ここ数年、離職防止やモチベーション向上のために、1on1を導入する会社が増えています。
1on1とは、部下の本音や悩みなどの把握を目的として、比較的フランクな雰囲気の中で部下の発言を尊重しながら、上司と部下の双方向のコミュニケーションを行うものです。
私は経営心理士、公認会計士として心理と数字の両面から経営コンサルティングを行っていますが、1on1の導入に関する相談を受けることがあります。その中でこんな事例がありました。
その会社は離職者が多いという悩みを抱え、その解決のために社長自ら1on1を実施していました。ところが離職者は減るどころか、むしろ増えている気配すらあるとのこと。
そこで私がコンサルタントとして関わり、まず部下の方にヒアリングを行いました。その結果、こういう意見が多く聞かれました。
「社長が『悩みとか不満があるなら話して』と言うものの、社長はトップダウンでものを言う人なので、とてもじゃないけど言いたいことなんて言えないです」
「社長に不満なんか言うと、逆に『お前はわかってない!』って説教されそうで怖いです」
「1on1は部下の話を聞くための機会だって人事から聞いてたんですけど、結局、社長の昔話を聞かされて終わりでした。『ありがとうございます。勉強になりました』と言うと、社長はご満悦でした」
つまり、1on1をしたつもりが、まったく1on1になっていなかったのです。
なぜ社長は部下から本音を話してもらえなかったのでしょうか。
それは、部下から「この人は自分の気持ちをわかろうとしてくれない」という印象を持たれていたからです。
その状態で「悩みや不満があれば話してほしい」と言ったところで、相手は悩みや不満があったとしても「あ、大丈夫です」と言って話してはくれないのです。
この点、パーソル総合研究所の「職場での対話に関する定量調査」によると、上司との面談において、どれだけ本音を話せているかについて、41.6%の方が「全く本音で話していない」と回答しています。
この結果からも、多くの上司が部下の本音や悩みを把握できていないことがうかがえます。
部下から本音を話してもらえるようにするためには、「この人は自分の気持ちをわかってくれる」という印象をもたれることが必要不可欠なのです。
そして、その印象は「普段の話の聞き方」から形成されます。
では、どのような話の聞き方をすれば、「この人は自分の気持ちをわかってくれる」という印象を持たれるのでしょうか。