前回の記事で、奥さんの愚痴は共感するだけでいい、と書きました。
ところが、これが難しい。
ビジネスの世界では、「知っていることとできることは違う」とよく言いますが、奥さんの愚痴に共感を示すことほど、わかっていてもできないことはないように思います。
男性にとって、奥さんの愚痴に共感を示すのが簡単でないことには理由があります。
前回も書いたように、男性は問題解決を好む傾向があり、他人の愚痴を聞くと適切な対処法を考えたくなってしまうのです。
しかし、女性が愚痴を吐くのは、「ただ言いたいだけ」。解決を求めているわけではありません。
だからこそ、共感さえしていればいいのですが、聞く側の男性はそこでとどまることができません。どうしても具体的な解決策を考えてしまうのです。
結果として、毎日、奥さんの愚痴を聞かされる男性は、口に出していなかったとしても、その解決策を考えてしまい、それにエネルギーが割かれ、疲労が蓄積してしまう。
このような、入り組んだ事情があるために、ただ愚痴に共感を示すだけといえど、なかなか困難なことなのです。
ちょっと視点を変えてみます。ビジネスの世界において、何気ない愚痴が、組織全体に悪影響が与えるというデータがあります。
アメリカのIT企業を対象に、腐ったリンゴの実験と呼ばれる大規模な調査が行われました。これは、ビジネスチームの集団に、あえて「腐ったリンゴ」を演じてもらう人を送り込んだ場合、どのくらい生産性が落ちるのかを調べたものです。
具体的には、腐ったリンゴとして以下の3つのタイプが設定されました。
① 反対する人(攻撃的・反抗的)
② 怠ける人(サボり、ごまかし)
③ 周囲を暗くする人(愚痴る、嘆く)
この3タイプのどれかを演じてもらったわけですが、実際にチームの生産性を40%落としたタイプがあります。それはどのタイプだと思いますか?
たとえば10人のチームに1人送り込んで、その人が機能しなかっただけであれば、生産性は10%も落ちません。しかし、40%落としたということは、他の人にも悪影響を及ぼしたということです。
この実験は、本当に面白く、いろいろなことを教えてくれるのですが、この3つのタイプは、いずれも職場によくいるタイプではないでしょうか。
反対する人(攻撃的・反抗的)というのは、会議などで、「賛成できません」「反対です」とかたくなに拒否したり、みんながやろうとすることに乗っかってくれない人です。
怠ける人(サボり、ごまかし)は、こっそり手を抜いたり、なるべく自分に仕事が回ってこないようにする人です。
周囲を暗くする人(愚痴る、嘆く)とは、「やってられないよ」と仕事へのやりがいのなさや上司への不満をぐちぐちと言う人です。
いますよね、組織を運営する際の悩みで、よく出てくるタイプたちです。さあ、どのタイプが生産性を40%落とすことに成功したと思いますか?
本当に驚きの結果なのですが、なんと3つのタイプすべてで40%の生産性のダウンが見られたのです。
攻撃的・反抗的な人が会議に1人いると、会議が終わるころには、2,3人、攻撃的・反抗的な人が増えるのだそうです。
怠ける人がいたら、実験前は、そんな怠け者に対して怒り出す人が出てくるのではないかと予想していたそうですが、実際には、一緒にサボりだす人が出るだけで、怒る人はほとんどいなかったそうです。
周囲を暗くする人については、愚痴るくらい大目に見てもいいのではと思いそうなものですが、愚痴を聞かされた周囲の人まで物事の見方が悲観的になってしまい、うまくいくと思えなくなったりして、生産性が落ちてしまったのだそうです。
これって、恐ろしい結果だと思いませんか。
3つのタイプとも、どの職場にもよくいるタイプだと思います。皆さんの職場にもいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、実際に職場にいる腐ったリンゴの人は、1対1で話してみると、悪い人とは思えない場合がほとんどです。
とくに愚痴る人は、本人が「愚痴っている」という認識がない場合も多のです。
話を家庭に戻しますが、皆さんの奥様が、何気なく話している愚痴話。おそらく奥様方も、組織にいる愚痴っぽい人と同じように、「愚痴っている」という認識すらないはずです。