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主人公の小野寺俊が15年前を思い出している。駿が中1の時の物語である。
翔は、小学6年の運動会をきっかけに、中学生になったら100メートルでジュニアオリンピック出場を目指すことになった。担任の園田先生や校長先生、若い頃箱根駅伝で活躍し、多くのアスリートを育てた、近所に住むおっちゃんの勧めによるものだった。
中学1年生になって陸上部に入った駿は、おっちゃんの教え子の佐東(さとう)東志生(としお)先生と出会う。クラスメイトには幼馴染の佐藤睦美、同じ陸上部で1500メートルを得意とする赤井琉太がいた。ある日翔の走りに憧れた吹奏楽部の新垣未来(みく)から手紙をもらう。持ってきたのは睦美だった。これがきっかけでミクとの距離が近くなる。
翔も琉太も地区予選から順当に勝ち上がる。翔は早々にジュニアオリンピックの出場資格を得、新記録で優勝するという目標が近づいた。琉太も努力の甲斐あって県大会で優勝しジュニアオリンピックに参加できることになる。
前後して、ミクは駿の気持ちを確かめるべく探りを入れる。付き合っている相手がいないことを知るが、睦美のことが気になっていた。数日後ミクは睦美の気持ちも確かめる。睦美は言わなかったが、ミクには睦美の気持ちがはっきりとわかった。このことが引き金となって、睦美は駿への恋心を自覚する。そして駿との初恋が実る。
駿は、いとこの舞の、夢を追う姿に影響を受けたり、琉太をはじめとする友人の力を借りたり、おっちゃんや佐東先生のバックアップを受けたりしながら、同級生の妨害にも負けずに成長する。
大会を控えたある日、睦美に父の転勤による転校を聞かされる。大きなショックを受けるが、それをきっかけに駿の目標に「睦美のために優勝すること」が加わった。立ち直った駿は、ジュニアオリンピックで優勝し、睦美と再会を誓って握手をして別れる。
文字数 90,224
最終更新日 2024.04.29
登録日 2024.04.29
幼女の名は逢瀬瑠璃という。その日、幼稚園が終わってからいつも通り母親の迎えを待っていた。だが、今まで1度もそんなことはなかったのに、園児たちがみな帰ったあとも姿を見せなかった。毎日、帰る道々幼稚園での出来事をおしゃべりするのが楽しみだったし、今日も話すことが今にも破裂しそうな風船のように、瑠璃の心を満たしていた。
そろそろ寂しさも限界に近づき風船もしぼみかけた頃、幼稚園の門の前に一台のタクシーが止まった。降りてきたのは瑠璃の父親だった。瑠璃にとり、それはとんでもないサプライズで、サンタクロースのプレゼント並みの喜びだった。
満面に笑みを湛え父親に飛びつく瑠璃だったが、「お帰り」と抱きかかえた父親の言葉は素っ気なかった。何から何までいつもと違うことに、瑠璃は不安を覚え、どうしたのと父親に問うた。しかし答えを聞かされないまま、待たせていたタクシーに乗せられた。
行き着いた先は病院だった。病室のベッドには頭を白いネットで覆われた母親が眠っていた。今朝一緒に幼稚園まで来て、じゃあねと別れたときからは想像のできない姿だった。瑠璃は全く理解ができなかった。流れる涙をそのままに、母親のベッドの脇に立っていた。
翌日、母親は意識を取り戻すことのないまま、死んだ。兄とともに泣きじゃくる瑠璃だったが、葬儀の日からぴたりと泣かなくなった。それがむしろ参列者の涙を誘った。瑠璃が4歳のときのことだった。
都立下恋雀(しもれんじゃく)高校は、港東区にある中堅レベルの進学校だった。文武両道、自主独立を教育方針とするのは都立ではごく当たり前だが、そんなことよりも校舎を新築したことが、地味だったこの学校を一躍人気校にした。
瑠璃は、都立には珍しく、図書室に続く廊下と、そこに面したテラスにカフェテリアのあることが第一に気に入った。成績的にはもっと上の学校を狙っても良かったが、そういう訳でここを第一志望校に選びトップで合格した。
瑠璃の名は、ラピスラズリが好きだった画家の去来が付けた。それを知った瑠璃のともだちはらずりと呼んでいる。
これは、高校2年生の瑠璃を取り巻く友人たちや的屋たちとの関わり、また瑠璃の、家族との関わりを通じた成長の物語である。
登場人物たちの軽妙なやり取りや少しのユーモアもお楽しみください。
文字数 99,887
最終更新日 2023.04.30
登録日 2023.04.30
「爪」:近未来、ヴァーチャルリアリティの進化は目覚ましく、人々の生活を大きく変化させていた。人間性を身につけ始めたアンドロイドは自分を人間だと認識して生きている。だが、開発途上のアンドロイドにバグはつきもの。はかない。
「ツイート的自己満足」:少年のころの思い出などをつぶやきながらツイートを楽しむ男。だがそのうちに現実との区別がつかなくなっていく。徐々に狂っていく。
「Y2K」:それまでは波風の立たない世の中だった。だが西暦2000年が近づくにつれて人々に妙な変化がみられるようになった。西暦2000年元旦、真実が明らかになる。
「種」:意識とは、無意識とは、植物にもそれがあるのなら何を思う。
「講義 地球人史(第十二回)」:火星に人類の一部が移住して時がたった。火星生まれの人類は火星人となっていた。国が違えば文化も価値観も異なるのは当たり前だが、惑星間でのそれは時がたつにつれて大きくなる。人類はそれを防ぐために大学で双方の歴史をカリキュラムに入れた。今回は地球人の歴史の十二回目の講義である。
「汚れ」:潔癖症? それだけで人を殺しはしないでしょう。家庭も持って子もいるのに、自らそれを壊す男の末路。
文字数 29,906
最終更新日 2021.08.27
登録日 2021.08.27
二千五十年十一月。横浜のある病院の癌病棟の一室。ベッドには六十過ぎの男が点滴を受けて静かに横たわっている。末期癌を患っていた。が、どうしたわけか夢を見るような幸せそうな笑みを湛えている。
小野寺梛乃と桧胡は大学三年生の双子だった。天才理論物理学者を父に持つ。父親の名は健(たけし)と言った。五十路に差し掛かっていた。母親は由美という名で科学者だったが、二人が中二の時に癌で他界していた。由美は特に人工知能の分野で世界トップレベルの実績を残していた。
由美の形見がジュンだった。世界で初めての三次元人工頭脳を搭載した人型アンドロイドとして完成させたのだ。その後、小野寺健はジュンと共に「物質縮小マシン」と「物質変換装置」を完成させた。
それを使い、ジュンと二人の娘に、末期ガン患者の治療を極秘裡に行わせていた。男が幸せそうな笑みを湛えているのはそういう訳だ。
時を同じくして、世間では謎めいた事件が起こっていた。消失事件だった。小野寺博士にはゼミの学生が少なかったが、みな優秀だった。小野寺は事件に注目した。調査を進めるうちに、この事件はマッドサイエンティストの山縣博士が起こしていることがわかった。
一方、山縣は富士の裾野の溶岩ドーム跡の地下にある秘密基地で、世界征服を画策していた。全くの偶然だったが、小野寺博士と同じ装置を開発していた。さらに、攻撃用の兵器まで。部下は五人しかいないが、この技術を用いればそれで十分だった。
山縣のテロの狙いがはっきりした今、小野寺はそれを阻止しなければならなくなった。それは、山縣に小野寺の存在を知られたことも理由の一つだが、過去の因縁もあるのだった。
小野寺たちのほか、世界の誰も気づかないうちに互いの準備が進められ、戦いが始まった。
夢のような科学と技術のぶつかり合いは、人類すべてを巻き込むことになった。しかし、最強を誇る軍事国家でも、警察組織でも、その戦いに参加することはできなかった。あるはずの武器がなくなったからだ。
小野寺たちは、アンドロイドのジュンを中心に楽しくも真剣に山縣たちを倒すべく、一丸となって戦う。ナノピコのミクロサイズまでの世界で戦いが展開される。
文字数 75,921
最終更新日 2020.08.13
登録日 2020.08.13
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