人事異動は、会社の空気を変える重要な施策です。「会社は自分の希望なんて聞いてくれない」「異動願いを出してもどうせ実現しない」。社員の多くはそのように考えています。だからこそ社員一人ひとりの希望を聞き、思い切った人事異動を実現することによって、会社に対する見方を変えることができます。
ただし、誤解している人が多いのですが、人事部門には、実は「人事権(人事における最終的な決定権)」がありません。会社にもよりますが、「思い切った人事異動の決断をできるように提案し承認を得ること」が人事部門の役割になります。
人事への信頼は、会社への信頼とイコールです。人事担当者が個々の希望を叶えるために各部署に働きかけることは、社員のモチベーションを高め、エンゲージメント(会社への愛着、個人と組織が一体になり双方の成長に貢献しあう関係)の向上にも繋がります。人事異動の提案は、人事担当者のとても重要な仕事なのです。
では、そのためには具体的に何をしたらいいのでしょうか。今回は、人事担当者がやるべき人事異動における3つの大事なポイントについてお伝えします。
まずは、前述したように「本人の希望」を優先することが基本です。人事異動には、いろんな考え方があります。会社の戦略や上長の思惑によって、人事異動や人材配置を行う場合もあります。それも大事ですが、「あの仕事をしたい」「この部署を離れたい」といった本人の願いを叶えることを優先して考えましょう。
社員一人ひとりの希望を聞いても必ずしも全員の願いを実現できるわけではありませんが、10%でも15%でも願いが叶い、その人たちが「異動を希望したら本当に叶った」と社内で話したら、会社の雰囲気はガラッと変わります。「会社って社員のことをちゃんと見てくれているんだ」と、会社に対する印象さえも変わります。
人事異動には、一定期間パフォーマンスが落ちるリスクがあります。やったことのない仕事をするわけですから、最初は当然そうなります。そのため誰かが強く言わないと、人事権を持っている人は思い切った決断をすることができません。その決断を促すことができるのは、常に「人」のことだけを考えている人事部門だけです。
本人が希望する人事異動を実現させるのは、簡単なことではありません。評価が高い人材は上長が囲いたがりますし、希望する部署や仕事に空きがあるとも限りません。人事担当者は、おどし・すかし、抱き合わせでの異動など、さまざまなテクニックを駆使して、それを実現できるように働きかける必要があります。
おどし・すかしとは、「この人をここに異動させたいんですけど、お願いできませんか」「このまま今の部署にいたら辞めちゃいますよ」「去年もそれで1人辞めちゃいましたよね」などと強く言って上長の決断を促すこと。1年目には実現できなくても「来年はお願いしますよ」と約束して、粘り強く交渉を続けることが大事です。
本人が希望しても、異動先の部署がそれを望まないこともあります。そういう場合は「Aさんを異動させますから、Bさんも引き受けてもらえませんか」と異動先の部署が望む人材とセットでの異動を提案します。
上長を説得するだけでは難しい場合は、経営者に裏から手を回して、直接訴えかけたりすることも必要です。そうして少しずつでも個々の願いを叶えていけば、本当に会社の空気がガラッと変わります。「社員の希望を叶えるために人事が頑張っている」という認識が広まっていくことは、会社への信頼にも繋がるのです。