KDDIが"ローソン経営"で狙う「シナジー」の中身

会見で目標達成の時期は明示されなかったが、単純計算すれば、会員数が500万増えると年間330億円程度の売り上げになる。これが、KDDIが現状見込む数値的な「シナジー」といえそうだ。

ポイント経済圏で巻き返せるか

もっとも、新たな名称で「Ponta」を前面に打ち出したことからもわかるように、同サービスの拡大を図る真の狙いは、グループの「ポイント経済圏」を強化する点にあるといえるだろう。

10月2日にリニューアルするPontaパスのイメージ
「auスマートパスプレミアム」を「Pontaパス」にリニューアルし、会員数拡大を目指す(撮影:尾形文繁)

通信キャリアは、携帯電話とポイント還元を組み合わせて提供する新プランを相次いで投入するなど、自社サービスなどを活用した顧客の囲い込み競争が激しさを増している。

「Pontaポイント」は、KDDI、三菱商事、ローソンの3社で6割超出資する「ロイヤリティ マーケティング」が運営し、会員数は約1億1800万人に上る。ただ、「経済圏」という意味では、競合と比べるとその存在感は見劣りする。

MMD研究所(東京)が2024年7月に実施したアンケート調査では、ポイント経済圏のメイン利用者が「意識している経済圏」について、「au」と回答した人の割合は15.8%で、「楽天」(43.9%)、「PayPay」(29.8%)、「ドコモ」(23.7%)などの競合に大きく水をあけられている。

「最も活用しているポイント」についても、Pontaポイントは8.2%にとどまり、楽天ポイント(33.7%)をはじめとする競合キャリアの数字を下回った。消費者にとって身近な存在であるコンビニを本格的に活用することで、自社の経済圏をどれだけ広げられるかが今後の焦点となる。

本業である通信回線の拡大に向けても、いくつか新たな取り組みが示された。

KDDIが展開するオンライン専用ブランド「povo」について、「サブ回線」での利用を想定したeSIMを2024年度中に全国のローソンで販売する。?橋社長は「(サブ回線について)ドコモユーザーも、ソフトバンクユーザーも、あらゆるキャリアのユーザーでセットアップができて、速度制限の問題も解決する」と強調した。

povoのサービス画面イメージ
ローソンに来店すると、povoのデータ容量を無料で100MB提供する施策を2024年中にも開始する(撮影:尾形文繁)

コンビニを通じた携帯電話事業の拡大に向けては、店舗に端末や販売員などを置かない限り、来店者に機種変更や他社からの乗り換えを促す本格的な販促活動はハードルが高い。

一方、大規模な通信障害が近年相次いだことなどから、主回線だけでなくサブ回線を持ちたいという消費者のニーズもあり、サブ回線を追加する気軽な形であれば、一定の利用者獲得につなげることは期待できる。

さらにpovoのデータ容量について、ローソンに来店すると1回につき100MB(月の上限は1GB)を無料で提供する施策も2024年中に開始すると発表した。消費者がサブ回線を取得するインセンティブを示しつつ、自社ユーザーのローソン来店を促して店内でのついで買いにもつなげる狙いだ。こうした回遊性を高める仕組み作りは、今後KDDIとローソンの相乗効果を発揮していくうえで鍵を握りそうだ。

5000億円投資のリターンなお見えづらく

KDDIによるローソンへの出資が発表された当初、投資対効果への不透明感などから懐疑的な動きを見せていた株式市場は、一連の発表を一定程度好感したようだ。会見の翌9月19日には、KDDIの株価は前日比2%弱高の4813円に上昇した。

ただ、2月の提携発表以降、KDDIの株価は低迷し、6月には一時4100円台まで下落していた。現在の株価は、提携発表直前と同じ水準にようやく戻った状況にある。

?橋社長も9月3日に開かれた自社イベントの場で、「小売りの利益率は、通信よりも高くない。実は出資をしてから、半年間くらい、投資家に『なんでこんなところに出資するんだ』と言われ、抗弁するのが非常に大変だった」と明かしていた。

今回、ローソンを通じた自社事業強化に向けた具体策をいくつか示したとはいえ、5000億円という投資額のインパクトと比べると決定打に欠ける印象も受ける。投資に見合うリターンを得られるのかという観点では、具体的な数値指標の公表も限られていた。

KDDIは会見で、ローソンを通じた地域社会貢献など「ソーシャルインパクト」という言葉も強調した。公共の電波を使って社会インフラを支える通信会社として、ローソンの経営についても、純粋な利益追求にとどまらない意義を打ち立てたいという考えだろう。

携帯キャリアとして初のコンビニ経営になるだけに、まだ手探りの部分が多いことはたしか。だが、市場の懸念をさらに払拭していくためには、経済圏拡大などの具体的な成果を着実に示すことが求められそうだ。