――ここまで公立の動きをうかがってきましたが、私立はどうでしょうか。
「私立は大まかにいうと、偏差値が高く中学募集で多くの生徒が集まっている学校は、完全中高一貫にするので高校募集をしません。6年間の授業カリキュラムを組むので、高校から入る生徒のためのカリキュラムを別に組むのは大きな負担になります。反対に、中学で十分な人数の生徒を確保できていない学校の場合、高校募集で生徒をとります。
中学入試というのは完全なる市場競争です。授業内容や進学実績等、大きな魅力を発信できないと、生徒が集まりません。受験をしなくても公立の中学校に進学できるからです。一方で高校募集のほうは、公立高校は中学校卒業者数が減ると入学定員を減らしますから、常に一定数は私立に入学する生徒がいるのです。経営的にみると、高校募集をしているほうが安定するといえます。
ただ例外的に、開成、城北、巣鴨といった男子校は、上位校ですが高校募集を残しています。反対に女子校の上位校はほとんど高校募集をしていません」
――中高一貫校は総じて大学合格実績は高いのでしょうか。
「高校別の大学合格者数ランキングなどをみると、私立の中高一貫校が上位に並んでいます。公立の中高一貫校でも、たとえば今年は都立10校のすべてから東京大学の合格者が出ています。人数には差がありますが、すべての学校から東大合格者を出したことは特筆すべきことです。中学段階で選抜し、6年間のカリキュラムを経ると、これだけの成果が出るわけで、非常に丁寧な教育をしているといえます」
――公立でも中高一貫校はカリキュラムが特殊なのでしょうか。
「中高一貫校は公立でもかなり独自のカリキュラムを組んでいます。授業時間数を大幅に増やせるわけではないですが、選抜された生徒なので、かなり深い内容を教えることができています。私立は土曜日も授業を行っている学校が多いですが、公立は土曜日に授業を行っていません。ただし、特別講座のような形で別に講座を設けることはあります。さらに、海外研修を行っているところもあります」
――公立中高一貫校に子どもを通わせている家庭は、世帯収入が高いといった傾向はあるのでしょうか。
「公立の中高一貫校の入試で行われる適性検査は、一般的な知識型入試ではなく、複数の教科の融合問題で、論理的に表現する力や思考力を見るなど問題の難度が高いのです。したがって、塾に通ってトレーニングしていないと太刀打ちできないのが現実です。そうなると、ある程度の経済的余裕がある家庭でなければ、子どもを公立中高一貫校に入れることは難しいといえます。
今年、都内の公立中高一貫校は受験者が減っているのですが、その理由のひとつが、公立中高一貫校や国立大学付属の学校は入試日が同じであることです。長い間、中高一貫校対策の勉強をしてきても、受けられる学校はひとつだけで、非常にコストパフォーマンスが悪いといえます。
先日、小石川中等教育学校の説明会で話を聴いてきましたが、受験者の8割以上が私立中学を併願しているそうです。公立中高一貫校を第一志望にしている受験生は、公立中高一貫校受験専門の塾などに通っており、万一合格しなかった場合に、地元の公立中学に入学したのでは勉強が無駄になると考えるのでしょう。
公立中高一貫校に子どもを通わせている家庭は、平均よりも世帯収入が高く、親の学歴も高い傾向があるのは間違いありません」
少子化が加速する一方で、家計の子ども一人当たりにかける支出は急増している。文部科学省の調査によると、学習塾費は1994 年から 2016 年の間で公立中学校では約 5.7 万円、私立高等学校では約5.3 万円増加しており、私立中学校に在学する生徒の割合は2.9%から7.2%へと上昇している。
ここ数十年、学歴偏重の社会を是正しようとする動きは続いてきたが、それでも子どもの教育に熱心になる親は増え続けている。そのなかで、子どもを中高一貫校に入学させ、さらには難関大学に入学させたいと希望する家庭は今後も増えていくのだろう。
(文=Business Journal編集部、協力=安田理/安田教育研究所代表)