組んでないね?)
「……なんのこと?」
まったく状況を把握できない真琴を置き去りにして、電話の向こうで早紀が誰かと話している。
なんなんだ、いったい……。
(真琴、あんたが青春してる間に運営が動いたよ)
「え? 運営? ……ていうか、愛?」
電話の向こうは愛に代わっていた。
一緒にいるのか……。たぶん早紀の部屋で。
(説明するより自分で確かめた方が早い。真琴、すぐにカレン開いて。あ、そうか、えっと……いっぺん電話切るからカレン見て。それからまた電話して)
「え……うん、わかった。見てみる」
(一番に電話して。じゃ、切るね)
電話が切られた。運営が……動いた?
まさか、新たな犠牲者が出たんだろうか……。真琴はすぐにカレンを開く。
「みなさんへのお知らせ」にNEWの表示がある……。
新しくなってからのカレンは本当に安っぽい。粗いドットの文字は何もかもを馬鹿にしているみたいだ。
そんなことを考えながら真琴はその粗い文字「みなさんへのお知らせ」をタップした。
〝大学にかけられた呪いを解こう! 新感覚ゲームアプリ「カレンコレクション」をリリースしました! カレンユーザーは必ずダウンロード!〟
カレンが……ゲームアプリをリリース。大学にかけられた呪いを解く……ゲーム?
トップページには、この「カレンコレクション」なるゲームをダウンロードするためのボタンも新たに表示されていた。
カレンユーザーは必ずダウンロード……。これは事実上の強制のようだ。
運営の意に背いた先にあるのは処刑……。みんなそう理解しているはずだから。
またしても一方的なルール変更……。運営はみんなにどんなゲームを強いるんだろう。
ダウンロードのボタンを押せば判る。そう思いながらも、真琴はそれを押すことを躊躇った。
いいんだろうか、インストールしても。
結局、真琴はダウンロードしないままで早紀に電話をかける。早紀はワンコールで電話に出た。
(見た?)
「見た……けど、インストールはしてないよ」
(え? してないの?)
「うん……。なんとなく怖いし。早紀も愛も、もうインストールしたの?」
(した)
「……そうなんだ。で、どんなゲームなの? これ」
(う~ん……なんだろ、クイズ……ううん、ロールプレイングって言うのかなぁ。とにかく真琴もインストールしてよ)
「なんでそんなに急かすのよ」
(このゲーム、最大3人まででチームを作るのよ)
「え……そうなの?」
(そうなのよ。だから真琴と愛と私でチームね)
「う……うん?」
真琴は言葉に詰まる。簡単に答えてはいけないぞ、これは。
「愛は……なんて言ってんの?」
(う……うん?)
お、なんか早紀が詰まったぞ。チームを組むことを熱望してるのは早紀……。そういうことか。
「……早紀、愛と代わって」
(え~なんで~?)
「いいから代わってよ。たぶん愛とアンタは意見が違う……でしょ?」
(うう……なんだよう。そんなことないし)
「代わって」
(わかったよ。……愛、出番だよ)
電話の相手が愛に代わる。
(真琴、私は強制しないよ。だいたい、チームを組むことのメリットもまだ分かんないしね)
「……そうなの?」
(うん。チームを組まなくてもゲームはできるし、途中からチームを組むことも、一度組んだチームを解消することもできる)
「じゃ、なんのための……チーム?」
(チーム内で共有するものがある。それだけ)
「共有するもの?」
(うん。詳しいことは……そうね、それこそインストールしなきゃ分かんないと思う。でもね真琴)
「なに?」
(このゲームこそが運営の本題。私はそう思う)
「つまり、運営の目的……ってこと?」
(うん。運営はみんなにこのゲームをさせようとしてる。それでね、私はむしろ、私たちと真琴は別のチームでいいと思うの)
ズキン……。チームに誘われたときは即答できなかったのに、組まなくていいと言われたときは瞬間で胸が痛んだ。
イヤな気分だな、なんだか。
(気を悪くしないで。真琴がいつもの3人で組むって言うなら、早紀も私も真琴と組むよ。でもね、このゲームね、チームには多様性を持たせた方がいいみたいだし、真琴は射止めた彼氏と組んだ方がいいよ)
「愛、それ本心で言ってる?」
(もちろん。早紀はどうしても真琴と組みたいみたいだけど、真琴は真琴でチーム組んで、その上でお互いの情報を交換するのがいい、私はそう思う)
「……じゃ、愛たちは2人でやるの?」
ここで愛が少し間を置いた。
(……ううん、3人にする)
「誰……を、入れるの?」
(平野)
え……平野って……。
「平野って……あの平野?」
(そう、あの、早紀のことが大好きで、いつもちょっかいだしてくる、あの平野)
電話の向こうで早紀が「やだよ、やだやだ、ダメ」とか言ってる。愛がそれに「おだまりっ」と言う。
(平野はバカじゃない。そして早紀からの誘いを待ってる。アイツ、普段フザけてるけど群れないでしょ?)
「……そうだね」
(だから真琴は別にチームを組んで。チームは別々でも私たちは仲間……それがいいよ。真琴に続いて早紀にも春がくるよ、たぶん)
「わかった。愛……ありがと」
(うん。じゃあ、それでいくよ。いいね? 真琴)
「うん」
(じゃあ切るよ。そうと決まったら真琴も早くチームを組むんだよ。じゃあ……ね)
愛が電話を切った。チームの話はこれでいいとして、そもそも、この得体の知れない「カレンコレクション」なるゲームをやることを前提に話が進んでる……。
あの愛が言うんだから、おそらくこのゲームが運営の意図に直結してるんだろうけど……。
インストールするのも怖いし、しないのも怖い。
〝カレンユーザーは必ずダウンロード〟……運営がそう言う以上、選択の余地はないんだろうけど。
理沙、待ってるだろうな。真琴はそう思いながらも、理沙に連絡する前に財布から松下刑事の名刺を取り出し、松下に電話をかける。
(……松下です)
松下さんはまだ大学だろうか、声を小さくしている感じだ。真琴は時計を見る。午後10時半過ぎ……。
松下さん、もう自宅……なのかな。
「遅くにすみません。あの……今、電話大丈夫ですか?」
(うん、もちろん。ちょっと待って。外に出るから)
そう言って電話の向こうは無言になった。真琴はじっと待つ。
(おまたせ古川さん。どうしたの? って、もちろんゲームのことだよね)
「はい、そうです」
(古川さんはもうインストールした?)
「いえ、迷ってて……それで電話しました」
(よかった。じゃあこのまま話せるね)
「え……どういう意味ですか?」
(うん……。今、ゲームのプログラムを解析してるところなんだけど、カレンのメインアプリと違って、怪しい部分が多いんだ)
「……怪しい部分、ですか」
(うん。いま判ってるかぎりでも、このゲームアプリは個人情報へのアクセス……電話帳データと通話履歴の読み取りや送受信したメッセージの読み取りができる。まだ解析中だけど、たぶん他にも仕込まれてるよ)
「……他に、どんなものが考えられるんですか?」
(たぶん……ハードウェアの制御)
「ハードウェアの制御……ですか?」
(うん……。真っ当なアプリでもこの権限を求めてるものはたくさんあるけど、範囲がまちまちなんだ。でもこのアプリの場合はたぶん悪意に満ちてるよ、相手が相手だけにね)
「具体的にはどういう……」
(予測では、勝手にバックグラウンドで録音も録画もできる。携帯を乗っ取られると思っていい)
「……そう……ですか」
(うん、たぶんね。だから古川さんには僕との連絡用に携帯を1台、警察から貸し出そうと思う)
「インストールしないという選択はナシ……ですか」
(運営から警告されるまで様子をみるというのもアリだとは思う……けど、運営は許さないと思う)
「そうですよね……」
(古川さん)
「はい」
(このゲームが持つ危険性は、勘が良い人はたぶん察する。それでも承知の上でインストールするよ)
「今の私たちは、そうするほかない。…そうですね?」
(申し訳ない。人質……っていうのかな、学生たちのプライバシーは運営が握ったまま、まだ安全を確保できてないんだ。古川さんは、自分の判断で安全と思う行動をしてほしい)
「私たちは運営に従いながら、捜査の進展を待てばいいんですね」
(そう、できれば引き続き協力をお願いしたい。僕たちも泊まり込みで全力でやってる)
……そうだ。現時点の成果はともかく警察は全力で捜査してるんだ。
私はこの眼で見たじゃないか。大きなものを背負わされた大人たちの顔を。
そして感じたじゃないか。そんな大人たちよりも当事者……学生の方が気楽でいることを。
私は、自分で悔いのない選択をしなきゃいけないんだ。
お父さんが言ったように、私のことは私以外に誰も責任を取れないんだから。
そう考えてから、真琴は松下に言う。
「分かりました。警察の携帯は明日もらいに行きます。私は今からインストールして……混ざります。その他大勢の学生の中に」
(分かった。明日は何時ごろ?)
「そうですね……。明日もバイトがあるので、今日と同じくらいの時間になると思います」
(うん、分かった。古川さん、インストールしたらもう古川さんの携帯では僕に電話しない方がいい。明日ここに来る前も電話はいらない。そして詰所……現地本部に入る前に携帯の電源を切って)
「分かりました」
(じゃあ、また明日……待ってるよ)
「はい、失礼します」
電話を切った真琴は考える。
愛と早紀には筋を通した。そしてゲームをインストールする上での心得も仕入れた。
これでようやく理沙と連絡が取れる。私がチームを組むのは……理沙と、そして島田くんだ。
真琴は理沙にラインを送った。
〝ごめん、遅くなった〟
理沙から瞬時に返信が来た。
〝真琴、家?〟
〝うん〟
〝すぐ行く〟
〝わかった。待っとく〟
あと……島田くんは男友達でチームを作る可能性もある。これも早く確かめなきゃいけない。
真琴は島田にもラインを送る。
〝島田くん、チームは決めた?〟
〝決めた〟
しまった、遅すぎた……。じゃあ、あとひとりは誰にしようか。
多様性がある方がいい……。愛がそんなことを言っていたから、学部が違う友だち……サークルからもうひとり、理沙と決めようか。
そこに島田から追加のメッセージが来る。
〝あとひとりは清川だろ?〟
え? あとひとり? ということは、もしかして……
〝もしかして、決めたってのは、私と組むってこと?〟
〝当たり前だろ。早くインストールしてよ〟
なんだ、待っててくれたんだ……。真琴は胸を撫で下ろす。
どんなゲームか知らないけど、大好きなサークルの仲間……島田くんと理沙とチームを組めるなら心強い。
愛たちとも組みたかったけど、多様性が大切ならこの選択で正解だ。
学部はバラバラ。性格は……ひとり異彩を放っているな。
冷静に分析する頭とは裏腹に、真琴の胸は期待で高鳴っていた。
島田くんとの協同作業……。
理沙が来るまでに……とゲームをインストールしようとしたとき、バイトの先輩からメッセージが来た。
〝まこっちゃん、もうチーム決めた?〟
みんな、誰とチームを組むかで奔走してるのか……。たしかにバイト繋がりでチームを組むのも悪くない。
だけど……。この先輩からのメッセージに真琴は違和感を覚えた。
チームを組んでもいいかなと思えるバイト仲間は確かにいる。いるのだが、真琴にメッセージを送ってきた先輩は真琴にとってそのリストの枠外、そこまで親しくしていたわけではないのだ。
なんでこの人から……。
バイト隊長の伊東先輩とかならまだ分かるけど……。
まあいいか、かえって断り易いし。そう思いながら真琴は返事を返す。
〝はい、サークルの友だちと組むことにしました〟
〝そっかあ。女の子チーム?〟
……なんでそんなことを知りたがるんだろう?
いずれにしても、もうメンバーは決めたんだ。
〝いえ、男子がひとりいます。なんか、多様性があった方がいいとかで〟
わたし、なんで言い訳みたいなことしてるんだろ。
後ろめたいことはない……はずなのに。
〝なるほどね、じゃあいいの。もしまだ決めてなかったらと思って聞いてみただけ、気にしないで。じゃあ、お互いがんばろうね〟
〝はい。先輩、明日も入ってるんですか?〟
〝ん? 明日は私、抜けてるよ。まこっちゃんは明日も?〟
〝はい、昼シフトです〟
〝土日連続で昼じゃない? 頑張るね〟
〝でも、隊長がいるから安心ですよ〟
〝ああ伊東ちゃんね。伊東ちゃんもがんばるよね、ほんと。じゃあ頑張って(^_^)/〟
〝はい、お疲れ様です( ´∀`)〟
今度こそインストールを、と思ったらインターホンが鳴った。理沙が着いたようだ。
真琴は玄関で理沙を迎えた。
「直やんと何してたのよ。長々と二人だけで……いやらしい」
理沙の開口一番はそれだった。……直やんって誰だよ。
真琴は聞き返す。
「……なによその、直やんって」
「え? マコりんのステディでしょ?」
なんだよマコりんって……。どうやら理沙の中でスパークした妄想は、勝手に恋人同士の呼び名まで造り上げたようだ。
「……まだそんな感じじゃないよ。アンタの頭の中でどこまで進展してるか知らないけど」
「え~なんで~。おかしいなぁ」
「そんなことはあとでいいから、問題はカレンのその……なんとかいうゲームでしょ?」
「問題は、真琴が、島田くんと、どんないやらしいことになったのか、だよ」
「…………。」
「ん? 違った?」
「……カレンのゲームのこと、気にならないの?」
「ああ、チームのこと?」
「うん。なんかみんな、誰とチームを組むかで色々考えてるみたいだよ」
「だって、真琴は島田くんとチームでしょ?」
「うん……そう」
「あとひとつの席は私……じゃないの?」
「まあ、そのつもり」
「じゃあ、なんにも心配いらないよ。知り合いの堅物ツートップのチームに入れるんだから。私、なにもしなくていいじゃん。私はアツアツの二人を全力で冷やかすよ」
ええと……。多様性ってなんだっけ? よくわからなくなったけど、なんとなく有益なものと有害なものとがありそうだぞ。
真琴は目の前の能天気な親友を眺めながら、先行きに一抹の不安を抱いた。
「だから真琴、聞かせてよ。空白の3時間、その青春ドラマを」
「それはあと。私はゲームが気になんの。アンタくらいのもんよ、ここまで無関心なのは」
理沙がおあずけを食った犬のようにしょんぼりした顔になる。
「ゲームか……。ん? あ、そうか。真琴はまだどんなゲームかも知らないんだっけ?」
「そうよ。はっきり言うけどね理沙、アンタとチームを組むために色々と段取りしたのよ、私」
「…………急がなきゃ」
「え?」
今度は理沙が急に真剣な顔になったので、真琴の方が面食らった。
なんなのよ、理沙……。
「今日のうちに……日付が変わる前にゲームを見ておいた方がいい。確かに真琴の言うとおり、今はゲームのことが優先だった」
「どうしたのよ……急に」
「……見ればわかるよ。そっか……安心するのは真琴がゲームを見てからだった……」
「……よくわかんないけど、じゃあインストールするよ」
「うん」
急に態度を変えた理沙を気味悪く感じながら、真琴はカレンのトップページにある「カレンコレクションをダウンロードする」というボタンをタップした。
愛が言う「運営の本題」……。そのダウンロードが始まった。アプリといっても実質はカレンの機能追加……カレンのアップデートという方が正確のようだ。
いったいどんなゲームなんだろう。考えようとした矢先にアップデートが終わり、「ダウンロード」のボタンが「カレンコレクション」に変わった。
……え? もうアップデート終わったの?
「理沙……このゲーム、データ小さくない?」
「小さい……けど、ヤバいよ。とにかくオープニング見てよ。私、真琴の感想を聞きたい」
なんだか理沙らしくない真剣さだ。
真琴は不吉な予感を抱きながら、問題のゲーム「カレンコレクション」のボタンを押した。
真琴がボタンをタップするや否や、画面全体が群青に染まった。
……鈴の音?そんな効果音が断続的に聴こえる。
群青がひとつ、その濃さを増す。
そしてこれは……星? 画面に一点、瞬く光の点が現れた。
光の点は、何種類かの色と大きさで次々と画面に散りばめられていく。
画面は、あっという間に粗いドットの星空となった。
そして画面は下に流れ、今度は地上を映す。
小高い丘のような場所で2頭身のキャラクターが二人、星空を見上げていた。
鈴の音のような効果音は、おそらく虫の声だ。
それにしても粗い絵……。ファミコンっていうんだっけ……昭和のレトロゲーム。そんな感じだ。
粗いドットのキャラがその場で動くと、画面の下半分にウインドウが現れてセリフを描き始めた。
真琴は眼でセリフを追う。
女の子「きれいだね、星」
男の子「うん、月が出てないからね」
女の子「見てるかな、私たちのこと」
男の子「かもしれないね」
女の子「あ、ながれ星」
男の子「ほんとだ……って……え?」
女の子「あれ? 止まったよ」
男の子「いや、そんなはずは……」
そこで画面は再び空を映す。
星……光の点が全部、画面の中央に吸い寄せられて1個の塊となった。
女の子「ね、ねえ……なに? あれ……」
男の子「わかんない……けど、逃げよう」
その時、画面は真っ白に光った。
女の子「キャッ!」
男の子「うわっ!」
セリフのウインドウが掻き消えたあと、次に画面は光の玉だけを映し出し、光の玉の向こう側から青い球体が顔を出す。
これは……地球? どうやら光の玉ごしに地球を見ているようだ。
光の玉から小さな光が放たれた。
ピキュン。そんな感じの音で。
そして画面は青い玉……地球を中央に据えた。
地球が段々と大きくなる。
これは……落下……か?
地球はみるみる大きくなり、やがて日本列島を映し出す。
その日本もどんどん大きくなり、日本の広北大学を映す。
落下は止まらない……。そしてとうとう地上、大学中央の大きな池に落下した。
画面は、冒頭と同じ群青に染まる。
ここでようやく、レクイエムのようなBGMと共に『カレンコレクション』というタイトルロゴが現れた。
ロゴの下、選べるコマンドは2つあった。
・はじめから
・チームへんせい
「…………。」
これでオープニングは終わりのようだ。
真琴は軽くため息をつく。
「……なかなかシュールだね、これ。あの光の玉は運営を象徴してんのかな?」
「かもね。中身はもっとシュールだよ。それよりさ、早くチーム組もうよ」
「うん、分かった」
真琴は「チームへんせい」のメニューをタップする。
そういえば、なんで「へんせい」が平仮名なんだろう。
ドット文字だけど漢字は表示できるみたいなのに。
そして画面は、チームメイトの学籍番号を入力する画面になった。
「ここに理沙の学生番号入れればいいの?」
真琴は、理沙に画面を見せながら尋ねた。
「たぶんそうだね。私のは281834J」
真琴は言われた番号を入力する。すると画面に「しんせい中」と表示された。
「申請中になったよ、理沙」
「ん……ちょっと待って。えっと……よし、できた」
「あとは……島田くんを入れなきゃ」
「だね。真琴、島田くんに私の学生番号教えて」
真琴は言われたとおり、理沙の学籍番号をラインで島田に知らせた。
しばらくして理沙が「お、来た」と言って携帯を操作する。その顔は嬉しそうだが、なんとなく邪な気配を感じさせた。
「理沙、アンタ……なんか悪巧みしてない?」
「え? ううん、してないよ。安心しただけ」
「そう? ならいいけど……」
「じゃあさ、真琴も始めてよ、ゲーム。早くしないと終わっちゃう」
「……終わっちゃう?」
「始めれば分かるよ。だから早く」
理沙がなんのことを言っているのか理解できぬまま、真琴は「はじめから」をタップする。
今度は名前入力画面になった。平仮名か片仮名で4文字か……。
「ねえ理沙、理沙は名前なんにしたの?」
「私? 私は『りさ』、そのまんまだよ」
「……いいのかな、ホントの名前で」
「…いいと思うよ、たぶん」
本当に大丈夫だろうか? ……まあ、もし不都合があればもう一度「はじめから」を選んでやり直せばいいか。
そう考えて真琴は自分の名前をそのまま入力した。
始まる……。
いったいどんなゲームなんだろう。
画面に、オープニングでも現れた光の玉が映し出された。
光の玉から地上に向け、一筋の光が伸びる。
そして画面は一旦暗転したあと、スポットライトのように中央にポツリと四角いキャラクターを照らし出した。
キャラクターはカレンのアバターと同じ……。おそらくこれが「まこと」なんだろう。
キャラクターの周囲が青暗く照らされていく……。その明かりは円状に広がっていった。
これは夜、そしてどうやら「まこと」は大きな交差点の角にいるようだ。
画面の雰囲気はやっぱりレトロゲーム……ファミコン風だ。「まこと」の後ろには理沙、そして島田くんと思われるキャラクターがいる。
聞き覚えのあるメロディーが流れ始めると同時に画面下にステータスウインドウと操作ボタンが表示される。
真琴はステータスウインドウを見てドキリとした。
つるぺた まこと
¥:17100円
☆:95個
〇:
「……なに、これ」
理沙が背後からそっと覗き込んでくる。
肩がプルプル震えているのが気配で判る。
「……理沙。……なに? この『つるぺた』っていうのは」
「……チ、チーム名」
答えるや否や、理沙はトイレに逃げ込んで鍵をかけた。
トイレの中で爆笑している。
「……開けな。理沙」
「なんだっていいじゃん。チーム名なんて」
「だからって、こんなふざけたのダメ、変えなさい」
「……変えられないの」
「え? マジで?」
「うん」
ええと、ということは……この恥ずかしいチーム名を背負ってゲームを続けるしかない……のか?
いや、でも、愛はチームを解消したりできるようなこと言ってたよな……。
「チームを解消することはできるんでしょ? じゃ、もう一回チームを組み直せばいいじゃん」
「……よく分かんない。でもこのゲーム、基本的にやり直しがきかないみたいだよ。名前も変更できないし、そもそも、もう一度〝はじめから〟っていうのができない」
「……そうなの?」
「うん、やっぱりただのゲームじゃない。このゲーム、どんな展開になってもやり直しができないんだよ。現実と同じで」
現実と同じ……。やり直しがきかないゲーム……か。
たしかに運営がやりそうなことだ。それで、運営はこのゲームで私たちに何をさせようというんだろう。
……とにかく始めよう。真琴はチーム名のことはひとまず置いといてゲームをやってみることにした。
自分の分身「まこと」は交差点にいる。
このゲームにおける「まこと」の目的も、まず何をすればいいのかさえも、オープニングからは判らない。
交差点の対角に人がいる。まず話を聞いてみよう。
真琴は方向キーで操作して、まことを先頭にして1列に並んだチーム「つるぺた」を動かし、ボタンを押してキャラクターに話しかけた。
『おお、やっと見えるようになった。なんだったんだ今のは。ああ、空の星が1個だけになっちまった』
さらに左にも人がいるので話しかける。
『光るおっきな玉が池に落ちたみたいだけど、なんかその欠片みたいなのが理学部の屋上にも落ちていったよ。怖いから、オレは見に行かないけどね』
ん……と、つまり、このゲームは広大が舞台で、まずは理学部の屋上に行けばいいのかな?
どうやら「まこと」がいるのは大学の北東端の交差点らしい。
じゃあ、まずは大学の敷地に入って理学部の屋上を目指そう。
そうして大学構内に入ろうとしたとき、魔女みたいな妙な格好をしたキャラクターがいた。
まことはこのキャラクターにも話しかける。
『大学は呪われた。いや、もともと呪われていたんだよ。お前さんもそう思うだろう?』
いきなりの質問だ。「はい」か「いいえ」で答えなければならないらしい。
……もともと呪われていた? そんな話は聞いたことがない。
真琴は「いいえ」を選んだ。
『そうかい。まあ、その目でたしかめてみるといい。呪いが解けないかぎり大学に朝は来ないよ』
そう言い残して、その妙なキャラクターはスーッと画面の左に消えた。と思ったら戻ってきた。
『そうそう、言い忘れたけどね、このゲームは現実時間の18:00から24:00までしか遊べんぞい』
そう言ってもう一度そのキャラクターは去って行った。
理沙が言ってた「終わっちゃう」って、このことか。
この「カレンコレクション」をプレイできるのは午後6時から午前0時まで……最大でも1日6時間なんだ。
真琴は時計を見る。もう11時半……。まあ、とにかく理学部の屋上に行ってみよう。
ゲームのマップは、概ね忠実に大学を再現しているようだ。
真琴は自分の分身「まこと」を操作し、構内を南下して理学部の入口を目指す。
突然、効果音とともに画面が暗くなり、敵が現れた。
敵との戦闘があるのか……って、これって……。
画面には、真琴でも知っている有名ロールプレイングゲームの敵キャラ「スライム」が表示されていた。
BGMといい、敵キャラといい、完全なパクリ……盗用だ。なんでもアリ……そんな感じのゲームだな。
ところが、姿こそスライムだが、その敵の名前は「スライム」ではなかった。
小3理科があらわれた!
「……は?」
選べるコマンドは〝たたかう〟と〝にげる〟だ……。
なにこれ? 真琴は理沙を呼ぶ。
「理沙、怒らないから出ておいで」
「……ホント?」
トイレから返事が聞こえる。
「ホントよ。出てこないなら怒るよ」
ようやく理沙がトイレから出てきた。手には携帯電話を持っている。
どうやらトイレの中でカレンコレクションを進めていたようだ。
「理沙、なにこの、〝小3理科〟って」
「そのまんまだよ。〝たたかう〟を選ぶと問題が出てくる」
「……小学生の問題が?」
「うん。最初は小1算数……3+2=□……だった」
「……じゃ、〝たたかう〟でいいのね?」
「うん」
真琴は眼前の敵「小3理科」に対して〝たたかう〟を選んだ。
画面が切り替わる。
カブトムシの足は何本ですか?
□本
「……6本よね」
「6本だね」
真琴は解答スペースに6と入力した。すると画面はパッと通常画面に戻った。
なんの手応えもないけど……これでいいのか?
「……やっつけたの? ……今の」
「答えは間違いないんだから、やっつけたんだと思う……けど、こんなカンジで、正解したのかどうか判んないんだよ。これね、まだ初め……小学生の問題だからいいけど、これが中学とか高校になっていくと思ったら怖くない?」
「……そうね。で、〝にげる〟ってなによ?」
「う~ん。チームの誰かが正解すればいいんだと思う。真琴と島田くんが逃避行してる間に私がやっつけた小1小2の問題は、たぶん真琴にはもう出てこないよ」
「なるほどね。それでチームか……」
「うん。わたし、高校物理とか現れたら迷わず逃げるし。そういうのは真琴がやっつけてよ」
「これ、正解するとどうなんの?」
「おカネと星が増えるみたい。星っていうのがなんの役に立つのか分かんないけど、おカネは……なんか買えるんじゃない?」
「チームで共有するのは、おカネと星?」
「そうみたいだね。もしかしたら他にも何かあるかもしんないけど」
「そっか」
「とりあえず……さ。真琴」
「ん?」
「今日のうちに理学部の屋上に行っといた方がいいよ」
「なんで?」
「このゲームのヤバさが分かるから」
理沙に言われたとおり、真琴は理学部を目指す。
小学生レベルの問題を解きながら……。
理学部の入口に来たとき、手前の掲示板の前に女の子のキャラがいた。掲示板の方を向いている。
まことの一群が近付くと、女の子の頭に「!」と表示され、女の子はツーッとどこかへ去って行った。真琴は女の子が見ていた掲示板の前でボタンを押す。
まことはけいじばんを見た。
「追試のお知らせ」
……今の女の子は追試を受けるんだろうか? よくわからないけど……まあいいか、今は屋上を目指すんだ。
真琴は建物の中に入り、廊下を歩き階段を登って屋上を目指す。
レトロゲーム風の夜の学舎、そしてチープな音楽……。
これはかなりシュール……不気味だ。
ようやく屋上に着いたが、屋上に落ちたという光の欠片はない。そのかわりに屋上にひとつ穴があいていて、穴の横に男のキャラがいた。
『さ、さっきカミナリみたいなのが落ちてきて穴ができたんだ。よかった、当たらなくて』
仕方がないのでひとつ階段を降りて、穴の真下……5階の廊下の奧に行く。
そこで光の欠片は廊下に突き刺さり、鈍い光を放っていた。
そこに近寄ると、いきなり画面全体が真っ白になり、パパパパッと10枚ほどの写真が連続で表示されて消えた。
そして画面が元に戻ったとき、欠片から光が消えていた。もう一度近づいても何も起こらない。
真琴は言葉を失う。
……なに? 今の。
表示された写真……。それはほんの一瞬だったが、真琴の心を波立たせた。
よく見る時間はなかったけど、誰かがビールを飲んでるような写真やサングラスをかけた男の写真、それと何かの植物の葉、ネオン街、車と道路に倒れた人。そして裸の女性……。
他にも、何かの書類のような写真もあったような気がするけど……。
特に裸の女性の写真は真琴の心をキュッと締め上げた。
自分ではなかった……はず。だけど嫌でも連想させる。自分の……爆弾を。
理沙は、これを今日中に見ておけと言いたかったのか。
「これは……運営からの脅し……だね」
「ああ、欠片の写真ね。うん、脅しだね、間違いなく」
理沙は自分の携帯でゲームを進めながら答える。
「理沙、このゲームをクリアすれば……私たち、解放されるのかな?」
「う~ん、どうなんだろ。でも、運営は『やれ』って言ってるよね、明らかに」
「……やるしかない、か」
「うん、そう思う。……ん、んん? あら?」
「……どしたの? 理沙」
「ヤバい。なんか、頭に点火した」
「え?」
見ると真琴の画面でも、チームつるぺたの真ん中「りさ」の頭の上で火花が散り、カウントダウンが表示されている。
4:59
ウインドウは緑色になっている。
「……理沙、アンタ何したの?」
「〝道徳〟っていう敵と戦ったんだよ。〝にげる〟って選択肢がなかった」
「……問題は?」
「あなたはウソをついたことがありますか」
「……で、アンタはなんて答えたの?」
「……いいえ」
「…………。」
「ね、ねえ……これってヤバくない?」
「……ヤバそうだね」
そんな話をしているうちに午前0時になり、画面に「セーブ中」の文字が現れた。
そして自動的に「カレンコレクション」が閉じ、画面はカレンのトップページになった。
カレンコレクションが強制セーブされて閉じたあと、怯えたような声で理沙が言う。
「……どうしよう真琴。あれ、爆発したらいけないヤツだよ、絶対」
確かにそうだ。何の説明もないけど「りさ」の頭の上に着火した火は、何らかの方法でタイムリミットまでに消さなければならなそうだ。
最悪の場合は処刑……運営によるプライベートの公開もあり得る。
火が点いたのは「りさ」だが、チームを組んでいる以上、私や島田くんに影響がないとは言い切れない。
「理沙、あの頭のタイマー…どこまで進んだ?」
「え……と、たしか4:55で終わった」
「じゃ……あと4時間55分あるってことね」
「たぶんそう。頭の上に5:00って表示されたときは5分しかないって思ったけど、5時間みたい」
「だとすれば……まだけっこうあるね、時間は」
「うん。でも、解決方法が分かんないよ」
「でもさ理沙、とりあえず最大の問題は、あのカウントダウンが今でも進んでるのか、それとも止まってるのかじゃない?」
「ゲーム内だけのものか、現実の時間なのかってこと?」
「そう。今が止まってるなら……もっと落ち着いて考えられる」
「そうだね。カレンのどこかにヒント……いや、うまくすれば同じ目に遭った人が解決方法を書き込んでるかもしれない」
「そう、そうだよ理沙、カレン見てみよう」
真琴と理沙はそれぞれカレンの掲示板を漁り始める。
だが、同じ状況に陥った人の不安の声は沢山あるものの、解決方法を示す書き込みは見当たらなかった。
そこに島田からラインでメッセージが届く。
〝解決方法は分かんないけど、とりあえずゲームを再開するまではカウントダウンは進まないみたいだぞ〟
それは朗報だ。でも、なんでそう言い切れるんだろう。
確信が欲しい真琴は島田に返信する。
〝それホント? どうして分かるの?〟
すぐに島田から返事が来る。
〝もう一度カレンコレクションを開いてみれば分かる〟
真琴は島田の返事を受けてカレンコレクションを開く。
すると画面の上に「つるぺた」とチーム名が表示され、その下にキャラクターが横並びで表示されていた。
3体のキャラクターの下にはそれぞれの名前が「まこと」「りさ」「なおっち」と表示されている。
島田くん……。「なおっち」か……。
そしてその画面でも「りさ」の頭の上では火花が散っていて、タイマーの数字「4:55」が点っていた。
ゲームが終了してから15分は経っているけど、カウントダウンは進んでない……。
つまり、ゲーム内でしかカウントダウンは進まないんだ。
よかった……。それなら、今度ゲームを再開したときにゲーム内で解決方法を探せばいいんだ。
画面の下の方には「プレイ可能時間は18:00~24:00です」とある。
「理沙、解決法はまだ分かんないけど、とりあえずゲーム内でしかカウントダウンは進まないみたいだよ。ホラ」
そう言って真琴は携帯の画面を理沙に見せた。理沙の顔にひとまずの安堵が浮かぶ。
「……よかった。マジ焦ったよ。じゃ、ゆっくり考えられるね」
「うん。同じ状況の人はいっぱいいるみたいだけど、まだ誰も解決できてない。また夕方、ゲームを再開してから探せばいいよ」
「わかった。そうしよ」
「そもそも理沙がテキトー答えるからこんなことになるんだよ」
「……だって、怖くない? あの質問に『はい』って答えるの」
「……まあ、ね」
自分だったらどう答えただろう?
理沙が言うように「はい」と答えるのも勇気が要るが、ウソをついたことがないと胸を張って言える人など、そうそういないだろう。
まあ結果として、カレン運営がプレイヤーに求めているのは「正直な」答えらしい。
これは、このゲームに向き合う上で重要な教訓だ。おそらく理沙がひっかかった質問は、考えに考えた末に「いいえ」と答えた人も多いはず……。
つまり運営は、ゲームの冒頭で私たちの心理に釘を刺したんだ。……きっと。
であれば、おそらく今回のハプニングは単なる警告……。
そう深刻にならなくても解決の道は示されるだろう。
真琴はそう考えたが、その楽観的な見立ては理沙には言わないことにした。
チーム名のことといい、理沙にはもっと真剣になってもらわないと困る。
緊張感に欠ける理沙には丁度いい薬だ。
「さ、理沙、解決法はまた夕方、ゲームを再開してから考えるよ。私、今日も朝からバイトなんだ。寝とかなきゃ」
「分かった。ねえ真琴、私……大丈夫かな?」
「そんなに怖がるんだったら、もっと真剣にやろうよ」
「……は~い」
「じゃあね理沙、私は寝るよ。バイバイ」
「ああっ」
「……なによ今度は?」
「真琴のラブストーリー、まだ聞いてない」
「……それ重要?」
「チョー重要だよ。何してたのよ、二人で」
「……海までドライブ、した」
「ふんふん、それで?」
「途中で買った花火を……海辺で」
「それから、チュー?」
「してないよ、そんなこと」
「じゃあ……ハグ?」
「……してない」
「え~。なにやってんのよ」
「手……つないだ」
「キャ~。かゆい~」
「それだけよ。……もういいでしょ。帰りな」
「はーい」
やっと理沙が帰った……。
カレンに新しい機能が加わるという情報は昼に松下さんから聞いていたのに、ゲームは30分しかできなかった……。ちょっと出遅れたな。
でもまあ、いいか。島田くんとチーム組めたし。
島田くん……。そう、島田くんだ。今日はカレンのゲームなんかより遥かに大切な時間を過ごしたんだ。
真琴は島田と二人きりの時間を思い出して胸を熱くする。
でも、もう寝なきゃ。日曜の昼も店……もっすバーガーは戦場だ。寝不足ではキツい。
真琴は島田に『おやすみなさい』のメッセージを送った。すぐに返事が来る。
〝うんおやすみ。俺も明日はサークルに行くよ。ああそれと、火を消す方法の見当がついた。なんとなく、だけどね〟
〝ホント? どうやんの?〟
〝ゲームが再開しないと確認できない。だからそれもまた明日、だな〟
〝わかった、おやすみ。ドライブ、楽しかった〟
真琴は島田と過ごした時間を思い出しながら眠りに落ちた。
胸の動悸は治まらないが、ラインに返事をしなくてはならない。
島田との逢瀬の最中、理沙、そして早紀からそれぞれラインでメッセージが来たが「後にして」とだけ返していたからだ。
この真琴の短い返信に対して、理沙は
〝じゃ帰ったらすぐに教えて〟
と応じ、早紀は2回……午後7時前と午後9時過ぎに
〝なにやってんのよ真琴〟
〝マジで早く連絡して〟
と返してきていた。
どちらも何か急いでいる……。理沙は私が島田くんと会っているのを知った上であえて連絡をとろうとし、早紀に至っては苛立ちすら窺える。
真琴は少し考えて、まず早紀にラインで帰宅を報せた。
すぐに早紀から電話が来る。
(なにやってたのよ真琴)
早紀の声は明らかに苛立っていた。……何があったんだろう。
「え……ゴメン。ちょっとヤボ用で」
(ヤボ用って……真琴、まさか例の島田くんって人と一緒にいたの?)
「……うん……そう」
(マジで?)
「……マジで」
(ありゃあ……先越されたか……)
ん、なんのことだろう。私の方が先に彼氏ができたことを言ってるのか……。
それにしては早紀の言葉には逼迫したものを感じる。
「なによ早紀、その……先を越されたってのは」
(真琴、カレン開いた?)
「え……うん。サークルの前に開いたよ」
(サークルの……前?)
「うん、そう」
(じゃあ、まだチーム組んでないね?)
「……なんのこと?」
まったく状況を把握できない真琴を置き去りにして、電話の向こうで早紀が誰かと話している。
なんなんだ、いったい……。
(真琴、あんたが青春してる間に運営が動いたよ)
「え? 運営? ……ていうか、愛?」
電話の向こうは愛に代わっていた。
一緒にいるのか……。たぶん早紀の部屋で。
(説明するより自分で確かめた方が早い。真琴、すぐにカレン開いて。あ、そうか、えっと……いっぺん電話切るからカレン見て。それからまた電話して)
「え……うん、わかった。見てみる」
(一番に電話して。じゃ、切るね)
電話が切られた。運営が……動いた?
まさか、新たな犠牲者が出たんだろうか……。真琴はすぐにカレンを開く。
「みなさんへのお知らせ」にNEWの表示がある……。
新しくなってからのカレンは本当に安っぽい。粗いドットの文字は何もかもを馬鹿にしているみたいだ。
そんなことを考えながら真琴はその粗い文字「みなさんへのお知らせ」をタップした。
〝大学にかけられた呪いを解こう! 新感覚ゲームアプリ「カレンコレクション」をリリースしました! カレンユーザーは必ずダウンロード!〟
カレンが……ゲームアプリをリリース。大学にかけられた呪いを解く……ゲーム?
トップページには、この「カレンコレクション」なるゲームをダウンロードするためのボタンも新たに表示されていた。
カレンユーザーは必ずダウンロード……。これは事実上の強制のようだ。
運営の意に背いた先にあるのは処刑……。みんなそう理解しているはずだから。
またしても一方的なルール変更……。運営はみんなにどんなゲームを強いるんだろう。
ダウンロードのボタンを押せば判る。そう思いながらも、真琴はそれを押すことを躊躇った。
いいんだろうか、インストールしても。
結局、真琴はダウンロードしないままで早紀に電話をかける。早紀はワンコールで電話に出た。
(見た?)
「見た……けど、インストールはしてないよ」
(え? してないの?)
「うん……。なんとなく怖いし。早紀も愛も、もうインストールしたの?」
(した)
「……そうなんだ。で、どんなゲームなの? これ」
(う~ん……なんだろ、クイズ……ううん、ロールプレイングって言うのかなぁ。とにかく真琴もインストールしてよ)
「なんでそんなに急かすのよ」
(このゲーム、最大3人まででチームを作るのよ)
「え……そうなの?」
(そうなのよ。だから真琴と愛と私でチームね)
「う……うん?」
真琴は言葉に詰まる。簡単に答えてはいけないぞ、これは。
「愛は……なんて言ってんの?」
(う……うん?)
お、なんか早紀が詰まったぞ。チームを組むことを熱望してるのは早紀……。そういうことか。
「……早紀、愛と代わって」
(え~なんで~?)
「いいから代わってよ。たぶん愛とアンタは意見が違う……でしょ?」
(うう……なんだよう。そんなことないし)
「代わって」
(わかったよ。……愛、出番だよ)
電話の相手が愛に代わる。
(真琴、私は強制しないよ。だいたい、チームを組むことのメリットもまだ分かんないしね)
「……そうなの?」
(うん。チームを組まなくてもゲームはできるし、途中からチームを組むことも、一度組んだチームを解消することもできる)
「じゃ、なんのための……チーム?」
(チーム内で共有するものがある。それだけ)
「共有するもの?」
(うん。詳しいことは……そうね、それこそインストールしなきゃ分かんないと思う。でもね真琴)
「なに?」
(このゲームこそが運営の本題。私はそう思う)
「つまり、運営の目的……ってこと?」
(うん。運営はみんなにこのゲームをさせようとしてる。それでね、私はむしろ、私たちと真琴は別のチームでいいと思うの)
ズキン……。チームに誘われたときは即答できなかったのに、組まなくていいと言われたときは瞬間で胸が痛んだ。
イヤな気分だな、なんだか。
(気を悪くしないで。真琴がいつもの3人で組むって言うなら、早紀も私も真琴と組むよ。でもね、このゲームね、チームには多様性を持たせた方がいいみたいだし、真琴は射止めた彼氏と組んだ方がいいよ)
「愛、それ本心で言ってる?」
(もちろん。早紀はどうしても真琴と組みたいみたいだけど、真琴は真琴でチーム組んで、その上でお互いの情報を交換するのがいい、私はそう思う)
「……じゃ、愛たちは2人でやるの?」
ここで愛が少し間を置いた。
(……ううん、3人にする)
「誰……を、入れるの?」
(平野)
え……平野って……。
「平野って……あの平野?」
(そう、あの、早紀のことが大好きで、いつもちょっかいだしてくる、あの平野)
電話の向こうで早紀が「やだよ、やだやだ、ダメ」とか言ってる。愛がそれに「おだまりっ」と言う。
(平野はバカじゃない。そして早紀からの誘いを待ってる。アイツ、普段フザけてるけど群れないでしょ?)
「……そうだね」
(だから真琴は別にチームを組んで。チームは別々でも私たちは仲間……それがいいよ。真琴に続いて早紀にも春がくるよ、たぶん)
「わかった。愛……ありがと」
(うん。じゃあ、それでいくよ。いいね? 真琴)
「うん」
(じゃあ切るよ。そうと決まったら真琴も早くチームを組むんだよ。じゃあ……ね)
愛が電話を切った。チームの話はこれでいいとして、そもそも、この得体の知れない「カレンコレクション」なるゲームをやることを前提に話が進んでる……。
あの愛が言うんだから、おそらくこのゲームが運営の意図に直結してるんだろうけど……。
インストールするのも怖いし、しないのも怖い。
〝カレンユーザーは必ずダウンロード〟……運営がそう言う以上、選択の余地はないんだろうけど。
理沙、待ってるだろうな。真琴はそう思いながらも、理沙に連絡する前に財布から松下刑事の名刺を取り出し、松下に電話をかける。
(……松下です)
松下さんはまだ大学だろうか、声を小さくしている感じだ。真琴は時計を見る。午後10時半過ぎ……。
松下さん、もう自宅……なのかな。
「遅くにすみません。あの……今、電話大丈夫ですか?」
(うん、もちろん。ちょっと待って。外に出るから)
そう言って電話の向こうは無言になった。真琴はじっと待つ。
(おまたせ古川さん。どうしたの? って、もちろんゲームのことだよね)
「はい、そうです」
(古川さんはもうインストールした?)
「いえ、迷ってて……それで電話しました」
(よかった。じゃあこのまま話せるね)
「え……どういう意味ですか?」
(うん……。今、ゲームのプログラムを解析してるところなんだけど、カレンのメインアプリと違って、怪しい部分が多いんだ)
「……怪しい部分、ですか」
(うん。いま判ってるかぎりでも、このゲームアプリは個人情報へのアクセス……電話帳データと通話履歴の読み取りや送受信したメッセージの読み取りができる。まだ解析中だけど、たぶん他にも仕込まれてるよ)
「……他に、どんなものが考えられるんですか?」
(たぶん……ハードウェアの制御)
「ハードウェアの制御……ですか?」
(うん……。真っ当なアプリでもこの権限を求めてるものはたくさんあるけど、範囲がまちまちなんだ。でもこのアプリの場合はたぶん悪意に満ちてるよ、相手が相手だけにね)
「具体的にはどういう……」
(予測では、勝手にバックグラウンドで録音も録画もできる。携帯を乗っ取られると思っていい)
「……そう……ですか」
(うん、たぶんね。だから古川さんには僕との連絡用に携帯を1台、警察から貸し出そうと思う)
「インストールしないという選択はナシ……ですか」
(運営から警告されるまで様子をみるというのもアリだとは思う……けど、運営は許さないと思う)
「そうですよね……」
(古川さん)
「はい」
(このゲームが持つ危険性は、勘が良い人はたぶん察する。それでも承知の上でインストールするよ)
「今の私たちは、そうするほかない。…そうですね?」
(申し訳ない。人質……っていうのかな、学生たちのプライバシーは運営が握ったまま、まだ安全を確保できてないんだ。古川さんは、自分の判断で安全と思う行動をしてほしい)
「私たちは運営に従いながら、捜査の進展を待てばいいんですね」
(そう、できれば引き続き協力をお願いしたい。僕たちも泊まり込みで全力でやってる)
……そうだ。現時点の成果はともかく警察は全力で捜査してるんだ。
私はこの眼で見たじゃないか。大きなものを背負わされた大人たちの顔を。
そして感じたじゃないか。そんな大人たちよりも当事者……学生の方が気楽でいることを。
私は、自分で悔いのない選択をしなきゃいけないんだ。
お父さんが言ったように、私のことは私以外に誰も責任を取れないんだから。
そう考えてから、真琴は松下に言う。
「分かりました。警察の携帯は明日もらいに行きます。私は今からインストールして……混ざります。その他大勢の学生の中に」
(分かった。明日は何時ごろ?)
「そうですね……。明日もバイトがあるので、今日と同じくらいの時間になると思います」
(うん、分かった。古川さん、インストールしたらもう古川さんの携帯では僕に電話しない方がいい。明日ここに来る前も電話はいらない。そして詰所……現地本部に入る前に携帯の電源を切って)
「分かりました」
(じゃあ、また明日……待ってるよ)
「はい、失礼します」
電話を切った真琴は考える。
愛と早紀には筋を通した。そしてゲームをインストールする上での心得も仕入れた。
これでようやく理沙と連絡が取れる。私がチームを組むのは……理沙と、そして島田くんだ。
真琴は理沙にラインを送った。
〝ごめん、遅くなった〟
理沙から瞬時に返信が来た。
〝真琴、家?〟
〝うん〟
〝すぐ行く〟
〝わかった。待っとく〟
あと……島田くんは男友達でチームを作る可能性もある。これも早く確かめなきゃいけない。
真琴は島田にもラインを送る。
〝島田くん、チームは決めた?〟
〝決めた〟
しまった、遅すぎた……。じゃあ、あとひとりは誰にしようか。
多様性がある方がいい……。愛がそんなことを言っていたから、学部が違う友だち……サークルからもうひとり、理沙と決めようか。
そこに島田から追加のメッセージが来る。
〝あとひとりは清川だろ?〟
え? あとひとり? ということは、もしかして……
〝もしかして、決めたってのは、私と組むってこと?〟
〝当たり前だろ。早くインストールしてよ〟
なんだ、待っててくれたんだ……。真琴は胸を撫で下ろす。
どんなゲームか知らないけど、大好きなサークルの仲間……島田くんと理沙とチームを組めるなら心強い。
愛たちとも組みたかったけど、多様性が大切ならこの選択で正解だ。
学部はバラバラ。性格は……ひとり異彩を放っているな。
冷静に分析する頭とは裏腹に、真琴の胸は期待で高鳴っていた。
島田くんとの協同作業……。
理沙が来るまでに……とゲームをインストールしようとしたとき、バイトの先輩からメッセージが来た。
〝まこっちゃん、もうチーム決めた?〟
みんな、誰とチームを組むかで奔走してるのか……。たしかにバイト繋がりでチームを組むのも悪くない。
だけど……。この先輩からのメッセージに真琴は違和感を覚えた。
チームを組んでもいいかなと思えるバイト仲間は確かにいる。いるのだが、真琴にメッセージを送ってきた先輩は真琴にとってそのリストの枠外、そこまで親しくしていたわけではないのだ。
なんでこの人から……。
バイト隊長の伊東先輩とかならまだ分かるけど……。
まあいいか、かえって断り易いし。そう思いながら真琴は返事を返す。
〝はい、サークルの友だちと組むことにしました〟
〝そっかあ。女の子チーム?〟
……なんでそんなことを知りたがるんだろう?
いずれにしても、もうメンバーは決めたんだ。
〝いえ、男子がひとりいます。なんか、多様性があった方がいいとかで〟
わたし、なんで言い訳みたいなことしてるんだろ。
後ろめたいことはない……はずなのに。
〝なるほどね、じゃあいいの。もしまだ決めてなかったらと思って聞いてみただけ、気にしないで。じゃあ、お互いがんばろうね〟
〝はい。先輩、明日も入ってるんですか?〟
〝ん? 明日は私、抜けてるよ。まこっちゃんは明日も?〟
〝はい、昼シフトです〟
〝土日連続で昼じゃない? 頑張るね〟
〝でも、隊長がいるから安心ですよ〟
〝ああ伊東ちゃんね。伊東ちゃんもがんばるよね、ほんと。じゃあ頑張って(^_^)/〟
〝はい、お疲れ様です( ´∀`)〟
今度こそインストールを、と思ったらインターホンが鳴った。理沙が着いたようだ。
真琴は玄関で理沙を迎えた。
「直やんと何してたのよ。長々と二人だけで……いやらしい」
理沙の開口一番はそれだった。……直やんって誰だよ。
真琴は聞き返す。
「……なによその、直やんって」
「え? マコりんのステディでしょ?」
なんだよマコりんって……。どうやら理沙の中でスパークした妄想は、勝手に恋人同士の呼び名まで造り上げたようだ。
「……まだそんな感じじゃないよ。アンタの頭の中でどこまで進展してるか知らないけど」
「え~なんで~。おかしいなぁ」
「そんなことはあとでいいから、問題はカレンのその……なんとかいうゲームでしょ?」
「問題は、真琴が、島田くんと、どんないやらしいことになったのか、だよ」
「…………。」
「ん? 違った?」
「……カレンのゲームのこと、気にならないの?」
「ああ、チームのこと?」
「うん。なんかみんな、誰とチームを組むかで色々考えてるみたいだよ」
「だって、真琴は島田くんとチームでしょ?」
「うん……そう」
「あとひとつの席は私……じゃないの?」
「まあ、そのつもり」
「じゃあ、なんにも心配いらないよ。知り合いの堅物ツートップのチームに入れるんだから。私、なにもしなくていいじゃん。私はアツアツの二人を全力で冷やかすよ」
ええと……。多様性ってなんだっけ? よくわからなくなったけど、なんとなく有益なものと有害なものとがありそうだぞ。
真琴は目の前の能天気な親友を眺めながら、先行きに一抹の不安を抱いた。
「だから真琴、聞かせてよ。空白の3時間、その青春ドラマを」
「それはあと。私はゲームが気になんの。アンタくらいのもんよ、ここまで無関心なのは」
理沙がおあずけを食った犬のようにしょんぼりした顔になる。
「ゲームか……。ん? あ、そうか。真琴はまだどんなゲームかも知らないんだっけ?」
「そうよ。はっきり言うけどね理沙、アンタとチームを組むために色々と段取りしたのよ、私」
「…………急がなきゃ」
「え?」
今度は理沙が急に真剣な顔になったので、真琴の方が面食らった。
なんなのよ、理沙……。
「今日のうちに……日付が変わる前にゲームを見ておいた方がいい。確かに真琴の言うとおり、今はゲームのことが優先だった」
「どうしたのよ……急に」
「……見ればわかるよ。そっか……安心するのは真琴がゲームを見てからだった……」
「……よくわかんないけど、じゃあインストールするよ」
「うん」
急に態度を変えた理沙を気味悪く感じながら、真琴はカレンのトップページにある「カレンコレクションをダウンロードする」というボタンをタップした。
愛が言う「運営の本題」……。そのダウンロードが始まった。アプリといっても実質はカレンの機能追加……カレンのアップデートという方が正確のようだ。
いったいどんなゲームなんだろう。考えようとした矢先にアップデートが終わり、「ダウンロード」のボタンが「カレンコレクション」に変わった。
……え? もうアップデート終わったの?
「理沙……このゲーム、データ小さくない?」
「小さい……けど、ヤバいよ。とにかくオープニング見てよ。私、真琴の感想を聞きたい」
なんだか理沙らしくない真剣さだ。
真琴は不吉な予感を抱きながら、問題のゲーム「カレンコレクション」のボタンを押した。
真琴がボタンをタップするや否や、画面全体が群青に染まった。
……鈴の音?そんな効果音が断続的に聴こえる。
群青がひとつ、その濃さを増す。
そしてこれは……星? 画面に一点、瞬く光の点が現れた。
光の点は、何種類かの色と大きさで次々と画面に散りばめられていく。
画面は、あっという間に粗いドットの星空となった。
そして画面は下に流れ、今度は地上を映す。
小高い丘のような場所で2頭身のキャラクターが二人、星空を見上げていた。
鈴の音のような効果音は、おそらく虫の声だ。
それにしても粗い絵……。ファミコンっていうんだっけ……昭和のレトロゲーム。そんな感じだ。
粗いドットのキャラがその場で動くと、画面の下半分にウインドウが現れてセリフを描き始めた。
真琴は眼でセリフを追う。
女の子「きれいだね、星」
男の子「うん、月が出てないからね」
女の子「見てるかな、私たちのこと」
男の子「かもしれないね」
女の子「あ、ながれ星」
男の子「ほんとだ……って……え?」
女の子「あれ? 止まったよ」
男の子「いや、そんなはずは……」
そこで画面は再び空を映す。
星……光の点が全部、画面の中央に吸い寄せられて1個の塊となった。
女の子「ね、ねえ……なに? あれ……」
男の子「わかんない……けど、逃げよう」
その時、画面は真っ白に光った。
女の子「キャッ!」
男の子「うわっ!」
セリフのウインドウが掻き消えたあと、次に画面は光の玉だけを映し出し、光の玉の向こう側から青い球体が顔を出す。
これは……地球? どうやら光の玉ごしに地球を見ているようだ。
光の玉から小さな光が放たれた。
ピキュン。そんな感じの音で。
そして画面は青い玉……地球を中央に据えた。
地球が段々と大きくなる。
これは……落下……か?
地球はみるみる大きくなり、やがて日本列島を映し出す。
その日本もどんどん大きくなり、日本の広北大学を映す。
落下は止まらない……。そしてとうとう地上、大学中央の大きな池に落下した。
画面は、冒頭と同じ群青に染まる。
ここでようやく、レクイエムのようなBGMと共に『カレンコレクション』というタイトルロゴが現れた。
ロゴの下、選べるコマンドは2つあった。
・はじめから
・チームへんせい
「…………。」
これでオープニングは終わりのようだ。
真琴は軽くため息をつく。
「……なかなかシュールだね、これ。あの光の玉は運営を象徴してんのかな?」
「かもね。中身はもっとシュールだよ。それよりさ、早くチーム組もうよ」
「うん、分かった」
真琴は「チームへんせい」のメニューをタップする。
そういえば、なんで「へんせい」が平仮名なんだろう。
ドット文字だけど漢字は表示できるみたいなのに。
そして画面は、チームメイトの学籍番号を入力する画面になった。
「ここに理沙の学生番号入れればいいの?」
真琴は、理沙に画面を見せながら尋ねた。
「たぶんそうだね。私のは281834J」
真琴は言われた番号を入力する。すると画面に「しんせい中」と表示された。
「申請中になったよ、理沙」
「ん……ちょっと待って。えっと……よし、できた」
「あとは……島田くんを入れなきゃ」
「だね。真琴、島田くんに私の学生番号教えて」
真琴は言われたとおり、理沙の学籍番号をラインで島田に知らせた。
しばらくして理沙が「お、来た」と言って携帯を操作する。その顔は嬉しそうだが、なんとなく邪な気配を感じさせた。
「理沙、アンタ……なんか悪巧みしてない?」
「え? ううん、してないよ。安心しただけ」
「そう? ならいいけど……」
「じゃあさ、真琴も始めてよ、ゲーム。早くしないと終わっちゃう」
「……終わっちゃう?」
「始めれば分かるよ。だから早く」
理沙がなんのことを言っているのか理解できぬまま、真琴は「はじめから」をタップする。
今度は名前入力画面になった。平仮名か片仮名で4文字か……。
「ねえ理沙、理沙は名前なんにしたの?」
「私? 私は『りさ』、そのまんまだよ」
「……いいのかな、ホントの名前で」
「…いいと思うよ、たぶん」
本当に大丈夫だろうか? ……まあ、もし不都合があればもう一度「はじめから」を選んでやり直せばいいか。
そう考えて真琴は自分の名前をそのまま入力した。
始まる……。
いったいどんなゲームなんだろう。
画面に、オープニングでも現れた光の玉が映し出された。
光の玉から地上に向け、一筋の光が伸びる。
そして画面は一旦暗転したあと、スポットライトのように中央にポツリと四角いキャラクターを照らし出した。
キャラクターはカレンのアバターと同じ……。おそらくこれが「まこと」なんだろう。
キャラクターの周囲が青暗く照らされていく……。その明かりは円状に広がっていった。
これは夜、そしてどうやら「まこと」は大きな交差点の角にいるようだ。
画面の雰囲気はやっぱりレトロゲーム……ファミコン風だ。「まこと」の後ろには理沙、そして島田くんと思われるキャラクターがいる。
聞き覚えのあるメロディーが流れ始めると同時に画面下にステータスウインドウと操作ボタンが表示される。
真琴はステータスウインドウを見てドキリとした。
つるぺた まこと
¥:17100円
☆:95個
〇:
「……なに、これ」
理沙が背後からそっと覗き込んでくる。
肩がプルプル震えているのが気配で判る。
「……理沙。……なに? この『つるぺた』っていうのは」
「……チ、チーム名」
答えるや否や、理沙はトイレに逃げ込んで鍵をかけた。
トイレの中で爆笑している。
「……開けな。理沙」
「なんだっていいじゃん。チーム名なんて」
「だからって、こんなふざけたのダメ、変えなさい」
「……変えられないの」
「え? マジで?」
「うん」
ええと、ということは……この恥ずかしいチーム名を背負ってゲームを続けるしかない……のか?
いや、でも、愛はチームを解消したりできるようなこと言ってたよな……。
「チームを解消することはできるんでしょ? じゃ、もう一回チームを組み直せばいいじゃん」
「……よく分かんない。でもこのゲーム、基本的にやり直しがきかないみたいだよ。名前も変更できないし、そもそも、もう一度〝はじめから〟っていうのができない」
「……そうなの?」
「うん、やっぱりただのゲームじゃない。このゲーム、どんな展開になってもやり直しができないんだよ。現実と同じで」
現実と同じ……。やり直しがきかないゲーム……か。
たしかに運営がやりそうなことだ。それで、運営はこのゲームで私たちに何をさせようというんだろう。
……とにかく始めよう。真琴はチーム名のことはひとまず置いといてゲームをやってみることにした。
自分の分身「まこと」は交差点にいる。
このゲームにおける「まこと」の目的も、まず何をすればいいのかさえも、オープニングからは判らない。
交差点の対角に人がいる。まず話を聞いてみよう。
真琴は方向キーで操作して、まことを先頭にして1列に並んだチーム「つるぺた」を動かし、ボタンを押してキャラクターに話しかけた。
『おお、やっと見えるようになった。なんだったんだ今のは。ああ、空の星が1個だけになっちまった』
さらに左にも人がいるので話しかける。
『光るおっきな玉が池に落ちたみたいだけど、なんかその欠片みたいなのが理学部の屋上にも落ちていったよ。怖いから、オレは見に行かないけどね』
ん……と、つまり、このゲームは広大が舞台で、まずは理学部の屋上に行けばいいのかな?
どうやら「まこと」がいるのは大学の北東端の交差点らしい。
じゃあ、まずは大学の敷地に入って理学部の屋上を目指そう。
そうして大学構内に入ろうとしたとき、魔女みたいな妙な格好をしたキャラクターがいた。
まことはこのキャラクターにも話しかける。
『大学は呪われた。いや、もともと呪われていたんだよ。お前さんもそう思うだろう?』
いきなりの質問だ。「はい」か「いいえ」で答えなければならないらしい。
……もともと呪われていた? そんな話は聞いたことがない。
真琴は「いいえ」を選んだ。
『そうかい。まあ、その目でたしかめてみるといい。呪いが解けないかぎり大学に朝は来ないよ』
そう言い残して、その妙なキャラクターはスーッと画面の左に消えた。と思ったら戻ってきた。
『そうそう、言い忘れたけどね、このゲームは現実時間の18:00から24:00までしか遊べんぞい』
そう言ってもう一度そのキャラクターは去って行った。
理沙が言ってた「終わっちゃう」って、このことか。
この「カレンコレクション」をプレイできるのは午後6時から午前0時まで……最大でも1日6時間なんだ。
真琴は時計を見る。もう11時半……。まあ、とにかく理学部の屋上に行ってみよう。
ゲームのマップは、概ね忠実に大学を再現しているようだ。
真琴は自分の分身「まこと」を操作し、構内を南下して理学部の入口を目指す。
突然、効果音とともに画面が暗くなり、敵が現れた。
敵との戦闘があるのか……って、これって……。
画面には、真琴でも知っている有名ロールプレイングゲームの敵キャラ「スライム」が表示されていた。
BGMといい、敵キャラといい、完全なパクリ……盗用だ。なんでもアリ……そんな感じのゲームだな。
ところが、姿こそスライムだが、その敵の名前は「スライム」ではなかった。
小3理科があらわれた!
「……は?」
選べるコマンドは〝たたかう〟と〝にげる〟だ……。
なにこれ? 真琴は理沙を呼ぶ。
「理沙、怒らないから出ておいで」
「……ホント?」
トイレから返事が聞こえる。
「ホントよ。出てこないなら怒るよ」
ようやく理沙がトイレから出てきた。手には携帯電話を持っている。
どうやらトイレの中でカレンコレクションを進めていたようだ。
「理沙、なにこの、〝小3理科〟って」
「そのまんまだよ。〝たたかう〟を選ぶと問題が出てくる」
「……小学生の問題が?」
「うん。最初は小1算数……3+2=□……だった」
「……じゃ、〝たたかう〟でいいのね?」
「うん」
真琴は眼前の敵「小3理科」に対して〝たたかう〟を選んだ。
画面が切り替わる。
カブトムシの足は何本ですか?
□本
「……6本よね」
「6本だね」
真琴は解答スペースに6と入力した。すると画面はパッと通常画面に戻った。
なんの手応えもないけど……これでいいのか?
「……やっつけたの? ……今の」
「答えは間違いないんだから、やっつけたんだと思う……けど、こんなカンジで、正解したのかどうか判んないんだよ。これね、まだ初め……小学生の問題だからいいけど、これが中学とか高校になっていくと思ったら怖くない?」
「……そうね。で、〝にげる〟ってなによ?」
「う~ん。チームの誰かが正解すればいいんだと思う。真琴と島田くんが逃避行してる間に私がやっつけた小1小2の問題は、たぶん真琴にはもう出てこないよ」
「なるほどね。それでチームか……」
「うん。わたし、高校物理とか現れたら迷わず逃げるし。そういうのは真琴がやっつけてよ」
「これ、正解するとどうなんの?」
「おカネと星が増えるみたい。星っていうのがなんの役に立つのか分かんないけど、おカネは……なんか買えるんじゃない?」
「チームで共有するのは、おカネと星?」
「そうみたいだね。もしかしたら他にも何かあるかもしんないけど」
「そっか」
「とりあえず……さ。真琴」
「ん?」
「今日のうちに理学部の屋上に行っといた方がいいよ」
「なんで?」
「このゲームのヤバさが分かるから」
理沙に言われたとおり、真琴は理学部を目指す。
小学生レベルの問題を解きながら……。
理学部の入口に来たとき、手前の掲示板の前に女の子のキャラがいた。掲示板の方を向いている。
まことの一群が近付くと、女の子の頭に「!」と表示され、女の子はツーッとどこかへ去って行った。真琴は女の子が見ていた掲示板の前でボタンを押す。
まことはけいじばんを見た。
「追試のお知らせ」
……今の女の子は追試を受けるんだろうか? よくわからないけど……まあいいか、今は屋上を目指すんだ。
真琴は建物の中に入り、廊下を歩き階段を登って屋上を目指す。
レトロゲーム風の夜の学舎、そしてチープな音楽……。
これはかなりシュール……不気味だ。
ようやく屋上に着いたが、屋上に落ちたという光の欠片はない。そのかわりに屋上にひとつ穴があいていて、穴の横に男のキャラがいた。
『さ、さっきカミナリみたいなのが落ちてきて穴ができたんだ。よかった、当たらなくて』
仕方がないのでひとつ階段を降りて、穴の真下……5階の廊下の奧に行く。
そこで光の欠片は廊下に突き刺さり、鈍い光を放っていた。
そこに近寄ると、いきなり画面全体が真っ白になり、パパパパッと10枚ほどの写真が連続で表示されて消えた。
そして画面が元に戻ったとき、欠片から光が消えていた。もう一度近づいても何も起こらない。
真琴は言葉を失う。
……なに? 今の。
表示された写真……。それはほんの一瞬だったが、真琴の心を波立たせた。
よく見る時間はなかったけど、誰かがビールを飲んでるような写真やサングラスをかけた男の写真、それと何かの植物の葉、ネオン街、車と道路に倒れた人。そして裸の女性……。
他にも、何かの書類のような写真もあったような気がするけど……。
特に裸の女性の写真は真琴の心をキュッと締め上げた。
自分ではなかった……はず。だけど嫌でも連想させる。自分の……爆弾を。
理沙は、これを今日中に見ておけと言いたかったのか。
「これは……運営からの脅し……だね」
「ああ、欠片の写真ね。うん、脅しだね、間違いなく」
理沙は自分の携帯でゲームを進めながら答える。
「理沙、このゲームをクリアすれば……私たち、解放されるのかな?」
「う~ん、どうなんだろ。でも、運営は『やれ』って言ってるよね、明らかに」
「……やるしかない、か」
「うん、そう思う。……ん、んん? あら?」
「……どしたの? 理沙」
「ヤバい。なんか、頭に点火した」
「え?」
見ると真琴の画面でも、チームつるぺたの真ん中「りさ」の頭の上で火花が散り、カウントダウンが表示されている。
4:59
ウインドウは緑色になっている。
「……理沙、アンタ何したの?」
「〝道徳〟っていう敵と戦ったんだよ。〝にげる〟って選択肢がなかった」
「……問題は?」
「あなたはウソをついたことがありますか」
「……で、アンタはなんて答えたの?」
「……いいえ」
「…………。」
「ね、ねえ……これってヤバくない?」
「……ヤバそうだね」
そんな話をしているうちに午前0時になり、画面に「セーブ中」の文字が現れた。
そして自動的に「カレンコレクション」が閉じ、画面はカレンのトップページになった。
カレンコレクションが強制セーブされて閉じたあと、怯えたような声で理沙が言う。
「……どうしよう真琴。あれ、爆発したらいけないヤツだよ、絶対」
確かにそうだ。何の説明もないけど「りさ」の頭の上に着火した火は、何らかの方法でタイムリミットまでに消さなければならなそうだ。
最悪の場合は処刑……運営によるプライベートの公開もあり得る。
火が点いたのは「りさ」だが、チームを組んでいる以上、私や島田くんに影響がないとは言い切れない。
「理沙、あの頭のタイマー…どこまで進んだ?」
「え……と、たしか4:55で終わった」
「じゃ……あと4時間55分あるってことね」
「たぶんそう。頭の上に5:00って表示されたときは5分しかないって思ったけど、5時間みたい」
「だとすれば……まだけっこうあるね、時間は」
「うん。でも、解決方法が分かんないよ」
「でもさ理沙、とりあえず最大の問題は、あのカウントダウンが今でも進んでるのか、それとも止まってるのかじゃない?」
「ゲーム内だけのものか、現実の時間なのかってこと?」
「そう。今が止まってるなら……もっと落ち着いて考えられる」
「そうだね。カレンのどこかにヒント……いや、うまくすれば同じ目に遭った人が解決方法を書き込んでるかもしれない」
「そう、そうだよ理沙、カレン見てみよう」
真琴と理沙はそれぞれカレンの掲示板を漁り始める。
だが、同じ状況に陥った人の不安の声は沢山あるものの、解決方法を示す書き込みは見当たらなかった。
そこに島田からラインでメッセージが届く。
〝解決方法は分かんないけど、とりあえずゲームを再開するまではカウントダウンは進まないみたいだぞ〟
それは朗報だ。でも、なんでそう言い切れるんだろう。
確信が欲しい真琴は島田に返信する。
〝それホント? どうして分かるの?〟
すぐに島田から返事が来る。
〝もう一度カレンコレクションを開いてみれば分かる〟
真琴は島田の返事を受けてカレンコレクションを開く。
すると画面の上に「つるぺた」とチーム名が表示され、その下にキャラクターが横並びで表示されていた。
3体のキャラクターの下にはそれぞれの名前が「まこと」「りさ」「なおっち」と表示されている。
島田くん……。「なおっち」か……。
そしてその画面でも「りさ」の頭の上では火花が散っていて、タイマーの数字「4:55」が点っていた。
ゲームが終了してから15分は経っているけど、カウントダウンは進んでない……。
つまり、ゲーム内でしかカウントダウンは進まないんだ。
よかった……。それなら、今度ゲームを再開したときにゲーム内で解決方法を探せばいいんだ。
画面の下の方には「プレイ可能時間は18:00~24:00です」とある。
「理沙、解決法はまだ分かんないけど、とりあえずゲーム内でしかカウントダウンは進まないみたいだよ。ホラ」
そう言って真琴は携帯の画面を理沙に見せた。理沙の顔にひとまずの安堵が浮かぶ。
「……よかった。マジ焦ったよ。じゃ、ゆっくり考えられるね」
「うん。同じ状況の人はいっぱいいるみたいだけど、まだ誰も解決できてない。また夕方、ゲームを再開してから探せばいいよ」
「わかった。そうしよ」
「そもそも理沙がテキトー答えるからこんなことになるんだよ」
「……だって、怖くない? あの質問に『はい』って答えるの」
「……まあ、ね」
自分だったらどう答えただろう?
理沙が言うように「はい」と答えるのも勇気が要るが、ウソをついたことがないと胸を張って言える人など、そうそういないだろう。
まあ結果として、カレン運営がプレイヤーに求めているのは「正直な」答えらしい。
これは、このゲームに向き合う上で重要な教訓だ。おそらく理沙がひっかかった質問は、考えに考えた末に「いいえ」と答えた人も多いはず……。
つまり運営は、ゲームの冒頭で私たちの心理に釘を刺したんだ。……きっと。
であれば、おそらく今回のハプニングは単なる警告……。
そう深刻にならなくても解決の道は示されるだろう。
真琴はそう考えたが、その楽観的な見立ては理沙には言わないことにした。
チーム名のことといい、理沙にはもっと真剣になってもらわないと困る。
緊張感に欠ける理沙には丁度いい薬だ。
「さ、理沙、解決法はまた夕方、ゲームを再開してから考えるよ。私、今日も朝からバイトなんだ。寝とかなきゃ」
「分かった。ねえ真琴、私……大丈夫かな?」
「そんなに怖がるんだったら、もっと真剣にやろうよ」
「……は~い」
「じゃあね理沙、私は寝るよ。バイバイ」
「ああっ」
「……なによ今度は?」
「真琴のラブストーリー、まだ聞いてない」
「……それ重要?」
「チョー重要だよ。何してたのよ、二人で」
「……海までドライブ、した」
「ふんふん、それで?」
「途中で買った花火を……海辺で」
「それから、チュー?」
「してないよ、そんなこと」
「じゃあ……ハグ?」
「……してない」
「え~。なにやってんのよ」
「手……つないだ」
「キャ~。かゆい~」
「それだけよ。……もういいでしょ。帰りな」
「はーい」
やっと理沙が帰った……。
カレンに新しい機能が加わるという情報は昼に松下さんから聞いていたのに、ゲームは30分しかできなかった……。ちょっと出遅れたな。
でもまあ、いいか。島田くんとチーム組めたし。
島田くん……。そう、島田くんだ。今日はカレンのゲームなんかより遥かに大切な時間を過ごしたんだ。
真琴は島田と二人きりの時間を思い出して胸を熱くする。
でも、もう寝なきゃ。日曜の昼も店……もっすバーガーは戦場だ。寝不足ではキツい。
真琴は島田に『おやすみなさい』のメッセージを送った。すぐに返事が来る。
〝うんおやすみ。俺も明日はサークルに行くよ。ああそれと、火を消す方法の見当がついた。なんとなく、だけどね〟
〝ホント? どうやんの?〟
〝ゲームが再開しないと確認できない。だからそれもまた明日、だな〟
〝わかった、おやすみ。ドライブ、楽しかった〟
真琴は島田と過ごした時間を思い出しながら眠りに落ちた。
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