人気漫画家、Webtoon配信のため1年も無収入→車や土地を売り費用捻出

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「gettyimages」より

 昨年12月に人気漫画家の新條まゆ氏がInstagram上に投稿した、Webtoon(ウェブトゥーン)制作に関する体験談が注目されている。過去に制作した漫画『虹色の龍は女神を抱く』をWebtoon向けに描き直しリリースするにあたり、数話分を描いて配信会社に送ったところ、15話分のストックができてからでないと配信できないと言われ、書き溜めて配信されるまで約1年にわたり無収入となったため、所有する自動車や土地、ブランド品を売却してスタッフの人件費、生活費などに充てていたという。Webtoonと従来の漫画は制作・販売プロセスを含むビジネスモデル面でどのように違うのか。また、Webtoonに力を入れないと日本の漫画は世界市場で生き残っていくことはできないという論調も強いが、実際のところ、どうなのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 日本で主流の横向きにページを読み進めていく漫画に対し、Webtoonはスマートフォンで読みやすいよう縦にスクロールして読む形態である点が両者の大きな違い。従来の漫画が白と黒などのモノクロなのに対し、Webtoonはフルカラーである点も違いだ。従来の漫画はページ上に大小さまざまなサイズのコマが載るが、Webtoonはスマホの画面サイズの制約上、横はほぼ同じ長さで縦の長さに違いがあるレベルなので、同じようなサイズのコマが続くことになる。

 Webtoonは2000年代に韓国で普及し、日本では2010年代に徐々に浸透。現在では「コミックシーモア」「めちゃコミック」「LINEマンガ」「ピッコマ」といった主要な電子コミックサービスでも扱われており、大手出版社も参入している。2028年には世界の市場規模が3兆円になるといわれているが、日本ではウェブマンガでも横スクロール型が主流であるため、いち早くWebtoonに注力した韓国勢に押され気味だと指摘されている。

 ちなみに今年10月、米投資ファンドのブラックストーン・グループが帝人グループから「めちゃコミック」運営会社を約1300億円で買収。海外でも人気の漫画コンテンツを北米をはじめとする世界に展開していくのが狙いだとみられている。

Webtoonは大がかりな分業体制

 そうしたなかで新條氏は「このまま古い形式の日本漫画をただ守ってるだけじゃホントに世界に取り残されるし そうなると、日本の漫画はダメになってしまう」(インスタより)という危機感より、『虹色の龍は女神を抱く』をWebtoon向けに描き直して配信することを決断。そこで前述のような苦労を味わうことになったという。漫画編集者はいう。

「大前提としてWebtoonはフルカラーのうえに毎週配信で大きな制作労力を要するため、一つの作品について大勢のスタッフが各工程を分業して制作を進めるというスタジオ制であり、日本で主流の一人の漫画家が少数のスタッフを雇って全ての工程を仕切るという形式とは大きく異なります。新條氏も『個人でウェブトゥーン描いてる人は1人もいないのが現状』と認めているとおり、一人の漫画家が自前の少数スタッフのみでWebtoonに取り掛かるというのは無理があります。

 また、15話まで書き溜めないと配信してもらえないというのは事実です。Webtoonは最初の数話は無料、その先の回は有料にして、数週間後か数カ月後には無料で読めるようになるものの、無料になるまで待てない読者に購入してもらうというかたちで買ってもらうという収益モデルなので、一気に15話分くらいをリリースしないとマネタイズは難しいからです」

 たとえば近年日本でヒットした『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『ONE PIECE(ワンピース)』(集英社)などは横読み型の漫画だが、業界としては「ウェブマンガはWebtoonでないともう通用しない」という考えが主流なのか。

「以前はそのような偏った論調もありましたが、現在ではそのように考えている業界の人間は少ないと思います。国内の電子コミック系出版社などが、数年前、こぞって内製のWebtoonに着手した時期がありましたが、横読み漫画の5倍ではきかないくらいのコストがかかる割にリターンが少ないこともあり、各社は相次いで規模を縮小したりしています。参入初期に大ヒットを出せたところや大企業など、体力があるところは力を入れて続けていくかもしれませんが、業界全体でみれば、そのレベルともいえるでしょう」

(文=Business Journal編集部)