社員成長の決め手は、人事が9割

多くの会社が陥りがちな「無意味な新卒採用」とは――

2024.03.13 公式 社員成長の決め手は、人事が9割 第20回

なんとなく新卒採用をしていませんか?

会社がある程度の規模になると、「うちもそろそろ新卒採用する?」といった話が出てきます。社員数が50名程度だと難しいかもしれませんが、100名以上になると中小企業の多くが検討するようになります。そこで考えたいのが「新卒採用の意味」です。

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すでに新卒採用を始めている企業の経営者や人事担当者に「なぜ新卒採用をするのですか?」と尋ねても、あまり明確な答えが返ってくることはありません。「えっ、なんでだっけ?」と戸惑われることが多く、返ってくるのは「他社を経験していないので真っ白だから」「新卒のほうが中途より定着しやすいから」といった答えが大半です。

でも本当にそうでしょうか? SNS全盛の昨今、Webには真偽不明な情報が溢れています。社会人経験のないZ世代の学生ほど、かえって誤った就業観や会社観に染まっているかもしれません。新卒の3割が3年以内に離職することも定説となっており、最近は入社してからも大手への就職活動を続けている人が増えているといいます。

私は、「新卒は真っ白」「定着しやすい」という発想は都市伝説に近い根拠のない考え方ではないかと思っています。中途採用であっても、時間をかけて教育し組織に溶け込めるような施策をしていけば、定着率は新卒と変わりません。他社を経験しているからこそ、自社の良さが伝わる場合もあります。

新卒採用は、莫大な時間とお金と手間がかかります。採用の2年ぐらい前から計画を始め、インターンシップをやって、媒体に告知し、説明会を開き、選考し、内定を出しますが、内定者から辞退されたり、入社しても3年以内に3割が辞めたりします。数年以内に全員が離職することもあるため、時間もお金も手間もすべてが無駄になるかもしれません。

新卒一括採用は、昭和から続く日本独自の仕組みですが、実はこれほど効率の悪いものはないのです。「なんとなくフレッシュな若いやつが欲しいぞ」というフワッとした感覚で新卒採用を始めてしまうのは、非常にリスクが高いのではないでしょうか?

それでも新卒採用をする理由

なぜ、それでも新卒採用をしている企業が多いのでしょうか。さまざまな会社の現場で働く管理職に「なぜ御社は新卒採用をするのですか?」と質問すると、多くの人がこのように答えます。

「人事が楽しいからでしょ?」

そう、新卒採用は楽しいのです。若い人はみんな可愛いです。演技かもしれませんが、みんなキラキラした目でこちらの話を素直に聞いてくれます。内定を出せば(一見)大喜びして感謝の言葉を述べてくれます。優秀な人材を採ろうと思ったら、世界最大級の就職・転職イベント「ボストンキャリアフォーラム」に行かなくてはいけないと言われていますから、わざわざアメリカまで行ったりもします(ただの旅行ではないですよね)。

人事担当者にとって、これほど楽しいことはありません。私も経験者ですから、その気持ちはよくわかります。しかし、新卒はすぐには戦力化しません。育てるにもパワーがかかります。現場の人間にOJT担当をお願いすると、めちゃくちゃ大変なので疲弊してしまうケースが多くあります。

楽しい反面、リスクも高いのが新卒採用です。私はそれも身に染みてわかっていましたから、2つの企業で人事部長をしていたときは「なぜ新卒じゃなきゃいけないんだっけ?」とすごく悩みました。経営者とも何度も話し合い、それでも新卒採用を続けたのは、以下のような理由からでした。

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・大量の人材を同時に採れる
・同時に教育できる
・人件費が安い
・コア人材を育成するため

特に重視したのは、コア人材を育てることです。当時、私がいた会社は、成長期から安定成長期の企業ステージに入ろうとしていました。安定期は長続きしないと想定していましたから、10年以内にやってくる変革期に備え、新たなに事業をつくっていく必要がありました。そのため組織を変革し、新たな価値を生み出せる人材を育てていかなくてはいけないと思ったのです。

コア人材とは、企業経営を行う将来の幹部候補です。いろいろな経験をして、社内のことをよく知っている必要がありますから、育てるのに時間がかかります。年収500万、600万の中途社員を採って育成期間に3年かけたりするのはリスクが高すぎます。

では、ポテンシャルが高くて、エネルギーもあって、最も人件費が安いのは誰か。そう考えたときに「新卒だ」という結論になりました。育成期間を長く設けるためには、人件費を安く抑えなくてはいけません。いちばんお給料の安い人たちを採って、ある程度時間をかけて、いろいろな経験をさせて育てる。私は、そのために新卒採用を行っていました。

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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