世界で脱EVが鮮明、エンジン車回帰の兆候…自動車各社、軒並みEV推進を撤回

 また、欧州がEVにシフトしたのは、ディーゼルエンジン不正でフォルクスワーゲンをはじめとする欧州の自動車メーカーが脱ディーゼルエンジンに舵を切らざるを得なくなったからだが、蓋を開けてみれば世界のEV市場では中国勢の席巻を許す結果となってしまった。そのため、自国の自動車産業保護のためにEV推進を転換させる可能性も十分にある。

 もっとも、原材料の調達から製造、走行、廃棄までをトータルに考えると、EVのほうがガソリンエンジン車より環境負荷が低いとはいえず、そうなるとEV推進の大義がなくなるので、各国政府は自ずとEV推進の旗を降ろさざるを得なくなる」(同)

 特に日本で問題となってくるのが、EVのリセールバリューの低さだ。日本では車を買い替える際は古い車を売って、そこで得た資金を新しい車の購入費用に充てるというのが一般的だが、再販価格が低いと次の車の取得コストが事実上上昇するので、EV購入が避けられる要因となる。

伸びるHV・PHV

 そんなEVの失速を尻目に販売が伸びているのが、エンジン車のなかでもハイブリッド車(HV)とプラグインハイブリッド車(PHV)だ。前出・ACEA調査の24年1~6月の欧州の新車販売では、HVは前年同期比21.2%増と好調。米調査会社マークラインズの発表によれば、HVの23年の世界販売台数は前年比31.4%増であり、22年の同15.2%増から伸び幅が大きくなっている。

 こうした動きはHVに強い日本の自動車メーカーにとっては追い風だ。トヨタ自動車は24年3月期決算が過去最高益になった要因として世界的なHV販売の好調をあげているが、トヨタの今年1~6月の米国におけるHV販売台数は前年同期比66%増の41万台となっており、トヨタの北米販売に占めるHV比率は3割にも上っている。米国HV市場でのトヨタの販売シェアは実に6割近い。

 自動車メーカー関係者はいう。

「EV普及には政府による充電ステーションの拡充と購入補助金が不可欠であり、補助金については欧州ではすでに打ち切り・縮小が進み、米国も秋の大統領選でトランプとハリスのどちらが勝ってもEV推進が弱まる可能性もある。米国と欧州という2つの大きな市場でEVが減速し、さらに『なぜエンジン車ではダメなのか』『EVは本当に環境によいのか』という論調が高まれば、EVシフトは大きく後退することになる」

これまでの経緯

 環境意識の高まりを受け、数年前から世界の自動車市場はエンジン車からBEV(電動車)へ大きく舵を切っている。先陣を切って野心的な目標を掲げたのがEU(欧州連合)だ。2035年までに全ての新車をEVなどのゼロエミッション車(ZEV)にするという方針を掲げている(23年に方針を一部修正)。米国も22年に「インフレ抑制法(IRA)」を成立させ、一定条件を満たすクリーン自動車の新車購入者に対し1台あたり最大7500ドルの税額控除を付与。目標年を明確にして全新車のZEV化を宣言している州もある。

 現時点でもっともEV化が進んでいるとされるのが中国だ。23年の新車販売に占める新エネルギー車の比率は32%であり、中国政府は27年までにこの比率を45%に引き上げる目標を発表している。