日本列島を襲った数々の震災を経て国民の防災意識は高まっており、建設物に対しても高度な耐震性が求められるようになっている。そんななか、1月19日付「現代ビジネス」記事『「巨大地震」で崩壊…日本に「キケンなマンション・建物」が意外と多いという現実』で指摘されている、東京都にあるマンションのうち耐震改修済の物件がわずか26%しかないという内容が一部で話題を呼んでいる。2021年12月末時点の集計データによると、耐震診断は6割が未実施。実施済みは3割ほどで、そのうち5割が「耐震性なし」と診断されたものの、改修に至ったマンションは26%ほどにとどまっているという。マンションの耐震対策の実態について、住宅ジャーナリストの山下和之氏に解説してもらった。
「マンションなどは法令によって定められた耐震基準に基づいて建てられますが、何度か改正されており、現在は1981年の建築基準法施行令の改正までに建てられたものを『旧耐震基準』の建物、以降のものを『新耐震基準』の建物と呼んでいます。国土交通省が5年に1回、 全国のマンションを対象に行っている『マンション総合調査』アンケートによると、回答のあった1688棟のうち旧耐震基準で建てられているマンションの割合は18.0%。そのなかには規模の大きなマンションも含まれており、特に500戸以上の大規模マンションだと17棟中9棟は旧耐震基準の建物という結果になっています」(山下氏)
旧耐震基準の建物は、築年数でいえば40年以上の物件だ。
「ただ、実際の耐震性というのは築年数だけでは判断できないものがあります。1981年以前の旧耐震基準で建てられたマンションでも、強固な構造をしていて新耐震基準の審査をしていないだけという場合もありますし、逆に1981年以降に建てられていても、その後の老朽化や大規模修繕の未実施などで維持管理がしっかりできておらず耐震性に不安のある物件も多いと思われます」(同)
法律的には、現行の新耐震基準を満たしていなくても建物を改修する義務はないとされ、管理組合やデベロッパー側の自主的な判断に委ねられている。しかし、耐震性を高めるための大規模修繕工事は住民のコンセンサスが取りにくく、なかなか進まないという現状がある。
「耐震強化するためには一戸あたり50万~100万円の費用がかかりますが、平均的な修繕積立金だけではとても足りません。古い物件になると、住んでいる人も高齢者やリタイア世代が多くなっていて、やらないといけないのはわかってるけど、お金がないからできないということが多い。また、分譲マンションだとオーナーと賃貸者で意見が合わなかったり、空室や権利者不明の物件があるなど、足並みが揃わないケースも多いので、なかなかまとまりません」(同)
では、これからマンションを購入・賃貸する時に、その物件の耐震性能を見極めるには、どういった点に注目すればいいのだろうか。
「建物の耐震性を推し量る基準として『耐震等級』があります。等級は1から3まであり、1から2になると1.25倍、3は1.5倍の耐震性能があるという計算になります。ただ残念ながら、この耐震等級を取得しているマンションは少なく、取得していても9割が耐震等級1なんです。マンションが耐震等級を上げるためには、柱や梁を太い構造にしなければいけないのですが、これは非常にコストがかかります。マンションはそもそも耐震性が高いというイメージがあり、デベロッパーとしては無理して耐震等級3にしなくても売れるという現実があるので、あまり重要視しないのです」(同)