「先述の大手SIerが代表的な例ですが、国内企業は研修が完全に体系化されており個々が選択する余地はあまりありません。一方、外資の場合はグローバルで共通の研修コンテンツをe-ラーニングで受講する形が多くなっています。何をどの程度研修するかは個人の判断に任されており、就業環境に応じて自分で必要とする研修を積み上げていく形です」
これまでの話を踏まえると、研修以前に就職先を考える段階で、自身がどの分野に専門性を持つかを考えるべきだといえそうだ。では、プログラミング、サーバ、 ネットワークという3分野の将来性をどうみるべきか。
「プログラミングはソフトウェアを作る仕事です。使われる言語はJavaやCに加えて、最近ではPythonが主力になっています。将来性については、残念ながら限定的と考えざるを得ないでしょう。生成AI が実用化に至れば、設計書さえあればプログラミングはAIがやってくれるからです」
ただし、作業者にとどまらず設計や要件定義など「上流のスキル」を身につければ、プログラミング分野でも将来性はあるという。今後は、顧客が持っているイメージとプログラミングの間に橋をかけるスキルが重要になってくるといえる。
「サーバとは平たく言えばクラウドのことで、アマゾン ウェブ サービスが提供するAWSや マイクロソフトのAzure、グーグルのGoogle Cloudなどを利用して、ITサービスを作り上げる技術です。サーバは従量課金なので、サービスを効率的に実現するために、必要なサーバやストレージのリソースをうまく借りて、適切に動かす技術が求められます」
不必要に借りすぎてしまうとコスパが悪くなり、逆にケチりすぎるとシステムが動かない。必要な速度やサービスに過不足ないシステムを組み上げるスキルこそ、サーバ技術者に求められるものだ。クラウド重視は国の方針でもあり、クラウドを使いこなせる技術には確かな将来性があるといえるだろう。
「ネットワークはコンピュータ同士をつないで安定的に動かす技術で、効率性とパフォーマンスをともに追求する点ではサーバ技術者と同じです。スマート住宅や家電なども含めてコンピュータのつながりは増えていく一方であり、ネットワーク分野ではセキュリティに将来性があると思います」
最後に、研修に臨むうえで新卒者が心しておくべき点を聞いた。
「実際のところ、研修段階では就職先に合わせるしかないでしょう。まずは自分が置かれた環境で生き残るための選択に集中すべきです。そのうえで、仮に転職が頭にあるのであれば、今はお金をもらって勉強する期間と割り切り、将来性重視で選択していくことにも合理性はあると考えられます」
田中氏によると、エンジニアの将来像には大きく2つのパターンがあるという。従来の社内出世モデルと、生涯現役モデルだ。
「前者は現場でエンジニアとして働きながら、社内に即したスキルとコミュニケーション能力を磨き、マネジメントに進んでいくものです。後者は生涯エンジニアとして開発に携わっていくものですが、SNSなどで見るかぎり、なかなか骨の折れる生き方といえるかもしれません。第一線で競い続けるモチベーションを長く維持できるかどうかをしっかり考える必要があるでしょう」
仕事のキャリアを考えるうえで、 自分の性格や人生設計を加味することは欠かせない。若いうちは軽視しがちなこれらも含めて、自己実現を深く考えてスキル設計を行ってほしいと田中氏は語った。
(文=日野秀規/フリーライター、協力=田中健太/鶴見教育工学研究所)