ZOZO創業者・前澤友作氏が手掛ける、利用料金に応じて株がもらえるという画期的なサービス内容で話題のモバイル通信(MVNO)「KABU&モバイル」。11月20日にサービス提供が開始されたが、申し込みが殺到したため、回線の切り替え手続きが行えなかったり、一部ユーザーがモバイル通信を利用できないという障害が発生。運営会社は補償を行う方針を示したものの具体的な補償対象者や補償内容を示しておらず、その対応に批判が集まる事態となっている。なぜこのような混乱が生じているのか。また、そのサービス内容や料金プランなどから考えて「KABU&モバイル」は魅力が大きいといえるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
前澤氏が社長を務めるカブ&ピースが運営するKABU&モバイルは、MVNOの利用料金に応じて、同社株式への交換やサービスの割引に使える割引券に交換できる株引換券を付与されるという点が特徴。たとえば20GBプランを通常会員として契約して月額基本料金2178円(税込み、以下同)が発生した場合は217枚(43株相当)を獲得。同社株は未公開であり、将来上場すると株の売却益を得られる可能性がある。
利用できる通信回線は大手キャリアのNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3社。現在契約中のキャリアがMNPワンストップ対応であれば、MNP予約番号なしで現在のキャリアのマイページとKABU&モバイルのサイト上で簡単に乗り換えが可能。プランは以下の計5つとなっている。
・3G:1078円
・5GB:1298円
・10GB:1738円
・20GB:2178円
・50GB:3828円
このほか、「KABU&でんき」「KABU&ガス」「KABU&ひかり」「KABU&ウォーター」「KABU&ふるさと納税」を利用すれば、より多くの株引換券を得ることが可能。たとえば「KABU&でんき」は現在契約中の電気会社への解約手続きや申し込み手数料、工事が不要で、料金は地域の電力会社とほぼ同じ。公式サイトによれば、月に9519円利用した場合、株引換券を95枚(19株相当)獲得できる。
大手キャリア関係者はいう。
「音声通話を除いて考えると、KDDIのオンライン専用料金プラン『povo2.0』の『新1年間トッピング』が年間360GBで2万6400円、1カ月あたり換算で30GB、2200円となり、30GBを超える月があっても年間トータルで360GB以下なら追加料金は発生しないので、こちらのほうが安い。また、楽天モバイルの『Rakuten最強プラン』はデータ利用量が無制限で月額3278円であり、毎月多くの通信量を使う人であれば楽天モバイルのほうがよいでしょう。ただ、もちろん既存キャリアのプランでは株は付与されないので、カブ&ピースが上場すると読んでKABU&モバイルに乗り換えるという賭けを行うかどうかは自己責任ということになるでしょう」
「KABU&モバイル」は、サービス内容や料金プラン等を精査すると、かなりお得といえるのか。もしくは、それほどでもないのか。ITジャーナリスト・石川温氏はいう。
「モバイルのサービス自体は他のMVNOと比べても特段、安いとはいえず、一般的。通信料金の安さを追求したいのであれば、他社を選ぶべき。KABU&モバイルの魅力であり他社にはない個性は、株式と交換できるであろう株引換券がもらえるという点に尽きる。ただ、将来的に上場するには、通信サービス自身に他社にはない個性や将来性があって、投資したいと思わせる可能性がなければならないと思うが、いまのKABU&モバイルの通信サービス自体にはそうした期待は持てないような気がしてならない。株交換券を渡すというのは画期的ではあるが」
では、混乱が生じた原因は何であると考えられるか。
「KABU&モバイルには、裏で通信サービスを提供するミークという会社が存在する。もともとミークはいくつかの事業を手がけていたが、どちらかというと法人顧客がメインで、今回のKABU&モバイルのような個人を中心とした顧客を相手にするサービスの経験が少なかったのではないか。当然、顧客接点となるKABU&モバイル側にもそうしたノウハウはないわけで、いきなり世間から注目を集めて申込者が殺到したことで、現場が混乱したと思われる」(石川氏)
(文=Business Journal編集部、協力=石川温/ITジャーナリスト)